一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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ここから始まります。
うちのちうさまはまだ何が魔改造されているか明かされていませんがその内分かります。


【3】道は山あり谷あり落とし穴あり

お前はどうしたい。

自分は何をすべきか。

 

この二つの言葉は、似ているようでとても違う。

千雨は常々思っていた。

何をすべきか。

千雨は一度だけ問われた。

お前はどうする。

けれど、二つの問いの答えは同じだった。

 

「私は、私の現実を取り戻す」

 

 

********************

 

 

二月某日、麻帆良学園女子中等部。

‥への登校の道。

千雨は、走っている生徒たちの邪魔にならないよう道の端の方を歩いていた。

元気な連中だ。

まだ朝のホームルームのチャイムには時間がある。

走る必要がないとまでは言わないが、そこまで急ぐほどのものでもないだろう。

なのに行く道行く生徒はそのほとんどがその足で走ったりバイクをかっ飛ばしていたりスケートボードでガンガンスピード出したり。

 

これが若さか‥。

明らかに同世代の生徒たちに対して見当違いの感想を漏らす千雨。

 

「おはよー千雨ちゃん!」

「はひははいおー?」

 

自分の名を快活な声と塞がった口で出たような声が挙げる。

後ろを振り向くと、小走りで運動部の4人組が近づいてくるのが見えた。

 

「面倒だろう走るの」

「早く着くとお得じゃん!」

「え、そんなこと考えてたん?」

「ええ、じゃあ亜子はどうして走ってたの!?」

「いやウチは朝練終わりではよ行かなって」

「あ、あれれ?」

 

なんだか微妙な空気だ。

声をかけてきたのは明石裕奈と佐々木まき絵。

ちなみに食パンを咥えてる方がまき絵だ。

どうやら朝ご飯を食べる時間がなかったらしい。

まき絵が朝練で時々寮の前を走っていたり、演目の練習をしていたのは目にしていた。

朝練をしていて朝ご飯を抜くのはスポーツマンとしては本末転倒だと思う。

ちなみにまき絵は新体操部だ。

裕奈はバスケ部。

 

残りの二人は和泉亜子と大河内アキラだ。

和泉の方はこちらも朝練終わりだったのか、運動着のまま共に学校へ向かっている。

和泉は男子のサッカー部のマネージャーで、大河内は水泳部だ。

4人とも運動部に所属しており、仲も良く、運動部組と呼ばれることも多々ある。

 

「別にいいんじゃないかな、早く着いても」

「悪いことじゃねーけど私は面倒なだけだ」

「なるほろ〜」

「早く着くよりも早く飲み込め」

「ダメだよ千雨ちゃん。焦らすとまき絵は詰まらせるから」

「んぐ!?」

 

裕奈の言葉を皮切りに顔を青ざめるまき絵。

おいおい。

亜子と裕奈があぶあぶと水筒を用意し始めたが、アキラが腕を振りかぶってるのが見えた。

風を切る音と共にまき絵の背中に大きな強打音が響く。

突然の衝撃に涙目になるまき絵だったが、次の瞬間には顔をキョトンとさせていた。

どうやら喉に詰まったパンは飲みきってしまったらしい。

 

「アキラすごっ!!」

「や、やりすぎとちゃう?大丈夫、まき絵」

「んんっっ‥!!あー、飲み込めた!!ありがとうアキラ!」

「ふう」

 

今の一連の流れを溜息一つで済ませる方が凄い。

亜子から水を受け取るまき絵は何とも思ってなさそうだが、命の危険があったのだ。

もっと危機感を持て、危機感を。

 

「んっ‥‥んっ‥‥ぷはぁ!‥‥ふっふっふー」

「ど、どうしたのまき絵‥」

「は、長谷川どうしよう。打ちどころ悪かったかな」

「私に訊くな‥。‥‥まあ今のでバカになったとしても元が元だし大して変わらねえだろ」

「諦めないでよ長谷川!」

 

律儀に水筒の蓋を閉め、亜子に礼付きで水筒を渡してから咳払いするまき絵。

仕切り直しか。

正直この茶番に付き合うくらいなら歩き始めたい、と千雨は冷めた目で3人と共にまき絵を見守っている。

他4人にどう思われてるか思いもせず、ニコッと顔を笑わせてから大口を開ける。

 

「何たって今日は新しい先生が来るんだから!」

 

 

********************

 

 

結局今更一人で教室に向かうのも変だったので、千雨は運動部4人組と共に教室に向かっていた。

その間の4人の会話が暇つぶしにはなったので大人しくついて行ったのだ。

もっぱら話題は新任の教師だ。

おじさんかなーお兄さんかなーとか。

女性だったら綺麗な人がいいなぁとか。

いやいやそれよりも、やっぱりかっこええ人がええなぁとか。

お父さんが間違ってクラスに来ないかなぁとか。

明石の父親も教師らしいので、なくはないだろうが、今回はそもそも学園外から来る新任教師である。

誰が来るか知っている千雨からすると4人が想像する人物像が全部外れている。

というより、当てるのは無理な話だろう。

相手は9歳のお子様なのだ。

自分より年下の教師など想像できるはずもない。

千雨は4人の的外れな新教師のイメージを聞きながら、かの少年のことを考える。

顔は勿論わからないが、何となく想像はつく。

彼の両親はどちらも美形だった。

顔貌が悪く産まれる方が難しい。

あとは魔法の勉強を盲目的にやっていたということしか知らない。

さらに言えば、本来7年で卒業する学校の課程を5年で、しかも主席で卒業したことくらいか。

千雨の予想外だったのはそこだった。

あと2年、いやせめて1年は遅いだろうと思っていたのだが。

彼の親の良いところだけを引き継いだ様だ。

何にせよ、会ってみないことにはわからない。

 

ゆっくり歩いている千雨に合わせてくれているからか、5人の周りは人がまばらになってきた。

時間はあと5分といったところか。

時刻を確認しようと、後ろを向いて時計をみようとした千雨の目に、ある3人の姿が映った。

一人は神楽坂だ。

もう一人は近衞木乃香。

神楽坂と近衛は寮の部屋が同じなので、2人で登校しているのだろう。

 

そして、もう一人。

少年だった。

千雨は目を見開いた。

女子中学生二人に比べて背は低い。

二人の胸あたりまでしか背がない。

そもそも学生服を着ていない。

大きな冬国の防寒コートを着ている。

また、本人の体幅よりも大きなカバンを背負い、古風な壺まで下げている。

何より特徴的なのはカバンと本人の間に背負われる形でそこに在る杖と、明るい赤髪だ。

杖は斜めがけで背負っているが明らかに少年の体よりも長い。

そして、見たことのある赤髪。

父親の遺伝か。

だが、顔は妙に幼い。

目つきなんて柔らかと言ってもいい。

父親も母親も柔らかなんて表現は合わない人たちだったので、あれは環境のせいかねと推測する千雨。

 

間違いない。

何故神楽坂たちともう共にいるのかはわからないが、彼が今回の新任教師。

 

「‥ネギ」

 

ネギ・スプリングフィールド。

英雄の息子。

まだ幼い9歳の教師。

かつての王国の遺児。

彼をなんと表せばいいかはわからないが———。

 

遂に会えた。

 

 

「千雨ちゃーん。早く行こうよー」

「置いてくよ長谷川ー」

 

まき絵と裕奈の言葉に、ネギたちから目を外す千雨。

校舎からネギの名を呼ぶ声が聞こえた。

高畑だろう。

 

どうせまたすぐに会える。

あんたたちの遺した最後の光を、しかと見せてもらおう。

 

 

‥靴を履き替えたあたりで何故か明日菜の悲鳴が聞こえた。

問題児とは思わなかったが、というか思いたくない。

あの暴れん坊が子供に戻ったら?

想像したくもない仮定だ。

 

 

********************

 

 

教室に入ると、皆が各々自由に過ごしていた。

本来ならホームルームの時間だが、今日から新任の教師がこのクラスの担任になる。

その準備のせいで遅れているのだろうとだれも気にしてない。

いいのかこんなので。

 

運動部4人組もとりあえず自分の机へ向かう。

千雨は一番後ろの席だ。

席に向かう途中で綾瀬夕映、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの後ろを通り、2人に適当に声をかける。

おはようございますという返事と、適当な鼻による返事が返ってくる。

それに横目で反応しながら、ノートパソコンを開く。

今後の計画の確認だ。

 

今回ネギは魔法使いの修行として教師をやるらしい。

今は仮免期間のようなもので、この修行が終わると一人前の魔法使いとして認められる。

その教師もまた仮‥というかこっちは今は教育実習生といったところか。

まずは保護観察。

そして教師としての務めを果たす、魔法使いとしての経験値も積ませろとの事だ。

方法は指定されていない。

普通に考えたら穏便に済ませろくらいは来そうなものだが、依頼者が依頼者だ。

そんなこと考えてもいないだろう。

問題が起きる前に未然に防ぐなどよりも起きてからどうにかしよう———力尽くで。

こんな思考回路を持つような人間だ。

やれやれと溜息をつきたくなる。

 

まずは現状把握から努めたい。

教育実習生からいつ正式な教師になるかはわからないが、教育実習生の間はなるべく問題は起こさせたくない。

まだ9歳の見習い魔法使いが問題を起こさないなど中々ハードルが高いが、要するに肝心なのは最初だ。

魔法使いとしての社会基礎を教えて、あとは本人にどうにかさせる。

 

ここまで整理し終えて、キーボードで情報を打ち込んでいると、教室の扉からノック音が聞こえる。

扉の方を見やると、自分が転校してきた時よりも凶悪で巧妙なトラップが仕掛けられていた。

仕掛人は誰だと見渡すと、どうやら超にも依頼したらしい。

ふふんと自信ありげだ。

 

扉が開く。

妙に背が低い人物が入ってくる。

と同時に、ドアの上から少しの衝撃で落ちるよう置かれていた黒板消しが落ちてきて———入ってきた人物のアホ毛のわずか上でぴたっと止まった。

 

あのバカ!!

 

思わず頭を抱える千雨。

対物魔法障壁を切っていない。

クラスメイトたちもざわりと動揺する。

 

本人もハッとしたのか、次の瞬間には黒板消しが頭に当たっていた。

 

「ゲホゲホ、いやー」

 

ソプラノが効いた声が、咳き込みながら笑っている。

なんとか和ませようとしているらしい。

咄嗟に9歳ができることではない。

 

ひっかかっちゃったなあと言いながら、歩き出した彼。

その足にはピンと張られた紐が掛かっていた。

勢いそのままで転び始める。

転ぶ状態で上からバケツが頭にかぶさってきた。

安全の為に頭だけ防護させるようだ。

あとは仕掛人たちの思惑通り、面白いように転んでいく。

かなり間抜けな悲鳴を上げながら、最後は教卓にぶつかって止まった。

黒板消しにバケツにおもちゃの矢が3本で計4個の罠全てに当たっている。

あははははと仕掛人含めクラスメイトたちが笑う。

かなり間抜けな絵面だった。

あれなら仕掛け甲斐もあるというものだ。

 

ちなみに千雨はバケツが被さった辺りから見ていない。

呆れて天を仰ぎ、目を覆っていたのだ。

 

罠を仕掛けられた人物が子供だと分かり、クラスメイトたちが心配の声をあげ、子供に駆け寄っていく。

子供より遅れて入ってきた源しずなの一声でクラスメイトたちが静まりかえり、元の席へ戻っていく。

今し方彼女は信じられない言葉を告げた。

その子があなた達の新しい先生よ、と。

 

「ええと、あ‥あの‥‥」

 

口を開かせようとして、閉じて。

言葉を必死に思い出そうとしているのがわかる。

正直言ってかなり不安だ。

主にこの強烈なクラスメイト達に流されないか。

今後の彼の行先がどこへ連れて行かれるかわかったものではない。

千雨が助け舟を出すべきか真剣に悩んでいる時、子供は決意の顔を持って話し始めた。

 

「今日からこの学校でまほ‥」

 

おいおい。

今度は一転して邪魔してやろうかとポケットに入っていたガムを掴んだが、彼もすぐに自分の過ちに気付いて訂正した為、事なきを得た。

 

その後はなんとか自己紹介を終え、クラスメイト達にもみくちゃされていた。

ネギ。

ネギ・スプリングフィールド。

生まれ育ちともにイギリスのウェールズ。

現在9歳。

麻帆良学園には英語の教師としてやってきた。

オックスフォード大学を天才的に飛び級しまくって卒業している。

ここまでが表の情報。

 

そして、裏‥つまり魔法関係者向けの情報は次のようになっている。

勿論オックスフォードなど出てはいないが、それと偽っても問題ないくらい学力が高いこと。

メルディアナ魔法学校の課程を本来7年で学び終えるのを5年で首席卒業したこと。

先述した情報に加え、父母共に行方不明で、公的には既に死亡していること。

更に、ネギがかつて生まれ育った村は6年前、悪魔の襲撃により彼を残して壊滅していること。

この学校には、魔法使いの修行の為に来ていること。

 

それがネギ。

ちらりと見やると神楽坂に絡まれている。

なんだと思ったら先程の黒板消しの件が不可解だったらしい。

校舎前でも何かやっていたし、縁でもあるのだろうか。

あると言えばあるが。

 

だが、あの程度ならバレることはないはずだ。

ネギがボロを出さない限り。

あんな程度で誰かが変だと騒いでもこの学園はもっと不思議で可笑しいことが起きているのだ。

誰も疑問に思ったりなどしない。

もっとも、その雰囲気を作っているのはこの学園に代々住み着いた魔法使い達のおかげだが。

 

少し思案した隙に今度は委員長が神楽坂と取っ組み合いを始めている。

なんでだよ。

 

その後はいざネギの初めての授業。

恙無く授業が‥進んだりなんてしなかった。

流石にいきなり9歳の少年に歳上の女生徒達に授業を行えなんて無理か。

文字通り、勉強ができても教えられるとは限らないという例だった。

神楽坂と委員長のケンカも相まって一切授業は進まなかった。

 

初めての授業が終わり、とぼとぼと教室を出て行くネギ。

声をかけるべきか。

やはり授業もサポートしたほうがいいんだろうか。

しかし、何でもかんでもやってしまうとネギの為にはならないだろう。

確かにヘンテコなクラスで他のクラスよりも明らかに苦労しそう(実際高畑は苦労していた)ではあるが、魔法をそう簡単に表の問題の解決に使っていいんだろうか?

というか、教師業が魔法使いの修行になるとは思えない。

 

「おーいちうちゃーん」

「おいこらてめえ朝倉」

 

声をかけてきたのは朝倉和美だ。

人が悩んでいる時に、と溜息をつくどころかガンを飛ばす千雨。

禁句を言うからである。

 

朝倉和美。

通常“麻帆良のパパラッチ”。

報道部のエースで、入学してからいくつものスクープを出し、学園どころか都市全体を賑わせているお騒がせものだ。

ただしスクープは出してもスキャンダルは報道しない、というのが彼女の信条‥らしい。

何せ千雨は一度スキャンダルを掴まれ、その説明を朝倉本人から受けている。

去年の学祭で思わぬダメージを受けてから、千雨は朝倉のことが苦手なのだ。

 

「その名はやめろその名は。張り飛ばすぞ」

「わー本気の目ー。でも可愛いと思うよ?絶対人気出るって」

「人気‥」

 

人気が出るのは良いことだ。

大衆が自分の為に湧き、祀り、騒ぎ立てるのは悪くない気分にはなる。

だが、この学園に来る前ではその人気が白熱しすぎてどこに出るのも面倒だった。

悪くはないがあんなことは二度はやりたくないというのが千雨の心情だ。

 

「あ、迷ったでしょ」

「うるせえ。で、なんだよ」

「今からネギくんの歓迎会やるんだけどさー」

 

みんなで手分けして買い物と教室の装飾をやろう、とのことだったので教室の装飾にまわらせてもらった。

外に出歩きに行くのは面倒なのだ。

ここから近くの食料品店までそれなりにある。

徒歩だと10分くらいか。

歩きたくはない。

 

クラスメイトたちの他愛のない話をBGMにしながら折り紙を折っていく。

今は星を作って大河内に手渡し、飾り付けてもらうという壁の装飾を行なっているところだった。

 

「けど本当に可愛いよねーネギくん」

 

まき絵の言葉を皮切りに、装飾を手伝っていたクラスメイトたちの雑談がネギの感想へと移り変わっていく。

大抵のクラスメイトたちは感想を漏らすだけだが、中でも委員長だけはピクリと反応し、目を鋭くしていた。

 

「‥まき絵さん?」

「ん?どしたのいいんちょ」

「まさか、ネギ先生とお付き合いしたいとは言いませんわよね?」

「え」

 

目が本気の委員長を見て千雨は思案する。

ショタ好きとは知っていたがここまでとは。

牽制入れるとか早乙女に貸してもらったドロドロの昼ドラ冒頭かよ。

ちなみに、一応全部シリーズまで観てからハルナに返却した。

 

そういえば、ネギは魔法使いだ。

立派な魔法使いを目指すならパートナーが必須である。

パートナーとは、立派な魔法使いを支える従者であり、戦闘時には前衛にもなる。

魔法使いにとっては一蓮托生のような存在だ。

教師と生徒が恋愛をするという点については倫理的にまずいかもしれない(どちらかというとこの場合は生徒側)が、一旦置いておくとして。

ネギがこのクラスからパートナーを選びたい、と思った時どうするのだろうか、その生徒は。

 

魔法がバレる。

魔法は普通の人々にとっては超常の力で、ある意味夢ともいえるもの。

そんなものを思春期の子供に渡したら、使い道は想像に難くない。

ロクなことにならないだろう。

せめて魔法を悪用しそうにない生徒か、既に魔法を知っている生徒から選んでほしい、と祈る千雨。

 

ちらりと未だネギの感想で盛り上がるクラスメイトを見やる。

一番良いのは桜咲か。

京都神鳴流の魔法生徒。

学園側の人間だし、義理堅い。

あとは龍宮‥。

だが、龍宮の性格上悪に傾くことはないと思いたいが、龍宮のような生き方はネギにはして欲しくない。

春日は既に魔法使いの従者だったはずだ、と魔法生徒たちの情報を思い浮かべて行く千雨。

 

既に学園に入ってきた時に調査済みの情報だ。

夜の散歩、と題してこそこそ魔法生徒や魔法教師たちの後を尾けるのは中々骨が折れた。

 

他にいるのはマクダウェルか。

名前を挙げて即座に首を横に振る千雨。

あれだけはない。

というより従者になってくれるどころか騙されてネギが従者にされかねない。

勿論、千雨はエヴァンジェリンのことも知っていた。

 

あとは魔法生徒以外で———。

キョロキョロ見渡して、委員長かなと睨む千雨。

委員長の性癖はともかく、委員長の普段の振る舞いはノブレス・オブリージュそのものだ。

悪用などするはずもないし、今のネギ程度の魔法でできることなど、彼女の資産や執事たちでできてしまう。

魔法なんてそんなものだ。

過程に魔力を使われる必要はなく、結果が出れば何でも良い。

むしろ魔法なんて使われない方がいい。

 

後は全く悪戯気がなさそうな宮崎‥。

と、教室全体を見て宮崎のどかがいないことに気がつく。

宮崎のどか。

通称“本屋”。

ちなみにこの通称は2-Aの中でしか使われていない。

図書館探検部という一見するとわけのわからない名前の部活に所属している。

図書館島のせいなのだが。

前髪で目元が隠れており、時折親友の綾瀬や早乙女たちに髪を弄られている。

顔を見えやすくした方がいいと思われているのだろう。

 

「なあ、何人かいなくないか?」

「んー?明日菜と柿崎たちはそれぞれ買い物。本屋は‥いないね。部活の用事かな?参加するとは思うけど」

 

優しい子だしねー、と朝倉。

実際彼女は優しい。

千雨が転校してきた日にはお勧めの本ですと何冊か日本語の様々なジャンルの本—しかも英訳付き—を手渡してくれた。

転校してきたその日にそんなことが出来るなんてと素直に千雨は驚いた。

アメリカから来るという設定を知っていたのだろうか?

一度寮に案内されてから千雨の部屋に渡しに来たので、多分学校が終わってから探しに行ったのだろう。

 

「‥ふーん」

「お、噂をすれば」

「あー‥。‥あ?」

 

幾つもの本を抱えて教室に入ってきた宮崎。

ちなみに両手一杯に本を抱えていたので、長瀬が扉を開けに行ってあげている。

‥何故だか妙に顔が赤い。

 

「‥なんだ、あいつ」

「千雨ちゃんめざといねー。確かに様子が変だね」

 

スクープの予感かな?と愛用カメラとボイスレコーダー、メモ帳まで瞬時に取り出す朝倉。

目と所作がプロだ。

装飾そっちのけでどしたのー?と、聞きにいく。

おいおい。

自分の上で装飾を壁につけていた大河内と目を合わせ、どちらともなく溜息を吐く。

これも朝倉の性分だね、と先に動き出したのは大河内。

大人だ。

 

その内、柿崎たちチア部も戻ってきて、更には高畑と源先生も来た。

ちなみに真っ先に高畑は壁の装飾をやらされていた。

背が高い男手を遊ばせておく理由はない。

 

ようやく飾り付けを終えたところで、窓の外に校舎へ歩いてくる神楽坂とネギが見える。

神楽坂は袋を持っていた。

用事を終えると同時に主賓を連れてくるなど中々優秀である。

 

「来たぞ」

「了解ですわ!皆さん、配置へ!!」

 

いつもより明らかに士気が高い委員長の号令で、扉をぐるりと囲むように位置するクラスメイトたち。

もちろん手にはクラッカーだ。

絡繰なんて奥の方で大きな手筒クラッカーを持っている。

近くのマクダウェルなど既に耳を塞いでしまっている。

誰だあんなの用意したの。

葉加瀬か。

ちなみに千雨は人壁より後方でのんびり座っている。

 

次第に一人の女と少年の声が聞こえ始める。

何やら興奮した声だが何かあったか。

早速実行よ!なんて言っている。

もう仲良くなったのか?と推測する千雨の手にはクラッカーが握らされていた。

前にはニヒヒと笑う朝倉。

芸達者なやつだ。

 

神楽坂の声と共に扉が開くと同時に、クラスメイトたちが歓迎の声をあげ、クラッカーを引き鳴らす。

何やらネギどころか神楽坂まで呆気に取られている。

あのアマ、忘れてたな?

あのバカっぽさはどこからきたのか。

少なくとも生まれつきではないのは確かだが。

 

歓迎会が始まった。

今のところはやはり好感度が高いのだろう、かなり歓迎されているネギ。

そもそもこの2-Aは問題児クラスというかヘンテコクラスというか、お祭り好きではある。

歓迎されるのも当然か。

口には出さないが、千雨は安堵していた。

これなら大丈夫だ、やっていける。

何かあれば自分が手を下せばいいだけのこと——。

 

と胸を撫で下ろした時、ネギが高畑の額に手をやっているのが見えた。

魔力の動きを感じる。

 

安心したのも束の間、いきなり魔法を使っているネギに今度こそ頭を抱える千雨。

 

(何をやってんだあのバカは!)

 

いくら高畑が魔法使い側でも公衆の面前でそれはまずい。

今すぐ止めてやろうか、と立ち上がると、次の瞬間ネギは信じられない行動に出る。

なんとそのまま神楽坂に駆け寄り、何事かを伝えたのだ。

 

目が点になり、立ったまま止まる千雨。

どうしたの?なんて誰かの声が聞こえたが、それどころじゃない。

 

(まさか‥‥)

 

また、ネギが高畑に近寄り同じことをやっている。

そして‥やはり終わったら神楽坂のところへ駆け寄り、また何事か伝える。

 

何かしらをネギから伝えられた神楽坂がその都度ズッコケ、今度は教室から走って出て行ってしまう。

それをすぐにアスナさーんと声をかけて追いかけるネギ。

 

笑いたくなってしまった。

 

既にネギの魔法が神楽坂にバレている。

よりによって、神楽坂に。

 

「‥おい、来てから半日で終わりか私の任務」

 

天を仰いで我が師を思う。

あのオヤジ、面倒ごとを押しつけやがって。

 

今度あったら全力の気を込めてぶん殴ってやろうと決めた千雨は、おずおずと村上に出されたジュースを奪い取るように飲んだ。




ちなみに今のところ千雨はかなりネギに対して過保護的ですが、そのうちそれも明かします。
多分。
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