一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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ガッツリオリジナルです。
オリジナル魔法も出てます。
なるべく原作に近づける様努力はしてます。
UQHOLDER!で新情報がでたら手直ししますがそれまでは許してね。


【6】教え進む者と捻くれ者

腕を突き出す。

空を切る音と数字を挙げる声。

あと何回だと愚痴をこぼした炎天の下で、ただひたすらに腕を振るった日々。

修行後の水浴びは酷く冷たくも、心地良いものだった。

 

 

********************

 

 

麻帆良学園学園長兼関東魔法協会理事、近衛近衛右門。

歳は70を超え、見事な白髭を整えた老齢の魔法使い。

元々は東洋の魔法使い——退魔師だか陰陽師だかの家元出身らしい。

 

今、彼の周囲には思わず感嘆の息を漏らしてしまうほど、繊細な魔力が渦巻いていた。

本来、魔力は空気のように感じるもの。

物質やその場、あるいは生物が魔力を発している。

だが、近衛右門は違った。

彼からは魔力は毛ほども感じない。

だが、一切魔力を持たないわけではない。

彼に内在する魔力をぴたりと体内に留めているのだ。

そしてその魔力を、鍛え、練り、一本の糸に仕上げる。

そして、必要な魔力を糸として数本を体外に纏わせているだけ。

無駄なことは一切しない。

こと戦闘に於いて、最も重要なファクターの一つ。

長期戦を念頭に置いて戦った事のある者の証拠だ。

 

「‥そういえば、あんた戦争経験者だったな」

「む?確かにそうじゃが‥。何故それを?」

「ああ、ある師の経験曰く‥」

 

コキコキと首を鳴らし、両掌を前に出して構える千雨。

 

「戦争を潜り抜けてきた者は三種類。臆病風に吹かれて逃げ惑った兵か、無類の強さで勝ち残った兵か、あるいはただ単に運が良かったラッキーマンだけだとよ」

「ふぉ。儂もそのどれかじゃと?」

「ああ。私の見たところ‥」

「ふむ」

 

目を細める近衛右門。

千雨の答えに興味を示しつつも、油断はない。

 

「‥臆病もんだな」

「フォフォフォ!その心は?」

「あァ‥」

 

目を近衛右門に向けたまま。

千雨は後ろからふわりと飛んできた小石を徐に向けた左手で掴んでいた。

小石が飛んできた先には、二人目の近衛近衛右門。

 

「始めからいきなり分身して腕試しじゃとか言いながら不意打ちかましてくるところとかかな」

「フォフォフォフォフォフォ!!結構結構。オヌシとて生徒じゃ。怪我をさせるわけにもいかん。どの程度でやれば良いかもわからんかったのでな」

「で、感想は?」

「ふむ。注意力は問題なし、といったところかの。何せ凡そ達人という者は魔法使いにせよ武術家にせよ、ある程度雰囲気があるもんじゃ。しかしオヌシの場合はそれが一切なかった。じゃが‥今は濃厚な気配を感じる」

 

近衛右門が千雨に改めて目を向ける。

先ほどまではどこからどう見てもただの中学生だった。

だが、今はどうだ。

所作一つにしても意味がある。

腕を上げる動作でさえ、いわゆる“起こり”が

最小限になっていた。

少しでも目を顔や足に向けていたら、いつ腕をあげたかなどわからなかっただろう。

 

「けっ、良い気にさせるなよ。持ち上げる作戦か?」

「それで油断してくれるならいくらでもやるがの」

 

要するにそんなのは通じないと思われているらしい。

買いかぶられているのか、本当にそう見抜いているのか。

 

「そろそろ始めようぜ。ネギたちも気にはなるんでな」

「良かろう。まずは小手調べといこうか‥」

 

途端に千雨は後ろを向く。

二人目の近衛右門の掌底が迫っていた。

 

「の」

「だまくらかすのが好きだなじじい!」

 

右手で払い除ける千雨。

二手三手はおろか、次々と迫る掌底を払い続ける。

正面の近衛右門にまで向いている余裕がなかった。

分身とは思えぬほどの衝撃を持った掌底。

一つでも当たりどころが悪いとそれだけで致命傷だ。

掌底は、傷はつけずとも身体の内部に衝撃のみを与える技。

喰らいたくはない。

 

だが、一人目の近衛右門が先ほどから練り上げている魔力の糸。

それが一本だけ近衛右門の腕に集約されているのは感じていた。

 

(魔法の矢!火、23矢!)

 

一人目の近衛右門が指をかざしただけで火の魔法矢が千雨に迫る。

無詠唱魔法の射手・連弾・火の23矢。

 

「ふん!」

「ぬ!?」

 

分身という利点を活かし、魔法の射手が来てもそのまま攻撃し続けていただろう二人目の近衛右門。

千雨は、掌底を放った腕を掴み、女子中学生とは思えぬほどの膂力を以て、近衛右門の身体で魔法の射手を薙ぎ払っていた。

 

「ぬうう!?」

「おいおい、消えないのかよ。便利な分身だな」

「フォ!?これは驚きじゃのう、面白い防ぎ方をする!」

「じゃあこのまま行くか」

 

左手で分身・近衛右門の右腕を掴み、右手は拳を握って即座に放った。

分身・近衛右門ごと近衛右門本人を吹き飛ばすつもりの拳だった。

しかし次の瞬間、拳が当たる予定だった分身の腹が霞のように消える。

 

(消えた!?当たってない!)

「消したのか!!」

「分身はオヌシには無意味じゃの」

「!!」

 

また一つ、近衛右門の魔力の糸が消えていた。

今度は彼の両足に魔力が籠もっているのを感じた千雨。

肉体強化に使ったようだ。

今度は千雨も身体を強化する。

用いたのは———。

 

鈍い音とともに草鞋と拳が衝突する。

 

「ほう。ネギくんに興味があるようだったのでの、少々勘違いしておったか‥。オヌシ、“気”を使うのか」

「ふん、魔法使いだとでも思ったか」

「ちがうかの?」

「魔法使い‥ではないな」

 

脚を振り払い、近衛右門を遠ざける。

 

「では、戦士‥あるいは武術家かの」

「違うね」

「ぬ?」

「‥」

 

今度は千雨から迫る。

一歩踏み込み、近衛右門の懐に飛び込んだ。

近衛右門は驚く。

もちろん、スピードは速かった。

だが、驚いたのはスピードなどではなく。

瞬動と呼ばれる歩法に使われた“気”。

そして、いつのまにか千雨の両手には人間一人分ほどの長さの両刃の西洋剣が握られていたこと。

それが同時に起きた事だったから。

 

「エゴ・フィリィア・グラディエイトァズ」

「!!」

 

咄嗟に魔法障壁を発動させる近衛右門。

普段、常時使っている魔法障壁もあったが、それだけでは明らかに足らない。

迫る豪剣が命を刈り取らんとし、虚空の魔法障壁と“気”によって強化された西洋剣がぶつかる。

 

「割と洒落にならんの、オヌシ」

「この程度がか?」

「オヌシ今、その剣はどこから出した?」

「見りゃわかるだろ」

 

剣を押し込む力を強める。

 

「異空間‥倉庫からだよ!!」

「そうじゃ」

 

近衛右門と剣の間に炎の盾が次々と出来上がる。

 

(炎が形を為して‥!盾になっていく!)

 

「それはさしたる問題では無いのじゃ」

「そんなもん無理矢理圧し斬るだけ‥‥!?」

「ただ」

 

盾に対して意識が入っていた千雨の周囲に、近衛右門たちが浮いていた。

その数、十体。

 

「“それも使った”という事が問題での」

「てめェ!!」

『魔法の射手・連弾・戒めの風矢・101矢』

 

千十本もの捕縛の矢が千雨に殺到する。

その様子を、火楯と分身を消しながら確認する近衛右門。

 

(武器を取り出す為に魔力を使った。そして、瞬動の為に“気”を使った)

 

それも、同時に。

それとも単に魔力と“気”の切り替えが早いだけか。

魔力と“気”は本来相反するものであり、それを同時に扱うには相当の修練が必要になる。

魔力と“気”を使う者はいる。

だが、魔力と“気”を同時に使って戦う者はほとんどいない。

コンフリクトを体内で起こすくらいなら魔力か“気”に傾倒して鍛えた方が圧倒的に戦いやすいのだ。

だが、彼女はそれをしていない。

 

「‥ぬ?」

 

捕縛の風矢による風の奔流が収まるも、千雨がいない。

瞬動で抜ける隙間はなかったはず。

千本もの魔法の射手を避け切れるとは思えない。

 

「‥転移で逃げたかの」

「んなわけねーだろ」

「!?」

 

後ろから聞こえてきた声に、振り向き様に掌底を放つ。

それを千雨は予測していたのか、あっさり掴んでしまう。

 

「これはこれは‥‥何の手品かの!?」

「気づかなかっただろ?当然だよな」

「だって種も仕掛けもねーからな」

 

右腕を千雨に掴まれている近衛右門。

近衛右門を挟んで千雨とは反対側から、また千雨の声がした。

振り向くと、先程魔法の射手が殺到した地面の下から、遺跡のタイルがずれて、その場から千雨が上半身を見せていた。

地下から這い出てきた千雨は西洋剣を持っていたが、近衛右門の腕を掴んでいる千雨は手ぶらであった。

分身———。

一目見ただけでは近衛右門が気づかないほどの出来栄えである。

 

「あの一瞬で‥地面に潜っていたというわけかの」

「いや?ただ、ここの下には空間があるのは知ってたんでな。単純に蓋開けて入って閉めただけ」

「フォ?ふむ、そうか。木乃香たちが入ってきたところじゃの」

「それでそっちはただの分身。だからこそ釣られただろう?私が魔法の射手を掻い潜って逃げ切ったように見えたからな」

「なるほど、釣られたのう確かに。分身を使えるとはの。しかも本体と寸分違わぬ気配と密度」

「あんたこそ分身は通じなさそうとか言いながらガンガン使うじゃねえか。だまくらかすのが好きなのはあんたの方だろう。分身と魔法の射手、盾しか使ってないのにえらい強敵に見えるぞおい」

 

にこりともしない世辞が二人の間を飛び交う。

言葉を交わしながらも、千雨は近衛右門の実力を測っていた。

恐らくは自分が今まで見てきた魔法使いの中でもトップクラスの実力者。

101本もの魔法の射手ですら無詠唱で扱い、使う分身も本体と同密度のものを軽々と十体。

この麻帆良学園でも三指に入るだろう。

 

しかし近衛右門は千雨とは反対に、千雨の実力を測りかねていた。

こちらの攻撃に対し、守勢は見事に行えている。

余裕もまだありそうではある。

ただ、若年14の娘。

これが孫娘の木乃香と同年齢とは思えぬほど。

14の戦いの天才といえば、思いつくのは一人の赤毛の男———。

少なくとも、近衛右門が見た実力が最大限というのは有り得ないだろう。

 

「さて、一発くらいカマさないとやってられねえんでな」

「喰らってもらうぜ?」

「‥これ、二発じゃないかの?」

 

右腕を掴まれて動けない近衛右門。

魔力を真剣にエンチャントすれば振り解けなくはないだろうが、流石に生徒相手にやることではない。

剣を捨てた目の前の千雨と、後ろの千雨がそれぞれ“気”を集中させていく。

 

「細かいことは気にすんな」

「どうせ防ぐんだから‥‥」

 

「「よ!!」」

 

近衛右門の腹と背を同時に狙う二人の千雨。

その瞬間、近衛右門の周囲を渦巻いていた魔力の糸が一本消えゆく。

近衛右門の足元から、炎が立ち上がった。

拳が二つ、炎の円壁に激突する。

 

「!!」

「炎陣結界!」

 

近衛右門と物理的に繋がっていた分身・千雨の腕は炎の壁によって断ち切られ、そのまま消える。

本体の千雨は炎の熱気に押され、後ろに下がっていた。

 

「炎陣結界を無詠唱で使うとかふざけたじじいだな!」

「では詠唱魔法ならどうかの」

「は!?」

 

本来1分は余裕で持つはずの炎陣結界がすぐに解かれる。

現れた近衛右門のその手には、一本の古ぼけた杖があった。

 

「これで決めよう。純粋な火力勝負といこうではないか。どうじゃ?」

「血の気が多いな、高血圧待ったなしだね」

「実は結構最近良くなくての‥専属医師からドクターストップ出される寸前なんじゃよ」

「わかっててやるんなら余計アホじゃねーか!!」

 

とほほとか口で言う目の前の爺に殺意が湧く千雨。

殴りたい、この泣き顔。

 

「フォフォフォ。で、どうするかね?」

「‥話が早くて助かるよ。乗った」

「その心意気や良し。では、参ろうか」

 

腰を捻り、右腕を後ろにやり、アッパー気味の構えをとる。

左手を右拳に被せ、全身の“気”を右拳に集中させていく千雨。

対して近衛右門は、練り上げてそのままにしておいた魔力の糸を4本、魔法へと費やす。

 

「来れ火精 風の精」

 

(火と風の上位魔法!)

「我流気合武闘・二」

 

“気”を更に高めていく。

足りない、まだ。

千雨の腕がぼんやりと光り始める。

既に周囲の遺跡やネギたちのことなど頭にない。

ただ、目の前の敵を撃ち抜くのみ。

 

対して、近衛右門。

その頭脳は冷静ながらも、戦火の上で敵を葬り去ったときのことを思い出していた。

敵機数十機が自分を撃ち抜かんと向かってきた、あの時。

あの時ばかりは後の消耗戦など気にもしていられず、全魔力を込めた。

千雨は無詠唱魔法時とは比肩しえない威力の魔法が、近衛右門の腕の中で完成されていくのを感じていた。

 

「炎を扇いで 吹き荒べ 火坑の風」

「正拳突き———」

 

炎を乗せた地獄の風が。

砲台と化した“気”が。

 

「炎の烈風!!」

「昇!!」

 

爆ぜる。

 

 

********************

 

 

その闘いを見ていた男は、溜息をついた。

最後の魔法と“気”のぶつかり合い。

あれではメルキセデクの書、その安置室は吹き飛んでしまっただろう。

そしてその後片付けは何故か自分だ。

図書館島の総司書をやっているからなのだが、今回ばかりは理不尽である。

魔法一つで終わる片付けではあるが、療養中の身からすれば有り得ないこと。

しかもあの二人の闘いに関与するつもりはなかったので、遠隔盗視していただけ。

これは後で近衛右門に文句を言わなければならない。

むしろ正論を叩きつけて掃除させてやろう。

心に固く決めた男だった。

 

それにしても———。

 

落ちる瓦礫と舞い上がる炎を吹き飛ばし、起き上がる少女。

首をコキコキ鳴らしてピンピンしている。

どうやら無事なようだが、彼女の服はそうでもないようだった。

右腕部分の制服と中に着ていた白シャツは吹き飛び、煤が少しついた肌が見える。

 

(‥本当に、強く育ったようですね)

 

これは、自分との出会いもそう遠くはないか。

かの英雄の息子も来たことである。

次に自分が動けるのは来年度の学祭。

ただ、まだ足りない。

貴女はまだ、進み続けられる。

 

 

********************

 

 

「‥」

 

炎の烈風と気弾による嵐が収まり、起き上がる千雨。

周囲を見渡そうとするも、明かりが全て吹き飛んでしまったのか真っ暗である。

千雨と近衛右門はやり過ぎてしまったのだ。

千雨からはすぐに見えなかったが、水平方向の壁は四方全て、10m程吹き飛んでしまっていた。

少し目を瞑り、パチリと開ける千雨。

闇夜と同じように目を慣らす。

 

近衛右門は———。

 

「‥これは、後で説教かの」

 

火が灯る。

見ると、既に立ち上がっていた近衛右門が指先に灯火の魔法を発動させていた。

 

「説教って、私がか?」

「いや、わし」

「‥なんで?ていうか誰にだよ」

「魔法先生たちに叱られるのう‥」

「あんた、学園長だよな?」

 

この様子だとどうやら叱られたことが何度かあるらしい。

締まらない爺さんである。

 

「さて‥正直オヌシにはかなり興味が沸いたのう。その年齢でそこまで“気”を扱い、戦う技術を得たオヌシの今までの過程にな」

「ん?あんた私のことを聞いたんじゃないのか」

「ほう?それはつまり、わしが何らかの形でオヌシのことを知る機会があったということかの」

「‥」

 

どうやら誰からも聞いていないらしい。

わざと千雨のことを隠しているのか、それとも面倒だから伝えていないのか。

恐らく後者だろう、簡単に読める。

そもそも気を利かせて話を伝えておくなんてことをやるとは思わない、できるとは思うが。

 

「しかしの、素性は良いのじゃ。知らなくともな」

「?」

「既にオヌシの敵性検査は終えておる。オヌシに敵意はない」

「ああ、あの面接か」

「左様。故に、後は野となれ山となれと言った感じかの」

「丸投げって言うもんだよなそれ」

「そうとも言うかの」

 

フォフォフォと笑う目の前の近衛右門に、千雨は少しだけ魔法先生たちに同情した。

こんなのが上司だったら自分は3日で辞める自信がある。

何が悲しくて、解決できそうな不明瞭な案件を放置する上司が良いのか。

しかもはしゃいで遺跡を破壊するのだ。

その後始末に部下が追われるのだから溜まったものではない。

 

「そこで、じゃ。オヌシ、魔法生徒になってみる気はないかね」

「え?お断りします」

「ぬぉ!?」

 

唐突な誘いを一言で断る千雨。

あまりの即決さに近衛右門もかくりと顎を落とす。

 

「だって仕事くれるだろう、あんた」

「えー‥。まあそうじゃけど」

「じゃあ無理」

「ぬう‥。あまり魔法関係者を放置しておきたくはないんじゃがの」

「別に敵対する気はないけど仲良しこよしする気もないぞ」

「‥‥それは、今のクラスメイトたちともかね?」

「‥それはちょっと卑怯だろ」

 

千雨が眉を顰める。

今のクラスメイトたちとは確かに仲良くする気はなかった。

今でもあまりないだろう。

だが、出会った当初から今に至るまで。

彼女らが無邪気に自分の手を引く様は、写真で見た彼女らの輪に入っていく自分の様は。

 

「‥それとこれとは話が別、だ。アイツらに裏の事情は告げていない」

「うむ、それは構わぬよ。そんなことまで指図する気はないのう。魔法使いやオヌシの様な者とて人間じゃ。その事実を蔑ろにしてしまうと我らなどおらずとも全て精霊に任せてしまえば良くなってしまう」

「じゃあなんでだよ?」

「これは一人の教師としての心配じゃ。忘れたのかの?オヌシは麻帆良学園の生徒で、わしはその学園長じゃ」

「‥なら、生徒に向かってそれなりに魔力込めて炎の烈風撃つのは良いのかよ」

「それとこれとは話が別じゃの、グラディエイター」

 

飄々としてどこ吹く風である、このじじい。

 

「まあ、良い。経歴問わず魔法生徒ではない裏の関係者もそれなりにはおるしの」

「へえ」

「全てオヌシのクラスに集中しておるが」

「‥うちのクラスにまとめたのはあんたらだろ」

「うむ。面倒ごとはまとめるに限る」

「互いに反応し合って何か起きても知らないぜ?」

「それもネギくんが見ておる、安心しての」

 

ピクリとネギの名前に反応して止まる千雨。

そうだ、大事なことを忘れていた。

 

「‥ネギ、ネギ・スプリングフィールドのことなんだが」

「なんじゃね?」

「私はアイツを保護・観察すると言う目的がある。それと関連して聞きたいんだが‥アイツは、この街に魔法使いの修行に来たんじゃないのか?」

「ふぉ!?」

 

この時点で近衛右門は、千雨が十中八九味方であることを確信した。

わざわざそんなことを嘯く必要がないし、敵対者だった場合メリットよりもデメリットの方が圧倒的に大きい。

しかし、どこからの使者なのか。

どこぞの魔法協会のような公的機関なら秘密裏に送る必要がない。

となると、正義の味方を気取る自治組織か。

それとも、個人の依頼か千雨本人の希望か。

それに加えて近衛右門が千雨の素性を知る機会があったこと。

つまり、近衛右門の知人による人選。

すぐに脳裏にピックアップしようとして、千雨の目を見てふとやめる。

 

先程までは呆れたようなシニカルな目をしていたが、今は違う。

これは、優愛の目である。

おそらく、任務や仕事以外でも、純粋にネギという人間を心配してるのだろう。

こんな人間なら、素性をわざわざ根掘り葉掘り聞く必要はない。

ネギやクラスメイトたちとともに、徐々に歩み寄ってくれたらそれで良い。

 

「‥‥ふむ。確かに彼は修行でこの地に来ておるよ」

「けど、今のアイツは修行なんてまだやっていないんじゃないか?師もいないだろう」

「師匠かの。見習いの魔法使いは本来、卒業証書に運命を委ねられて修行の地へ赴く。それはネギくんも同様じゃ。まだ、彼にはそれに値する出会いがないだけじゃよ。必ずそのうちそれはある」

「‥」

「オヌシがなっても良いぞ?」

「私は魔法使いじゃない」

「フォフォフォ、そうかの?」

 

意味深な笑い方をする近衛右門だが、千雨は不服そうだ。

自分は確かに魔法使いではないのだから間違ってはいない。

 

「‥そう焦るでない」

「!」

「ネギくんはまだ見習いの見習いのようなものじゃ。まだ、この麻帆良学園で魔法使いとしても教師としても認められてはおらん。まずはそれを成さねばの」

「‥」

「魔法使いとして、実戦の修行を行うのか。教師として、2-Aの子らと歩んでいくのか。全ては彼の選択次第じゃ」

「‥私は、焦ってなんかないさ。もどかしいだけだ」

「それも違うとわかってはおると思うがの」

 

見透かした様な発言に、言葉を詰まらせる千雨。

確かにネギの修行だのなんだのは急を要することではない。

全て焦っているのは自分なのか。

自分はただ、ネギに彼と同じ様に———。

 

「‥で、それで今回の2-Aの学年最下位脱出ってのがネギの試験でもあるのかよ」

「最下位脱出に向けて、何をやってのけるのか。見物じゃったが、まさか魔法を自ら禁ずるとはの」

「へ」

 

(自分でやるとかただの間抜けじゃねーか!!)

 

「なんでそんなアホな真似‥」

「ふーむ。どうやら戒めのためだったらしいの。アスナちゃんに諭された様じゃが」

「ふーん?」

 

魔法など使わずとも、と言うことなのだろうか。

 

「ていうか、魔法なしであのバカどもの点数上げられるのかよ?」

「それはネギくんの腕次第じゃ。彼らが落ちた場所は秘密のオアシスになっておっての。そこに十分な食料と中学生向けのテキストを置いてある。結果は明々後日の月曜日のお楽しみじゃの」

 

今日は金曜日。

明日の朝にネギたちは地下で目を覚ます筈なので、土曜日と日曜日はまるまる休日で、月曜日が試験日になっている。

つまり実質残り2日である。

2日でネギはバカレンジャーたちの成績を上げなければならないということだ。

 

「‥最初から、メルキセデクの書は渡す気なかったのか?」

「うむ。何よりあんな魔法の書で成績を上げてもあの子たちの為にはならん。ネギくんの教育にも悪いしのう」

「そういえばあれはどういう本なんだ?」

「あれは持った者の記憶力の強化や思考力の上昇が行われる本での。今まで見聞した知識をたやすく思い出したり、物事を良く覚えたり、他にも使い道は様々じゃ」

 

どうやらちゃんとした魔法書らしい。

そういえばメルキセデクの書はどこにいったのだろうか、と辺りを見渡す千雨。

千雨たちの攻防で吹き飛ばしてしまったか。

 

「‥今回の試験が終われば、色々とネギくんには教え始めるつもりじゃ。まずは来年度の修学旅行かの」

「修学旅行?」

「京都に行ってもらおうと思っておる」

「!!」

 

京都。

日本の観光名所にして、あらゆる歴史が詰まったかつての古都。

千雨も一度聞いたことがあった。

風光明媚で、日本の古い家屋や建造物も多いとか。

少しだけ千雨も期待はしていた。少しだけ。

 

「京都に何かあるのか?」

「関西呪術協会というのは知っておるかな?」

「ああ、東日本と西日本で魔法協会が二つあるんだっけか?」

「うむ、あまり仲は良くないんじゃがの」

「そりゃまた変な話だな」

「魔法系統が違うんじゃよ。こちらはいわゆる一般的な魔法使いじゃが、関西呪術協会は“呪い”を使うのじゃ」

「まじないっていうと‥魔法符の様なものを使うやつか」

 

左様、と頷く近衛右門を前に、千雨は記憶を漁る。

一度かつての師にそれを見せてもらったことがあった。

確か、あらかじめ魔法術式を書いておいた紙を使うことで魔法の簡略化が行える‥という話だった。

普通に魔法符なしでも使えるそうだが、それだと一般的な魔法使いと何も変わらないだろう。

 

「それで、その関西呪術協会が仲悪くてなんだって?」

「先方とは小競り合いや仲違いが多くての、時には仕事にも支障をきたすこともあった。そろそろこの状況を終わらせたくての、それをネギくんに頼もうと思うておる」

「いや無理だろ」

 

明日菜たちの問題とは明らかに違う。

明日菜たちはなんだかんだ言って、ネギが子供であることが大きいのだろう。

それに明日菜たちもまだ子供であって、利益ではなく感情で動くのだ。

バカレンジャーたち以外もネギのクビのことを知ってしまえば協力するはずだ。

女子中学生からすればネギそのものはかなり可愛らしい。

 

ただ、関西呪術協会はそうはならないだろう。

ネギは関東魔法協会にまだ所属はしていないが、今回の試験をパスすれば間違いなくその一員となる。

関西呪術協会の連中にぽっと出のネギが「仲良くしましょう!」と言ったところで火に油を注ぐようなものである。

 

「ま‥そこは心配いらんて。その時になったら話そう」

「おい、これ自然と私が協力する流れになってねえか?」

「そのつもりじゃなかったのかの?」

「早合点もいいとこだ」

「捻くれ者もいいとこだの」

 

フォフォフォと笑う目の前の妖怪じじい相手に、そっぽを向く千雨。

どうやら性格を掴まれてきているらしい。

 

「魔法生徒ではなくても良い。じゃが、もしネギ君がピンチに陥ったり、助けを求めてきたら、オヌシの判断で何かしら支えてやって欲しいのじゃ」

「‥なんで私なんだ?」

「オヌシが今のところ一番ネギ君の魔法的支援ができそうじゃからの。ネギ君を好ましく

思っておるようじゃし、何かしら関係がありそうじゃのう」

「‥」

「全て手を出せとは言わんよ。何から何までやってしまうとネギ君の為にならんしの。その辺は明日菜ちゃんたちへの対応と同じじゃ」

「全て‥か」

「それとの」

「?」

 

近衛右門の普段閉じられた様に見える目蓋がカッ、と開く。

眼光が、千雨を射抜かんとしていた。

 

「わしらは彼を一人の見習い魔法使いとして扱いたいのじゃ。ナギ・スプリングフィールドの息子ではなく、見習い魔法使い・ネギ・スプリングフィールドとしてのう」

「!」

「オヌシ、ナギのことを知っておるな?魔法世界の出身じゃろう」

 

やはりバレた。

魔法戦闘をガッツリ行えて、どこから来たのか経歴不明の人間なのだ。

表の世界に痕跡がないならあとは魔法世界か魔界かくらいしかない。

 

「‥‥なんだ、バレてたのか」

「大方行きすぎたファンかの。ナギのことを知っていれば、ネギ君を見ればナギの関係者だと一目でわかるしの」

「ファンってのは少し違うけど、間違ってはないな」

「ふむ?‥‥まあ良い。彼を見てやって欲しいだけじゃ。“ネギ君”をの」

「善処しよう。わかってるよ、アイツはナギじゃない」

 

ネギはナギじゃない。

わかってはいる、頭では。

ただ、ナギが遺した命よりも大事な子であることは間違い無いのだ。

それを無視する事はできないし、したくない。

 

「なら良いのじゃよ。‥さて、オヌシ今からどうするかね?ネギ君たちの元に行くのか?」

「無事なんだよな?」

「勿論じゃ。様子を見るかね?」

「‥いや、良い。あんたを信用しよう。私は帰る」

「フォ!?」

 

“え、帰るのオヌシ”みたいな顔をしている近衛右門を無視して、部屋の剥がれたタイルを一枚拾い、文字を書き込んでいく。

メッセージを書き終え、徐にネギたちが落ちていった穴へ投げる。

 

「雑じゃのう」

「落下速度低減と衝突防止がかかってんだろ。壊れはしない」

「何もかもワシの話を鵜呑みしておるが、良いのかね?」

「そのくらいは判断できる」

「フォ、光栄と受け取っておこうかの」

 

近衛右門は強力な魔法使いだが、その前に一人前の教育者である。

千雨はそのことを実感していた。

今回、明日菜たちの勉学向上、ネギの魔法使い兼教師認定試験の場となっているが、千雨も多少物事を教えられた気分だった。

今の自分が“ある程度”歪んでしまっていることを自覚させられた。

その恩を“ある程度”報いる為に、近衛右門の顔を立てただけである。

 

「それに、よく考えたら委員長に勉強を教えてもらっている最中だった」

「フォフォフォ、それは戻らんといかんのう。国語と社会の成績、上がると良いの」

「なんであんたそんなこと知ってるんだ?」

「2-Aの生徒たちはある程度気にかけておるのじゃよ。新任のネギ君もおるし、特殊な人間もおるしの」

「特殊ね‥‥」

 

それには完全に同意する。

学校というものに初めて通う千雨は、1-Aの人間が普通だと思ったが、他のクラスと合同で授業をやった時にその認識は誤りだと気づいた。

うちのクラスは変人揃いである。

 

「では、わしも戻ろうかのう。手を貸そうかね?」

「要らねえよ、勝手に戻りな爺さん。風邪引くぞ」

「これはこれは、優しいのう」

 

転移の魔法を起動しようとする近衛右門に、千雨は更に一声かける。

 

「‥ウナ・アラ」

「?」

「私は魔法世界でそう呼ばれていた。調べたきゃ調べるんだな」

「ウナ・アラ‥。どうやら、オヌシとは長い付き合いになりそうだの」

「どうかね。早死にする可能性もなくはないぜ」

「孫の花嫁衣装を見る前には死にたくないのう」

 




ていうかまた多いな一万て。
千雨回というよりは近衛右門回になりました。
じじいキャラ良くない?
アンチ多いけどね、仕方ないね老獪だから。
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