みんなスルーしがちな図書館島編です。
ちょこちょこオリジナル入れてます。
ついに出会えた。
未だ幼げな子供。
ただ、その紅だけはなぜか見慣れたようで。
懐かしいものだった。
********************
「ここが図書館島‥」
ほわーと見上げるネギ。
千雨が眠気覚ましにと近衛にことわって紅茶を入れ、何とか着替えさせた為にスーツ姿だ。
スーツ姿、なのだ。
千雨は行く先の詳細を知っていた為、動きやすい服装にさせようと思ったのだが、何とスーツと寝巻き以外持っていないと言う。
しかし寝巻きよりはマシだろう、と譲歩した千雨。
今度近衛でもせっつかせて買い物に行ってもらおう。
「このような湖の端に入り口があるとは、これは普通には気づかぬでござるな」
「一般利用客は正面から入って、普通の図書館として利用するです。ここは秘密の入り口なのです。私たち図書館探検部しか知らないのです」
「つめたいよー」
周辺を見やると、ほとんど水に瀕している。
確かに水に濡れてまで一般客はここまで歩いては来ないだろう。
逆に言えば、図書館探検部のような図書館島を調査する目的でしか来ないような人間にしか見つからない。
「さて、探索メンバーは‥」
夕映が全員を見渡す。
バカレンジャーの5人、更に千雨、ネギ、木乃香。
のどかとハルナもついてきてはいるが、彼女ら二人は地上に残って連絡要員として待機するようだ。
「8人ですね」
「長谷川も行くの?」
「お前らだけだとバカやりそうだろ」
「バカって何よバカって!」
「変なところ触って罠にかかりそうじゃないか」
「わな?」
きょとんとした顔をしている明日菜を無視して、ネギを見る。
父親の杖は持ってきていたので、ネギはその気になれば魔法が使えるはずだ。
千雨はその隠蔽工作を密かにやるつもりで来ていた。
さっさと自分の詳細を伝えてネギに協力はするべきなのだろうが、ネギの在り方もそうだが、麻帆良学園‥ひいては学園長・近衛近衛右門のスタンスがわからない。
ネギは魔法使いの修行でこの地・麻帆良に来たはずだ。
だが、まだ何故か師と呼べる人間が現れていない。
そんな状態の、どちらに進むかもわからないような見習い魔法使いの行く末を千雨が勝手に決めていいものか。
千雨は未だ迷っているのだ。
「では、行くですよ。のどか、ハルナ」
「き、気をつけてね、夕映」
「こっちは任せときな。頑張ってね!」
高さ3mはあろうかという扉を楓が開け、進んでいく夕映。
それに続く皆を、連絡要員の二人が見届ける。
「これが、図書館島‥」
「でも、大丈夫かなー。下の階は中学生部員立ち入り禁止で危険なトラップとかあるらしいけど‥」
「何で図書館にそんなものが‥‥」
「大丈夫!それはアテがあるから」
「へー」
不安そうな表情のまき絵と木乃香に対し、自信ありげな明日菜。
しかし、次の瞬間にはネギとヒソヒソ会話した後に、何故か驚いた顔をしている。
(‥なんだ?)
「千雨ちゃん、アスナ、ネギくん!」
「はやくいくアルよー!」
「あ、待って!とにかくいくわよ、ネギ!」
「は、はい!」
********************
夕映による図書館島の解説をBGMに、螺旋階段を降りていく。
まき絵の泣き言も効果音となっている。
どうやら暗いところというか、この図書館島の雰囲気が怖いらしい。
反対にネギは怖くはなさそうだ。
好奇心が勝っているのか、単純に怖いのが平気なだけか。
まき絵は古菲と楓にぴったりくっついているが、ネギはキョロキョロして周りを観察している。
とりあえず面倒を終始見てやる必要はなさそうだ、と一安心。
螺旋階段を降り、先にあった扉を開ける夕映。
その先には、視界いっぱいに本棚と滝、階段のコントラストで成されたダンジョンが広がる。
「うあ〜〜っ」
「わーーっ!?本がいっぱい、ほんとにスゴイぞ!!」
各々感嘆の声をあげるが、ネギはそれに加えて目を光らせている。
ちなみに明日菜はあまり嬉しそうではない。
本が好きでもないと喜びはしないだろう。
「ここが図書館島地下3階‥‥。私たち中学生が入っていいのはここまでです」
「ゲームのダンジョンみたいアルね」
ダンジョンみたいというか、ダンジョンそのものだ。
図書館探検部の連中はここがなぜ出来たかを疑問に思いはしないのだろうか?
「普通の図書館と比べたら明らかにおかしい筈なんだがな‥」
千雨がどうでもいいことを考えていると、ネギが本棚にはしゃぎながら触れようとしているのが横目に見えた。
溜息を吐く間もない。
カチッという音とともに、矢がネギの目の前に飛び出る。
手を出そうとして、止まる千雨。
楓が音もなく近づき、ネギに迫る矢を掴んでいた。
「——ワナがたくさん仕掛けられてますから、気をつけてくださいね」
「え゙え゙え゙っ」
慌てるネギたち。
それもそうだろう。
麻帆良学園では不可思議なことが常々起きているが、ここ図書館島はそれの最たるものと言っても過言ではない。
麻帆良に住み慣れた人間でもいきなりワナにかかるなんてことは無いはずだ。
「いいからさっさと進もうぜ。どっちだ?」
「ふむ、それもそうですね。今ハルナたちに連絡するので、その後経路を確認しましょう」
「ああ。神楽坂、先生のことをよく見とけよ」
「え、う、うん」
「ところで、あの‥。皆さん、何でこんなトコに?長谷川さんは、何かありげでしたけど‥」
「‥なんだっけ?」
説明をとぼけて木乃香に振る千雨。
実際、魔法の書としか聞いてないので何とも説明し難かったが。
「読めば頭が良くなる、魔法の本があるらしーえ♡」
「それで期末試験を乗り切るアル!」
「え‥」
驚きの声をあげるネギ。
何やら明日菜に迫って慌てている。
魔法絡みの話でもしているのだろう、一応皆から離れて話している。
ちゃんと秘匿の義務は心得ているらしい。
(くしゃみで風の魔法を出しちまうのは、才能‥。いや、才能じゃダメか脱がし癖なんて)
魔力がダダ漏れのネギ。
くしゃみをすると、周囲に風が巻き起こり、酷いと武装解除の魔法が出てしまうという始末。
魔力制御を修練しないとアレは治りそうにない。
「では、この先のルートがこちらになります」
古びた地図を広げる夕映。
ところどころ書き記しと、破けた場所がある。
歴代の部員たちによる積み重ねで出来た地図なのだろう、地図を扱う夕映の手つきも丁寧だ。
「地下11階か‥」
「ここからおよそ2時間で到着ですね。往復で4時間程度でしょう。今は夜の7時ですから‥」
「ちゃんと帰って一応寝れるねー。よかったー、明日授業あるし‥」
「時間はギリギリになりそうだな」
「早めに進んだほうが良さそうですが、焦りは禁物です」
それぞれが意気込む中、ネギだけ何故か眉間にシワを寄せている。
一応傾向としては悪くないはずだが、何故だろうか。
やはり魔法の本の存在を怪しんでいるのか。
図書館島の実情をきちんと知っていれば、そこは怪しむことはない筈なので、やはりネギは麻帆良学園のことを何も知らないのだろう、と千雨は予想する。
さっさと事情を説明して魔法の修行につかせてやりたいが‥。
「は、長谷川さん」
「ん?」
「みんな行きましたよ、ぼくたちも行きましょう」
「ああ、はい。‥ねえ先生」
「はい?」
ネギの横を歩きながら、思案する千雨。
一つ、聞いてみることにした。
「先生は、何故この学園に?」
「え?」
「貴方はまだ10歳‥いえ、9歳でしたっけ。まだまだ遊ぶ年頃だと思いますが」
「え、えーっとですね」
千雨の質問に、あぶあぶしながら答えようとするネギ。
頼むからこんな程度でボロは出さないでほしいものだが。
「な、なんて言おうかな。まほ‥じゃなくて。えーっと」
「まほ?」
「え゙!!えーっと、えーっと!」
これはダメか。
撤回でもして助け舟出そう。
「難しいようなら‥」
「自分の、成長の為です!!」
「‥‥成長」
千雨の目を真っ直ぐ見て告げるネギ。
震えてはいるものの、目を逸らそうとはしない。
くすりと笑ってしまった千雨。
本当はもう一つ、まだ若い貴方を教え導く人はいますかとか聞いて、場合によってはさっさと千雨の目的まで言ってやろうと思っていたが、千雨はやめた。
どうやら本当に師はいないらしい。
師がいたら魔法の秘匿は徹底させている筈だ。
今出た成長という言葉は、ネギが思っている本心だろう。
それもこれも、父が目的なのだろうが。
「あ、あの?」
「ま、いーことじゃないですか」
「は、はい」
「それと」
「はい!?」
ビクビクしてるネギ。
魔法なんて言いかけたのだから、魔法バレの危機でも感じているのか。
「‥何か困ったことがあったら、言ってください」
「え?」
「まだ子供なんだから。ねえ、先生」
「‥わ、わかりました」
最初はこんなものでいいだろう、と嘆息する。
しかし、何故ネギがこの地に来たのかはわからなかった。
勿論、魔法学校を卒業した時に麻帆良学園に行け、と言われたからではあるだろうが、その麻帆良学園でなければならない理由がわからない。
てっきり、魔法世界に行かされて英雄の息子として英才教育を受けるか、アメリカに行って魔法をバンバン鍛え上げるかと思っていたのだ。
ここ麻帆良は基本的に魔法が秘匿されている街だ。
しかし、旧世界とはいえ、魔法が公開された魔法使いのみが暮らす街もなくはない。
アメリカにはいくつか存在する。
ここでは魔法使いが成長するとは確実には言えない。
それでも麻帆良に来たのは‥。
前を行く明日菜を見る。
かつての暗い面影はなく、溌剌とした女の子。
やはり、あの姫様と関係あるのだろうか。
「あの‥」
「ん?」
「長谷川さん‥‥いえ、千雨さんって優しいんですね」
「んあ!?」
「へう!?」
いきなり掛けられた言葉に、変な声を出してしまった千雨と釣られたネギ。
「ば、ば、バカか!?ちげーよアレだよアレ!!」
「ど、どれですか!?」
「本当にキョロキョロすんなよそういう意味じゃない!!」
「ええ??」
ますます困惑するネギ。
なんと答えるかめんどくさくなってしまった赤面千雨。
「とにかく!遠慮するなよってだけだ!」
「は、はい!」
「わかったらちゃんと前見て進め!!」
「はいぃぃ!!」
「‥‥」
「どしたんアスナ」
「んーん。ネギと長谷川、仲良いんだなって」
「仲良うなれそうやなー。うちとも仲良うしてくれへんやろか、千雨ちゃん」
「でも、何で長谷川ってネギのこと気にかけてるのかな?ネギの身支度手伝ってたわよね、さっき」
「せやなー。ネギくんのこと、気に入ったんちゃうかな?」
そう、なのかな。
明日菜の中に疑問が残る。
ネギが赴任してきた初日、千雨は特にネギに絡んでなかった。
ずっとネギのことを明日菜が見ていたわけではないが、寮部屋にいる間と教室ではこの一週間、特になにもなかったし、高等部とのドッヂボール対決でも彼女が奮起する様子はなかった。
でも、今の千雨の目。
あの目を、明日菜は知っていた。
高畑先生や学園長先生が自分に向ける、優しく見守る目だ。
何で?
それともただ単に、木乃香の言う通り本当にネギのことを気に入っただけなのか。
「明日菜殿」
「へ?」
少し前の楓に声をかけられ、前を向く。
踏み出した右足に、圧感を感じない。
「わっ!」
「おとと」
バランスを崩してしまった明日菜を、楓が掴む。
踏み出した先が本棚と本棚の隙間だったようだ。
危うく下の滝壺に落ちてしまうところであった。
「あ、ありがとう楓ちゃん」
「ニンニン。罠も友のことも注視すべきではござるが、まずは自らと足元の確認からでござるな」
「うっ」
見透かされている。
この忍び?のクラスメイトには敵いそうにない。
楓の手を借りて立ち上がる明日菜。
今度は立ち止まってから周りを確認する。
自分以外の不安どころはまき絵くらいだが、そのまき絵も持ち前のリボンを扱う技術で何とか罠を乗り越えている。
古菲や楓など罠を看破しているし、図書館探検部の二人はまるで問題がない。
千雨も何故か無事である。
帰宅部なのに、案外身軽に体を動かしている。
あとはネギくらいだが、ネギには魔法がある。
「あわーー!」
「ね、ネギくんが!!」
「って?」
悲鳴に振り向くと、ネギが本棚の橋から滑り落ち、本棚に片手を残してぶら下がっている状態だった。
泣きながら助けを求めている。
何故か魔法を使おうとせず、手足をジタバタさせている。
「げ!?‥‥なにしてんのよ!!」
つい先ほど落ちかけたことなど忘れて、足に力を入れて飛び上がり、ネギがぶら下がる本棚の横の本棚の上に着地する明日菜。
すぐにネギの近くに駆け寄る。
(届く!!)
ネギが唯一残していた右腕に手を差し伸ばし、掴むその時。
反対側から別の手がネギの腕を掴んでいた。
「え‥長谷川!!」
「お前も掴め!」
「! うん!!」
明日菜と千雨がネギを引き上げる。
その時、千雨の目にネギの袖の下の皮膚が映った。
肌色一色のはずが、何故か黒い線が三本と1から3までの数字が刻印されている。
(これは‥!)
魔法の制限がかけられている。
しかも黒となると使用禁止レベルだ。
それが3日分。
なんだってこんなものがネギにかけられているのだろうか?
魔法先生にかけられた?
学園長の指示?
試験時は魔法の使用不可?
「あのー、先生‥。その腕」
「ほら!早くいくわよ!」
千雨が声をかけようとすると、何故かネギも明日菜も早々と苦笑いしながら先に行く。
どうやら誤魔化さなければならないと思ったらしい。
‥やはり早々にバラさないと話が面倒だ。
なんとかタイミングを見つけたい。
いや、それよりも先にネギの周囲を確認してネギの行く末をどうさせるか考えなければ。
その後は休憩を取りつつ、図書館島地下ダンジョンを潜り続ける夕映筆頭バカレンジャー+α。
まき絵やネギもひいひい言いながらなんとか遅れずについていっていた。
その間、ネギのことは明日菜が率先して面倒を見て、ネギを感動させていた。
子供嫌いだと思っていたが案外そうでもないらしい。
「‥子供嫌いだと思ってたよ、アスナのこと」
「あ、やっぱりそうアルか?」
「だよなあ。私が変な思い違いしてるわけじゃないよな」
「ていうか、ハセガワも正直子供が好きとは思ってなかったアル」
「いや別に私も好きってわけではねーぞ。面倒なだけで」
「それ嫌いとは違うの‥?」
「ガキは気にかけなきゃいけないことが多いからな。基本うるせーし」
それはつまり面倒はとりあえず見るってことでござるなあ、となにも言わない楓。
「ハセガワは下の子がいるアルか?」
「いないよ」
「誰か子供の世話をしたことあるんちゃうの?」
「いや、ないな」
「誰かを世話したときの体験談だと思ったけど違うの?」
「体験談って言えば体験談なんだけどなあ」
まき絵と古菲の二人が頭にはてなを浮かべているが、確かに体験談ではある。
何せ気にかけなければならなくてうるさかった子供とは千雨自身のことなのだ。
面倒を見られた千雨は、面倒を見てくれた人々に散々言われたことがあった。
何でもかんでも「教えて」と言う、手間のかかる子供だと。
そして全員共通して千雨をあやす様に笑っていた。
それがうつったのか。
「ふん‥」
「それよりもさー」
「ぬ?」
「なんでこんなとこ降りてるのー!!?」
まき絵の叫びももっともである。
下を見ると、底が見えないほどの穴。
本棚でできた谷と呼んでもいいかもしれない。
周囲は暗く、下方も夕映と木乃香が額につけているライトが届かないくらいには距離があるようだ。
なんとかロープで降りられてはいるものの、手を離したら真っ逆さま。
足場も本棚の淵で、本がぎっしり詰まっていて踏み場が小さい。
自然と足が置けず、落ちやすくなっている。
とてもではないが探検家でもなんでもない中学生がいるような場所ではない。
もう一度告げよう。
まき絵の叫びももっともである。
「おい、ここ本当に合ってるのか!?」
「この滝壺を降ることで最短の道を行くことになります。ショートカットです」
「ゲームみたいな裏技ショトカしてんじゃねー!!」
ネギは‥!
やはりネギに関する不安は明日菜も同じだったのか、明日菜のすぐ横でネギはロープを伝って降りていた。
きゃーきゃー騒ぎながらもなんとか降り終え、遺跡のような場所へ着く。
「ぬ、妙に狭い隙間でござるな」
「なんとか通れそうですけど‥‥」
「おい、綾瀬‥。まさかお前」
「ここを匍匐前進で進むです」
「悪魔かてめーは」
「さあ行くですよ!」
「無視か」
妙に気合が入っている綾瀬を匍匐前進で追いかけ始める。
ここまでの2時間で服はもうドロドロ、身体もそれなりに疲れてきている。
まあ、体力バカのバカレンジャーや図書館探検部の二人は大丈夫だろうが。
どちらかというと問題はネギである。
明日は筋肉痛だろう。
「ゆ、夕映ちゃんまだなのー」
「いえ‥もうすぐそこです」
「やっとか」
「頑張った甲斐がありました。ここまで来た中学生はおそらく私たちが初めてです。大学部の先輩も中々ここまでは来れないですよ」
「でも報告はできひんなー」
「え、なんで?」
「立ち入り禁止だからですね」
「わーかんたんー」
普通の中学生たちでは確かにこんなところは来れないだろう。
ただ、普通の大学生の連中は罠の対処をどうしているかは気になる。
死にはしないのでトライ&エラーだろうか?
「バレたら一週間毎日トイレ掃除です」
「あ、結構優しかった‥」
「“探究心は何人にも止められない。それは己にも”。我が部の理念です」
「それもう破れって言われてるようなもんだよ部内ルール」
笑ってごまかせそうだ。
「さて、着きましたね」
「え、どこどこ魔法の本!?」
「何にもそれらしいものないけどー‥」
ちなみに本はこの四つ這いの状況でも嫌でも目に入る。
何故か60cmほどの狭い隙間のこの場の両脇に、そのサイズの本棚があるのだ。
何故こんなところにジャストサイズで本が置いてあるのか。
「東洋の神秘か‥‥」
「え、そうなんですか!?」
「多分違うよ、それ‥‥」
違うらしい。
「この光が漏れている天井、見えるですか?この上に目的の本があります」
「よし、これね!‥楓ちゃん!」
「ニンニン。では、開けるでござるよ」
「せー‥のっ!!」
重い石板が明日菜と楓によって動かされ、重い摺り音が立てられる。
板がずれるにつれ、光が暗かった隙間に差し込まれていく。
「す、すす‥‥」
「すごすぎるーーーっ!?」
「うへぁ‥」
「私こういうの見たことあるよ弟のPSで♡」
「ラスボスの間アルーーー!!」
扉の先は、大きな石造りの部屋だった。
天井は15mはあるし、奥行きはその倍以上。
何故か部屋の中央の祭壇のような場には、巨大な槌と剣を持ったこれまた巨大な石像が二つ。
ファンタジー、という言葉がぴったりだ。
千雨は以前訪れた古代の魔法使いたちによって作られた遺跡を思い出していた。
「とうとう着きましたね‥。ここが魔法の本の安置室です」
「ハハハ‥‥。こ、こんな場所が学校の地下に」
夕映は感動しているが、明日菜は乾いた笑みだ。
どちらかというと辿り着いたことに感動している夕映とは違って、明日菜はこんなファンタジックな地下室がいつも通っている学園都市にあることに驚いているのだろう。
麻帆良はやはり不思議都市である。
それに関しては千雨も同感だった。
「んで‥‥本はアレか?」
「そのようでござるな。中々古ぼけてはいるでござる」
「良い雰囲気の本アルね!」
二つの巨像の奥に、台座に乗せられた本が見えた。
途端に、ネギが声をあげる。
「あっ、あれは!?」
「ど、どうしたのネギ!?」
「あれは伝説のメルキセデクの書ですよ!!」
「める‥なんアル?」
「メルセデス?」
「それはベンツな。なんでそんなの知ってんだお前」
「お父さんが憧れの車だーって叫んでた」
まき絵の父は車好きらしい。
ちなみに、高畑も別種だがベンツに乗っている。
「確かにあれなら、頭を良くするくらいならカンタンかも‥!!」
そしてお前ちょっと黙っとけ。
バレるから。
秒速でバレるから魔法使いだって。
しかもお前バンバン魔法の本使わせる気じゃねーか。
しかし使わないと、バカレンジャーの成績はどうにもならない。
どうしたものかと千雨が頭を悩ませようとした時、既にバカレンジャーたちと他二人はメルキセデクの書に向かって走り始めていた。
「っておい!早すぎるだろ!?」
「みんな待って!あんな貴重な魔法書、絶対ワナがあるに決まってます!!気をつけて!」
次の瞬間、バカンッという音と共にバカレンジャーたちの足元が下に開く形で二つに割れた。
落ちていくバカレンジャーとネギ、木乃香。
「ばっ‥かやろう!!!」
瞬時に身体のスイッチを入れ、動く千雨。
落とし穴の手前まですぐに着く。
すると、予想よりもだいぶ浅い穴底で皆が転んでいた。
尚、楓だけはうまく着地したらしい。
とりあえず無事らしいので、すぐにスイッチを切り替える。
「なんだこりゃ?」
「こ、これって‥?」
「つ、ツイスターゲーム‥?」
「ツイスター‥‥?」
何だそれとは思ったが、見覚えがあった。
確か柿崎か誰かがクラスに一度持ち込み、クラスメイトたちが遊んでいたはずだ。
『フォフォフォ‥‥』
「ん?」
よく見ると、奥で鎮座していた石像の目が光っている。
訝しげに見ていると、何と首まで動き出し、途端に石像が二体ともこちらに体を向け、武器をかざしていた。
『この本が欲しくば‥‥‥ワシの質問に答えるのじゃー!』
『フォフォフォ♡』
「なっ‥」
「ななな、石像が動いたーっ!?」
「いやーん!!」
「‥‥っ!」
「おおおお!?」
石像が発した声は、聞き覚えのある声だった。
特徴的な笑い方も、今だけは耳に障る。
何してんだあんた。
いやマジで。
「ご、ゴーレム!?」
『では、第一問』
「問答無用だなオイ」
『DIFFICULTの意味は?』
第一問ってレベルじゃなかった。
一人上でズッコケる千雨。
誰がそんなので躓くんだ。
「てめえ‥ふざけてん」
「ええーーっ!!」
「なにそれー!?」
再びズッコケる千雨。
そうだ、バカレンジャーだったこいつら。
「アホかお前らーー!!」
「ええ、千雨ちゃんわかるの!?」
「教えてー!!」
「ネギぃ!!さっさとやってやれツイスターだ!」
「え、ええ!?」
『先生は禁止じゃぞ。教えるのもなしじゃ』
どうやら完全にバカレンジャーが対象らしい。
千雨は頭を抱えて蹲ってしまった。
もちろん、質問のテキトーさとそのレベルにバッチリ合っているバカレンジャーのバカさ加減に頭に痛みが走ってである。
中学二年生だぞ?
来年受験だぞ普通は。
ちなみに麻帆良学園女子中等部、エスカレーター式のため受験はない。
なんとかネギによるギリギリのヒント出しのおかげで、“むずい”と答えて正解するバカレンジャーたち。
ちなみにそれぞれ“む”と“ず”と“い”を手で着いて答えている。
「やったー!!」
「これで本ゲットだねー♡」
「むずいでいいのか‥」
「近年略語が増えてますが、辞典にも略語として載っています」
『では第二問、CUT』
「‥‥ってこら!」
「ちょっとちょっとーっ!?」
アホども。
第一問って言ってただろう。
その後もなんとか和訳問題を潜り抜けるバカレンジャーたち。
ネギの補佐ありとはいえ結構よくやっている。
いつもだったら“わかんないー!”で終わるはずだ。
今回は試験に対するやる気が違うらしい。
ただ、ツイスターゲームなのでゲームに参加している5人の体勢は中々酷い。
まき絵なんてパンツが丸見えだ。
ネギしか男がいないとはいえ、よくやるものだ。
微妙なところで千雨は感心していた。
『では最後の問題じゃ』
「やたっ」
「最後だって」
『DISHの日本語訳は?』
「最後の最後でそんな簡単なものかよ‥」
「むずかしくてもこまるえー」
「まあそうなんだけど」
「えっと‥ディッシュ‥」
しかもダメっぽい。
ここもネギと木乃香にヒントをもらい、なんとか答えを得るバカレンジャーたち。
「わかった、おさらね!」
「おさらOK!!」
「お!」
「さ!」
やれやれ、なんとか終わりそうだ。
息を吐いたその時。
「る!」
‥は?
「‥‥‥」
「‥おさる?」
最後の最後で、やらかしてくれた。
“ら”のはずが何故か明日菜もまき絵も二人とも“る”に手と足を着けている。
『ハズレじゃな』
「ちがうアルよーー!!」
「みんなごめーーん!!」
「あすなさんーーっ!!」
「まき絵ーーーーっ!!」
「なにがどうしたらそこを間違え‥っ!?」
アホ二人に迫ろうとしたその時、目の前の石造が大槌を振り下ろしているところだった。
狙いは、千雨から見てツイスターの石板よりも奥。
何の真似だと下を見ると、いつの間にか石板の下にあった土台が消えている。
大槌が石板に振り下ろされると、石板が大きな音を当てて砕ける。
下は、底が見えない大穴。
「ひゃっ」
途端に7人が落ちていく。
「なんで‥‥こうなるかなっ、オイ!!」
すぐさま追いかけようとするが、踏ん張って足を止める千雨。
目の前には、先ほどまではいなかった人物がいた。
「‥何の真似だ?」
「すまんが、オヌシには聞きたいことがあっての」
麻帆良学園学園長・近衛近衛右門。
いつもの飄々とした、変わらぬ狸爺がそこにいた。
「そんなことよりも、今はあいつらだ」
「大丈夫じゃ、落下低減と衝突防止の魔法陣が下には仕掛けてある。落ちはしてもぶつかりはせんわい。もっとも、眠りの霧も仕掛けておいたからの、明日の朝までは寝てるじゃろ」
「は?」
「この下は機密事項が多くてのう。途中の道を教えるわけにいかんのじゃよ」
「‥」
それ、明日の授業出られねえんじゃねえの?とは口に出さなかった。
どうやらやらせたいことがあるらしい。
「で、私を残したのはその質問の為か」
「一応、聞かねばならんのでの」
「ふん、体裁のためか?」
「確認じゃよ」
どうやら素性は全てバレているらしい。
隠しても意味はなさそうだ。
千雨は溜息を吐く。
「なんだ」
「オヌシがこの学園に来た目的。それと‥」
千雨は気付く。
近衛右門の周りに魔力が渦巻き始めていることを。
杖もなしに宙へとゆっくり浮かび上がる。
千雨は、身体のスイッチを入れた。
「オヌシの腕もな」
「好戦的なじじいだな、早死にするぞ」
「既に70は越えとるがの」
長谷川千雨、14歳。
麻帆良学園に来てからの初戦闘は、老練の魔法使い・近衛近衛右門と相なった。
ちょっとここからゆっくりになります。
リアル色々あってねー。