鍋を囲み。
時間が過ぎゆく。
酔った風間さんが太刀川さんを殴り倒し、二宮さんが粛々とビールとジンジャーエールを割って飲み(シャンディガフというカクテルらしいです)、東さんはそれらを笑って眺めていました。
「おおう、お前の名前は、あー.....」
「か、樫尾です」
「樫井?」
「樫尾です....」
「OK、樫尾。どうだー。勝山は~」
さて。
殴り倒した風間さんの方がアルコールでノックダウンすると同時起き上がった太刀川さんは絡める相手を探して樫尾君の隣に座っています。
「ど、どうとは?」
「いや。ちゃんとやってんのかな~って」
「は、はい! とてもよくしてもらっています!」
「お~。だってさぁ、勝山ァ。よかったなぁ~」
「何がいいんですか.....」
「お前がちゃんとしてるって事はだな」
「はい」
「お前と個人戦をやり続けてきた俺もちゃんとしているって事になるからだよ」
「ひどい論理の飛躍ですね.....」
貴方がちゃんとしているならどれだけ忍田さんの胃が休まる事か。
いい加減自覚してください。
「東さんが隊長をやらないとは。はじめての事ではありませんか?」
「ああ。俺はあくまで駒の一つだ。まあ、望まれれば指導はするがな。──はは、二宮は本当にジンジャーエールが好きだなぁ」
「ええ。ビールと合わせるのが意外と美味いんですよ」
「今飲んでるの、ビール入ってないぞ」
「.....」
「三上って言ったっけ? やるじゃないか」
「えっと.....何がでしょうか?」
「風間さんに酌し続けてぶっ潰したじゃないか。諏訪に続く快挙だ」
「えぇ。私、そういうつもりじゃなかったですよ....」
「ん? そうなのか。いや、風間さんも女の子から酌してもらった酒を無下にする訳にも行けないからな。ぐぃぐぃ飲んでぶっ倒れちまった。それを狙ったのかと」
「悪意に満ちた推測は辞めてあげて下さい太刀川さん.....それにしても凄かったですね」
「ああ。まさかぶっ潰れる寸前の人に”寝るなァ! ”って叫ばれて殴られるとは思わなかった」
酔った風間さんの、とろみついた目元が──太刀川さんの顔面を捉えた瞬間、元の鋭い目つきに戻り、寝るなと叫んで一撃頬に叩き付け、そのままダウンしたのです。
「いい薬になったでしょう、太刀川さん」
風間さん程の人でも心底疲れたのでしょう。だからこんな目に遭うんです。
「そうだな。──今度はちゃんと三日前にはレポートにとりかかるようにしよう」
「何日前でもいいからちゃんと終わらせてください」
こんな人を大学に送り込んだボーダー側にも問題があるとは思いますが。
まあ、もう仕方がないのでしょう。
こういう人です。
「そろそろ締めの時間だろ」
「締めの用意はあるか、勝山」
「はい。ちゃんぽん麺とお米の両方を用意していますけど.....」
僕がそう言いながら鍋を見ていると。
どうにも不思議な光景が。
「ん?」
太刀川さんが既に焼きお餅を入れている所でした。
「ひぃー、ふぅー、みぃー」
醤油ベースの出汁の鍋にはさぞかし合う事でしょう。
太刀川さんは誰の許しを得る事もなく餅を入れ、そして入れた後に数えます。
「人数分に一個足りねぇな」
と。
あまりにも不誠実なその返しを聞いて。
「.....」
「.....」
いつの間にか起きていた風間さんと二宮さんが。
太刀川さんを見つめていました。
「当然だな」
「ええ、当然ですね」
「それじゃあ頂きます──あれ」
太刀川さんが鍋に箸をかけようとした瞬間。
いつの間にか目を覚ましていた風間さんと二宮さんが見事な連携プレーを見せました。
風間さんが手刀で太刀川さんの手を払い、その間に二宮さんが各取り皿に餅を入れていく。
当然。太刀川さんの取り皿以外に。
悲しそうな目でこちらを見る太刀川さんの瞳は。
格子の奥に囚われた罪人のようでした。
特段、同情もしませんでした。
※
「──今日はすまなかったな。勝山」
「いえ」
残った様は。
死骸の山でした。
生き残ったのは東さんと僕と三上さんだけ。
樫尾君は太刀川さんに肩を掴まれながらぶっ倒れていました。何があったのかは知りません。
「今度、焼肉に連れて行ってやるから」
「ありがとうございます」
「まあ、アレだ」
東さんはぼりぼりと頭を掻き、言う。
「一応。これが太刀川なりの祝い方なんだ」
「そうみたいですね」
あの人にとって。後輩の下宿地に等々に上がり込み鍋をすることが祝う範疇にあるらしい。不思議な人です。
「太刀川も風間も、お前を可愛がっていたもんなぁ。個人戦もかなりやってもらっていたみたいじゃないか」
「ですね。本当にその点では感謝しているんです。本当に.....」
まだB級に上がりたてのペーペーだった頃から。
太刀川さんと風間さんには本当にお世話になった。
個人戦に付き合ってもらっていただけですけれども。それでも本当に様々な気付きを与えてくれた。感謝してもしきれません。
「それじゃあ、俺は外でタクシー呼んでくるから」
「あ、僕がやりますよ」
「いいのいいの。こういうには俺が慣れているから」
そう言って東さんが出て行くと。
僕と三上さんだけが残されていました。
「.....」
「.....」
少し目が合って。
何だか、互いに笑ってしまった。
「片付けよっか」
「はい」
倒れ伏す他の人たちを横目に、空き缶の中身をシンクに流し、もうすっからかんになった鍋を洗い、片づけを行う。
何だかんだで。
とてもいい日でした。
※
「次のランク戦の相手が決まりました」
本部から転送されてきた相手を見ます。
「えーと.....茶野隊と間宮隊との三つ巴戦ですね」
「茶野隊.....ですか」
聞いた事のない名前であった。
「はい。今年から結成されたチームです。僕等と同じですね」
「成程」
「銃手二人のチームという事です。両者とも拳銃型のトリガーを使うとの事ですので、詰めたうえで攻撃手の距離感で仕留めたいですね」
「ええ。そして間宮隊は──」
「こちらは射手三人の部隊ですね。全員がハウンドを使用しての連携技があるとの事なので、合流前に仕留めるのが吉ですね」
さて。
初のランク戦が決まったところで。
「樫尾君」
「はい」
「役割分担を致しましょう」
「え?」
「ブリーフィング前の戦略・戦術の決定は全員の合議で決めますが──いざ現場に入った際の指揮は、樫尾君に一任します」
これは。
事前に決めていた事だ。
指揮官は二人も要らない。
僕か樫尾君か。
どちらがいいのか。
そう考えた時──東さんからアドバイスを頂いた上で、決断した。
「このチームで、一番点を取りに行かなければならないのは僕になるでしょう」
「は、はい」
「だから。役割分担。僕は基本的に点取りに従事しますので、指揮は任せます」
点取り屋と指揮官は分けなければ、余程能力がなければ役割過多になってしまう。
だからこそ、樫尾君に任せる。
「僕も献策はします。あんまり期待は出来ないですけどね。でも──最終的な決断は、樫尾君に任せます」
東さんは、今回は駒の一つだ。
決断は僕か樫尾君がするしかない。
ならば。
僕は樫尾君に任せたい。
「頼みます」
樫尾君は。
一つ目を瞑り。
息を吸い。
吐いて。
「やります」
「任せます」
という訳で。
樫尾君が指揮を行う事となりました。
よしよし。
段々と部隊の形が整ってきました。
※
「後はどうしましょうか?」
ブリーフィングを終え、ある程度の方針を決めた後。
「勝山、樫尾」
東さんに呼ばれます。
「はい。どうしましたか?」
「前々から予定していた訓練を行おうと思う。ちょっとついてきてくれ」
東さんに言われるまま。
僕と樫尾君はブースまでついていきます。
そこには──。
「あ、──三輪君に奈良坂君ではないですか」
「よ」
「.....久しぶりだな、勝山」
そこには。
同級生の三輪君と、奈良坂君がいました。
以前A級部隊に昇格した、三輪隊の二人。
「今回、この二人が訓練相手だ」
東さんは、そう言うと。
訓練内容を伝える。
今回は。
三輪君、奈良坂君の二人と、僕と樫尾君の二人で対戦する事が訓練内容。
僕と樫尾君が、三輪君の前に立ち、奈良坂君がランダムな位置に転送されてからがスタート。
三輪君は奈良坂君の狙撃の援護を受けた上で僕等二人を相手取り。
僕等二人は奈良坂君の狙撃地点が解らない状態で三輪君を二人がかりで追い詰める。
成程、と思いました。
三輪君は僕等二人を相手に狙撃手との連携で戦おうとする。
だからこちらがやらなければならない事は。
奈良坂君の位置を理解し、未然に狙撃を防げるようにすること。
そして狙撃に対してすぐさまにカバーを張る事。
狙撃手№2の奈良坂君と、マスタークラスの万能手の三輪君。
ただの訓練にしてはあまりにも豪華すぎる二人に、東さんの人脈効果に驚かされるばかりです。
「二人とも、付き合ってくれてありがとうございます」
「.....東さんの頼みだからな。それに、こちらとしても面白い訓練だ。断る理由がそこまでない」
三輪君はぶっきらぼうにそう言うと、一足早くブースに入っていきます。
本当に優しい人です。
だからこそ、優しさには応えたい。
「行きましょう」
「はい!」
僕と樫尾君も、同時にブースに入っていきました。
※
一本目。
僕達は狭い路地の中にいました。
周囲を見渡すと細々とした家屋と、それを囲む壁があり、幾つもの道が複合しているような路地の中。
その中で、二十メートル程距離を取り、三輪君がいます。
「それじゃあ、はじめ」
東さんの合図とともに、
三輪君が動き出します。
拳銃を取り出し、こちらに向ける。
その瞬間、僕と樫尾君は壁を乗り越え、路地の更に裏手に向かう。
三輪秀次君。
彼は非常に独特の戦い方をする万能手だ。
彼は、「鉛弾」と呼ばれるオプショントリガーを積極的に利用する。
この鉛弾に、トリオン体への破壊力はありません、
ただ。
重石を付けます。
弾丸が当たった部分に、黒い重石が。
この重石が非常に厄介で、着くとその部分が非常に重くなります。腕にでも当たれば武器を振るスピードも格段に落ちますし、足にあたれば身のこなしに一気に制限がかかります。
そして、この弾丸はシールドで防げません。
これが最も厄介な部分で、防御機能をシールドに依存しているボーダー隊員は、シールドが効かなくなると途端に防御下手になります。
対策としては。
別の物理的防壁を作る事。
まあつまりは、──射線上に障害物を置くという、至極当たり前の行為。
樫尾君は、壁向こうに行くと同時に三輪君にハウンドを仕掛ける。
追尾する弾丸が全方位から三輪君に襲い掛かる中。
その全てを、細かく分割したシールドを同時複数展開する事でノータイムでハウンドを打ち消します。
こうなれば、ハウンドで足を止める事は叶わない。
三輪君は凄まじい身のこなしで樫尾君が乗り越えた壁を蹴り破り、追いつく。
「ぐぅ──!」
三輪君はそのまま樫尾君に肉薄し、弧月にて斬り裂く。
残るは、僕一人。
三輪君が樫尾君を狩ったその背後から旋空を浴びせにかかる。
が。
背後の家屋が、バキバキと破壊される音が聞こえた。
これは。
「アイビス──!」
旋空を放とうと足を止めたその地点から、僕は飛び去る。
アイビス。
三種存在する狙撃銃の中で、トリオン量によって「威力」が大きく変わるタイプの銃だ。
それが放たれた。
家屋によって塞がれた射線を無理矢理にこじ開け、それが僕に向かい来る。
三輪君は、その狙撃に呼応するように弾丸を撃ち放つ。
鉛弾だ。
シールドによる防御が不可能と知ると、僕はシールドを解除し散弾銃を手に取る。
二発三輪君に浴びせ、捨てる。
散弾銃を防ぐべく足を止めた三輪君に、斬りかかる。
三輪君は斬撃の範囲の外に避けつつ、シールドを解除し弧月をセットしなおす。
斬撃を行使。
三輪君はそれを受け太刀する。
受け太刀の際にふわりと浮いた刀身。それを見逃さずに弧月を押し込む。一発で崩しが入る。
押し込まれた三輪君はそのままバックステップ。
距離を稼ぎつつも、そのまま体制を大きく崩す。
追撃の旋空を踏み込みと同時に放とうとした瞬間。
「あ」
僕の視界に──先程アイビスで破砕された家屋と、そこから開かれた空間に目が行き。
そして。
奈良坂君の弾丸に頭部を消し飛ばされました。
※
「──というように」
東さんが敗北し、戻ってきた僕等二人に、言う。
「三輪は強いが、二人が協力して勝てない敵ではない。というか、勝山との近距離戦ならば高確率で倒せる。──要は」
東さんは少し微笑み。
「奈良坂の援護に関して、何かしら攻略の糸口を見つける事。これが、この訓練の意図だ」
と。
そう言ったのでした。
──成程。
三輪君と奈良坂君。
僕にとって天敵のような組み合わせ。
足を止められる万能手と、天才狙撃手。
僕が戦う上ではっきりとした弱点である、狙撃手の存在を置いたうえでの、攻撃手との差し合い。
その訓練なのだ。
「──了解です」
ならば。
乗り越えて見せる。
活動報告にワートリ原作の二次創作の書き方と、キャラの解釈に関して書いたものがありますので。よかったらどうぞ見て下さい。