界境の市   作:丸米

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キューバ・リブレ

 生駒さんの斬撃は。

 恐らくは元々剣術の覚えがあった人の太刀筋をしていました。

 

 踏み込みや所作。

 その部分が、今まで戦った攻撃手の中で誰にも重ならない滑らかさがあります。

 

 受けからの崩し。

 崩しからの返し。

 その部分への対処が、非常に上手い。

 

 ですが。

 

「ぐぇ」

 

 踏み込む足を上から踏みつけ、当身を一つ。

 崩れた体勢の上から弧月を突き刺し一本目を取る。

 

 剣術の覚えがあるからこその読みやすさはある気がします。

 踏み込みの流れや斬撃までの一連の動作が滑らかな分。

 その滑らかさは、生駒さんの中に整った型が存在するからこそ存在する強みで。

 剣戟の中で型を読み取る事で先を取れる。

 

 二本目。

 抜刀同士の交錯となり、僕が負けます。

 凄まじい速さの居合でした。割と居合のスピードに関しては自信を持っていましたが、抜刀を行使してから斬り抜くまでの速さが段違いです。目で捉えられるスピードではなかった。

 

 三本目。

 居合の速さを計算に入れた上で、対峙します。

 あの居合は確かにとんでもないスピードですが、放つには一瞬のタメが必要なようです。

 そのタメを作らないように間合いを詰めていきます。

 いざ斬り結んだ瞬間。

 やはり押し込みが強い。体勢が非常に安定している。

 引き、押し込ませ、その際に突っ張った膝を蹴り上げて無理矢理に体勢を崩させます。

 ぐらり、と生駒さんが少々よろめいた瞬間弧月を跳ね上げ弾いたのち、下方への斬撃へと繋ぐ。

 これで二本目を取ることが出来ました。

 

 どうにかこうにか。崩しを入れるところまでは持っていけている。

 ここからの連携が重要になります。

 

 

「──負けた。許せへん、隠岐....」

「ええ....」

 弧月のみでの十本勝負は、七本を取り、僕が勝利しました。

 何故か自らの部隊の隊員である隠岐君に恨み言を吐いていました。

 

「これだと。本当に隠岐がイケメンなだけの部隊になってまうやん。ウチ」

「そんな訳ないじゃないですか。生駒さんもカッコいいですよ」

「何? 俺カッコいいんか? 何やかつやんお世辞なんかいいよって。危ないわー。君が女の子やったら一発で惚れちゃう所やったで」

 ちょろいにも程があります。

 

 

 

 

 一回目の方式での試合が終わり、二回目の方式での試合に移ります。

 オールトリガー使用での、互いの相対範囲が五十メートル離したうえでの試合。

 

 一本目は実にあっけなく終わる。

「──え?」

 

 凄まじいスピードで迫りくる、あり得ないほどの射程を持った旋空が。

 距離を詰めんと走る僕の首元に叩き付けられました。

 

 

 敗北し、緊急脱出した先。

 僕は何が起こったのか──何一つ理解できませんでした。

 

 二本目、三本目と来て。

 この技の秘密が理解できました。

 

 旋空は、その発動時間に反比例してその距離が延びる特性があります。

 恐らく、旋空として出力されるトリオンが一定なのでしょう。なので長時間発動するとその分旋空は短くなり、短時間での発動ですと長くなるのではないのかと推測をしています。詳しい事は解りませんが。

 そしてこの旋空。

 先程の生駒さんの抜刀と共に発動しているのでしょう。

 あの抜刀の速さに合わせて、恐ろしく短縮した起動時間内で旋空を放つ。

 そうすると、──通常の旋空を遥かに超えた効果範囲を有する斬撃となっているのでしょう。

 

 これは。

 厳しい。

 凄まじく厳しい。

 

 この圧倒的な射程の前では僕の旋空はおろか散弾銃の効果範囲にすら踏み込むことが厳しい。

 

 という訳で。

 この十本勝負では二本しか取れず、圧倒的敗北を味わわされることとなりました。

 

 

 

「──ふ。これが俺の旋空や」

「お見それ致しました」

「弓場ちゃんからランク戦でも個人戦でもいじめられ続けたこの屈辱が......俺を強くしたんや.....! 見たか、隠岐! これで俺はモテる!」

 はい。

 後はもう少しその言動をどうにかすれば絶対にモテるであろうと確信を覚えます。

 

 

「そんでもって。これからは通常の条件で戦う訳やけど。これをしたのにはな、訳があるんや」

「どういった理由でしょうか」

「お互いに....お互いに、ちょーっと。技を教えあおうや、って提案なんや」

 

 ほう。

 技を教えあう。

 

「かつやんは斬り合いの中での崩し方がウマい。もうカツカレーかって位ウマい」

「ありがとうございます」

 何故その例えが出て来たのか不明ですが、一先ず礼を言います。

 

「そんで俺は長い射程の旋空を使えるんや。便利やで」

「凄まじい技でした」

「という訳で。──互いに、これを教えあうんや」

 

 成程、と頷きました。

 僕の弱点の一つが、中距離での戦いです。

 これに関しては割り切ってサポートしてもらおうと考えていましたが──旋空である程度それをカバーできるならば、非常に喜ばしい事です。

 

 そして生駒さん自身も僕の技術を取り入れようとしている。

 利害の一致がしっかりとその間にあります。

 

「是非とも、よろしくお願いします」

 

 という訳で。

 これから互いの技術の伝達が始まりました。

 

 

「迅」

「あら。風間さん。どうかしましたか?」

 個人ブース内を観戦していた迅悠一に、風間が声をかける。

 

「......なぜお前は寝転がっている」

「人間、誰しも倒れていたい時ってあるんです」

「行儀が悪いから座って観戦しろ」

 迅悠一は。

 現在寝転がりながら、首だけを限界まで捩じった上で観戦をしていた。

 

「背中の傷は戦士の恥ってね」

「恥がその背中にあるわけだな」

「.....」

「.....」

「あいてっ」

 

 風間は無言のまま。

 寝転がる迅の背中を蹴り転がす。

 

 そこには。

「痴漢者!!!!!!」と書かれた張り紙がある。

 

「......」

「......」

 

 さしもの迅も。

 風間から浴びせられる侮蔑の表情には、多少堪えた。

 

「まあまあ風間さん。見てよ」

「生駒に、勝山か」

「お互いに技術を教えあっているみたいだよ」

「いいことじゃないか」

 

 生駒も、勝山も。

 積み上げた技術による上澄みで戦い続けている人間だ。

 互いに学べるものがあるのならば交換し合う。これもまた個人ランク戦の意義であろう。

 

「ぼやぼやしていたら追い抜かれてしまうかもしれないっすよ、風間さん」

「ふん」

 出来るものならばやってみろ。

 そう言いたげな、風間の返答であった。

 

「──迅」

「えっと.....スマホを向けてどうしたんですか。風間さん」

「ん? 写真でも撮ってやろうかと。お前の背中」

「勘弁してください.....」

 

 

「──そうですそうです。相手が剣を振り上げた時にこうやって刀身を置いていれば。それだけで八割位の技が封じれるんですよね」

「八割......八割!」

「どうしたんですか生駒さん」

「蕎麦やん!」

「十割蕎麦も九割蕎麦もありますよ.....」

「なに!」

 

 

「こう.....こうやな。こういう体勢を作ってやな」

「はい」

「後はびゅーん、って。びゅーんって。剣を振るんや」

「びゅ、びゅーんですか....」

「せや、びゅーんや! びゃっと体勢を作って、ぬるっと剣を後ろにやって、後はびゅーんや!」

「や、やってみます。──どうでしょうか?」

「いい感じや。でも、やっぱりいつもの抜刀の仕方がちょい残っとるな。普段のかつやんの斬り方って、シャって感じやけど。違うねん。びゅーんや、びゅーん!」

「わ、解りました! ──やってみます!」

「びゅーん!」

「びゅ、びゅーん!」

 

 

「──という訳でや」

「はい」

 

 こうして。

 僕は──普段使っている旋空とは別に、射程を伸ばした旋空を覚えました。

 とはいえ生駒さんのそれとは雲泥の差。

 生駒さんがおよそ四十メートルほどの射程の旋空を放てるのに対し、僕は精々三十メートルに到達するかどうか、という位。それも生駒さんよりも大きなタメを作った上で、である。

 

 とはいえ。

 このカードが出来た事は、大きな進歩です。

 

 生駒さんも返しまでは出来なくとも、崩しの基本動作は迷いなく出来るようなりました。本当に、凄まじいセンスです。

 

「最後の十本勝負をやろうや」

「はい」

「ええな。こう、集大成って感じで。──最後、勝ち越した方が仰げば尊し歌おうや」

「嫌です」

 何で卒業式みたいな空気を出そうとしているんですか。

 

 

 ブースから。

 アトランダムに転送され──勝負が始まります。

 

 相対距離はおよそ三十メートル。

 住宅街の家屋に挟まれ、異なる街路に転送されます。

 

 僕は即座に家屋に入り。

 そして生駒さんは旋空を放ちます。

 

 家屋が荒々しく破壊される斬撃を腰を落とし避けると同時。

 僕もまた──生駒さん直伝の旋空を放ちます。

 読んでいたのでしょう。当然の如くそれを避けつつ、生駒さんもまた崩壊する家屋の中に入り込んでいきます。

 

 塀も壁も斬り裂き乗り込んでくる生駒さんは、今度は通常の旋空を放ってきます。

 横へのステップでそれを避けると同時、散弾銃を撃ち放ちます。

 もう崩壊寸前とはいえ、それでも家屋の中。周囲を壁に囲まれており、障害物も多い。避ける場所も少ないでしょう。

 生駒さんはシールドを展開しそれを避けますが。連射する中で微妙に方向を変えつつ、着実にシールドで防ぎきれない手足を削りにかかります。

 

 斬り込む。

 刀身を側面に当て、払う。

 が。

 その払いを、瞬時に生駒さんは身を引いて、流す。

 

「──おお!」

 流され、僕の身体は崩されそうになりますが、何とか踏ん張ります。

 もう先程教えた技術を実践にまで移しています。何というセンスでしょうか。

「かつやん師匠! ──俺はアンタを、超えるんや──!」

「いいえ、生駒師匠! ──超えるのは僕です──!」

「ぐぇぇ!」

 散弾銃を生駒さんに向けて放り投げると同時、鼻っ柱の上にぶち当たります。

 痛くもないだろうにそんな風に大袈裟な叫び声をあげながら、

 

「キエエエエエ!」

 と。

 突如として猿叫を挙げながら散弾銃ごと兜斬りを敢行します。

 これらの行動全てを真顔で行っているという事実に、最早恐怖すら覚える。

 

 縦に振られる剣戟を刀身を当て防ぐと同時、更に一歩踏み込み肩からの当身を行う。

 

 先程の手合わせでも見せた手札です。生駒さんは即座に両足を開き当身に踏ん張りをきかせます。

 

 ここで生駒さんは、後ろへの衝撃から踏ん張るための体勢となりました。

 後ろに流れる力に対抗する為に、足が開いてしまっている。

 そして僕は生駒さんに密着している状態。

 

「──幻踊弧月」

 

 鍔競りからの、幻踊。

 ここで刀身を変化させ、生駒さんの喉元に弧月を突き刺す。

 

 その時。

 生駒さんの視線は。

 真っすぐでした。

 何を見ているのだろうか? 

 

 緊急脱出した後。僕は生駒さんが向けた視線の先を見ます。

 

 何もありませんでした。

 一体。

 あの人は何を見ていたのでしょうか.......。

 

 

 二本目。

 

「一つ、二つ、そして──三つ!」

「何ですかその無茶な連撃は......ぐぁ!」

 

 旋空と散弾銃が交差した後、銃弾を全身浴びた上での捨て身の生駒旋空。この一撃に僕の上半身は分断され、緊急脱出しました。

 

 

 三本目

 

「マグロのカツもウマい。タコのフライもウマい。エビの天ぷらもフライもウマい。揚げて不味いものなんて、あるんやろうか....」

「ならば。加古さんの外れ炒飯を一度揚げてみれば如何でしょうか?」

「そうか.....いくらカスタード。チョコミント。あれらを揚げた後に、ウマいかどうかやな。これは永遠の命題や。何で永遠か解るか、かつやん」

「さあ?」

「誰もそんな事せーへんからや」

 

 鍔競りの中で繰り広げられた会話です。

 最後に返しを入れた僕が取りました。

 

 

 四本目

 

「あ」

「あ」

 

 生駒さんが回避と同時に着地した地面。

 散弾銃の発砲で生まれた窪みに丁度足がずぼり、と嵌り。

 

「....」

「....」

 

 お互い。

 黙りました。

 

「──かつやん」

「はい。どうしました生駒さん」

「明日のご飯はサザエのつぼ焼きにしようと思う。三門市でいい店知らへん?」

「知りません」

 

 生駒さんの首を飛ばしました。

 

 

 

 最終的な戦績は。

 六対四で、かろうじて僕が上回りました。

 

 完全な運によって勝ちを拾った一戦もあった。本当に五分五分の戦いでした。

 

「──かつやん」

「はい」

「今日は楽しかったわ」

「はい。僕もです」

 何でしょう。

 戦い終わった達成感と共に流れる、この愉快な気分は。

 

「今度お礼に、隠岐を紹介するわ」

「隠岐さんを? ありがたいですけど、何故でしょうか」

「ウチの部隊が君に差し出せるものなんて.......隠岐のイケメンな顔面かマリオちゃんのかわいいかわいい姿以外ないんや.....」

 そんな事ないと思います。

 

 

 そういう訳で。

 生駒さんとのランク戦及び訓練を終えました。

 何というか。

 妙に気が合ってしまいました。

 あの人が愉快な事は万人が見て万人が頷く印象でしょうけど、どうやら生駒さんから見た僕も随分と愉快な人間だったらしく。かつやん、かつやん、とこう.....年上の人にこのような言い方は憚られますが、一言で言えば「懐かれ」ました。何を気に入ったのやら。

 お互い別れ際に連絡先を教えて、互いに互いの隊室に遊びに来ることを約束して、その場を後にしました。

 

「あ、風間さん」

「勝山か」

 

 ブースを出るとそこには風間さんがいて。

 僕に清涼飲料水をそっと手渡してくれました。

 

「中々面白かったな。今度、俺とも個人戦をしよう」

「え、いいんですか? とてもありがたいです」

「今はあまり任務も入っていないからな」

「ところで──」

 少し気になったので、尋ねます。

 

「迅さんは」

「ああ、あいつか」

 くぃ、と。

 風間さんは本部上層を繋ぐエレベーターがある方向を指差しました。

 

「忍田本部長に連れていかれたぞ」

「.....」

「.....」

 

 さいですか、と。

 ただ僕はそう呟きました。




オリ主も大概天然入ってます。
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