転生したと思ったら、俺は豚貴族で地位を追われていました。   作:如月空

7 / 7
3人目の仲間も転生者

 数日後、私は新人冒険者候補のアレフ君とアリスさんの実技試験に試験管見習いとして同行し、近場の森まで来ていた。

 

 他に同行しているのは、私の戦闘訓練を見てくれているちょい悪親父、もとい元冒険者で今は戦闘教導官をやっているギルバートさん。そして、先輩職員の受付嬢エルザさんだ。

 

 今回の試験では、薬草などの採取を指導。他は低級の魔物であるゴブリンや狼等の野生動物に対する戦闘能力を測るのが目的らしい。

 

 彼らは当然最低ランクからのスタートなので、最初は主にこういう仕事を請け負う事になるそうだ。私自身も勉強になるので、今回できっちり理解したいと思う。

 

「おっと、待てアリス。其の薬草は根ごと回収するんだ。…そうそう、傷をつけんようにな。」

 

「私、こういう細々とした作業苦手なんだけど…。」

 

 ギルバートさんに指摘されて、アリスさんはブツブツと不満を漏らす。一方アレフ君は黙々と作業を進めていている。女の子の方が落ち着きがないっていうのはどうなんだろうとは思ったが、アレフ君は17才らしいから年相応の落ち着きがあるんだろう。

 

「よし!採取に関してはこんなところだ!そして次が本試験の実戦だ!何、気負う必要はない!毎月再試験を受けられるからな、ダメならダメで再試験まで訓練に励めばいいんだ!」

 

 採取に関してのレクチャーが終ると、次は実戦だとギルバートさんが宣言した。

 

 成程、再試験を頻繁に受け付けているからこそ、最初に採取のレクチャーを行ったのね。職員としてこのまま生きていくのなら覚えておかないといけないわね。

 

「ようやく実戦かー、なんかやる前から肩張っちゃったよ。」

 

「それで、教官?俺達は何を倒せば良いんです?」

 

「うむ!お前達の相手は…。」

 

 ギルバートさんが説明を始めたところで、私に悪寒が走る。ザワザワとした空気を感じ取り、鳥肌が立っていく。そして、私の視線は自然と森の奥へ走らせていた。

 

「ん?どうしたの?リタちゃん?」

 

「た、多分ですけど、何か居ます、…!?いえ!此方に来ます!」

 

 突然押し寄せられてきた恐怖に駆られて私は、そう叫んでいた。

 

「何っ!?エルザ!リタを護れよ!ひよっ子共は自分の身を…って、おい!?」

 

 既にアリスさんは森の奥へ駆けていた、そして、其の後ろでアレフさんが詠唱を唱えている。

 

「飛鳥!支援行くぞ!!」

 

「OK!よろしく!ツネ!」

 

「「「え…?」」」

 

 アレフさん達の会話に私達は一瞬呆けてしまう。

 

「えと?今の何処の言葉?」

 

「わから…って、そんな場合じゃねえ!?」

 

 ギルバートさんが慌てて駆け出すと、既にアリスさんは戦闘に入っていた。私もまだ勉強不足で詳細は分からないが恐らく狼の類だろう。ただ、サイズ的にはどう見ても上位種だ。

 

「今は…。」

 

 うん、今は落ち着いて行動するべきね、多分さっきの悪寒はあの狼の奇襲を察知出来たと言う事だと思う。ならば、自分の役割を果たさなければ…。

 

「…んぅ?」

 

 私は周囲に注意を向けて、他に猛獣や魔物がいないか気配を窺う…。すると、私達を遠巻きに囲い込むような敵意を感じた。

 

「!?囲まれています!」

 

 って、そりゃそうよね!狼なんだから群れで行動するわよね!?

 

「何ですって!?」

 

「ちぃ、すまん!そっちは何とかしてくれ!」

 

 ギルバートさんはアレフさん達にそう声を掛けて、新手に備える。あちらは上位種とはいえ一匹だ、ギルバートさんはあの二人なら何とかなると判断したようだ。

 

 私は覚悟を決めながら、短剣を握った。そして思った。せめてもうちょっと体が成長していればと…。

 

「ガゥ!」

 

「ひぃっ!」

 

 まだ私の覚悟が決まりきってないのに、いきなり狼が飛び出してくる。私は死ぬ思いで転がりながら攻撃を回避した。

 

「リタちゃん!?このっ!」

 

 エルザさんが狼に向かって矢を放ち、狼達のヘイトを稼ぐ。そして其れを庇うようにギルバートさんが前に出た。

 

「!?今度は後ろから!?くっ!」

 

 今度は覚悟が完了していたので、何とか反撃をする事が出来た。…案外、リタは才能があるらしい。

 

「やるじゃないか!リタ!」

 

「でも、無理はしちゃダメよ!?」

 

 そこからが本当の始まりだった。狼達の群れが縦横無尽に飛び掛ってくる。ギルバートさんが私達二人を護る様に戦い、エルザさんが仕留めて行く。私の力では牽制が精一杯だったけど、手傷を負わせ狼の動きを鈍らせる事が出来ていた。

 

 時間はどれぐらい経ったのだろう?30分?一時間?…いや、まだ数分も経ってないのかも知れない…。私にとっての初陣はかなり濃い内容になってしまった。

 

「ちっ、どれだけいやがるんだよ!」

 

 ギルバートさんが吐き捨てるように呟く。其の気持ちはよく分かる。何しろもう既に、一般的な群れなら一つ分以上は軽く倒している筈だ。

 

 交戦を続けて行く内に状況が変わり、此方の実力を理解したのか、狼達は先程までと違い、狼達は遠巻きに此方の隙を窺っている。勿論、牽制する様に仲間が飛び出し、それに合わせるように狼達が連携して来ている。

 

 依然として睨み合っていたが、唐突に均衡が崩れる事になる。

 

「あっ…、矢が!?」

 

 火力担当のエルザさんが矢を使い切ってしまい、彼女は短剣を握った。そして矢が飛んで来ないこの状況を勝機と判断したのか、再び狼達の総攻撃が始まってしまった。

 

 狼達の討伐ランクは低ランクに入るとは言え、普通に考えれば十分に猛獣の類だ。数匹程度ならいざ知らず、この数では本来後衛役であるエルザさんには無茶だろう。そもそも本職でもないんだから。

 

「エルザ!俺が前に出る!リタと一緒に防御に徹しろ!」

 

「はいっ!」

 

 ギルバートさんが攻勢に出たが、やはり、この数は無茶だったのだろう。盾役のギルバートさんが離れた途端、私とエルザさんは少しずつ傷を負うようになってしまう。

 

「くぅっ…。」

 

 少しずつギルバートさんが数を減らして行っているが、私達の状況は絶望的なままだ。

 

「ゥガァ!」

 

 決して油断していた訳ではない、ただ、集中力が持たなかっただけ…。私は自分に飛び掛ってくる狼を相手に一瞬呆けてしまった。

 

「っ!?」

 

 最悪死ぬ!?と目を背けた瞬間、私の前から声が掛かった。

 

「あっぶなー!大丈夫リタちゃん?はあ~もう!あの群れボス、しぶと過ぎだよ!」

 

「え…?」

 

「親玉は倒しました!支援を掛けます!」

 

 何時の間にか、アリスさんとアレフ君が戻って来ていた。私は恐怖からなのか、安堵からなのか分からず、一筋の涙が零れ落ちる。

 

「お前ら、無事だったのか!?…支援魔法に感謝する!奴らを追い払うぞ!」

 

…………

 

……

 

 

「アレフ、そしてアリス!二人の登録を認める!」

 

 私達は町に戻って来ていた。あれから二人と合流した私達は、アレフ君の支援魔法を受けて、あっさりと狼達を退けていた。更に、アレフ君は傷だらけの私達に回復魔法を唱え、それもギルバートさん達に驚かれていた。

 

 そしてギルドに戻ったアレフ君達は正規登録証を受け取り、二人でハイタッチをしていた。

 

「念願の冒険者カードを手に入れたぞ!」

 

「そう、関係ないね。」

 

「おいおい、此処はお約束だろー?」

 

「え?じゃあ、マジで殺っちゃっていいの?」

 

「……それは勘弁してくれ。」

 

 二人はこんな感じにおどけているが、私は色々気になる事があった。

 

「あの、さっきの言葉って…?」

 

「え?ああ…、二人で決めた戦闘用語だよ。俺達、此処に来るまでに何度か盗賊に襲撃されてさ、だから、他の奴らには分からない言葉を使おうと思ってな?」

 

「結構普段使いしちゃってるから、自然と出ちゃうんだよね…、まぁ、さっきのはアレフに釣られたんだけどね。」

 

 確かに其れはかなり有効だろう。自分達の手の内を晒す事なく仲間だけに伝達出来るこの言語は…。そう、ここでは”日本語”なんて通じる訳がないんだから。

 

「お二人にご相談したい事があるのですが…。」

 

「え?私達に?」

 

 二人は首を傾げながら顔を見合わせる。多分、私の相談内容に想像がつかないんだろう。

 

「えっと、それは内密にしたい事か?」

 

 アレフ君の問いに私は頷く。

 

「じゃ、一旦私達の宿にも戻ろっか。」

 

「だな、じゃ、俺ギルバートさんに一旦抜けることを伝えてくるわ。リタを連れて飯食ってくるとか言っとけば良いだろう。」

 

「だね。じゃ、アレフ御願いね。」

 

 そして、ギルドを出た私達は二人が停泊している宿の部屋まで移動する。お茶を入れて落ち着いたところで私は二人に爆弾を投げ掛けてみた。

 

「お二人は何処の出身なのです?というか、元日本人ですよね?」

 

「え…?」「は…?」

 

 私の問い掛けに二人は呆けてしまう。たっぷり十数秒が経過した後、アレフ君が頭をガリガリと掻きながら口を開いた。

 

「まさか、”三人目”とはな。」

 

「こりゃ、もっといるんじゃない?」

 

 この反応は当たりと見るべきだろう。なら、信頼を得る為にも私から自己紹介するべきね。

 

「驚かせてごめんなさいね。私は日向里美。以前は小学校で教師をしていたわ。」

 

「おや、先生でしたか。私は大和飛鳥。前の職業は女子高生です!」

 

「今川義経だ。戦国武将みたいな名前だけど、生前は多目的業種の派遣社員だ。」

 

 私達は改めてよろしくと握手を交わす。

 

 大体の年齢が分かるのは、アリス――飛鳥さんだけか。なら、この際、私の年は誤魔化しておきましょう。うん、35歳とか言ってもアレでしょ。

 

「先生、旦那さんとか心配じゃないですか?」

 

「え?……わ、私は独身だったから平気よ!後、先生は止めてくれる?この見た目なんだから!」

 

「なら、喋り方をもう少し幼くした方が良いんじゃないか?今の喋り方だとなんつうか、変に貫禄があるって言うか、オーラを感じると言うか…、ぶっちゃけ、俺より年上って感じがするんだが?」

 

 うっ…!?

 

「ツネって31歳だったっけ?それより年上ってなると、まさかのアラフォーだったりして?」

 

「ぶふぅ!?」

 

 言い当てられてしまい、私は飲んでいたお茶を思わず噴出した。

 

「あー、ごめんなさい、先生。じゃなかったリタちゃん。これからは子ども扱いするから!」

 

 それもそれでイヤなんだけどー!?

 

「年齢ネタはタブーか。っていうか、道理で俺の本能が食いつかなかった訳だな。やっぱりロリっ子は純真無垢じゃないとな!」

 

 こっちはこっちで……。まぁ、変な目で見られるよりはマシね。

 

「はあ…、話を戻して良いかしら?」

 

 私がそう問い掛けると、二人は揃って頷く。

 

「それで、二人に相談したい事なんだけど。」

 

「もしかして、一緒に旅をしたいとか?」

 

「ああ、米や醤油に食いついてたし、ここの食事を考えるとなー。」

 

「話が早くて助かるわ。御願い出来るかしら?」

 

「そりゃ良いけど、条件はあるぜ?」

 

「…何?」

 

 条件って、まさかリタの体を狙って!?

 

「その口調直して、先生。せめて、さっきまでぐらいの口調で。今の先生は本当に”先生”って感じがするし、目立つよ其れ。」

 

「ああ、完全に大人の女性だわな、其の口調がポロっと出ないようにしてくれれば同行は構わない。なんていっても同郷の仲間だしな。」

 

「確かにそうねっていけない!油断してた、これからは気を付けるね。」

 

 私が口調を戻すと、二人は私に向かってサムズアップをしていた。アレフ君、疑ってゴメンね。

 

「あーでも、ギルドだともうちょっと硬かったから、この町を出るまではあまり変えられないと思う。」

 

「まぁ、それは追々で。」

 

「分かった、じゃあ、ご飯に行きましょう?じゃなかった行こうよ。」

 

 う、うーん、難しいわね。この二人が同郷だと認識しちゃった所為か、ついつい昔の口調が出てしまうわね。これはリタ本来の喋り方を思い出しながら実戦していきましょうかね。

 

 そんな事を考えながら、部屋を出て行こうとすると、アレフ君に腕を掴まれた。

 

「何処行くんだよ、飯食うなら此処で良いだろう?」

 

「え?部屋で?」

 

 ルームサービスとかかしら?

 

「アレフ準備よろ~。」

 

「あいよ。」

 

 アレフ君は窓を開けて椅子に座る。そして、何故かフライパンを持ったアリスさんがいた。

 

「お昼は昨日の残りで良いよね?あ、アレフ、パンを切っておいて。」

 

「ほいほい。」

 

 アレフ君は箱の中からパンを取り出すと、音もなくそれを両断する。

 

 今のは風の魔法とかかしら?って事はあのフライパンの意味って…。

 

「火御願い。」

 

 アリスさんがそう言うと、彼女の前に火の玉が現れる。そして、其の上にフライパンを移動させてとろりとした液体を垂らす。

 

「油?」

 

「そ!植物油なんだよー!」

 

 アリスさんが油を入れ終わると、フライパンの下の炎が力強く輝く。どうやら火力を上げた様だ。

 

 暫くするとアリスさんは、左腕だけでフライパンを支えながらテーブルの上に乗った箱から、何かを取り出す。そして、それを油が入ったフライパンに入れる。

 

 ジュワー!

 

 その音に私は目を見開く。最早懐かしいとまで思える揚げ物特有の音。

 

 これ絶対美味しい奴だわ!?

 

 ふとアレフ君の方を見ると、彼は半分に切られたパンの上にレタスを置き、白っぽいクリーム状の液体を付けていた。

 

「って、マヨネーズ!?衛生管理とか大丈夫なの!?」

 

 自家製マヨネーズは良いんだけど、卵の衛生管理は難しいのよ?というか、生食できる日本が異常なんだからね!?

 

「大丈夫だ、そのあたり抜かりはねえ!」

 

「私、調理師目指してたので管理ぐらいは出来ますよ。勿論卵自体も選別してアレフが作った簡易冷蔵箱で保管してますし。」

 

 調理師志望!?じゃあ、これからはアリスさんに頼めば美味しい食事にありつける!?

 

「アリスさん 貴方は女神ね…!」

 

「そっか、食の女神だから、ふと…ってあっちぃ!?油飛ばすな!」

 

「余計な事言ったから罰が当たったのよ!さて、仕上げ~。」

 

 アリスさんは楽しそうに、揚げた肉をバットに移していく。そして、其の上に赤い粉末を振り掛けた。

 

「って!?香辛料じゃない!?高いのよ!?それ!?」

 

「大丈夫だよ、実家を出る時に大量に買い込んだから!」

 

「実家って…。え?大商人だったの?」

 

「いや、貴族だよ俺達。俺は廃嫡された伯爵家の長男で、アリスは家を出た子爵家の末娘だ。」

 

「ナニソレ!?貴族生まれとか羨ましい!」

 

 貴族の元令嬢とか絶対婚活に有利じゃない!?あーそういえば、二人とも体型は少しアレだけど、顔は滅茶苦茶整っているのよね!悔しい!

 

「良い事ばかりじゃないよ。うちは騎士の家系だったから滅茶苦茶厳しかったし。さぁ、出来たから食べよー!」

 

 ドン!と更に乗せられたのは、肉厚の鶏肉を挟んだサンドイッチ…というかチキンバーガー?

 

「「「いただきます!」」」

 

 私は内心ドキワクしながら、齧り付く。粉末唐辛子を振り掛けられた揚げ鶏はレタスの水分とマヨのお陰で辛さがマイルドとなり良いアクセントになっている。

 

「はああああああああ。」

 

 今の私はきっと、飯の顔をしている事だろう。転生してから始めて食べる美味しい食事に私の気持ちは幸せに満ち溢れていた。

 

 これから私達は米や醤油、更に未知なる美味を目指して旅立つ事になるんだろう。そう思うと、口元が緩んでいく。

 

「じゃあ、食べ終わったらギルドに戻ろう!リタちゃんの引き抜きも説明しないといけないしね!」

 

「うん、御願いね。あ、後私の保護者はアレフ君になるわね。其処に関してもこれから御願いするわね。」

 

「あいよ。」

 

 こうして私は、アレフ君アリスさんと共に行動する事になった。

 




私個人としては、純真無垢なロリっ子より、一見丁寧な口調だけど、毒を吐き時に煽ってくる様なクソガキちゃんの方が好きだったりします。更に言えば、そんな性格で実は寂しがりやで偶に甘えてくる様なロリが!!?>病院に行け。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。