界境の市   作:丸米

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最新話を消し、再投稿いたします。
理由としては、時系列のミスが発覚したからでございます。

村上と荒船の一連のイベントがほぼ原作開始時の年の5~6月でしたので。今回のお話の時系列から鑑みるとまだまだ先の事でした。
阿呆な作者ですみません。
反省も後悔もしております。
PCの前で五体投地しながらこの文章を打っているので許してくだせぇ。


クラウチングロケット

 ランク戦を終え、次の日。

 勝山隊は、中位に上がっていました。

 

「ひとまず安心ですね」

「はい」

 

 現在、嵐山隊は上位に君臨している。

 樫尾君の目標──木虎さんへのリベンジを果たすためへの第一歩はきっちり踏み出せたように思えます。

 

「という訳で、次の対戦相手が決まりました」

 

 本部からランク戦の予定が送られてきます。

 そこには。

 

「荒船隊と、那須隊ですね」

 

 那須隊と、荒船隊。

 両隊とも明確なエースがおり、確立された戦術の幹がある部隊です。

 先日の試合のように、全てが噛み合って上手く行く──という事は、ないでしょう。

 

「特に、那須隊長が要注意ですね。僕にとっては、最悪に近い相性の人です」

 那須玲さんは。

 射手のマスターランクの方です。

 

 彼女の厄介な所は、何といっても射手でありつつ、機動力も同時に持ち合わせている事です。

 

 容易に追いつけない立体軌道で障害物を盾にし、自在に軌道を変えられるバイパー弾をぶつけてくる。

 そもそも機動力で負けているうえに、こちらの攻撃は届かない。

 剣技での立ち技が中心になる僕とは、非常に相性が悪い。

 

「隊長は、よく熊谷先輩と訓練をしていますよね」

「ええ、そうですね」

「あ、そうなの?」

 少しばかり驚いたように、三上さんが声を上げます。

 はい。そうなんです。

「そうなんです。──熊谷さんも非常に崩し・返しが上手い攻撃手でして。よく訓練に付き合ってもらっています」

「成程.....ならば、隊長とかなり重なる部分があるのですね」

「もし相手にするなら、普段行っている崩しの訓練が役立つと思いますので。後でまた訓練しましょうか」

「よろしくお願いします」

「──那須隊は本当にいい人ばかりですので、ちょっと躊躇いもありますけど。そこは飲み込んで頑張らないといけないですね」

「.....那須さんとも、顔見知り?」

 笑みを浮かべながらも、ちょっと軽いからかいも含んだ感じで、三上さんは問いかけます。

「えっと。はい。あの人も技術室にご自身のデータを提出しに行きますので。そこで時々」

「へぇ...」

 うんうんと頷き、三上さんがそれだけを言葉に残しました。

 あの。

 えーと。

 この問答は、一体何だったのでしょうか......。

 まさかですが。

 僕が那須隊に何かしら問題行為を働いていないかを探っているのでしょうか。

 大丈夫です。

 あの高嶺の花の方々と自分とでは比肩できるなどと夢にも思っていませんので。ええ。当然ですとも。

 

 

 

「──荒船隊に関しては、狙撃手二人が厄介ですね」

「二人ですからね。狙撃手同士でのカバーリングが効くので、例え東さんでも落とされるリスクがある」

 荒船隊は。

 攻撃手一人、狙撃手二人という編成の部隊です。

 

 攻撃手の荒船さんはマスターランク間近の攻撃手で、狙撃手の穂刈君、半崎君は既にマスターランク。

 射手・銃手がいない部隊ゆえ、中距離からの制圧力に関して弱点を抱えていますが、同時に遠距離からの援護能力に大きな強みを持つ部隊です。

 狙撃手が二人いますので、狙撃で仕留めた後に居所が割れた後に、追っ手を更に狙撃で仕留める、と言った連携も可能です。それ故に、二人共に位置を把握しておかなければおちおち追っ手も出せない。

 

「狙撃手二人の部隊と、中距離での射撃戦に秀でた部隊。──この噛み合わせで一番得をしそうなのは、那須隊に見えますね」

「うん。私もそう思う。──今回、那須隊にマップ選択権があるから。多分、狙撃手に不利なマップをぶつけてくると思う」

 

 僕等は。

 攻撃手二人と狙撃手一人の編成。

 樫尾君がハウンドを持っていますが、基本は近接で攻めていく形となるでしょう。

 

 

 

「では。樫尾。序盤の戦術方針を頼む」

 僕等の会話にジッと耳を傾けていた東さんがそう言うと。

 樫尾君が、ゆっくりと話しだします。

 

「今回、マップ選択権が那須隊にあります。その中で最も選ばれる可能性があるのは──」

 

 ここだ、と。

 樫尾は言う。

 

「──工業地帯ですか」

 

 ふむん、と皆して呟く。

 

「──那須隊は中距離での制圧力に秀でています。射撃戦に有利な開けたマップが多い場所と、狙撃手を封じれる場所と考えたら、ここかな、と」

「成程」

 

 工業地帯は。

 特徴として非常にマップが狭く、その上建物の高低差が激しく狙撃地点が少ない事。

 そして

 開けた空間が多く、射撃戦で有利なる空間が非常に多い事。

 

 この二つが特徴としてある。

 

 この特徴が──那須隊の持つ中距離制圧力と狙撃手が不利となるマップの構築に非常に役立っている。

 開けたマップは射撃戦で大きな効果を有しますし、更に狭いマップだと狙撃手が見つかりやすく、また追われやすい。

 

 確かに。那須隊の有利を取るにはうってつけのマップと言えるだろう。

 

「今回、那須隊は東さんと荒船さんを非常に警戒してマップの選択を行ってくると思います。前回のように夜マップを選ばれることも視野に入れて動くべきだと想定して。作戦を伝えます」

 そう樫尾君は言って。

 僕等は、作戦をジッと聞いていました。

 

 

「......次の相手は、勝山隊かー」

 

 はぁー、と熊谷は溜息を吐いた。

「勝山君と当たるんだね。少し楽しみ──なんて余裕はないわね」

 と。

 那須が熊谷の声に返す。

「勝山君、この前生駒先輩にも勝ち越していたし。──何より厄介なのが、私の手がことごとく通用しない事なんだよね」

 

 熊谷は弧月での崩し・返しに定評のある攻撃手だ。

 そして、勝山も全く同じ技術を駆使して戦うタイプであり、それ故に共に稽古をしている。

 故に。

 同じ技術を使い、それでいてなお相手に上回られている状為。熊谷にとっては勝山は非常に相性の悪い相手だ。

 

「でも、玲と勝山君を鉢合わせればまだ勝ち目がある。私と玲の二人がかりで戦えるなら、多分確実に勝てると思う」

「......それは多分、あっちも解っている。東さんを使って、どうにか分断を図るでしょうね」

 

 そして。

 勝山だけでも厄介だというのに、あちらには最高クラスの狙撃手までいる。

 

「もう一人の隊員の樫尾君は.....まだ少し動きが固く感じる。でも、東さんがいる部隊なだけあって立ち回りの間違いはほとんどないわ」

「.....あ、東さん.....」

 

 その時。

 日浦は口を半開きにしたまま、ひぇーと唸った。

 

「何で東さんがいるんですかぁ.....」

 日浦がそう言うと

「泣き言言わないの」

 と。

 デバイスの先に繋がった、オペレーターの志岐の声が響く。

 

 東春秋の恐ろしさを如実に感じているのは、間違いなく狙撃手だ。

 何せ。現在狙撃手訓練における教導役を担っている人間がランク戦で相まみえるのだ。

 彼の指導の素晴らしさを知ると共に、裏返しての全てを見抜かれている恐ろしさも感じているもので。

 

「東さんも、ランク戦に参加している間は駒の一つでしょ。そりゃあ、指揮まで取られたら勝ち目なんて無くなっちゃうけど」

「ううー。そうですけどー」

「......今回、狙撃手が茜ちゃんも含めて四人。勝山隊には東さん。荒船隊にはマスターランクの狙撃手が二人。どうしても、狙撃能力で不利になるわ」

 

 今回。

 マップ選択権は那須隊にある。

 この有利を、出来る限り活かしたうえで戦わなければならない。

 

「狙撃を弱体化させる目的なら、環境を夜にすれば抑えられる。マップそのものは出来るだけ射撃戦が展開できる方がいい」

「だとしたら.....工業地帯?」

「うん。そこが第一候補ね。ただ、マップが狭くて合流がしやすい、というマップの性質を考えると。荒船隊はともかく、勝山隊が厄介な気がするの」

 

 勝山への勝ち筋を想定した時。

 まずもって──勝山が孤立した状況であることが条件となる。

 中距離での援護能力とグラスホッパーでの機動力を持つ樫尾や、遠距離からの東の援護が望める状態で勝山と当たりたくない。

 

 だからこそ。

 即座に仲間と合流できる環境は、かえって勝山隊の有利を働かせる可能性が高い。

 

「──色々と考えて行かなきゃいけないわね。まだ時間はあるから、結論を出す前に勝山隊の研究を少しでも進めておきましょう」

 

 

「──隊長」

「何だ」

「ソロでぶち当たって勝山君落とせますか?」

「無理だ」

「ダル......」

 

「そう言うお前もどうなんだ、半崎」

「何がですか?」

「カウンタースナイプ入れられるか、東さんに?」

「無茶言わんでくださいよ。ダル.....」

 

 荒船隊隊室。

 そこでは三人共に頭を抱えていた。

 

 何せ。

 今回相手をするのは──東なのだ。

 

 荒船隊部隊員の三人のうち二人は狙撃手だ。

 この編成が強みであり、また弱みでもある。

 

 そして。

 勝山隊の東という駒は、この強みを全て叩き潰せるだけの力を持っている。

 

「期待するしかないだろうな。那須隊のマップ選択に」

「ただ、那須隊が東さん対策するって事は、こっちも結局死ぬほど不利になる事と同じだからなぁ.....」

「どちらに転んでもウチが貧乏くじ引くって事すか。ダルゥ......」

「まあ、腐っても仕方がない。取り敢えず、まだあんまりデータのない勝山と樫尾のデータを見て、出来る対策をやっていくしかないわな」

 

 はぁ、と荒船は一つ溜息をつく。

 溜息もつきたくなる。

 東春秋とはそう言う存在だ。

 

 

「──うーむ」

 

 恐らく。

 相手は僕を孤立させてくるかと思われます。

 

 一対一の戦いに強い駒に対して、わざわざ集団戦の中で一人で来る事はないだろう。

 ならば。

 僕がやるべきことは、即座に樫尾君と合流する事でしょう。

 彼と合流をすれば、ある程度僕の弱みを消すことが出来る。

 

「ふむん....」

 そうであるならば。

 工業地帯は非常に都合のいいマップとなります。

 なにせ、マップが狭く合流がしにくいのですから。

 

「樫尾君」

「はい」

「先程の作戦会議。作戦自体は賛同しますが、マップの絞り込みに関して再検討をしましょう」

「マップ.....工業地帯以外のマップですか」

「はい」

 自身の推論を、樫尾君に伝えます。

 彼は一つ頷きました。

 

「了解です。その観点からも少しマップを検討し直します」

 

 樫尾君は本当によくできた人です。

 作戦に関して、非常に柔軟に意見を取り入れてくれる。

 ......木虎さんに負けて。良くも悪くも謙虚になったのでしょう。

 その謙虚さが、少し自己評価を低くしているようにも感じますけれども。こうして広く意見を傾けるという方向にも成長を遂げたのだと、思っています。

 

「すみません、三上さん」

「どうしたの?」

「那須さんのバイパーの解析を手伝って頂いてよろしいですか?」

「うん。大丈夫だよ」

 

 前期のランク戦の那須隊の記録を一から十まで見る。

 

「バイパーの軌道。この一戦だけでもあり得ない数のパターンがありますね」

「那須さんは出水君と同じでリアルタイムでバイパーを引ける人みたいだね」

 

 バイパーとは。

 射手トリガーの一つです。

 これは一言で言えば自由に曲げる事の出来るトリガーです。

 

 基本的には、どのような軌道で曲げるのかを予め何パターンか設定し、使い分けていくわけですが。

 

 那須さんは。

 その場その場で設定を変えながら、弾丸を放っているのです。

 これは本当に恐ろしい事で、那須さんは射程範囲内であればどのような場所、状況下におかれても弾丸を放つことが可能となります。

 その上で、機動力がある。

 ぴょんぴょん飛び跳ねて自らは障害物の陰に隠れて射線を切り、一方的に弾丸を囲んで仕留めるという芸当すら可能なのです。

 

 同等の機動力がないと常に障害物で射線を切られる。

 同等の射程がないとまた同じ。

 僕には両方ありません。

 

「リアルタイムで引いているといっても幾つかのパターンは見いだせるのかと思ったんですけどね」

 

 ない。

 残念ながら。

 

「一対一は厳禁ですね、那須さんには。相敵すれば──」

「すれば?」

「逃げます」

「それがいいよ」

 

 当然。

 相性の悪い相手とわざわざ部隊戦で一騎打ちするわけにはいかない。

 

「むしろ。那須さんがこの場で僕を単騎で倒せる駒ですので。僕がいれば食いついてくると思われます。なので囮として使うのもまあOKでしょう」

「だね。狙撃手が不利なマップだったら、敵の日浦さんもそう易々と動けないだろうし」

「後は荒船隊ですね.....陣形からある程度の狙撃地点を把握できれば....」

 

 さて。

 色々と考えて行きましょう。

 

 


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