カモくんがくる話とかもあるのでそこをどうこなすか課題。
【8】迫る闇に光る灯火
夜を往く。
片手にマーダードール、片手に魔法。
幾度となく身にかかる火の粉を凍てつかせて振り払い続ける少女。
闇に染まりきっていた、彼女の手を掴んだのは。
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魔法使い見習い兼教育実習生のネギ・スプリングフィールド。
彼は、イギリスはウェールズより麻帆良学園へと修行に来ていた。
その修行も2ヶ月が過ぎ、彼が担当していた2-Aも3-Aへと学年を上げていた。
そう、新学年の新学期である。
だが、その矢先にとある噂が立つ。
“桜通りの吸血鬼”が出たと。
麻帆良学園にはいくつもの通学路が存在する。
広大な敷地の学園故に、その通い方も多種多様だ。
そのうちの一つ。
近くに麻帆良学園女子中等部の寮があり、ネギが担当する3-Aも大いに関係がある。
しかもなんと、今朝は3-Aの一人、まき絵がその被害にあっているかもしれないのだ。
特に怪我はなかったが、まき絵は朝方眠っている状態で桜通りにて見つかった。
そのまき絵からネギは魔力の残り香を感じ取っていた。
何かが、まき絵に干渉した。
そう推測したネギはすぐにパトロールを始めた。
そして、その日の夜。
彼は初めての敵と出会う。
さらにもう一人。
その二人は、自身のその後の人生においてとても大切な二人となったと、後のネギは語っている。
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千雨は寮の自身の部屋でブログを弄りながら、屋外に魔力が発生したのを感じ取っていた。
新学期初日なのでそのことをブログに綴っていたのだが、それも早々に諦めた。
部屋の電気もつけずにパソコンを触っていた為、外の月明かりが窓からよく見えていた。
窓を開け、外を見遣る。
魔力は初めて感じるものだったが、このタイミングで動くのは一人しかいない。
今朝はまき絵が桜通りの吸血鬼と思われる人物に被害を被ったばかりである。
どうするかと思案していると、ネギの魔力も感じ始めた。
どうやら先の魔力の源と接触したようだ。
「佐々木が発見されたのは今朝だが、襲われたのは通例通りなら昨日の夜のはず‥か。新年度になって2日連続だな」
そして、桜通りの吸血鬼が予想した人物ならネギでは危うい。
すぐにパソコンをスリープモードに移行し、クローゼットへと歩み寄る。
クローゼットの扉を開け、底板を取って隠し戸を開く。
そこから、一枚の赤いローブと戦闘用のレザーブーツを取り出した。
中々派手だが、フードが付いている為咄嗟に顔を隠せるので魔法戦闘者として動くときには重宝しているものだ。
それに、個人的にだが赤が好きなのだ。
あとは魔法符が数枚あれば問題ない。
「‥いくか」
ネギは遂に学園の魔法使いになった。
パートナー探しらしきことも先日していた(後日勘違いだと分かった)。
もう十分だろう。
よく待った方だ、気が短い自分にしては。
ローブをまとい、ブーツを履く。
身体のスイッチを切り替え、意識を戦闘に切り替える。
窓から飛び出し、短い跳躍とともに建物の影へと至る。
誰にも見つからないように隠れながら行くのだ。
一般人にはそう簡単に見つかりはしないようなところを往くつもりだが、魔法使いたちに見つかっても面倒だ。
主に事情を説明するのが。
実際、夜出歩く時はパトロールをしている魔法使いを何人か見かけたことがある。
その時その時は一般人として地面を歩いていたから何も関係がなかったが、今は違う。
音もなく影から影へと移り、桜通りに着く。
そこには、走り去るネギ。
そして明日菜と木乃香が、襟元にかろうじて服が残っているだけののどかの面倒を見ていた。
すでに吸血鬼らしき人物はいない。
「ちょっと本屋ちゃん!?大丈夫!?」
「のどか‥のどか!」
(ひとまずは宮崎が先かな)
ネギのことも気にかかるが、まずはのどかの安否の確認からだろう。
「おい」
「ふぇ?」
「ひ!!きゅ、吸血鬼!?」
「はあ?」
吸血鬼て、なんでだよ。
‥‥と思ったが赤いローブを全身にまとい、フードで顔を隠している千雨。
この状況ならこれは仕方のないことかもしれない。
フードをとって改めて声を掛ける。
「バカ、私だ」
「え‥長谷川!!?」
「どーしたん、そのかっこ?」
「えーとだな。‥とりあえず宮崎を診る」
説明が面倒だったので、当初の目的を果たそうとする。
二人の了承も取らずにのどかに近づき、首に手を当てる。
(‥脈拍は正常。魔力も絡んでない。気絶してるだけか。武装解除を喰らったみたいだが‥)
わずかに残されたのどかの服を見ると、端が凍結し、氷が作られていた。
氷結武装解除だろう。
「氷使いか‥」
「ちょ、ちょっと?」
「ん?ああ、宮崎は無事だ。流石にこのままだとかわいそうなんでな、このローブ貸すから被せて寮まで運んでやってくれ。あとで返せよ」
「え?でも、ネギが!」
「そういえばどこに走ってったんだあいつ」
「さっきまでそこに誰かいて!その人を追いかけて行ったみたいなんだけど‥!」
「‥ああ、まずいかもなそれ。先生は私が追う。お前らは寮で待ってろ」
「千雨ちゃん、大丈夫なん?よくわからんけど、これって桜通りの吸血鬼の仕業じゃないん?」
ローブを取り、麻帆良学園の制服姿となった千雨。
ローブをのどかに被せて、すくっと立ち上がる。
「心配すんな。首根っこ捕まえてでも連れ帰ってやるよ」
「いや、木乃香が心配してるのはあんたのことよ!?」
「え、私か?それこそ心配いらねえよ。私に敵う奴がこんなところにいるとは思えん」
「はあ?」
「はわー。千雨ちゃん、すごいんやなあ」
明日菜は胡散臭そうな顔をしたが、木乃香は感嘆の意を顔に出す。
千雨はそれ以上は取り合わない。
ネギが危ないとも思うが、ネギと件の人物との魔法戦も見てみたいのだ。
「じゃあ、任せたぞ」
二人の返事を聞かずに跳躍する。
明日菜も木乃香も千雨が10m以上飛び上がったことに目が点になる。
桜を越えてすぐに見えなくなってしまう千雨。
明日菜は呟かずにいられなかった。
「‥‥あいつ‥なに‥‥?」
「千雨ちゃん、よー跳ぶなぁ‥」
「そういう感想で終わっていい問題じゃないわよ、ぜったい‥‥」
一方千雨は、建物から建物へと跳び、視界の先にネギを捉えていた。
ネギは橋の上から跳んで杖に跨り、空を飛びはじめる。
ネギの更に先には黒い外套をたなびかせて飛ぶ小さめの人間が一人。
恐らくネギと同じくらいの体格だろう。
長い金髪が風に流れている。
「やっぱりエヴァンジェリンか‥」
千雨が二人に追いつく前に二人は魔法の撃ち合いを始めていた。
手を出そうと考えていた千雨は一旦止める。
ネギの安全を確保しに来ただけだが、何でもかんでも手を出さなければいけないわけではない。
ネギは魔法使いの修行に来ているのだ。
これは実戦経験を積む良い機会である。
千雨は空を飛んでいくのではなく、二人のかなり後方で水面を渡っていくことにした。
水を地面と同様に捉えるために“気”を足に充填させ、水面を走り始める。
(‥さて、見せてもらおうか)
ネギが始動キーを唱え、風の精を8体召喚する。
風の精はどれも杖に跨るネギの姿をし、コピーとしてエヴァンジェリンに迫って行く。
囮召喚をするのも驚きだが、その数も一般的魔法使いとほぼ同じ。
それをさらりと召喚するあたり、10歳とは思えないほどの才気である。
風の精に対抗するべくエヴァンジェリンが魔法薬を投げ、瓶から雹風が発生する。
そういえば、エヴァンジェリンは今麻帆良学園になんらかの形で封印されているんだったと思い出す千雨。
封印状態でよくもまあネギに対抗出来るものだと感心する。
空をあっさり飛んでいるのはあれも魔法薬の効果かと推測する千雨。
雹風が風の精を打ち抜き、エヴァンジェリンは川の上から建物の上へと移っていく。
だが、ネギの方が速かった。
エヴァンジェリンが風の精を対処しているうちに、風による加速でエヴァンジェリンの後ろに回り込んでいたのだ。
「追い詰めた!これで終わりです!‥風花武装解除!!」
(お)
「!!」
エヴァンジェリンがまとっていた外套が無数の蝙蝠へと変わる。
吸血鬼の能力の一つ、蝙蝠や狼の使役だろう。
桜通りの吸血鬼という名はそのまま事実を表していた。
エヴァンジェリンは吸血鬼なのだ。
しかし彼女から感じられる魔力は吸血鬼にしてはあまりにも脆弱だ。
(しかも真祖だったよな確か。麻帆良学園に封印されてるってのも本当のことだったのか‥)
空を飛ぶのに外套を使っていたようで、それを失ったエヴァンジェリンはそのまま落ちていく。
蝙蝠は霧散していき、エヴァンジェリンとネギの二人はすぐ下の建物の屋根に着地した。
千雨も手前の建物に登り、二人の様子を見る。
外套を剥かれたエヴァンジェリンは何故かキャミソールにパンツという下着姿だ。
外套と一緒に服まで武装解除されたのか。
ネギも手で目を隠す素振りをしながら、それでもエヴァンジェリンからは目を離さない。
中々警戒しているらしい。
「‥‥やるじゃないか、先生」
「こ‥これで僕の勝ちですね。約束通り教えてもらいますよ。なんでこんなことをしたのか」
これは決着ついたかな‥、と来る必要がなかったのではと思う千雨だが、エヴァンジェリンの真後ろの建物の上に誰かが立っていることに気がつく。
茶々丸だ。
(このタイミングで来るってことは‥)
エヴァンジェリンの援軍か。
どうやらバックアップは用意していたらしい。
「‥それに、お父さんのことも」
「お前の親父‥すなわち“サウザンドマスター”のことか」
ネギが驚く。
エヴァンジェリンのことをネギは知らないんだろう。
目の前の少女が真祖の吸血鬼だと知ったら普通は平常心でいられるわけがない。
ありとあらゆる生物の中でも最強種といわれる存在だ。
本来ならば指先一つで塵にされるのがオチである。
「と‥とにかく!!魔力もなくマントも触媒もないあなたに勝ち目はないですよ!!素直に‥‥」
「これで勝ったつもりなのか?」
エヴァンジェリンの言葉を合図に、茶々丸がネギとエヴァンジェリンの間に降り立った。
2対1の構図になる。
「さあ、お得意の魔法を唱えてみるが良い」
「なっ‥こうなったら!」
仕方がないとネギは戒めの風矢を唱え始める。
が、詠唱が完了する前に茶々丸はネギの目の前に移動していた。
デコピンをネギに喰らわせる茶々丸。
明らかに手加減している。
しかし、ネギの詠唱は止まる。
「え‥!貴女は!?うちのクラスの‥!!」
「3-A出席番号10番、絡繰茶々丸。そして、私のパートナーだよ」
エヴァンジェリンのパートナーが茶々丸か。
超と葉加瀬に作られた茶々丸だが、エヴァンジェリンも関与していたというわけなのだろうか?
パートナーというともちろん、魔法使いとしてのパートナーだろう。
そして、ネギにはパートナーはまだおらず、現状1対2だ。
これは流石に勝ち目がない。
ネギが何とか魔法の詠唱をしようとするが、ことごとくデコピンやら頬をムニムニやらで茶々丸に邪魔されている。
茶々丸にはネギだと力では勝てないだろう。
それ以前に茶々丸にはかなり手加減されている。
本来ならばエヴァンジェリンがその間に魔法を撃ち込むのが定石だが、茶々丸一人でネギを完封してしまっている。
エヴァンジェリンは高みの見物だ。
これはダメだな。
身を隠していたのをやめ、一気に跳ぶ千雨。
今にもネギの首筋に牙を立てようとしていたエヴァンジェリンだが、自分にかかっている月明かりが何かによって遮られたことに気がつく。
「な———!」
「!! マスター!」
茶々丸が咄嗟にエヴァンジェリンを抱え、後ろに引く。
エヴァンジェリンはネギから引き剥がされる形で後退し、千雨はネギの前に降り立った。
「え?え??」
「‥ほう。正直な話、こんなに早く接触するとは思ってなかったよ」
「そうかい。残念な話、こっちはそのつもりだったんでな」
ネギは、涙を拭いながら自分の目がおかしくなってしまったのかと困惑する。
目の前の人間が、誰なのか一瞬勘違いしたと思ったからだ。
「‥‥千雨、さん?」
「無事だな、よし」
千雨はネギの首筋を確認する。
牙痕はなさそうだ。
ネギを吸血鬼にされてはどうしようもない。
千雨の習得した技法に吸血鬼化の治療法などないのだ。
「ど、どうしてここに!?」
「‥言っただろう?」
「へ?」
「困ったら言えってさ。‥なあ、ネギ」
「え‥」
「‥何を解決した気でいる!茶々丸、行け!!」
「はい」
エヴァンジェリンの言葉を皮切りに茶々丸が突進してくる。
今度はデコピンなどではない、拳だ。
それを寸前で顔を逸らして躱す千雨。
「いきなり手加減なしか」
「貴女が関わってきた場合は心して掛かれと命を受けております」
「ん?」
茶々丸の突き出した腕の手首が外れ、千雨の顔に巻きつこうとする。
数本のワイヤーが千雨を襲う瞬間、千雨は消えていた。
(対象がロスト。索敵開)
「おせーよ」
「え‥」
「‥!?」
「へ?」
千雨はエヴァンジェリンの真後ろに立っていた。
何と脇にネギまで抱えている。
茶々丸は自身のセンサーに異常がきたしたかと確認したが、異常は見つからない。
すぐさま茶々丸はシステム上で結論を出す。
自身の電脳器官による命令速度よりも、千雨の移動速度の方が速い。
千雨がどちらに行ったかすらわからなかった。
エヴァンジェリンも自身のカンが鈍ったかと思うほどだ。
スピードだけなら今までの人生の中で五指に入るほど速い。
(これほどとはな‥)
今の封印状態では勝ち目がない。
「‥なんで私のことを知ってる?超か、学園長か?」
「フン。超は茶々丸の開発者の一人で、じじいは私を雇っている形になる。どちらでもおかしくはなかろう。それ以外でもな」
「言うつもりはないってか」
だが、恐らく超だろう。
近衛右門が情報提供で魔法生徒及び魔法教師に千雨のことを知らせていてもおかしくはないが、エヴァンジェリン以外の接触はこの1ヶ月、超しかなかった。
ちなみに超は魔法生徒ではない。
「‥で、何をしにきた?」
「このガキンチョに手を出されては困るんでな。守りに来たというわけだ」
「ほう?困るとは面白い。貴様らが特別仲が良いようには見えなかったがな」
「中々言うねぇ。お前、今の状況わかってるのか?茶々丸と今のお前の二人がかりでも私には敵わないぜ」
「‥それはどうかな?」
エヴァンジェリンの言葉に顔を顰める千雨だが、エヴァンジェリンがネギの服をいつのまにか掴んでいる。
なんの真似だと思ったが、途端にネギと千雨を丸い檻が覆う。
「こ、これは!?」
「結界魔法符!こんな旧世界に‥!」
「ふん、やはり向こうの出身か。ならばこれの厄介さもわかっている筈だ」
エヴァンジェリンは茶々丸の方へと後退しながらも、少々腑に落ちずにいた。
結界が発動してまんまと閉じ込めたのは良いが、何故か千雨の障壁に反応していない。
ネギはまだ魔法障壁を無意識に展開はできないようだ。
千雨は魔法使いではない。
となると‥。
「武道家というやつか。並の魔法使いなんぞよりも余程面倒な奴が来たようだな」
「‥‥んで、ここからどうするんだよ?」
「なに、簡単な話だ」
エヴァンジェリンが茶々丸から大きなフラスコを受け取る。
前もって準備してきたらしいその魔法薬からはかなりの量の魔力が練り込まれているのがわかる。
「貴様を潰して改めてそこのガキから血を戴くまでだ」
「そ、そんな!これ、出られないんですか!?」
ネギが千雨に抱えられたまま結界の檻に触るが、檻の格子はぴくりともしない。
魔法の射手を至近距離で撃とうと試みるがそもそも発動すらしなかった。
「無駄だ。言っておくがその中では魔力や“気”が練りにくくなる上に、内側から破壊するにはそれ相応の力がいるぞ。魔法世界の竜種でもそう簡単には破れん代物だ」
「まほーせかい‥?」
「竜種ね‥。‥‥ああ、ネギは魔法世界のことを知らないのか?魔法世界ってのはな、この旧世界とは全く違う、魔法が当たり前のように使われている世界のことさ」
「魔法が当たり前の世界!?す、すごい!じゃあ、魔法の秘匿は‥!」
「ないよ、そんなもの」
「ええい、なにを呑気に構えている!!」
ネギはともかく、千雨のこの緊張感のなさはなんだと毒づくエヴァンジェリン。
何かするつもりだというなら、小細工する間もなくとどめを刺すのみ。
「これで終わりだ!」
フラスコをネギと千雨に向かって投げ、魔力で叩き割る。
途端に、二人の前に大きな魔力の塊が発生し、氷の嵐が生まれ始める。
「こ、これは!?」
「闇の吹雪か!!」
闇と氷の上位魔法。
引きずり込むように暗い闇と凍てつかせる吹雪が、結界ごと二人を飲み込まんとする。
「うわあああああああ!!!」
「‥‥マスター」
「心配するな、命を奪うようなものではない。手加減はできている筈だ」
それに、と言葉を継ごうとしたエヴァンジェリンが止まる。
吹雪の轟音と闇の悲鳴のような異音の中で、状況にそぐわぬバキンという音が聞こえたからだ。
それはまるで何かが割れたような音で。
なんだと考えつく前に、闇の吹雪が治まっていた。
魔法による雪がチラつく中、ケロリとした顔でこちらを見やる千雨と、泣きながらもきょとんとした顔で辺りを見渡すネギが姿を見せた。
「なんだ‥‥貴様、何をした!?」
「竜種を捕らえる結界魔法符って言ってもなあ‥。たかが獣と同列にするんじゃねえよ」
「結界を‥内側から力尽くで破壊したのか!?」
「案外脆かったぜ。パチモンじゃないのか?」
軽い挑発をしてくる千雨だが、エヴァンジェリンはその頭を逆に落ち着かせていた。
力だけなら竜種以上。
武器など使った様子はないため、無手でも戦えるのだろう。
しかも闇の吹雪はレジストした上に“気”で吹き飛ばした。
あの闇の吹雪は触媒を使って発動させたとはいえ、触媒はエヴァンジェリンが自ら作製したものだ。
それに容易く対処するこの長谷川千雨。
確かに実力はAAクラスはあるだろう。
「‥やはり今の私たちでは勝ち目はないか」
「なんだ、案外冷静だな。伊達に吸血鬼の真祖やってないな」
「ぬかせ!‥今日はここまでにしておいてやる」
「え?」
困惑の声を出したのはネギだ。
結界魔法符や闇の吹雪など強力な手段ばかり出してきて、それを防がれたというのはわかるがまだ千雨に防がれただけだ。
エヴァンジェリンも茶々丸も何らダメージを負ってない。
それでも撤退するということは、千雨とエヴァンジェリンたちの間にはそれほど力の差があるというのだろうか?
「逃すと思うかよ?てめえは逃すと面倒そうだ、闇の福音」
「や、やみのふくいん!!?伝説の吸血鬼の‥‥!!エヴァンジェリンさんがですか!?」
「確か、ナギに封印されたんだっけか?弱っているのも本当らしいな」
「‥そうだ、腹立たしいことにな。だが、それもそこの坊やの血を吸えば解決する話。貴様に邪魔はさせんぞ、長谷川千雨」
「できると思ってんのか!?我流・気合武闘‥」
ネギを抱えてない方の腕で気弾を放とうとする千雨。
だが、エヴァンジェリンたちの真後ろに予想外の人物が現れる。
「ネギー!長谷川ー!無事ー!?」
「げっ‥バカ、なんで来たんだ!」
「明日菜さん!!」
「茶々丸!!」
「はい」
茶々丸が一枚の魔法符を取り出し、エヴァンジェリンに手渡す。
それを見咎める千雨。
だが、次の瞬間にはエヴァンジェリンと茶々丸の足元には魔法陣が広がっていた。
「転移魔法符!」
「長谷川千雨」
「ああ!?」
「これ以上私の邪魔をするなら容赦はせんぞ。私の全力を以て貴様を叩き潰す」
千雨が何か言葉を発する前に、魔法陣が光る。
エヴァンジェリンたちは瞬く間に姿をその場から消していた。
「‥転移魔法符まで用意しているとはな。超か、面倒な真似しやがる」
「今のって‥うちのクラスの‥エヴァンジェリンと、茶々丸‥よね?どういうこと?ていうか今のどうやって消えたの‥‥‥ネギ?」
「ん?」
「‥‥えぐっ」
明日菜がこちらに歩み寄ってくるが、ネギの様子が変だ。
顔をのぞくと治まっていた涙がまた出ている。
余程恐ろしかったようだ。
「‥‥ほらよ」
「ちょ、何で私に渡すのよ!?」
「お前んとこの居候だろ。‥‥それに泣かれるのは苦手なんだよ」
「絶対そっちが理由でしょー!!?」
ネギを明日菜に手渡し、踵を返す千雨。
屋根の淵まで歩き、足をかけるがそこで止まる。
「‥ネギ、そのままでいいから聞け」
「!」
「今回は私が助けた。次回からも助けはしてやる‥‥けどな。アイツはいつまでも諦めはしないぜ」
「え‥」
「諦めるって‥エヴァンジェリンたちが?」
「エヴァンジェリンに封印の呪いをかけたのはナギだ。サウザンドマスターと呼ばれたほどの男の呪いは、どんな解呪師にも解けはしないだろう。というか、解ける奴がいてもエヴァンジェリンを治療してくれるやつなんていねーよ。魔法世界では伝説の極悪人だからな」
「伝説って‥‥なんでそんな奴がこの学園にいるのよ!?」
「ネギの親父に言え、そんなもん」
ネギの‥?と首を傾げる明日菜。
ネギ自身も知らないので困惑している。
さらに言葉を続ける千雨。
「アイツは‥エヴァンジェリンは、確かもう15年もこの学園にいるはずだ。そこにやってきた解決の糸口がお前らしい、ネギ。アイツは殺したって止まりはしないぞ。封印されてても吸血鬼だからな。不死だし」
「‥‥そんな‥」
ぐすぐすと涙を拭きながら、ネギは顔をさらに暗ませる。
明日菜は吸血鬼が実際にいると知って絶句しているようだ。
「そうだ。だからお前は選ばなくちゃいけない。この学園から逃げ出すか‥戦うかを、な」
「た、戦うって‥?」
「‥魔法使いとして。お前がエヴァンジェリンを屈服させてみろ」
「え、ええぇ!!?」
「言っておくが私が戦ってもアイツは諦めはしないぜ、多分。ていうか私ならそうさ。赤の他人に邪魔されて止まるものじゃない」
厳密に言うと千雨はナギの薫陶を多少受けているので、赤の他人というわけではない。
だが、そんなことを口走るわけにもいかない。
ネギだけならよかったが、今は明日菜がいる。
「お前が選ぶんだ、ネギ。初めての敵にしては少々格が高すぎるけどな」
「あ、あの!!」
「ん?」
ネギが明日菜におろしてもらい、千雨の方へ向き直る。
涙は止まったが目元は腫れているようだ。
「助けてくれてありがとうございました!‥貴女は、一体‥?」
「‥ウナ・アラ。それが私の通り名だった」
「え‥」
返事も聞かずに屋根から飛び降りる千雨。
慌ててネギと明日菜が屋根から下を見下ろしに走るが、もう千雨の姿はなかった。
「ここ、8階なんだけど‥‥。ていうか、うな‥うなぎ?‥なんて言ってたの?」
「‥ラテン語です」
「ラテン語って‥あんた、わかるの?」
「Una aras‥」
‥“一枚の羽根”。
ちなみに訳の分からない千雨の通り名はテキトーなラテン語なので翻訳間違ってるかもしれません、すみません。
早くガッツリ戦闘シーン書きたいですねー。
そして魔改造千雨とネギたちは関係をどう築いていくのか考えるのが難しい。