一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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適当に話の本筋考えてますが着地地点は決まりました。
二次創作だし。
自分の考える1番を目指します。


図書館島編
【4】初めての試練・そして邂逅


不敵な顔で笑う貴方。

その無邪気な笑顔を、見ていたかった。

いつまでも、そのままで。

 

 

********************

 

 

ネギが新任教師としてやってきてからしばらく経った。

まあ出るわ出るわボロというボロ。

未だに神楽坂にしか魔法がバレていないという方が驚きなくらいには。

 

何とか尾行しながら話を聞く限り、ネギのことを誰かにばらそうという気は神楽坂にはないらしい。

こちらとしてはありがたい。

本当なら記憶消去をかけなければならないのだ。

それができないことはよくわかっていた。

一度ネギも失敗したようだ。

神楽坂に、魔法は効かない。

恐らくは“気”も効きはしないだろう。

千雨はこの学園に来た意味がほとんどなくなってしまったことに気がついた。

 

「どうするかな‥これから」

「もちろんテスト勉強ですわ!」

 

委員長が返事をしたような形だが、別に千雨と委員長が会話をしていたわけではない。

勝手に委員長が千雨の独り言に反応しただけだ。

 

「唐突だな。何でテスト勉強なんだよ」

「次の月曜日からテストですわよ!?逆にそこを何故と問いますか!」

「いつも通りのやり方でいつも通りの実力を出すだけだよ。どちらかというと委員長もそっちの方だろ」

「いえ!確かに日々でき得る努力は可能な限り行なっていますが、心持ちの問題ですわ!」

「ふーん」

 

もちろん千雨は日々でき得る限りの努力などしていない。

いつも通りの意味が委員長とは全く異なる。

 

麻帆良学園女子中等部は、先の月曜日から試験期間に入っていた。

2-Aも当然例に漏れず、なのだが‥。

ぐるりと教室を見渡す千雨。

真剣に机に向かって勉強している者など一人もいない。

今は休憩時間なので当然と言えば当然だが、テストだからテストに備える、などと言う者は皆無だ。

寮できちんと学生の本分に務めるという者が五本の指に収まるくらいはいるだろうが。

 

そこまで考えて、なんだかんだ言って2-A全体が自分を含めてテストを意識し始めているのに気がついた。

恐らく、朝のネギによる「頑張って学年最下位クラス脱出を目指しましょう」という言葉がそれなりには効いているのだろう。

何故唐突にあんなことを言い始めたのかはわからないが。

学年最下位脱出できないと大変なことになる、とまで言い切っていた。

 

とりあえず、千雨はネギと神楽坂の件は置いておくことにした。

バラさないという神楽坂の愚直な意見を信じよう。

 

(どうせ嘘つけないしな、あいつ)

 

そこが美徳だと言う人もきっといる。

 

「さあ、勉強しますわよ千雨さん!」

「げっ、いいよ別に」

「何を仰いますか!貴女は国語と社会が壊滅的なだけで、残り3つはほぼ完璧ですのよ!国語と社会をせめて平均点の半分でも取ることが出来れば大きく成績が上がりますわ!」

「委員長、わたしももう転校してから一年経ったし、そこまで面倒見なくても‥」

「良くありません!クラスメイトの困り事は私の困り事ですわ」

 

さあ!と無邪気な顔と共に国語の教本を出す委員長。

そうなのだ。

この貴婦人、どうにも千雨に対して世話を焼く。

バカレンジャー以上に面倒を見られている。

バカレンジャーは既に手のつけようがない、と思われているかもしれないが。

バカレンジャー筆頭の神楽坂など、5教科合計点数が千雨の英語の点数や超の各教科一つの点数にすら劣る。

しかし最近はネギによる補習を機に少しずつ勉強を頑張っている、とは近衛談。

ちなみに千雨の国語・社会の点数はバカレンジャー並みである。

国語はともかく、社会だけは真剣に点数が取れなかった。

当然と言えば当然なので、千雨は諦めていたのだが。

 

「さあ!さあ!」

「わかったから落ち着いてくれ‥」

 

せめて社会だけでも教えてもらうか。

ちなみに、千雨は日本語を喋れるし書くこともできる。

日本に来た当初は適当な日本語で会話していたが、流石に一年もいると慣れてくる。

元々日本人だというのも大きいのかもしれない。

だが、国語だけは無理だった。

単純に苦手なのだ。

 

 

********************

 

 

「あれ、千雨ちゃんどしたん?えらい疲れとるなー」

「ほんとですね。いつもの仏頂面じゃなくて新鮮ですけど」

「‥綾瀬、こっちの顔の方がいいのか?」

「いえ、いつもの仏頂面でお願いします。今の貴女は少々恐ろしいです」

 

結局放課後、委員長にさらりと部屋に連れて行かれた千雨は、3時間ほどみっちり委員長特別講義を受けていた。

あのパワーはどこから出てくるのか。

いくら上背があり、千雨が抵抗していないとはいえ人一人を引いてスタスタ早歩きしていく。

“気”でも使っているのか。

 

有り得ない仮定に浸りつつ、のんびりと風呂に浸かる。

ちなみに委員長はまだ風呂に来ていない。委員長と同じ寮部屋の村上と那波がやってきて、二人がかりで村上を教えているからだ。

憐れ。

 

村上夏美。

どこからどう見ても普通の女の子だ。

そばかすとあっさりしたショートヘアが特徴的である。

普通である、ということが自分の悩み‥らしい。

千雨の考えとしては、普通であることに悩むなんて、といったところ。

まあ、同室の那波や委員長を見ているとそういう悩みも出てくるか。

ちなみに演劇部所属。

 

そして、那波千鶴。

那波重工の一人娘で、何とも大人っぽいというか大人顔負けの落ち着いた雰囲気を持つ。

雰囲気どころか体型もグラマラス。

泣き黒子も相まって、10歳くらいならサバを読んでも全然バレないだろう。

朝倉監修クラススリーサイズランキング堂々の一位。

村上のことを可愛がりしており、委員長ですら時々おもちゃにされている。

ちなみに委員長のことをあやかと呼ぶ唯一の人物で、そのおかげで委員長の名前を千雨は知った。

 

村上も別に成績は悪くなかったはずだが、千雨が風呂と称して逃げた為、矛先が運悪く向かっただけである。

更にいうと那波は上位100位には入るし、委員長に至っては4位だ。

魔法も気も使えない普通の人間だが、委員長は人間としてかなり完成度が高い。

何でも超人と呼べるかもしれない。

 

「‥ま、村上には良く勉強してもらうということで」

「夏美さんより成績悪いのに良く言うですね」

「へっ。で、どうした?何だかそっちも顔が暗いぜ」

「む‥わかりますか?」

「いや、お前はわからん。近衛の方な」

「え、えへへー‥」

 

実際綾瀬が顔を変えている所など見たことがない。

仏頂面とまでは言わないが、顔は能面のようだ。

それもダメか。

反対に近衛は明らかに表情がコロコロ変わる。

見ていて飽きない。

 

「そーなんだよ千雨ちゃん聞いて!クラスの危機なんだよー!」

「抱きつくな押し付けんなその胸を」

「聞いてくれよ親友!」

「誰が親友だ‥」

「メガネ仲間じゃーん」

 

メガネかよ。

と言っても、千雨は風呂の中でまでメガネをつけている必要はないので外している。

早乙女は単純に目が悪いのだろう、風呂でもメガネ着だ。

 

「いつかメガネ3人でユニット組んでコミケに出陣さ!」

「葉加瀬がそんなの受けるとは思えねえな」

「大丈夫、デザイン原案受け持つから!ハカセには自動アシスタントロボ頼むだけだから!」

「早乙女、“だけ”って言葉の意味知ってるか?」

「んでちうちゃんは売り子ね!」

「朝倉ぶん殴る」

 

朝倉のせいじゃないよー、私が見てただけだからーなどと宣うので最早諦めた。

早乙女がバラさないことを祈るだけである。

 

「んで、クラスの危機って?」

「あー、ちょっと待って。バカレンジャーたちも呼ぶから」

 

自分とは離れて風呂で疲れを取っていたバカレンジャーたちにも声をかける。

他にも生徒はいたが、とりあえずバカレンジャー5人と図書館探検部3人、たまたま絡まれた千雨の9人だ。

 

「どうしたの、このかもパルも」

「大変なんやアスナー」

「次の期末で最下位取ったクラスは解散するらしいです」

「え‥」

 

バカレンジャーの叫び声に耳を塞ぐ千雨。

しかし千雨も驚いていた。

解散処分にまで踏み切るなんて。

 

「あー、ちょっといいか?クラス解散なんてそう簡単に起きるのか?」

「わたしは初等部からこの学園にいるけど、そんな話聞いたことがないわよ!?」

「この学園はクラス替えはないはずだよー」

「クラス替え‥なのか?」

「それどころか成績が悪い人は初等部からやり直しとか!」

「な゛」

 

クラス解散も中々だが、初等部からやり直すのは相当の話である。

学園長がこの案を出したのだろうか?

どう考えても2-A狙いの案だが、孫がいるクラスに対してやることかは疑問だ。

試しに想像してみる。

初等部の制服を着て、ランドセルを背負い、6,7歳の子どもと一緒に登校する神楽坂や綾瀬。

 

「‥中々似合いそうじゃないか」

「あんた他人事だと思って!!」

 

実際他人事だ。

 

「かくなる上は‥アレしかありませんね」

 

バカレンジャー戦隊員がそれぞれどうしようどうしようと悩んでいる間に、バカブラックもといバカリーダーが決意を露わにする。

アレって‥徹夜勉強か。

しかし、試験まで残り3日。

いくらなんでも、3日しかないのでは無理だろう。

普通の成績の持ち主なら、3日も勉強し続ければそれなりの点数が取れるはずだ。

しかしそこはバカレンジャー。

やってみないことにはわからないが、点数が2倍3倍くらいにならないと平均点には追いつかない。

どう考えても非現実的だ。

 

「アレって‥伝説の!?」

「え!?」

 

早乙女が不穏なことを言い出す。

ここに来て勉強しないつもりかこいつら。

伝説なんて言葉がつく勉強法があるとは思えない。

つまり何かしらのズルか奥の手か。

それとも、魔法絡みか‥。

 

「図書館島をご存知ですか?」

「げ」

「ああ、あの湖に浮かんでるあれ?」

「結構危ないとこだって‥」

 

ああ、まずい。

魔法絡みだ。

 

図書館島。

島なんて名前がついてるが、本当に名前そのままだ。

湖に浮かんだその島には、いくつも建物が建っている。

なんと、その全てが図書館なのだ。

更に、地下は迷宮のように広がっていて、滝や崖に本棚が積み上がり、ダンジョンそのものとなっている。

そして魔法的に権威のある書籍や魔法書も多々ある。

麻帆良学園創設と同時に設立されたものらしいが、詳しくは千雨も知らない。

秘密の図書室や貴重な書を守るべく、魔法使いたちが仕掛けた罠や猛獣が存在する。

そして、奥の方には管理人もいる。

司書と呼んでもいいだろう。

 

綾瀬は図書館島に頭が良くなる伝説の魔法の本があると。

なんとそれを探しに行こうとまで言い出した。

 

さて、考える。

魔法の書は確かにあるだろう。

だが、それを綾瀬たちが見つけられるか。

見つけたとしても使えるか。

ていうか魔法の隠蔽に差し障らないか。

この三点だろう。

 

まず、見つけられる可能性は高い。

図書館探検部の力がどれくらいのものかはわからないが、麻帆良全体の生徒たちの能力はなぜか軒並み高いものばかり。

企業以上の力を持つ団体とて少なくない。

それに、実行部隊の身体能力を鑑みると恐らく見つけるくらいは可能だろう。

ちらりと神楽坂、長瀬、古を見る。

神楽坂は運動神経抜群、長瀬は忍。

そして、古だ。

 

古菲。

中国からの留学生で、中国武術研究会の部長だ。

腕前はざっと見たところ達人クラス。

“気”まで使う、裏でも通じかねない身体能力を持っている。

バカレンジャーではバカイエロー担当。

恐らく要因は単純に日本語の勉強と武術の修練だろうが、そこは本人も納得しているのだろう。

気にした様子はない。

今回ばかりはまいってるが。

 

ふむ、と次を考える。

では、例え見つけたとしても使えるかどうか。

これに関しては何の確証もないが、恐らく使える。

神楽坂がいる為、見つけてしまったらネギに魔法の書を渡すだろう。

そして、ネギはメルディアナ魔法学校の首席卒業者だ。

ラテン語はおろか、ハイエンシェントに使う古代ギリシア語まで使える可能性はある。

そこまで来てしまえば古い魔法の書など読める可能性は高い。

 

では、それが魔法の隠蔽に差し障らないか。

まあ差し障るだろう。

魔法の書自体もそうだが、魔法によるトラップや魔法を使う魔法世界産の獣などいたらあっさり魔法の存在はバレる。

 

ここまで考えて、そもそも魔法書を探しに行く必要があるのか考える。

 

(‥いや、なくね?)

 

こんなアホなこと相談し合ってる間に、委員長・超・葉加瀬の3人にバカレンジャーを引き渡した方が明らかに何とかなる可能性が高い。

何せ、学年屈指の成績優秀者の3人だ。

超に至っては全教科満点である。

 

超鈴音。

中等部から編入してきた、これまた中国からの留学生である。

委員長がなんでも超人なら、超は完璧超人だ。

成績一位、身体能力も抜群。

古と同じで中国拳法を使う。

そして、所属してる団体・サークルの数だ。

お料理研究会、中国武術研究会、ロボット工学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会。

わけがわからない。

量子学なんて未発展の技術だ。

実用例がごく少数の技術の研究会、しかもその立役者。

更にいうと、同じクラスメイトの絡繰茶々丸の生みの親らしい。

 

あの麻帆良の天才にバカレンジャーたちを任せれば、まあなんとかしてくれるだろう。

 

「おい、お前ら‥」

「行こう!!図書館島へ!!!」

「は?」

 

目をキラキラ輝かせた神楽坂に、気圧される千雨。

‥え、マジで?

 

 

********************

 

 

「おいおい落ち着け!いくらなんでも荒唐無稽すぎるって‥」

 

決まってしまえば早々に着替え始めるバカレンジャー+図書館探検部。

千雨も何故か長瀬に腕を引かれて身体を拭き、髪を乾かされている。

 

「魔法の書ですか‥。腕がなります」

「そのやる気は普段から学生の本分に注げ!」

「ちうちゃんもやる気はないじゃん」

「私は良いんだよ平均点くらいはあるから!」

 

何とか説得しようとする千雨だが、半ば流れで着替え終えてしまった。

 

「では、荷物を取ってくるです」

「ウチはおべんと作ってくるわー」

「まてまてまてまていまから行く気か!?」

「千雨殿、何事も諦めが肝心でござるよ」

「はいはいレッツゴー!」

「引っ張るな押すなお前ら!でかいんだよ色々と!」

「「胸が?」」

「張り飛ばすぞ!!」

 

今のは殺意が湧いた。

それよりも、何故か千雨まで行くのが決定されている。

確かに国語と社会は致命的な成績だが、委員長に何とかして貰えば良い話なのだ。

出来る奴に任せてなにが悪い。

 

「あ、待ってて。わたしネギ連れてくるから」

「んじゃあ私達は部室に行って準備だね。いくよーのどか!」

「う、うんー」

 

そこでピタリと止まる千雨。

そもそも、この話は誰の為なのか?

先程は明らかに2-A狙いだと思った。

それは間違いないだろう。

だが、2-Aでも更に区別ができる。

2-Aの生徒たちか、その担任かだ。

ネギが赴任してきて未だ一週間程度。

クラスの成績不振は確かに担任の問題ではあるが、あくまでネギは新任二週間目だ。

ネギに責任を押し付けるのは訳が違う。

 

まずは、真偽の確認が必要なのでは?

 

「‥まて綾瀬!今回の話のソースはどこだ!?」

「ソース?ソース使ったお料理がいいん?」

「お前もバカレンジャー入りするか!?」

「へ?」

「聞いたのは桜子さんからです。その桜子さんもネギ先生がしずな先生から受け取った手紙を少し見た程度だそうですか」

 

結局ネギか!

これはネギに問いただした方が早そうだ。

ちなみにお料理の話じゃないん?と綾瀬に訊いている近衛はスルーしている。

これ以上話をややこしくしたくない。

 

「よし、私もいくぞ神楽坂」

「え?」

「先生だよ、ネギ先生。連れてくんだろ?準備手伝うよ」

「あー、そう?たぶんもう寝かけてるから、助かるわ!」

 

おい、9歳児。

まだ午後6時だ。

いくら外が暗い二月だからといって、健康的すぎないか。

もう少し悪ぶれてほしい。

子どもに対して悪になれというのも変な話だが。

 

「‥まあいい。いくぞ」

「オッケー!」

「はー、千雨ちゃんとこないなことするの初めてや。たのしみやわ〜」

 

事の真偽を確かめる、など少々物騒な考え方をしてる千雨の心境などを知らず、神楽坂と近衛は前を歩き始める。

 

「でも長谷川、あんた荷物なくて平気なの?」

「心配すんな、大して要らねえよ。タオルが数枚と化粧ポーチがあればいいだろ。すぐに取ってこれる」

「えー!そんなのでいいの!?結構危ないんじゃないの、図書館島って」

「ん?あー、そうか。一度入ったことあるんだよ」

「そうなん?」

 

図書館探検部としては聞き捨てならないのだろう、近衛が反応する。

確かに千雨は図書館島に入ったことがあった。

しかしそこは、探検部のような学生が入るところではなかった。

危険立入禁止区域だ。

そんなところに入ったなどとはとても言えないが、言ってしまったものは仕方がない。

 

「‥まあ、ちょっとな。長瀬や古がいれば何とかなるだろ。図書館探検部もいるしな」

「えへへ、任せといてやー」

「図書館‥なのよね?」

「対外的にはな」

 

頭にクエスチョンマークを浮かべる神楽坂。

形式上図書館などと呼ばれているが、実際はトラップまで仕掛けてあるダンジョンだ。

認識の誤差が生じないのは無理がある。

 

ちなみに、致死性のあるトラップはない。

トラップの矢尻や剣山には魔法がかかっており、当たるといわゆるゲームオーバー扱い。

気絶してしまい、起きると図書館島の入り口に逆戻り、だそうだ。

しかし、致死性の攻撃を持つ獣が一匹だけいるが。

 

「さ、急いで準備するわよ!」

 

話している内に神楽坂たちの寮室に着いていた。

入り口のドア窓からは薄暗い光が漏れている。

神楽坂がドアを開けると、部屋の光量が絞られているのが見えた。

まさかと思い部屋に入ると、ソファの上でネギが布団を被ってすやすやと寝ている。

ちらりと時計を見る。

やはり、18時7分だ。

 

「‥おい、これ起こすのか?」

「私が叩き起こそうか?」

「‥いや、いい。私が起こす。神楽坂は準備してろ。近衛もほら」

「あいー」

 

パタパタと部屋の中を駆ける二人を横目に、千雨はある致命的なことに気がつく。

 

(‥‥‥そういえば、ネギが赴任してきてからまだネギと話したことがない)

 

これがファーストコンタクトかー、と溜息を吐く。

仕方がない。

まだ何も説明できていないし、明かす機会もなかったが、そのうち話せばいいだろう。

 

「‥先生」

「‥‥」

「‥‥」

 

少し揺さぶったが、起きない。

 

「‥ネギ」

「‥‥ん、んん。‥‥‥あ、れ?」

 

少しずつ目を開け、顔を上げるネギ。

ネギの顔がグッと近づいた。

その距離、30cm。

 

「‥寝坊助め」

「あ、貴女は‥?え‥と。出席番号25番の、長谷川‥千雨さん?」

 

どうやら寝起きで頭が混乱しているらしい。

更に何故か自分が神楽坂たちの部屋にいるのだから余計わからなくなってるのだろう。

‥まあ、全く関わりがなかった自分の名前と顔を覚えていただけ評価してやろうと千雨は自分を無理やり納得させる。

 

「ええ、合ってますよ。さあ起きてください。貴方に聞きたいことがあるんです」

「き、聞きたいことですか?英語の質問でしょうか‥」

「‥‥真面目ですね」

「ええ?」

 

いや、本当に。

ネギの父親がちゃらんぽらんとまでは言わないが、優等生とも言えなかったので、これは母親の血だろう。

見た目は間違いなく父親だが、中身は母親似。

少し安心した。

内在魔力は相当の物で、こんなのをいたずらに使われても困る。

近衛同様、悪用の道はなさそうだ。

近衛はネギ以上の魔力を持っているが、そもそも魔法のことを知らないようだが。

 

「英語の成績は私は問題ないので、大丈夫です」

「そ、そういえばこの前の小テストも満点でしたね!全部筆記体で綺麗な字でしたよ!」

 

すごい!と顔が言っている。

こんな些細なことでも喜んでしまう自分はちょろいのか。

しかしこれは悪いのは誰かと言うとネギの父だ。

 

「ん、んん。それよりですね、期末試験のことなんですが」

「な、何か不安が!?大丈夫ですか!?僕にできることなら‥」

「今回の期末、貴方の何が掛かっているんですか?」

「え゛」

 

はい確定。

隠し事なんてこんなガキンチョにはできそうにもない。

ネギなんてこの性格では到底無理だろう。

今朝言っていた最下位脱出できないと大変なことになる、というのも恐らく魔法使いとしてか教育実習生としてかの落第か。

 

「ど、どうして僕の強制帰国のことを!?」

「はぁ!?」

 

強制帰国!?

千雨は愕然とした。

‥もしかして、自分の想像以上に魔法使いの試験というのは厳しいのだろうか。

これは教育実習生のレベルを超えている。

明らかに魔法使いとしてのネギ・スプリングフィールドに対する試験だ。

 

期末試験における2-A最下位脱出。

結果次第でネギは教育実習生から正式な教師に、またはイギリスに強制帰国。

それがネギが告げた、学園長から下された指令。

間違っても9歳の子どもに与える試験ではないが、魔法使いに与える試験としては妥当なのだろうか。

 

クラス解散は椎名桜子のデマか、綾瀬たちの推測話か。

もしかしたら本当にクラス解散まで掛かっているのかもしれないが、ネギのクビは確実に掛かっている。

それは避けなければならない。

初めて会話して一週間足らずではいさようならなどまっぴらごめんだ。

彼にはまだまだやってもらうことがたくさんある。

自分のことすら話していない。

 

「‥仕方ねえな」

「え、えっと‥?」

「ちょっと長谷川ー!ネギ起きた!?」

「あ、アスナさん?」

「ああ。さ、立ってネギ先生。行きますよ」

「ど、どちらへですか?」

 

準備を続ける神楽坂を横目に、ネギを立たせた。

ネギの荷物は‥ロフトにあるようだ。

そちらへ押しやる。

まだ状況がよく飲み込めていないネギに対し、質問に答えていく。

 

「図書館島です。冷えますから着替えた方が良いですよ」

「へ?」

「教師、続けるんでしょう?秘策が綾瀬にあるようです。それを探しに行きましょう」

「え‥」

「何ごちゃごちゃ喋ってるの、ネギ!早く行くわよ!」

「え、えっと‥!は、はい!!」

 

 

********************

 

 

「あら?大浴場に千雨さんがいない?で、では部屋に‥い、いない!?え、風香さん何ですの?つ、連れて行かれた!?明日菜さんたちに?で、では明日菜さんの部屋‥いないですわ!!ね、ネギ先生もいらっしゃらない!?ど、どちらへ‥!明日菜さん、どこですの!?まだ千雨さんの勉強は終わっていません!!しかもネギ先生までどちらへお連れしたのですの!!!あすなさーーん!!!」




千雨はどのようにクラスメイトたちと今の関係を築いたのか。
っていうの書いた方が良いですかなぁ。
番外編書くほど余裕はない‥気がしてます。

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