転生したと思ったら、俺は豚貴族で地位を追われていました。   作:如月空

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やっぱり、あいつらはダメだったよ。

 

 翌日の早朝、俺達は領都の朝市に来ていた。

 

「あ!砂糖がある!此れは買いだね!」

 

「って、いきなり砂糖かよ!?」

 

 俺達は保存食とか、旅路に必要な物を買いに来たんじゃないのか?とアリスに問いたい。

 

「クッキーとか長持ちするし、保存食だよ保存食!」

 

 こいつまた太りそうだな、と俺はアリスを見る。当の本人は俺の視線を気にすることも無く、次々に食材を買って行く。

 

「あまり買い過ぎるなよ?旅費なんだから。」

 

「はいはい。…あ!コレも買い!」

 

 今度は蜂蜜かよ…。ってか、たけえ!?

 

………

 

「こんなに買って如何するんだよ。」

 

「え?これから旅に出るんだし、これぐらい必要でしょ?」

 

 あっけらかんと言う表情でアリスは話すが、如何考えても量が多い。

 

 先ず、10kgはあると思われる小麦の袋が三つもある。そして、塩は5kg程だろうか?更に砂糖が数キロ、高価な胡椒や唐辛子、蜂蜜も少なめではあるが買ってある。

 

 更に更に、青果がどどん!と大樽ぐらいの容器に突っ込まれ、肉もゴロンと20kgはありそうだ…。

 

 俺が魔術書目当てで古本屋を覗いている間にコレだ…。頭が痛くなる。

 

「…どうやって運ぶんだよ。」

 

「そんなのアレフが空間魔法なり、アイテムボックスなりで!」

 

「使えねえよ!?」

 

 この世界アイテムボックスは無いが、空間魔法は存在している。とは言ってもほぼ、ロストマジックの一歩手前だ。使える者は一握りだけで、各国の宮廷魔術師クラスだけだろう。

 

 そう言いつつも、自分も使えるようになる為に、空間魔法の勉強もしてはいるんだが…、資料が少なすぎるんだ。

 

「はあ!?じゃあ、如何するのよ!?コレッ!?」

 

「知らねえよ!?」

 

 どうやらアリスは俺が空間魔法を使えると思っていたらしい。アレだ、異世界転生モノに毒されまくっているのだろう。

 

 流石は現役の中二病なだけはある。…俺?俺は他にも趣味があるのでセーフだよ。…多分。

 

「ったく、しょうがねえな…。」

 

 口論を続けていても仕方が無い。此処は出来る事をやろう。

 

 先ずは土魔法を使い大小様々な箱を作り石程度まで硬質化させ、軽石程度の重さに調整する。

 

 そして、そこに氷魔法を使って氷を敷き詰め、買った青果や肉をそれぞれの箱に入れていく。

 

 最後に箱と同質の軽石の蓋を被せれば、保冷庫、アイスボックスの完成だ。

 

 この一ヶ月のブートキャンプでやってた事は運動だけじゃない、はじめの一週間ぐらいと仕上げの昨日はへばったが、それ以外の日は魔法鍛錬&研究をする時間はあったのだ。

 

 今回作ったアイスボックスは、旅で必要そうだからと予め考えていたものだったのだ。

 

 いや、如何考えても必要になるだろう?食材を常温で保管したくないし…。まぁ、こんな大きさは想定外だったが…。

 

「へぇー、クーラーボックスかー。で?どうやって運ぶの?」

 

「馬車を呼べよ!つか、こんな量、旅に持っていけるわけが無いだろう!?」

 

 この一ヶ月で薄々感じて居た事だが、アリスはやはりアホの子だったようだ。…ヒロイン力が低いなぁ…。世間的にはアホの子も需要が無い訳じゃないけど。

 

 結局の所、食材は殆どマークシェイド家に置いて行く事が決まった。ただ、調味料はアリスが死守していたけど。

 

「はあ…、アレフったら使えないのね…。」

 

「…ケツを拭いてやったのに、其の扱いなの?」

 

 そう、ケツを拭ったのだよ、俺は。マークシェイド家の食材保管庫に1時間掛けて氷魔法を使って保冷庫化させてきたんだ。お陰で魔力欠乏状態だよ…。

 

「だらしないなぁ、そんなに魔法使ってないじゃない。」

 

「…勘違いしているようだけど、氷魔法は初級でも制御が難しいだからな?というか氷魔法自体が水魔法の上級と言っても差し支えないんだからな?」

 

 土魔法で小屋を建てるのと訳が違う。そもそも、材料となる土が周辺にある訳で、それらを操作するだけなのだ。

 

 勿論、硬質化させて石なんかに変化させるのは相応の魔力が必要だが、石程度の変化なら魔法のクラスとしては中級かそれ以下程度だ。

 

 例を挙げるなら、初級魔法のストーンバレット。此れは周辺の土を石に変えて攻撃する魔法なのだが、この時点で言っている意味は通じるだろう。

 

「はあ、とりあえず次の町までのお弁当作っちゃうから、竈に火を入れてくれない?」

 

「……其れぐらい自分でやれよ、俺は魔力切れだっての!」

 

 何で俺がテーブルの上で突っ伏しているのか察せないのかよ。

 

 俺がジト目で見ていると、アリスは、はいはい分かりましたよーと口を尖らせながら生活魔法で竈に火を入れる。

 

 それから暫くアリスの様子を見ていたが、驚いた事に彼女は料理の手際が素晴らしく良かった。ただ、今あいつが作っているのは日持ちする物じゃないと思うんだが…。

 

「なぁ、アリス。揚げ物とか普通前日に作るものじゃねえよな?」

 

「ん?あ、コレ?夕食よ!夕食!折角今日は自分で作れるんだしね!アレフだって、何時ものメニューじゃ嫌でしょ?」

 

「あー…。」

 

 これはアリスの言葉に同意せざるを得ない。

 

 この世界は料理の技術が低いのか、大体大味になる上に、俺の知っている限りでは焼くか煮るかぐらいの調理法しかない。

 

 一応、油はあるのだがコレもまた結構高級な上、市場に出回っているのは動物性の脂ばかりだ。

 

 ちなみに今アリスが揚げ物で使っている油はピーナッツから絞り出された油で、アリスのお手製らしい。

 

「にしても、道具も揃ってないのによく油の油出なんて出来るな。」

 

「その辺は気合で、あ、アレフ。一度取り出すからバット取ってくれる?」

 

「へいへい。」

 

 魔力が多少回復した俺は、念動魔法でバットをアリスの手元に飛ばす。

 

 其れを受け取ったアリスは大量に揚げられた唐揚げをバットに移していく。

 

「もぐもぐ…。」

 

「…熱くねえの?」

 

 揚げたての唐揚げを、そのまま口に入れるアリスを見て思わず聞いてみた。

 

「…コクン。熱いけど、味見は大事じゃん?」

 

 そりゃそうだけど…、まあいいか。

 

「で、味は?」

 

「アンタ、何処の蛇よ?…うーん、まだ二度揚げしてないから食感は変わると思うけど、ただやっぱり風味がねぇ…醤油が欲しくなるわね…。」

 

「不味いん?」

 

「ん?そんな事あるわけないじゃない、塩味ベースだけど、ちゃんと生姜やニンニクは効いているし。こっちの料理と比べたら段違いだと思うわ!」

 

「ほう…。」

 

「ほら、試しに食べてみてよ!」

 

 そう言ってアリスは塩唐揚げをバットごと、此方に向ける。俺はフォークを使って唐揚げを取り口に入れる。

 

「うん、普通に美味いな、まあ、唐揚げは醤油ベースの方が良いっていうのは同意だが。」

 

 というか、単に醤油ベースの唐揚げの方が食べなれているからだと思う、こっちはこっちで十分美味かった。

 

「だよねー、醤油手に入れたいなぁ…。」

 

「ん?この世界って醤油あるのか?」

 

 アリスの呟きに思わず聞き返すと、彼女はニタリと笑った。

 

「ふふふ、やっぱり気になる?」

 

「そりゃそうだろ、醤油があるならこれからの食事事情が大きく変えられるじゃないか!?」

 

 俺が力説していると、アリスもうんうんと頷く。

 

「で、どうなんだ!?」

 

「勿論ある!って言いたいところなんだけど、現物を見たわけじゃないから何とも言えないのよねー。」

 

「ん?どういう事だ?」

 

「以前うちに来た商人がね、東国の方には何やら珍しい調味料があるって言う話をお父様にしていたのよ。

で、その調味料って言うのが黒い液体で匂いがきつくて、もの凄い塩辛いっていうね。」

 

「成程、聞けば聞くほど醤油としか思えないな。」

 

「でしょー!?ただね、其の商人も自分で手に入れたわけじゃないらしいし、お父様も然程興味を示さなかったから其処で話が終っちゃったのよ。」

 

 アリスの話を聞いて、俺は暫く考え込む。そして

 

「なぁ、アリス。旅の予定なんだが…。」

 

 其処まで言ったところでアリスに話を遮られる。

 

「アレフが何を言おうとしているのかはわかっているわ!当然、旅は東を目指すわよ!」

 

「ああ、醤油があれば大豆があるって事だし、味噌だってあるかも知れない。」

 

「お味噌汁!ああ、ならなら!やっぱお米よね!?こっちで出回っているインディカ米っぽい奴じゃない、日本米!」

 

 興奮しているアリスに同意する様に俺も頷く。

 

「やっぱ、日本人なら米を食わないとな!」

 

 お前ら、今は日本人じゃねえだろう?っていう突っ込みは無しな!というか聞く耳は持たねえ!

 

 そして俺達はがっしりと手を握る。

 

「アレフ、これから長い付き合いになりそうね!」

 

「ああ、こっちこそよろしく頼む!」

 

 俺達の心は一つになった。

 

「さて、明日の準備をしちゃいましょ!とりあえず、初日の分はサンドイッチでも作って、後…、あ、アレフがいるから小さめの冷蔵庫ぐらいは…。」

 

「作れ無い事はないけど、持ち運びは如何するんだ?」

 

「荷運び用の小さめの馬車を買えばいいんじゃないかな?一頭立てなら、そこまで高くないし。」

 

「ん?あんなに色々買ってたのに、まだ金残ってるのか?」

 

「うん、でもまあ、荷馬車と馬の飼料を買ったら殆ど尽きるけどね。」

 

「……大丈夫なのか?それ?」

 

「大丈夫大丈夫、イケルイケル。」

 

 ちょっと心配ではあるが、これから冒険者として生きていく以上、荷馬車があれば、色々便利だとは思う。重い荷物を自分で運ばなくてもいいという点も魅力的だ。

 

「でもなんか、旅立ち前から随分恵まれているよな、俺ら。」

 

「だねー!異世界転生モノは最初は苦労……しない話もあるけど…。うん、私達はそっち側って事だよ。」

 

「俺TEEEE出来る様な実力はないけどな。」

 

 強さに関しては血筋で多少恵まれているだけだ。俺は魔法の才、アリスは剣の才と。後、どっちも貴族生まれという点と、お互いが転生者だから二人分の知識チートがあるという所だけだ。

 

 ……あれ?思ったより俺たちって恵まれてるな。

 

「で、小型の冷蔵庫だっけ?後で作ってみるけど、何入れるんだ?」

 

「そうね…、先ず卵でしょー?後ミルクと…、精肉もある程度入れておきたいわね。」

 

「ふむ、野菜室なしなら其処まで嵩張らないか。あとは卵をいれるなら、衝撃を吸収出来る様にしておかないとな。」

 

「うん、御願いね。…さて、ご飯を食べたら。残り作業をしちゃいましょ!」

 

 アリスと一緒に厨房でそのまま夕食を食べた後、俺達は明日の準備に掛かる。

 

 とは言っても、今は準備だけだ。という訳で、今のうちにパン生地を練って置く、弁当作りを行う頃には良い感じに発酵しているだろう、多分。

 

 ちなみにクッキーも早朝から作るらしい。明日はかなり早起きになりそうだ。

 

 

 

 翌日、まだ夜明け前だと言うのに、アリスに叩き起こされた。男の寝室に勝手に入って来るあたりアイツは乙女力が無さ過ぎる。

 

「んー、ちょっと発酵させ過ぎちゃったかな?でもまぁ、これぐらいなら!」

 

 アリスはパン生地を触りながらブツブツ言っている。

 

「で?俺は何すれば良い?」

 

 簡単な料理ぐらいなら俺も出来ない事はないが、凝ったものは無理だ。

 

「アレフは炒り卵…、サンドイッチ用にスクランブルエッグを作っておいて!私はこっち仕上げちゃうから!」

 

「あいよ。」

 

 スクランブルエッグぐらいなら簡単だ。塩に胡椒もあるし味も調えておこう。

 

 30分後、アリスは焼きたてのふんわりしたパンをサンドイッチ用に切り出していた。

 

 俺は俺で、朝食の準備だ。とは言っても作ったのは目玉焼きと昨晩アリスが作った唐上げの2度揚げをしただけだが。

 

「よし!準備オッケー!」

 

「こっちも出来たぞー。」

 

 アリスは出来たサンドイッチをバスケットに詰める。それから二人揃って朝食だ。

 

「おー、アレフもちゃんと出来るんだね、ちょっと心配してたよ!」

 

 朝食をパクつきながら失礼な事を口にするアリス。

 

「お前な…、此れぐらいは普通に作れるだろ。」

 

「そう?調理実習とか結構酷いの居たよ?男女問わずに。」

 

 ああ、うん。アリスもといアスカの年代ならそう言う奴もいるだろう。いや、俺の年代でも料理をまったくしない奴はいるか。

 

「そういや、パンの耳はどうするんだ?」

 

 何となく目に入ったので、アリスに聞いてみた。

 

「ん?んー…、あ!」

 

 まだ食事中だと言うのにアリスは立ち上がる。そして、パンの耳を刻みだした。そして、油が入った鍋に火を入れている。

 

「……ああ、あれか。」

 

 アリスが何を作るつもりなのか分かってしまった。

 

「折角、沢山砂糖があるんだしね!」

 

 アリスは刻んだパンを油に投入していく、カラッと狐色に揚がると油から取り出しバットに上げていく。トドメとばかりに砂糖をふんだんに振り掛けた。

 

「揚げパンか、保存に向くのか?」

 

「さあ?でも、ラスクとか結構もたなかったっけ?」

 

 そんな会話をしつつ、アリスは揚げパン片手に残りの朝食を片付けていく。

 

「はあ~幸せ~。やっぱ、美味しい物食べてこその人生だよ。」

 

 其れは全面的に同意するので、俺も揚げパンを試食する。当然美味かった。

 

 朝食の後はクッキーを焼き上げるだけだ。準備は昨日のうちに殆ど終らせているから、昼前には出発出来るだろう。

 

「いや、でも美味いな、コレ。」

 

「当然じゃない!ああ~止まらない~!」

 

 クッキーの焼き加減を見ながら二人でパクパク食べていく。あっと言う間になくなってしまったので、今度は常備しているパンを揚げ始める。

 

「うまうま!」

 

 そんな感じでクッキーが焼きあがるまでコッペパンサイズのパンを10個程二人で食い尽くしていた。

 

 そうなると、当然…。

 

「う…。」

 

「ひっ!」

 

 俺は完全に胸焼けを起こし、アリスは体重計の針に恐怖していた。ちなみに俺もリバンドしていた……。

 

 だが、まだ3kg程度だ、多分旅に出れば減る筈。俺達はそう願って旅立つのであった。

 

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