一枚の羽根・長谷川千雨   作:Reternal

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やべー長くなりすぎた。
ここめちゃくちゃ色々悩みました。
詰め込みすぎかなー。


【9】ある少年の一歩

少年を突き動かす父への憧憬。

ただ歩く、父への道。

背に灯った暗い火にはまだ気づくことがなく。

また、彼の足元を照らさんとする蛍にも。

 

 

********************

 

 

エヴァンジェリンとネギの騒動に首を突っ込んだ翌朝。

登校中、千雨はのどかから赤のローブを返してもらっていた。

昨日のどかに確かに貸したものだったが、気絶していたのどかはそんなこと知る由もない。

木乃香に聞いたのだろうか。

どういう説明を受けたか少々気になるが、身体能力的におかしなことは聞いてこなかった。

木乃香のことだ、「千雨ちゃんが貸してくれたんえー♡」程度で済んだんだろう。

 

「宮崎、昨日のことは何があったんだ?」

「え、えっと‥。か、帰り道、一人で帰っていたら‥‥街灯の上に、人が立っていて」

 

歩きながらたどたどしい説明を聞く。

やはりエヴァンジェリンに襲われたようだ。

そこですぐに気絶してしまったらしい。

のどかの身体には傷などはなかった為、ネギはのどかが気絶してすぐに駆けつけたんだろう。

 

しかし、エヴァンジェリンがのどかやまき絵といった一般生徒を襲う理由。

それがわからなかった。

しかも襲い始めたのはここ半年以内。

桜通りの吸血鬼の噂が出始めたのも半年以内だからだ。

一般生徒から魔力や血を吸い上げているのか。

それとも吸血鬼化させて下僕にでもする気なのか。

これはわからないが、最終的な目標はネギの血を手に入れてナギの呪いをどうにかすることだろう。

つまり、一般生徒を襲うことはネギにつながること‥なのかもしれない。

 

千雨がネギの情報を初めて手に入れたのも半年前だ。

エヴァンジェリンが同時期に情報を手に入れてもおかしくはない。

その時期から準備して、今回ネギに手を出そうとしたなら。

既にネギくらいはどうにかできる算段がついたということなのだろうか?

 

「‥ネギに全部やらせる方がいいのかなぁ‥。でも、ネギ一人だと明らかに負けるよなぁ」

「あ‥‥ネギ先生」

「ん?」

 

のどかにつられて後ろを振り返ると、明日菜に後ろ向きで担がれて運ばれるネギがいた。

なんとも情けない姿である。

あれが担いでいる方が生徒で担がれている方が教師だなんて信じられないだろう。

 

「‥なにしてんだ?」

「‥えーっと」

 

のどかも思いつかなかったようだ。

昨日はネギにエヴァンジェリンを屈服させてみろとか言ったが、あんな泣き虫の子供に出来るだろうか?

逆にちゅーちゅーされそうだ。

 

少し程度ならネギに力を貸すのはパワーバランス的に問題ないかもしれない。

それほどまでに今のネギは情けなく映った。

 

 

********************

 

 

明日菜たちの後に続いて教室に入る千雨たち。

ネギは終始ビクビクしていたが、茶々丸からエヴァンジェリンがいないことを聞いて少し安堵していた。

どうやらトラウマになりかけているようだ。

 

「こりゃダメかな」

「なにが?おはよー」

「おー。‥お前、平気か?佐々木」

「うん、もう全然平気!」

 

元気そうなまき絵に目をやり、快活な姿を見て安心する千雨。

何の罪もない咎もない一般生徒をエヴァンジェリンがどうこうするとは思えないが、それでも少しは心配する。

 

しかし、このままでは問題が長引いて一般生徒に被害が出続けてしまう。

その他の生徒はどうでも良かったが、このクラスメートたちはどうにか守ってやりたかった。

千雨にとって彼女たちは、この二年間でそれなりに大切な人間になっているのだ。

 

「‥絡繰」

「はい、長谷川さん。昨日は失礼しました」

「いいよ、マクダウェルのせいだし。‥アイツ、今どこだ?」

「マスターは屋上で昼寝をしに行くと仰っていました」

「‥」

 

外を見ると眩しいくらいに快晴だった。

吸血鬼というと日光、銀、十字架、ゴスペルと様々な弱点が思いつくが、太陽の下で昼寝をできる吸血鬼とはなんなのかと思ってしまった。

 

「‥あとで話しに行きたいんだが、案内してくれるか?」

「わかりました。放課後でよろしいですか?」

「ああ。‥お前は、マクダウェルの従者なんだよな?」

「はい。わたしはマスターと人形契約を交わしているガイノイドです」

 

ガイノイドと言われるとちょっとわからなかったが、要するにロボだろう。

エヴァンジェリンは悪全開、といった感じだったが茶々丸からは何も悪意を感じない。

命令を聞いている時もただの忠実な従者だった。

つまり、エヴァンジェリンをどうにかすれば茶々丸は止まるのだ。

そのエヴァンジェリンに手を出す前に茶々丸が立ちはだかるのだろうが。

やはりネギ一人では荷が重い。

 

せめてエヴァンジェリンと同様にパートナーが必要だろう。

 

そのことはネギ自身も理解していたようで、授業中に亜子に「10歳の少年をパートナーなんて嫌ですよね」とか聞いていた。

亜子もクラスメートたちもだいぶダメージを喰らっていたが、もう少し時と場合と自分の顔を省みて欲しかった。

 

(ネギ、お前顔は可愛いんだぞ?やめてやれよ委員長が死ぬから)

 

心ここにあらずといった様子のネギの授業やその他の授業が終わり、千雨は茶々丸の案内を得てエヴァンジェリンのところに向かっていた。

 

「マクダウェル‥1日授業に出てこなかったが、ずっと寝てるのか?」

「本来はおやすみの時間ですから」

「‥吸血鬼って、夜の種族だったな。けど、アイツ真祖だろ。昼だろうが夜だろうが関係ないんじゃないのか?」

「気分の問題と仰ってました」

「‥私の吸血鬼観がどうにかなりそうだ」

 

もちろん千雨は吸血鬼などほとんど会ったことがない。

一人だけあるにはあったが、アレを吸血鬼とは思いたくなかった。

吸血鬼はおぞましく、人間の血を好んで吸う夜の血族。

そんなイメージだったが、その一人は全く違った。

あんなのが吸血鬼なら吸血鬼は人間なんぞ比べ物にならないくらい奇人揃いだ。

 

「こちらになります」

「屋上か‥」

 

いつぞやのウルスラ高とのドッジボール騒ぎ以来に屋上に来た。

扉を開けて外に出ると、すぐ横の壁にもたれかかって眠っているエヴァンジェリンが目に入る。

よだれが垂れかけていて正に子供だ。

内実は600歳を超えるババアだが。

 

「‥‥こうやって見ると全然吸血鬼に見えないな、マジで」

 

茶々丸に起こしてもらおうと振り向くが、すぐに思い直す。

従者に主人を起こさせるなど流石に気まずい。

千雨はエヴァンジェリンの肩に手をやっていた。

 

「‥おい、起きろサボリ」

「‥」

「‥‥仕方ないな」

 

右手でエヴァンジェリンの綺麗な鼻をつまみ、左手でエヴァンジェリンの小さな口を塞ぐ。

茶々丸が「あ」、と呆気に取られたが気にも留めない。

 

すぐにエヴァンジェリンの眉間にシワがより、1分としないうちにその眼がクワッと開かれる。

エヴァンジェリンと目が合う千雨。

「何をしているんだ貴様は!?」と目で訴えてくるのがわかったが、面白いので手を離さない。

 

「むー!?むむむむ!!?んーー!!!」

「はっはっは。こうやって見るとガキにしか見えねえ」

「ん゛ー!!!!」

「うぐっ!!?」

 

エヴァンジェリンのアッパーが千雨の顎に入る。

のけぞって仰向けにぶっ倒れる千雨。

全力で息を吸い込むエヴァンジェリン。

佇んで見守る茶々丸。

 

「何をしとるんだ貴様は!?殺す気か!?殺す気なのか!!?吸血鬼でもせんぞこんなこと!!いきなり寝ている者の口と鼻を塞ぐなど!!」

「ちょ‥‥おま‥‥。‥タンマ。頭揺れてるから今」

「今の私は死ぬんだぞ簡単に!!吸血鬼じゃないんだぞーー!!‥‥お前も見てないで止めんか茶々丸ーーー!!!」

「もももも申し訳ありませんマスター。不可思議な行動を観察してしまいました」

 

襟元を掴まれてぐわんぐわんと頭を揺らされる千雨だが、エヴァンジェリンの一言で目が覚める。

 

「‥お前今、なんて言った?吸血鬼じゃないって?」

「ぬ?なんだ貴様、それを狙ってここに来たんじゃないのか‥」

「いやわたしはネギについてちょっとな」

「‥‥ふむ。私もお前に話があった。どこかで‥‥‥む?」

「なんだ?」

 

エヴァンジェリンが明後日の方を向く。

なんだと首を傾げていると、めんどくさそうな顔をしてこちらに顔を戻した。

 

「‥‥何かが入ってきたようだ」

「? 何かって‥どこに?」

「この麻帆良学園にだ。魔法生物だな。やけに小さい」

「へー‥。あんた、学園結界とリンクしてるのか?」

「嫌でもわかるようになっている。私はナギのバカからつけられた呪い以外に学園結界でも力を抑えられているんだ」

「‥踏んだり蹴ったりだな」

「弱り目に祟り目の方が正しい気もするが‥」

 

外国人に日本語の熟語を教えられるということに奇妙な感じになる千雨。

ちなみに長谷川千雨は日本人である。

 

「では、マスター」

「うむ、行くぞ。‥お前も来い」

「へ?」

 

むんずと腕を掴まれ、そのままずるずるとエヴァンジェリンに連れて行かれる千雨。

人間の少女くらいにしか力のないエヴァンジェリンに対し、なにも抵抗しないのは恐れるところがないからだ。

 

「お、おい!よくわからないけどあんたの仕事だろ?なんで私まで‥」

「どうせ話をするんだ。その方が都合が良い。‥警備員の仕事も面倒だしな」

「伝説の吸血鬼を警備員として扱き使うこの学園、頭おかしいんじゃねえの?」

「それは是非あのクソじじいに言ってやれ」

 

やはり学園長の仕業のようだ。

エヴァンジェリンも学園長にはいっぱいくわせられているらしい。

 

「どこまで行くんだよ?」

「侵入したのは海辺の方角の森だ。まずはそこへ行って形跡を調べる」

「‥あんた、勤勉だな」

「私がそんなことを自らすると思うか?この呪いのせいだ」

「呪い?あんたの力を抑えるものだろうそりゃ」

 

エヴァンジェリンが千雨と茶々丸を伴う形で歩く。

前をゆくエヴァンジェリンは、いかにも忌々しそうだ。

 

「‥この呪いは私の力を抑えつけるだけじゃないのさ。呪いの名は登校地獄。麻帆良学園に何がなんでも通い続けなければならん、ただの性悪が作った呪だ」

「‥‥‥は?」

 

千雨は口を開けて呆気に取られる。

登校地獄?

聞いたこともない呪いだ。

ナギは一体何を考えてかけたのだろうか。

‥なにも考えてない可能性の方が圧倒的に高い。

 

「でも、登校地獄って‥よくわからないけどよ。学校を嫌がるガキの為に作られたようなもんじゃないのか?それ。なら、なんであんた15年もこの学園にいるんだよ?」

「ふん、バカめ。これは確かに不登校児を学校に無理矢理来させる為のものだが、不登校児が更生したら必要がなくなるものだ。つまり、呪いは卒業のタイミングに自然と解けるわけではなく、術者が解かねばならんのだ」

「‥え」

 

しかし、術者は‥‥ナギはいない。

 

「‥あんた、それでこの学園に15年も居るってのか!?」

「笑っていられるのは今のうちだぞ、貴様‥‥」

「え?笑ってるか?」

「鏡を見ろ愚か者!!」

 

口調は至って真面目だったが、口元はにやけている千雨。

エヴァンジェリンに言われて茶々丸の方を向くと、鏡が差し出されていた。

ああ。笑ってるなこれ。

 

「‥あー、‥‥‥ぷふっ!」

「っ!! 貴様あああああぁぁぁぁぁぁ!!」

「いやだってこれはっはっはっはっは」

 

再び襟元を掴まれてガックンガックン揺らされる千雨。

揺らしているエヴァンジェリンは涙目だ。

貴重な姿だと珍事フォルダに録画したビデオと写真を収める茶々丸。

ツッコミがいない。

 

「はー‥‥腹が痛い」

「茶々丸!!私が許可する、このバカ者を八つ裂きにしろ!!!」

「マスター、恐れながらわたしでは不可能です」

「‥む」

 

エヴァンジェリンがまだ息を荒げて笑っている千雨を見る。

吸血鬼としての能力のほとんどが登校地獄と学園結界で封じられているエヴァンジェリン。

昨夜は満月だったが為に少々の力が戻っただけのこと。

だが、今の状態でも相手の魔力や“気”を感じることくらいは朝飯前だ。

だからこそ、兼ねてより気になったことを千雨に告げる。

 

「‥‥長谷川千雨。貴様、本当に昨夜の貴様と同一人物か?」

「‥‥はーっ、はー‥‥‥‥。‥‥‥‥‥はぁ?」

「今回、貴様が魔法戦闘者だと聞いて耳を疑ったよ。平素の貴様は魔力など毛ほども感じられず、昨夜のような修験者の如き気配など一切なかった。そんな貴様が魔法戦闘者?‥なんの冗談だとな」

「‥なるほど?だから今のわたしは別人だってか?」

「別人とは思わんが、なにかしらのカラクリはありそうだと思ってな」

 

エヴァンジェリンの言葉を受け、佇まいを直す千雨。

今度は千雨が歩き始め、エヴァンジェリンと茶々丸の二人が千雨の後を追う形で移動する。

 

「‥カラクリなんてねーよ。絡繰じゃあるまいし」

「ほざけ」

「本当さ。‥‥つまり、こういうことなんた」

 

振り返らないまま、千雨は身体のスイッチを切り替える。

途端にエヴァンジェリンの五感が、茶々丸のセンサーが。

目の前の人間に異常を感じる。

まるで、目の前の千雨が誰かと入れ替わったかのように、濃厚な武の気配を発し始める。

 

「なんだ、それは‥!!」

「普段は魔力や“気”を極限にまで抑えて、戦闘する時や有事の時のみ戦いの姿に意識を切り替えるのさ。要するに気の持ち様ってやつだ」

 

本人はあっけらかんと言っているが、エヴァンジェリンは内心驚愕していた。

意識一つで本人の内在的強さまで変わる。

一つのユニーク・アビリティのようだった。

自己暗示の一種だと思うが、ここまで劇的に変わるのはいない。

 

(この女に暗殺者でもやらせてみろ。魔法的・物的検査をすり抜け、強者特有の気配もなく、標的の前に来たら“意識を切り替える”)

 

どこにでも堂々と忍び込める、死神。

そこまで考えて気づく。

 

「では貴様、まさか平人を装う為に‥」

「そういうこった。魔法世界じゃあ、ふつーに歩いてるだけで息をするように勝負挑まれるんでな。面倒ごとを避ける為に一般人に紛れるのさ」

 

ここである程度千雨の素性を知られて良かったと安堵するエヴァンジェリン。

本人にその気はなさそうだが、この女が初見で自分のことを殺しに来ていたら、吸血鬼としての力があったとしても無事に済ませられたかわからない。

 

「‥なるほどな。二年間も私や他の者が気づかぬ訳だ」

「あんたにそこまで言われると光栄だな」

 

千雨は身体のスイッチを切り替え、平素の自分に戻りながら、あることが頭から離れなかった。

 

何故超は千雨のことに気がついたのか。

千雨の警戒度としては今のところエヴァンジェリンよりも超鈴音の方が上だった。

あの女、素性が知れない。

エヴァンジェリンは強さだけなら間違いなく学園一だろうが、今はこの通りただの少女だ。

チラリと見ると、何故かムッとした顔でエヴァンジェリンがこちらを睨む。

 

「‥‥なんだ?」

「いや別に」

「ふん‥。‥そういえば千雨。話とはなんだ。大方ネギの坊やのことだろうがな」

「ああ、そうだ。あんた、具体的にはネギをどうする気なんだ?」

「‥ほう?なにが言いたい」

「殺す気があるのかって聞いてんだよ」

 

エヴァンジェリンが足を止める。

先ほどまでの不機嫌な子供のような顔ではなく、歴戦の猛者としての表情をあらわにしていた。

 

「‥‥結果的には殺すことになるかもしれんというだけだ。大量の血を戴くわけだからな」

「なら私はお前を止めるぞ」

「止める?今の無力な私をか?それとも不死の私をか?殺すことでか、それとも封印するか?」

 

言葉に詰まる千雨。

ネギにも昨日告げたが、エヴァンジェリンは止まらない。

自分ならエヴァンジェリンの立場だったら止まりはしないだろう。

それがわかっているからこそ、力で押さえつけることはできない。

何か、納得させるような交渉が要る。

 

「‥じゃあ、どうしたら止まってくれる?あのガキンチョをわたしは生かしたい」

「‥‥私の目的は、この登校地獄の呪いを解くことだ。それにはナギ本人又はその血族の血が必要だ。大量にな」

「いや、それは‥‥」

「貴様がナギと関わりのある人間だということは知っている」

「は!!??‥‥な‥‥‥なんで、それを」

 

エヴァンジェリンから衝撃の一言が飛び出る。

ナギと関わりがある。

それはまだこの旧世界に来てから誰にも言っていない。

自分のことを調べた?

自分が近衛右門に漏らした情報の一つである“ウナ・アラ”という名前だけでは到底たどり着けない情報だ。

それは魔法世界ですら認知されていなかった。

超がエヴァンジェリンに自分のことを教えたと思っていたが、では超がそのことを知っているのか?

ますます超について警戒心を強める千雨。

 

「貴様の条件は飲んでやらんでもない。ネギの坊やを生かしてやるという条件をだ。だが、そのかわりに貴様はナギの情報を寄越せ」

「‥」

「悪くはあるまい?ただ、もう一度坊やを狙いはする。私が奴を捕らえた場合、死なない程度に血を飲むよう抑えよう。それでも私の呪いが解けなかった場合、貴様はナギの情報を寄越せ」

「‥わたしが知っていることなんてごくわずかだぞ」

「だろうな。かまわん、それでも良い」

「‥何か、わたしだけが取られてるばかりで気にくわねーな」

「ほう?ではこうするか」

 

うまくいった。

エヴァンジェリンは心中でほくそ笑んでいた。

何故かはわからないが千雨はエヴァンジェリンを無理矢理は止めようとしない。

エヴァンジェリンが止まらないと昨夜ネギに説明していた。

あの時、まだ吸血鬼だったエヴァンジェリンは、人間を遥かに超越した五感で、離れたところから千雨がネギをどうするか見ていたのだ。

 

千雨がエヴァンジェリンをここで止めないことは、殊勝でありネギを立てる為かもしれないが、エヴァンジェリンからしてみれば甘い。

だが、それが今は好都合。

 

今ここである程度譲歩することで、ネギの血とナギの情報の二つを獲得できる。

ネギの血で呪いが解ければそれで良いし、解けなくてもナギの情報を元に解呪への算段はつく可能性が出てくる。

 

そして、超にも告げられた千雨の強さを、ここで測れる。

これは、エヴァンジェリンも興味があった。

 

「私が坊やを狙って仕掛ける。その時、私が坊やに勝てば血をいただくわけだが‥‥そこを死なない程度に抑える。その際、貴様も来い」

「来いって‥‥そりゃ多分近くで見てるけど」

「私と戦え」

「はあ?無理だろ、そりゃ」

「‥自信過剰もいいところだが、まあ良い。私が貴様を負かせて納得させてやる。私が勝ったら貴様も観念してナギの情報を言えるだろう」

「今のあんたが私に勝つ?ジョーダンもいいとこだ」

「冗談だと思うなら受けるがいい」

「‥‥まあ、いいよ。それなら私とネギのどちらかがあんたに勝てば良くなる」

 

エヴァンジェリンの思惑は何となく読める。

これでどう転ぶにせよ、最悪の場合でもネギは生き残るだろう。

立派な魔法使いへの道が、闇の福音を抑えられなかったとして少し遠のくかもしれないが、何せエヴァンジェリンだ。

きっと世間には無理がないことと判断される。

 

ただ、エヴァンジェリンの自信が少し気になる。

エヴァンジェリンの力を取り戻す、又は今の千雨をどうにか出来る方法があるのだろうか?

 

ただ、もし全力のエヴァンジェリンと戦えるのなら。

 

それは、願ってもないこと———。

 

 

********************

 

 

「‥ここか?」

「そうだ。茶々丸」

「はい、マスター」

 

麻帆良学園への侵入者の痕跡を探るべく、森へとやってきたエヴァンジェリンたち。

千雨はそれに付随する形だ。

 

「‥解析完了。恐らく、小動物だと思われますがやはり魔素を含んでいます。この反応は‥妖精や使い魔の類かと」

「力の減衰は?」

「‥学園結界に作用された形跡なし。害意はないようです」

「つまり、邪悪な悪魔とかではないってことか?」

「の、ようだな」

「なんだ。じゃあ何かする必要はなさそうだな」

「何かしたかったのか?」

「2年も力を振るわずにじっとしてるとな、こう‥‥焦ったくなるんだよ」

「私は15年だぞ」

「だから半年もはっちゃけてるんだろ」

「うぐ‥」

 

それだとまるで歳のいった老人みたいだと嫌な顔をするエヴァンジェリン。

もちろん実年齢はダントツで高い。

 

「どうするんだ?あとは」

「じじいに報告して終わりだな、これは。何か厄介ごとでも起こしてくれると見つけるのが簡単なんだが‥」

「おいコラ警備員」

「何もないとただの探偵業だ。やる必要もなさそうな小物のようだしな」

「‥‥コイツ、本当に雇われ警備員か?」

「経験豊富なアドバイスが美点と、学園長から一定の評価は受けているようです」

 

やれやれと溜息を吐く千雨。

取り越し苦労をした気分だが、ネギの安全をエヴァンジェリンに確約させたのは大きいだろう。

これで良しとしよう。

 

いずれ戦うであろう相手とこのような形で行動しているのも変な気分だが、こんなのでもクラスメイトだと無理矢理自分を納得させる千雨。

エヴァンジェリンと茶々丸が訝しげに千雨を見ていると、千雨のポケットが揺れていることに気づく。

 

「おい、電話じゃないか?」

「ん?‥‥委員長だな。‥‥もしもし」

『千雨さん、今少しよろしいですか?今どちらに?』

「今って‥学園の外。海辺方向の‥どこだこれ?森に来てるけど」

『そうなんですの?ネギ先生を元気づける会をやろうと思いまして‥‥是非千雨さんにも参加していただきたくて』

「元気づける会?どこで?」

『場所は‥大浴場でだそうですわ♡』

「‥‥すまん、もう一回頼む」

『大浴場で、だそうですわ。電波が悪いのかしら‥』

 

違います、悪いのはてめーらの頭だこのやろー。

大浴場で何する気なんだあのバカども、と頭を抱える千雨。

嫌な想像というかアッチの方向にしか予想ができない。

何とも頭が痛くて関わりたくない話だが、バカどもを止めに行く必要がある。

委員長にとりあえず向かうことを告げ、電話を切る千雨。

 

「面倒ゴトが増えるね、どうも‥」

「‥まあ、ヤツらに関わったのが運の尽きと思え」

「その半分くらいがてめーのせいだって分かってんのか?」

 

もちろんもう半分はネギとクラスメイトたちのせいである。

 

 

********************

 

 

エヴァンジェリンたちと別れ、寮に着いた千雨。

“気”を使ったり戦闘用に意識した脚力を使わないと、テクテク歩くのも面倒だと思ってしまう。

そのつもりで動けば1分もかからないだろう距離だった。

 

大浴場に向かおうとしたが、3-Aのクラスメイトたち寮部屋が集まる寮の廊下が騒がしかったので、そこを覗きにいく。

すると、何故かバスタオルで体を巻いた木乃香を中心に3-Aの面々がいた。

何かに注目して騒いでいるようだ。

 

「‥‥なんだ?」

「お、千雨ちゃん。ごめん、先に始まっちゃってねー元気づける会」

「朝倉。いいよ、別に。‥何も起きてなければ」

「起きたといえば起きたけど。皆の水着がはだけて、ドキッ☆サプライズが」

「‥‥はい?」

「アレ」

 

ピッと和美が指を指す方向は木乃香の手元だ。

よく見ると何か白くて細長い生き物が皆にもみくちゃにされている。

 

「‥オコジョか?」

「ネギ先生のペットらしいよー」

「へえ‥」

 

適当な返事をしたつもりだったが、うまく誤魔化せただろうか?

 

間違いなく、木乃香の手の中にいるのはオコジョ妖精だった。

ネギのペットというのならば間違い無いだろう。

このタイミングで現れたということは、今回侵入した魔法生物もこのオコジョの可能性が高かった。

茶々丸は害意がないと言っていたが、年頃の少女たちの水着をはだけさせるオコジョ妖精って本当に害意ないのかよ、とまた頭痛がしてきた千雨。

 

「ちなみに、この寮で飼うらしいよー」

「ああ?ここ、ペットも良いのかよ」

「まあね。今から木乃香が許可取りに行くってさ」

 

それはタイミングが良い。

ツカツカと集団に歩み寄り、むんずとオコジョを掴む。

 

「は、長谷川?」

「ど、どうかした?」

「まさか、元気づける会に間に合わなかったのが‥」

「いや、それはいらん」

「あ、やっぱり?」

「先生、わたしはこーゆーのの扱いが得意なんで少しアドバイスをあげますよ。昨日のことも含めてね」

「‥!」

 

ペットを飼って良いと言われて喜んでいたネギの顔に緊張が走る。

ネギはオコジョを掴んだままの千雨を連れて、明日菜たちの寮部屋にはいる。

ちなみに木乃香は既に寮監室へ行き、明日菜はまだ部屋にいた。

 

「あ、長谷川!?」

「おう。悪い、昨日の話をちゃんとするべきだったな。‥‥その前に、だ」

「むぎゅう!!?」

「か、カモくん!?」

 

千雨が手に力を入れてオコジョを物理的に締める。

千雨の額には青筋が浮かんでいた。

 

「名乗れエロオコジョ」

「うええ!?」

「良いから名乗れエロオコジョ妖精」

「!? ど、どうやら無駄なようだな‥」

「女子中学生の水着取っ払うような変態妖精がカッコつけても無駄だボケ」

「うぐ‥‥か、カモミール・アルベール。ネギの兄貴第一の舎弟ッス」

「そうか、カモミール。言っておくが、うちのクラスメイトに手を出すなよ。皮剥いで小物入れにすんぞ」

「ひいいいぃぃぃぃ!!!?」

 

カモミール‥カモの中で名も知らない目の前の少女が最高危険度に認定された瞬間だった。

目を見ればわかる。

この娘は本気でやる。

 

「以後気をつけろ」

「へ、へい!姐御!!」

「‥姐御はよせ‥」

 

嫌な記憶が呼び覚まされるから。

調子に乗ってはっちゃけていた時の記憶が。

 

遠い目をしていると、ネギが何か言いたげにこちらを見ていることに気がつく。

明日菜も同様の目をしていた。

 

「‥なんだ?」

「‥その、千雨さんは‥‥魔法を、ご存知なんですよね?」

「ん?まーな」

「よ、よかった‥」

「なにもよかねーよ。お前‥マクダウェル‥‥エヴァンジェリンをどうにかできる算段がついたのか?」

「う‥」

「エヴァンジェリン‥誰ですかい、そいつ?まさか兄貴、苛められてるんですか!?」

 

言葉に詰まるネギに、憤慨するカモ。

どうやらネギを思いやる気持ちは本物らしい。

ネギの舎弟とか言ってたが、とりあえず使い魔だとは分かった。

 

「苛められているだけで済めば良いけどな」

「アイツら‥なんなの?あの二人が桜通りの吸血鬼なの?」

「アイツらっていうかエヴァンジェリンがそうだな」

「エヴァンジェリンが‥‥吸血鬼」

 

いまだに事実を飲み込めないらしい明日菜。

実際吸血鬼たるところなど明日菜は見ていないだろうが、クラスメイトが吸血鬼、なんて言われると確かに当然の反応だ。

 

「‥それで、どうする気なんだ?」

「え、エヴァンジェリンさんたちのことは放ってはおけません。けど、パートナーのいないぼくでは、敵うことは‥」

「パートナーね‥‥まあそもそも1対2だ。敵う道理なんてないが」

「なら良い案がありますよ、兄貴!!」

 

妙案!とばかりにカモが立ち上がる。

意気込むカモの話を聞くと、やはりネギもパートナーを探せば良いという内容だった。

 

「兄貴のクラスの生徒たちは素材が良い娘がたくさんいるんスよ!選り取り見取りッスよ兄貴!」

「おい待て。パートナーをうちのクラスから選ぶのはまあ良しとしても、ちゃんと事情を説明して、ちゃんと同意を得てパートナーにしろよ。危険だってあるかもしれねーからな」

「え‥」

「ぱ、パートナーって危ないの?」

「戦いに赴くような魔法使いのパートナーはな。もちろん、ネギはエヴァンジェリンと戦う為にパートナーを作ろうとしてるんだ。当然、危険はあるぞ」

 

明日菜の表情よりも、ネギの表情が暗くなる。

 

「‥生徒は巻き込みたくない、か?」

「‥はい」

「まあ、当然の帰結ではある‥。けどネギ、今のままだとお前‥」

「エヴァンジェリン‥どっかで聞いたことがあるような」

「闇の福音だ。ダークエヴァンジェルって言ったらわかるか?」

「‥きゅ、きゅうけつきの‥‥‥しんそ、ですかい?」

 

あまりの衝撃に口調が変わってしまっているカモ。

首を揺らして肯定すると、なぜか身支度を始める。

 

「‥‥なにしてんだ?」

「く、国に帰らしていただきます」

「ちょっと」

 

今度は明日菜がむんずとカモの尻尾を掴む。

はなしてーはなしてーなどと泣いている。

 

「けど、カモの反応が当然なのさ。それほどのやばいやつなんだよ、エヴァンジェリンは」

「なんでそんなのがネギを狙ってるの!?ネギのお父さんって何者!?」

「んー‥‥バカと天才を掛け算したような人かな」

「はあ??」

「実際、頭は良いはずなんだがなんともバカっぽさが抜けなくてな。本人の性格かねー」

「‥‥え?千雨さん、ぼくのお父さんを知っているんですか?」

 

やっと反応したなクソガキめ。

今まで陰鬱な表情でぼく悩んでますって顔をしていたのに、今は表情が明るい。

こんなことで元気になるならいくらでも教えてやるが、その前に。

 

「まずはわたしのことから話そうか。わたしは長谷川千雨。魔法世界から来た」

 

「ま、まほーせかい?」

「‥‥魔法使いだらけの国だ」

「魔法使いだらけって‥‥!?ネギみたいな奴がたくさんいるの!?だいじょぶなの、その国‥」

「‥ネギ、なにしたんだ?」

「いや、その、えっと‥」

 

思わずジト目になる千雨。

ネギも話せなさそうだ。

溜息を吐きながらも一応フォローに入る。

 

「‥‥ネギはまだ見習いで子供だ。ちゃんとした魔法使いが大半さ。喧嘩っ早いのも多いが」

「ふーん‥」

 

喧嘩っ早いと聞いても「ふーん」で終わるのはここ麻帆良学園の生徒だからだろう。

麻帆良はよくサークル同士の小競り合いが起きる。

その度に高畑がよく鎮圧しているが、生徒たちはそれに慣れてしまっているのだ。

 

「魔法の国‥ムンドゥス・マギクスから、どうしてこんな日本へ?」

「‥‥」

 

カモが当然の疑問を投げかける。

それに対して、千雨は少し微笑むだけだった。

 

「‥悪いな。エヴァンジェリンとの面倒ごとが終わったら教えてやるよ。どうせエヴァンジェリンにも説明しなきゃならねえからな」

「エヴァンジェリンにもって‥‥エヴァンジェリンは敵じゃないんですかい!?」

「アイツにも色々事情がある。ネギ、お前もビビってないで交渉くらいしに行ってみろ」

「でもぼく、エヴァンジェリンさんに狙われてるんですよ!?行ったら血をちゅーちゅー吸われて‥‥」

「お前の生徒だろ」

「!!」

 

ガンと頭を殴られたような衝撃がした。

ネギは千雨の目をみる。

千雨は、ただ真っ直ぐにネギを見ていた。

からかってるわけでもなんでもない、ただの事実を告げただけの言葉。

なのに。

 

「お前ならできる‥‥できなかったとしても心配すんな。フォローを入れる人間くらいいるさ」

「ちょっと長谷川。それ余計じゃない?」

「フォロー入れる筆頭がよく言うよ」

「は、はあ!!?」

 

明日菜が顔を赤らめながら否定の言葉を並べていく。

千雨はそんな明日菜に手をやりながらも、ネギの顔をチラリと見ていた。

まだ不安そうな表情は取れていなかったが、それでも目は前を向いていた。

うん、とうなずく千雨。

 

「でも、パートナーはどうするッスか兄貴!なんならおれっちが生涯にわたる最良のパートナー選びますよ!」

「え、ぱ、パートナーか‥」

「例えばさっきの目隠れ女子!あの娘は最高の相性ッスよ!!他にも明日菜の姐さんも良いッスよ!」

「目隠れ‥宮崎か?」

「み、宮崎さんと明日菜さん!?」

「わ、わたしぃ!!?わ、わたしよりも‥っていうか長谷川はどうなのよ。あんた、魔法を使えたりするんじゃないの?」

「あ?わたしは‥」

「そういえば姐御からは全然魔力感じないッスねー。ほんとにムンドゥス・マギクスの出身なんッスか?」

 

(あ、ナメられてるやつだなこれ)

 

かつての職業柄、それはいただけない。

ナメられたらそこから噂が出回り、下に見られ、カードを安くされる。

最終的には稼ぎが減る。

千雨がいた業界では、それが命取り。

 

「ふん‥なら、これで良いか?」

 

身体のスイッチが切り替わる。

途端に溢れる魔力と“気”。

その場にいた千雨以外の二人と一匹は、全身でそれを感じ取っていた。

 

「うわぁ‥‥!千雨さん、す、すごい!!」

「な、なにこれ?長谷川の方、なんかピリピリする?」

「どーだカモミール。文句は?」

「な、ないです‥‥。ていうか、これなら確かにパートナーにピッタリだぜ!!どうッスか、姐御!!」

「ん?んーとだな」

「ダメだよ、カモくん!」

 

それもありかもしれないと思った千雨ではなく、ネギがカモを止める。

ネギは震えながらも、言葉を捻出していく。

 

「た、確かに‥千雨さんが力を貸してくれたら、勝てるかもしれない。昨夜、千雨さんはエヴァンジェリンさんたちにずっと勝っていたし‥。けど!」

「兄貴‥」

「‥‥ネギ」

「けれど、それじゃあ‥‥パートナーを戦いの道具と扱っている様な‥‥そんな気がして‥」

 

‥正直、驚いたというのが千雨の感想である。

今目の前にいるのは、普段あわあわ言ってよく泣いているネギ少年ではない。

魔法使いとして、課題や困難とどう向き合うか悩むネギ・スプリングフィールド。

そこには、一人の魔法使いがいた。

 

「‥‥け、けど兄貴‥」

「まあ落ち着け。とりあえず、考えてみろ。今すぐエヴァンジェリンのヤツと戦わなきゃいけないってわけじゃないしな」

「ち、千雨さん」

「お前なりに考えてるんだろ。わたしは今回はそれを尊重するよ。どう考えてもエヴァンジェリンと関わらなきゃいけないのは確実だ。先延ばしにしても、いつかは解決しなきゃいけない問題なのさ。‥‥それと、神楽坂」

 

ちょいちょいと明日菜を手招きする千雨。

訝し気な顔をしながらも、明日菜は千雨に連れられて玄関の方へ向かう。

まだネギとカモは相談を続ける様だ。

 

「どうしたの?」

「‥お前、昨日何か変な夢を見たとかねーよな?」

「‥‥‥はい?」

「実は吸血鬼って悪夢を見せる能力があるらしくてな‥」

「そ、そうなの!?」

 

さらりと嘘を吐く千雨。

明日菜は疑いもしない。

 

「み、見てないけど」

「じゃあ良い。‥‥あと、お前‥魔法なんてものに関わりたくないならちゃんとネギに言っとけよ。危ないことだってあるんだ」

「‥そ、そうね‥‥。‥‥‥でもさ」

「ん?」

 

ぐっと拳に力を入れる明日菜。

 

「‥アイツ、頑張ろうとしてる」

「‥」

「昨日だって、本屋ちゃんの危険にいち早く気付いて、助けに行った。犯人だって‥返り討ちにされかけちゃったみたいだけど、追い詰めようとした。頑張ってるアイツを‥ネギを。あのままになんて、しておけないわよ」

「‥神楽坂」

「長谷川。あんただって、そうでしょ。だからネギに、こんなとこまで押しかけて話しに来たんでしょ?」

 

コイツには敵いそうにない。

今日何度目かの溜息を吐く千雨。

ずいぶん快活でお節介に育ったもんだと、感心してしまう千雨。

 

「‥わかった。お前の好きにしろ」

「うん!‥ね、千雨ちゃんって呼んでもいい?」

「あー、好きに‥‥‥‥はい?」

「うん、わかった!」

「ちょ、まだ全部言ってねえ!!」

「またね千雨ちゃん!!」

「おいコラ!!神楽坂!!」

 

言質を取ったかのように部屋の中に逃げる明日菜。

バタンと閉まるドアを前に言葉をなくす千雨。

少し顔を赤らめながら、回れ右して寮の玄関に向かう。

 

「‥‥勝手なヤツ」

 

だが、悪い気分じゃない。

 

何故か足がよく進む。

既に身体は平素の状態に戻されているはずなのにだ。

だが、このまま出かけるのには丁度いい。

千雨は寮の玄関を出て、大学部の方へと足を向ける。

 

目的は、超鈴音。




さあどうしよう。
原作と比べると話が前後してるような感覚を覚えてしまうかもしれませんが、感想はどしどしください。

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