一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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さくさく書きたいんですが‥忙しいですにわかに。
毎日更新できる人は何なのか?
更新の神様ですか?


【7】未だ知らぬ咲かぬ花

光に向かって歩く二人の少女。

一人はかつて2度与えられた、希望の光を自らに当てる為に。

また一人は、未来を照らす光を求めて。

ただその二人は。

 

一人は顔を沈ませて既に止まり、一人はただ泣きながら歩いていた。

 

 

********************

 

 

「ここらへんなら、レジャーシート広げられそうですねー。水平方向に対する傾角が5度未満です」

「了解ですわ!では、ここでパーティを開きましょう」

 

期末試験の翌日。

千雨は、委員長や超、葉加瀬と共に校舎近くの丘の上に来ていた。

試験を終え、2-A学年最下位脱出記念のパーティをやろうという話が出たからである。

そのパーティを野外でピクニックのようにやりたいとの意見が多かったのだ。

委員長たちはその下見として丘に来ていた。

 

「何にせよ、無事に終わってよかったですねー試験」

「結果発表のどんでん返しには驚いたネ」

「あれは学園長のミスって出てただろう。何でかは知らないが自分で採点したのを平均点に加え損ねてたとか」

 

ネギのクビがかかった期末試験。

2-Aが学年最下位を脱出出来なければその時点でネギはイギリスに強制帰国。

しかし結果発表時、2-Aは学年最下位であることが麻帆良学園中等部に放送され、2-Aの面々は愕然としてしまった。

ネギも仕方がないことと諦め、早々にイギリスへの帰路に就こうとしたが、明日菜たちに引き留められたそうだ。

それがなかったら学園長も間に合ってなかったかもしれない。

 

学園長のミスでバカレンジャー+図書館探検部の試験点数がクラスの平均点に加えられてなかったとして、再度集計。

結果、2-Aは僅差で1位に輝いたというわけだ。

 

「それにしても、バカレンジャーの皆さんにはハラハラさせられますわ。行方不明に加えて試験遅刻なんて‥心臓に悪すぎですわ!」

「でもー、何とか試験をクリアできましたしねー」

「行方不明だけで胸いっぱいだと思うけどなあ‥」

 

近衛右門との腕試し(?)後に、ネギたちに自分の無事を書き記したタイルを投げ落とした千雨。

 

ネギたちを置いて先に図書館島の地表に出て、ネギたちと連絡が取れなくなって「どうしようどうしよう」と慌てていたのどかとハルナと合流し、そのまま二人と共に寮に帰ってきたのだ。

 

二人には、ネギたちが無事であるっぽいこと、そこにこちらから辿り着く手段がないこと、おそらく自力で戻ってくるということを言い、何とか説得して共に帰ってきたという形になっている。

二人の不安は当然のものだったが、千雨が何故ネギたちが無事だと言い切れるのかは説明しきれなかった。

どうせなら近衛右門の元で秘密の特別勉強会をやっているとでも嘯くべきだったか。

 

その後、一応途中で抜け出たことを真夜中だったが委員長のところに謝りに行こうとしたところ、何と委員長は起きていた。

千雨だけではなく明日菜やネギたちまでいなかったことに不安を覚えていたらしく、寝ずに待っていたらしい。

ここで、千雨が委員長に事情を誤魔化しつつ説明し、納得させた苦労の程は想像に難くない。

 

また翌日、期末試験最下位がネギのクビにつながると知った2-Aの面々。

椎名桜子がしずな先生に口止めされていたのを我慢できなかったのである。

自分の担任——しかも新任の可愛い9歳の少年——がクビになるかもしれないという事実を一人心に留めておくのは耐えきれなかったのだろう。

 

委員長を始めとした、バカレンジャーたちに対する不安と心配は試験当日まで解消されなかった。

何せバカレンジャー+図書館探検部+ネギは試験当日になってようやく姿を見せたのだ。

しかも試験開始時間ギリギリで。

 

先が見えない様相怪しい試験期間だったが、何とか乗り越え、ネギのクビを回避させ、学年一位の成績を残した2-A。

これほどの苦労をしたとなるとなるほど、確かに記念パーティくらいしたくなるだろう。

 

「簡易キッチンはこちらに設置させますわ。料理道具は大半は用意しますので、五月さんや超さんはご自分の道具だけ持ってくるようお願いします」

「五月にも伝えておくよ、大丈夫ネ」

「じゃあ買い出し班や皆さんに場所をお伝えしますねー」

「お願いしますね、聡美さん」

「‥‥」

 

パタパタとそれぞれが各所に連絡を始める。

それを眺めながら、何故自分はこの場にいるのかと振り返り始める千雨。

 

(…そうだ、委員長に誘われて、超に後押しされて連れてこられたんだったな)

 

普段はクラス単位のイベントに積極的には参加しない千雨だが、誘われたら断りはしなかった。

騒がしいのは苦手な千雨。

しかし、同年代と共に過ごす時間が新鮮であったり、なにより屈託のない笑顔で話しかけてくる人間を邪険には扱えないという心根があったりするおかげで、なんだかんだと連れて行かれるのを良しとしているのである。

 

「ふふ、大忙しネ」

「お前はそうは見えないよ」

「そうカ。やることはやてるつもりだがナ」

「お前、優秀すぎて色々手を出してても物足りなさそうに見えるんだよ。‥超」

 

ニコニコとした超鈴音が千雨の傍に来る。

葉加瀬も委員長もそれぞれ連絡を終え、一度寮や研究室に戻るようだ。

周りには千雨と超だけだった。

 

「‥暇なのか、お前?」

「それはこちらの台詞ネ、千雨サン」

「私は委員長に連れてこられただけだって」

「俗に言うツンデレ」

「デレ‥ってねーよ」

 

語尾を強めるが、超の表情は崩れない。

千雨は無駄に取り合うのはやめにした。

超相手に口論では勝てる気がしない。

 

「なに、少し貴女と話がしたくてネ」

「‥なんだ?」

「少々世界情勢についてヨ」

「私、社会の成績があまり良くないの知ってるよな?」

「それでも今回国語と併せて平均点は取ったんだロ?大したものネ」

「へっ、茶化すなよ」

「実際大したものヨ。貴女のこれまでの経歴を思うとネ」

 

経歴。

その言葉が出た時点で、千雨は身体のスイッチを入れた。

途端に身体全体が戦闘用に意識的に切り替わり、何時でも咄嗟に動けるようになる。

 

「‥なんだ、経歴って」

「惚けなくていいヨ。私は貴女のことを知っている」

「‥」

「生まれたのは日本。だが、育ったのは魔法世界ということくらいはネ」

「‥‥お前、やっぱり裏の関係者か」

「それも少々特殊な部類に入るヨ」

「そうかい。で、何の用だよ」

「性急ネ」

「誰がこんな話聞いてるかわからないだろ」

「大丈夫ヨ、こんな見晴らしの良い丘の上なら誰がどこにいてもわかるネ」

 

(それで私をここに来るように後押ししたのか‥)

 

千雨は警戒心を強める。

人払いの魔法を使っているわけではなさそうなので、今ここで何かしてくるということはないだろう。

だが、未知の裏の関係者の登場に千雨は油断する気にはなれなかった。

 

「まずは、自己紹介カ。我が名は超鈴音。由緒正しき火星人ヨ」

 

いきなりズッコケる千雨。

シリアスな顔して誰でもわかる三流のジョークを放つ超に、緊張感を保てなかった。

 

「なんだってんだてめーは!!」

「ハハハ、良いリアクションネ」

「ふざけてんのか!?ふざけてんだな!?帰るぞ私!!」

「まあまあ。そう固くならず、ネ」

「‥本題に入れ、儀式的な挨拶がいるわけでもないんだ」

「では、単刀直入に言おう。私に手を貸して欲しい」

 

思いもよらない切り出しに、言葉が詰まる千雨。

手を貸せ?

あの麻帆良学園始まって以来の超天才、超鈴音が?

 

「‥‥内容によるな」

「だろうネ。だが、まだ話すことはできない。内容を知れば後戻りはできないヨ」

「大事か?」

「私の一世一代プロジェクトダ」

「絡繰を作るような仕事よりも大きいのかよ」

 

しかしふと疑問に思う千雨。

超のプロジェクトがどのような内容かはわからないが、それは自分が手を貸せばどうにかなるものなのだろうか?

千雨に出来るのは専ら戦闘のみである。

後は、この学園に来てから興味本位で始めたパソコンを中心とした電子端末の扱い。

それか、去年の学祭で麻帆良コスプレフェスティバルに事故で出てしまったアイドルとしての姿くらいか。

 

そう、あれは事故である。

記憶を頭から消し去るように頭を振り、超の方へ向く。

 

「それ、私が手を貸してなんとかなるのか?」

「なるとも。貴女が持つ全ての力を以てすれば容易いことヨ」

「あのな超。私の何を知っているのか知らないが、私は戦闘くらいしかできないぞ?」

「知てるヨ。だが、それでも貴女にしか出来ないことがあるのサ、救世の英雄殿」

「‥‥‥はあ?」

 

救世の英雄。

なんだそれは、と心の底から思う千雨。

千雨は魔法世界にいた頃、幾つかの通り名で呼ばれたことはあったが、英雄と呼ばれたことなどない。

 

「‥超、私を誰かと間違えてないか?」

「間違えてないヨ、長谷川千雨。フィリィア・グラディエイトァズ、ウナ・アラ、アルミス・コンボカーレ。全て貴女の名だロ」

「‥まあ、呼び方なんて何でもいいよ。私から名乗り始めたわけじゃない」

「ちうたんでもいいト?」

「何でてめーまで知ってんだよ!?」

「貴女のことは知ていると言っただロ?」

 

とりあえず自分のことではあるようだ。

しかも、去年の学祭でちうと咄嗟にイベントで名乗ってしまったことは存外広まっているらしい。

これに関しては頭痛しかしない。

 

「貴女の名声を、貴女という存在を。私に貸して欲しいというわけネ。場合によっては貴女の戦闘技術もヨ」

「その内容を知らないと何とも言えないが、知った時に私が断る内容ならどうするんだよ」

「その為に少々お互いを知らねばネ。例え知った時に断りたくなたとしても、私の邪魔をしない程度には仲良くなりたいと思てるヨ」

「邪魔されるようなプロジェクトかよ‥」

「うむ、世界が敵に回る可能性はあるネ」

「‥ただのテロなら私が今お前を止めるぞ」

「人的被害を出す気はないネ。ただ、貴女の来歴を考えると手を貸してくれる可能性が高いと思ったから声をかけたヨ」

 

人的被害を出す気はない。

が、世界中が敵になる可能性がある。

ここまで言われて、千雨の脳内では超が何をする気か推測していたが、パタリと今まで思いついた内容が全て消えた。

人的被害を出すつもりがないのに敵意を持たれる行動。

しかも魔法関係である。

‥世界中の人間を洗脳でもする気か?

 

「そういえば、お前の好きなものって世界征服だったよな」

「ハハハ、覚えていてくれて光栄ネ。なるほど、それだと?」

「世界征服くらいやってくれても全然良いけどな。それに私が従うかどうかなんて話は別物だし」

「おお、それはそれは。ただ、少々違う。というより惜しいネ」

「ふーん?」

「だが、私のやることを早々邪魔する気は無さそうということで良いカナ?」

「‥んー、全員中華まんを毎日食えとか言わない限りは」

「ハハハハハハ!言てしまおうカ、良い案ネ」

「はあ?」

「フフフ‥」

 

座っていた超が立ち上がり、千雨の後方へと歩いていく。

邪魔でもされたいのかコイツは、と嘆息する千雨。

さっぱり何がしたいかわからない。

 

「それはつまり、世の中誰もが腹を空かせることなどあり得ないということダロ?」

 

「!!」

 

バッと後ろを向くと、超は既にいなかった。

 

「‥」

 

どうやら、考えが浅ましいのは自分の方らしいと溜息を吐く千雨。

具体的に何をする気かはわからなかったが、いつか世界に対してとんでもないことをする気ではあるようだ。

明日か、それとも今か。

超が動くその時。

千雨も巻き込まれてしまうであろうその時。

 

千雨はどう動くべきなのか、超を見極めなければならない。

 

「‥超鈴音、か」

 

「長谷川ー!」

 

「ん?」

 

先ほどまで向いていた方から声が聞こえる。

見ると、バカレンジャーたちが揃ってこちらにやってきていた。

 

「食材買ってきたアルー!」

「ここで良いんだよね?」

「あー。もうすぐ委員長が簡易キッチン設置するだろうからちょっと待ってろ」

「はーい」

 

楓や古菲、まき絵たちが両手一杯に抱えた荷物を置き、寛ぎ始める。

その様子を眺めていると、軽い荷物を持ったまま夕映が千雨に近づいてきた。

 

「ひとつよろしいですか、千雨さん」

「‥なんだ?」

「貴女はあの日、どうやって地上に戻ったですか?」

「そりゃ来た道戻ってだろ。ロープとかもそのままにしてたしな。‥そういうお前らこそ、どうやって戻ってきたんだよ」

「ああ、ゴーレムに追われているうちに地上へ直通するエレベーターを見つけまして」

「あんな古ぼけた遺跡にエレベーターがあんのかよ‥」

 

景観統一しろよ、じいさん。

 

「しかし、いくら来た道があったとはいえ、一人であの道のりを戻り、無事生還していることは驚きです。千雨さん、やはり図書館探検部に入らないですか?貴女がいればより深く図書館島を知ることが出来そうです」

「‥まあ、考えておくよ。その前に中学生のままあそこまでもう一度潜れるかは知らんけどな」

「む。やはり部長らの説得が先ですね」

 

むむむと考え始める夕映。

 

今度誘われた時はどう断ろうかと考えていると、遠くにネギと明日菜、木乃香、のどか、ハルナが見えた。

どうやら5人で買い出しに行っていたようだ。

妙な組み合わせだが、明日菜部屋の3人にのどかとハルナが合流したのだろうか?

眺めていると、ネギがこちらに気づいたのか走って近寄ってくる。

 

「ちさめさーん!」

「む」

「ネギ先生」

「あの!!金曜日、大丈夫でしたか!!?」

「金曜日‥‥ああ、先生たちが落ちた(落とされた)あとですか。大丈夫ですよ、むしろ貴方たちが大丈夫でしたか」

「ぼ、ぼくたちもあの後いつのまにか気を失ってて‥‥地下で目が覚めて、何とか勉強しながら2日を過ごしました。お互い無事でよかったです‥!」

 

これは近衛右門の企み通りといったところか。

勉強道具の教科書等は持ってなかった筈だが、地下に教材やら何やらが用意してあったようだ。

 

「ああ、そうだ。クビ回避おめでとうございます」

「え。あ、ありがとうございます?で、でも‥‥試験をクリアしたのは明日菜さんたちや、千雨さんたちの2-Aのみんなです。ぼくの方がみなさんに感謝しないといけないのに‥」

「そうですか?」

「え‥」

 

疑問を呈したのは千雨ではなく、横で静かに話を聞いていた夕映だ。

ネギは呆気に取られた顔をし、千雨は興味深そうに夕映を見る。

 

「確かに実際に試験を受けたのは私たちです。でも、私たちを終始励まし、図書館島脱出の時もゴーレムの前に立ち、私たちを牽引してくれたのは貴方です、ネギ先生。これは、どちらがどちらに感謝するという話ではなく、共に試験をクリアしたことを祝うべきではないでしょうか」

「共に‥」

「貴方が諦めないでと私たちにくれた声‥。あれがなければ、私たちは試験など諦めていたかもしれません。私たちこそお礼を言わなければ」

「え、そ、そんな!」

「ありがとうございました、ネギ先生」

 

いつもの仏頂顔のまま手を前で組み、腰を曲げて頭を下げる夕映。

ネギは顔を赤らめながらあたふたし始める。

 

「うんうん!わたしたちもお礼言っとかないとね!」

「ありがとうアルよネギ坊主!」

「もちろん、拙者も感謝しているでござる」

「‥そうね。あんた、今回はがんばったんじゃない?」

 

バカレンジャーを始め、いつのまにか来ていた他の2-Aのメンバーもなぜかネギに礼を言い始める。

ネギはもみくちゃにされながらも、嬉しそうにはにかんでいた。

それを少し下がりながら見つめる千雨。

 

「‥なんだ。ちゃんと先生できてるんだな」

 

今回、ネギは魔法を使ってない筈だ。

それでも、ネギは今回の試験を生徒たちと共に乗り越えた。

魔法使いとしてではなく、ましてや英雄の息子としてでもなく、一人の教師として。

 

あの夜、寮に帰ったことを少し後悔する千雨。

どうせなら、ネギの勇姿を見るべきだった。

ネギ・スプリングフィールドがスタートラインに立った。

その時を。

 

 

********************

 

 

千雨と別れた後、超鈴音は麻帆良学園の外れにある森、そこに佇む木組みの一軒家に来ていた。

玄関の扉を引き、カランコロンとベルを鳴らして家の中へと入る。

家内では、パタパタとにわかに忙しそうな家主が歩き回っていた。

 

「お邪魔するヨ」

「‥なんだ、貴様か」

 

超は家主——エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル——を見遣る。

手には魔法薬を持っているようだ。

 

「忙しないネ」

「ふん。ネギが‥あのガキがここに居座ることになったからな。我が計画を実行できるというわけだ」

「闇の福音としての復活ネ?」

「当然だろう。なんだ、邪魔しに来たのか?」

 

エヴァンジェリンの目に剣呑な光が宿る。

エヴァンジェリンと超は協力してエヴァンジェリンの従者——絡繰茶々丸——を造りあげたが、二人は完全な協力体制にあるわけではない。

茶々丸に関しては二人の利害が一致しただけで、それが終われば話は別となる。

 

「大丈夫ネ、それはないヨ。私からすれば、貴女の計画が成功しようがしまいが関係ないネ。究極的に言うとむしろ成功された方が良い」

「ならば手伝いに来た‥と言うわけでもなさそうだな」

「察しがいいネ。そう、これは忠告ヨ」

「‥なんだ?一応聞いておいてやる」

 

聞いただけで心得るとは限らないがな。

おくびにも出さないが心の中で呟くエヴァンジェリン。

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

見た目は十にもならない西洋人の少女だ。

髪は金色に光り、目は透き通るように碧い。

そんな彼女だが、その正体は真祖の吸血鬼。

吸血鬼は吸血鬼でも、自らヒトから吸血鬼になったと言われている真祖の吸血鬼である。

その格は高く、数ある生物種の中でも最強種と呼ばれるうちの一種とされる。

 

エヴァンジェリンは齢600を超える。

その人生ならぬ吸血鬼生経験も豊富で、彼女の経験からして情報は自分の行末に関わる重いファクターだと理解していた。

だからこそ、このような正体不明の中華少女の戯言だとしても、きちんと聞こうとしていた。

その正誤は自分で判断すれば良いのだ。

 

「ネギ坊主を狙うのだろう?その際、ほぼ確実にある少女の邪魔が入るネ」

「少女?神楽坂明日菜か?近衛木乃香か?それとも魔法生徒の桜崎刹那か、春日美空か。何にせよ、桜崎はともかく他は何ら問題になるまい」

「長谷川千雨ネ」

「‥何だと?」

 

長谷川千雨。

教室で自分の左隣に座るあの女か。

見た目はただのメガネ少女だ。

他に特徴が挙がることがないくらい普通で、ただの少女である。

あとは強いて挙げるならスタイルが良いことか。

アレが何を邪魔するというんだ。

 

「何の冗談だ」

「あの人は魔法戦闘者ヨ」

「!?」

 

魔法関係者ではなく魔法戦闘者ときた。

エヴァンジェリンの脳内は困惑する。

エヴァンジェリンは吸血鬼としての能力を大半が封じられている。

麻帆良都市全体に貼られている学園結界には大妖や悪魔の類の力を押さえつける効果があり、それに加えてエヴァンジェリンは登校地獄の効果もあって、魔法の類はほとんど使えず、身体能力も外見相応の少女くらいしかない。

 

だが、吸血鬼としての吸血機能や、相手の潜在魔法力の測定能力くらいは使えた。

だからこそ、エヴァンジェリンは千雨が魔法戦闘者であることに困惑する。

千雨の潜在魔法力はごく一般的なものである。

古菲のような“気”も感じられない。

どこからどう見ても、2-Aの一般的クラスメイトと何ら変わりなかった少女の筈なのだ。

 

「‥何かしらのユニークアビリティを備えているというわけではないのか?」

「備えているかもしれないガ?」

「‥‥なぜ、奴が邪魔をしてくると断言できる」

「断言と言われると難しいガ‥間違いなく何かしらの形では関わってくるヨ」

 

ここまで断言する要素があるのか。

だが、どちらにせよエヴァンジェリンの目的はネギ‥ひいてはネギの血。

それさえあれば、エヴァンジェリンは自らにかけられた登校地獄が解ける。

この登校地獄は、ネギの父・ナギ・スプリングフィールドにかけられたものであり、彼は現在行方不明だ。

すでに死亡したとも言われており、世間一般ではその意見が大半でもある。

つまり、エヴァンジェリンにかけられた呪いを解ける人物がいないのだ‥ただ一人を除いて。

それがネギ。

エヴァンジェリンは、吸血鬼としての能力を以てネギの血を使い、呪いを無理矢理解こうとしているのである。

 

「‥だが、私は奴に興味がない。そこまで言うならば貴様が奴の始末をつけろ、超鈴音。報酬は払うぞ」

 

「彼女が、ナギ・スプリングフィールドの情報を持っているとしてもカ?」

 

バッと超の方を向くエヴァンジェリン。

目は見開かれ、登校地獄の呪いがエヴァンジェリンの溢れんとする魔力を押さえつける。

 

「奴が!?ナギの情報を‥!?」

「これは断言できるネ。彼女はサウザンド・マスターに会ったことがある。恐らく、紅き翼の関係者ヨ」

「‥!」

 

近衛右門から千雨が魔法関係者である可能性は従者である茶々丸を伝って聞いていた。

だが、魔法戦闘者である上に紅き翼の関係者?

これだと話は変わる。

ネギを狙うという形にこそ変更はないものの、力を取り戻した暁には千雨を抑え、ナギの情報を聞き出す必要がある。

 

「‥奴は強いのか」

「それを貴女に見極めて欲しいということヨ」

「ふん、その為か‥」

 

何故超がエヴァンジェリンに助言・忠告に来たのか合点がいった。

超は自分のメリットにならないことはしない、‥‥クラスメイトたちの無茶振りはともかく。

千雨が超自身の敵になり得るか、それとも戦力になると考えているのか。

何にせよ超も千雨とその内関わる気なのだ。

 

「私のメリットは何だ」

「先の情報一つで十分だロ?」

「‥‥かもしれんな。奴とて何もなければナギのことなど口走るまい」

 

ネギ・スプリングフィールドを抑えるために、生徒たちから魔力を少しずつ集めたり、生徒を何人か傀儡にして手駒として集めたりする予定だった。

だが、魔法戦闘者が敵にいるとなるとそのような準備では明らかに足りない。

学園結界から何らかの形で外れるか何かして、エヴァンジェリンが本来の実力で挑むか、更にこちらの数を増やすかしないと話にならないだろう。

実戦経験のある魔法戦闘者は、それだけの可能性がある。

 

「心して掛かるといいヨ。実力だけなら

恐らくAAクラスはある筈」

「‥そんな奴が何故あのクラスにいるのだ?」

「‥貴女にだけは言われたくないと思うネ」

 

先ほどからエヴァンジェリンと共に準備を進めていた茶々丸に、ちゃっかりお茶を用意させていた超。

椅子に座り込んで、休憩するつもりなのだろう。

だが、話は終わった。

そして、エヴァンジェリンの敵も決まった。

全てはかつての自分を取り戻す為に。

 

敵は、英雄の息子。

そして、英雄との縁を疑われる魔法戦闘者の少女。

 

超が外を見遣る。

 

「‥そろそろ日暮れネ」

 

釣られて外を見る茶々丸。

茶々丸のアイにはいつもの景色しか見えなかった。

 

闇の帳が麻帆良学園に降りようとしていた。




こういう間話のような奴は飛ばすべきなんでしょうけどねー。
飛ばすと気持ち悪いというかなんというか。
ゆるゆるとは言わないけど、きっちり進めていきたいですね。
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