さて。
ここで考えなければいけないのは。
荒船さんだけでなく。
この悪天候の中から狙撃を行使してくるであろう穂刈君に意識を割かなければいけない。
──この構図は、以前の訓練で体感しました。
三輪君と、奈良坂君との連携訓練の中で。
あの時は樫尾君がいましたが、今回はいない。
とはいえ穂刈君の位置は補足できている。荒船君は三輪君のように銃手トリガーを持っていない。
まだやりようはある。
「勝山君。どうする? これから狙撃手を狩りに行くのか。それとも射線が切れている場所まで移動して荒船先輩を迎え撃つか」
「──荒船先輩を迎え撃ちましょう。狙撃手を探しに行くのは今はリスクが高い」
高所に上がれば、大暴れしている那須さんがいます。それに未だ姿を現していない日浦さんもいます。
現在の吹雪という環境は狙撃手の狙撃能力に大きく下方修正をかけるが、隠形能力には大きく上方修正をかける。
ならば、射線から逃れる形で対策をかけた方が、リスクは少ない。
「出来るだけ、横幅が大きな建物の中が望ましいですね」
「ここから六十メートル南西に向かったところに廃校があるね」
「了解です。そこまで移動しますか。──まあ、出来れば、ですけど」
瞬間、第二の狙撃が放たれる。
弾道は多少ズレてはいますが、方向的には同じ。読んでいたので、最小限の動きでそれを避ける。
その動きに合わせて、荒船君が斬りかかってくる。
「──おぉ!」
斬りかかる弧月の側面を抜刀で払い、横薙ぎの一撃。
荒船さんの肩口の辺りからぶしゅ、とトリオンが漏れる。
その斬撃に合わせ、身を屈め足元への斬撃を一つ。
荒船さんがバックステップでそれを避けると同時。
僕は左手に散弾銃を生成しながら、同じようにバックステップ。
「こいつ......!」
散弾を荒船さんに放ち、シールドで防がせ、足を止めさせる。
よしよし。
距離も開き。
そして足も止めさせた。
「それでは移動をしましょうか」
三上さんが指し示す最短ルートを辿り、移動を開始する。
近場の住宅の壁を散弾で撃ち砕き、斬り裂き、蹴破り、進んでいく。
狙撃を警戒しながら動くとなると、この方法が一番です。そう東さんから学びました。
が。
「──隊長! 左手側から反応が!」
石垣のある立派な邸宅に侵入した、その時でした。
三上さんからの警告に左手側に弧月を構えると──。
旋空が、襲い掛かる。
「熊谷さん......!」
「反応がいいじゃない.....!」
身を屈めそれを避けると同時。
僕は左手の散弾銃を足元から撃ち放つ。
「く......!」
足元を散弾で動かし。
その身体に旋空を叩き込もうと振りかぶった瞬間──。
脳内にアラートが響き渡り、すんでの所で止める。
先程僕が通って来た道から、ふと雪に紛れた人影が見えたから。
「──さっきはよくもやってくれたな」
「荒船さん.....!」
更に、僕に旋空を叩き込む。
荒船さんの姿が見えた。
回避動作に入るものの、回避しきれず。
脇腹が斬り裂かれる。
その中でも。
何とか身体を回旋しながら散弾銃を放つ。
「お....っと!」
荒船さんはもう流石に読んでいたのか。シールドを展開しつつそれを避ける。
──周囲を見る。
僕と荒船さんと熊谷さん。
この三人が──雪が降りしきる広い庭園の中に佇んでいました。
※
勝山隊の最初の方針は。
真っ先に勝山を狙うであろう那須を、勝山で釣り出して仕留めるという方針であった。
勝山で釣り出し東で仕留めるか。
東で出来ないのならば、樫尾との合流地点まで炙り出した上で連携して仕留める。
ここまでが作戦であった。
だが、那須と勝山の転送位置が真逆で、かつ勝山の転送運が非常に悪かった。
この場合は、勝山の役割を樫尾に担わせると当初から決めていた。
だが。
出来るのか。
──マスターランクの射手相手に、それが。
いや。
......やるしか、ないのだ。
日浦の狙撃を警戒しつつも。
東の狙撃ポイントに、那須を炙り出す。
よし、と一言呟き。
樫尾はバッグワームを解いた。
それに反応してか。
弾丸が走ってくる。
「ぐ.....!」
視界が悪い。
その中を、見た事のないほどに多様な弾丸の雨が降り注ぐ。
大丈夫だ。
この距離感ならば、あちらも正確にこちらの位置を把握はしていないだろう。
降り注ぐ弾雨も、その全てが全て樫尾に向かっている訳ではない。
リアルタイムに弾道が引けたとしても、弾道を引く先がしっかりと見えている訳ではない。
それはこちらも同じだが。
「──ハウンド!」
ハウンドを放ちつつ。
シールドを張りつつ。
逃げる。
逃げる。
そうして。
東さんの狙撃ポイントまで、追い込む。
だが。
「──そうは、甘くないか」
今度は逃走先の方向から弾を曲げてやってくる。
防ぐ。
防いだら。
次は頭上から。
「──くそぉ..」
逃げる事すら満足に出来ない。
「──樫尾君! 大丈夫!?」
窮状に。
三上の声が響く。
「はい....! ですが、このままだとまずいですね...」
「──樫尾君! 左手側の建物に逃げて!」
「え──」
またもや。
同じように曲がる弾丸が襲い掛かってくる。
が。
「──合成弾が来ている!」
三上の声に顔色を変え。
樫尾は即座に指示通りに建物に入る。
弾丸は。
建物に入った瞬間に──爆発四散する。
合成弾。
現A級1位部隊である太刀川隊射手、出水公平が生み出した技術の名である。
これは。
射手トリガーによって生成されたトリオン同士を混ぜ合わせ、その性質を重ね合わせて放つ高等技術である。
今回那須が使用したのは。
バイパーとメテオラを重ね合わせた──トマホークである。
バイパーは曲げることが出来る弾。
メテオラは爆発する弾。
これを二つ組み合わせることで──「自在に曲げられる爆発する弾」を生み出した。
建造物という盾を身に纏い、何とか致命傷は防げた樫尾であったが。
一部中に侵入した弾丸は防げず左足を損傷する。
「──すぐに、この場を離れねば.....!」
三上の指示がなければ死んでいただろう。
無駄にしてはならぬと、即座にその場を離れようとして。
樫尾の頭部が、貫かれた。
「え」
トマホークによって吹き飛ばされた家屋。
そこで。
射線が、出来上がっていたのだ。
ライトニングを構える日浦茜の狙撃によって──樫尾は緊急脱出した。
※
その報は。
勝山にも伝わる。
「──那須さんが生きているんですね」
樫尾が死に。
那須が生き残った。
という事は。
勝山の余命もそう多くは残されていないという事だ。
だが。
熊谷が左から斬りかかると同時。
荒船が背後を取り旋空を放っていく。
──この三つ巴。
歪な利害関係の構築により。
熊谷と荒船との間で一時的な共闘関係が出来ていた。
勝山を狙っていた。
「──これは、中々」
熊谷の斬撃を払い、蹴りを入れ。
荒船の旋空を避けながら腕を背後に回し散弾銃を放つ。
この場におけるパワーバランスと状況を鑑みて。
勝山に狙いが定められている。
敵同士の連携。
こういう場合は、往々にしてあるのだ。
呉越同舟。
そういうものも。
「──は」
那須が来るまでに。
この二人を片付けなければいけない。
だが。
二人は当然のように連携して仕留めにかかってくる。
何というピンチだろう。
「はっ」
勝山の表情に。
笑みが零れる。
──いいですね。
笑む。
──追い込まれている。追い込まれている。いいじゃないですか。
一つ行動を誤れば即座に死亡する状況下。
勝山の心中は──非常に高まっていた。
楽しい。
こういう場面では。
リスク承知での捨て身の戦いすらも、選択肢の一つになる。
死ぬ算段の方が高いのだ。
さあ。
頭を働かせよう。
この場合。
まずは一殺だ。
狙うは。
「──」
──弱い方だ。
左手に散弾銃。
右手に弧月。
逆手に握るいつものスタイルを捨て。
通常の握りに戻す。
回れ右の要領で足先だけ荒船に向け。
散弾銃を撃つ。
シールドを張り荒船が足を止める瞬間。
熊谷へと向かう。
「......!」
熊谷の表情に、
ほんの少しだけ、怖気のようなものが見えた。
斬りかかる。
熊谷はそれを受け太刀する。
ここで鍔競りしている余裕は今はない。
散弾銃で足を止めている一瞬の攻防で、少しでもダメージを与えなければならないのだ。
上空からの斬りかかり攻撃。
受け太刀。
立ち技にはいかず、そこから身を屈め──足払い。
熊谷の頭の中にはこの場合崩しを仕掛けるイメージが大きいのだろう。
だからこそ引っかかる。
足払いにかかった熊谷は、踏ん張りを利かすもののそれでも体勢を崩しかける。
足払いから身を起こす中で、突きあげるように肩から当身を食らわし、熊谷に尻もちをつかせる。
ここでは。
とどめはさせない。
体勢を崩させた状態から、バックステップでその場を離れる。
ステップをしながら。
旋空を放とうとしている荒船に、先んじて旋空で牽制を入れ。
熊谷には斬撃の代わりに散弾銃を浴びせる。
「あ.....!」
斬撃が来る事を前提に、狭いシールドを展開していた熊谷は、弾丸の幾つかが身体に命中する。
荒船には牽制。
そして熊谷には攻撃。
この流れを徹底していく。
こうすれば。
荒船側は──自分は狙われていないという先入観から、防御寄りの立ち回りになり。
熊谷側には、この連携が続いているうちに勝山を倒さなければならないという焦りが引き出されていく。
敵同士が連携していく中。
定石は弱い方から狩る事だ。
なぜなら、弱い方が焦りやすいから。
旋空の設定を変える。
起動時間を長くし、射程を落とし──その分斬撃の距離を稼ぐ。
ぐるり、と身体を回旋させながら広範囲の旋空を振り回す。
両者ともがその範囲から逃れる動きをする瞬間。
回旋の勢いを足先に伝え、熊谷の方向へ勝山は飛び込みながら──散弾銃を浴びせる。
バン、バン。
響く散弾銃の銃声と共に、着実に熊谷の身体は削れて行く。
シールドで散弾銃を防ぎながらの、熊谷の斬撃。
それを受ける──動きから、旋空から幻踊へとセットしなおした弧月で、斬撃をすり抜け斬撃を浴びせる。
熊谷さんの左足がそれで斬り飛ばされる。
そうして荒船の動きを同時に見る。
勝山と熊谷──両方を斬り裂かんとする軌道の旋空を放っていた。
勝山も熊谷も、双方とも斬道から身を逸らし避けるが──。
「.....あっ」
その時。
勝山の左手が斬り落とされ──散弾銃が地面に落ちる。
──まだ使わなければいけないんですよね、散弾銃。
そして。
左手ごと落ちる散弾銃を蹴り上げる。
そして。
散弾銃のバレルを、噛む。
「──おいおい」
荒船が信じられない、とでも言いたげな表情を浮かべた。
2対1の状況下の中で巡る攻防の中。
勝山は弧月を右手に握りながら──散弾銃を口に含み、咥えていた。
その様は、まさしく鬼気迫るものがあった。
恐らく。
あと一回の攻防で──
「....」
全身くまなく散弾銃の弾丸を受け、左足も損傷した熊谷が、落ちる。
そうなれば──勝山を落とせるかどうかが、非常に怪しくなる。
これが──両者ともに完全な味方であれば、勝山は落ちていたであろう。
だが。
荒船も熊谷も、所詮は敵同士だ。
敵同士の連携は利害関係で結ばれている。
ならば──どちらかの利を極端に大きくすれば、連携なんて即座に崩れる。
勝山は。
荒船には牽制だけを行い、
熊谷にのみ攻撃を集中させるという駆け引きを続けることで。
荒船を近づけさせず、遠方からの旋空を放たせる役割に固定化し。
そして熊谷に着実にダメージを与える事に成功させた。
ここまでは狙い通り。
そして。
この役割は──今もまだ固定化されている。
焦っている熊谷が早めに動き出す。
その動きを見て、荒船が旋空の準備をする。
勝山は斬りかかる熊谷に斬撃をする──と見せかけ。
地面に弧月を突き刺し、咥えた散弾銃を右手でキャッチし──身を屈め、下側から散弾を放つ。
「──くっそぉ.....!」
予想外の一撃に。
熊谷は緊急脱出する。
身を屈める動きは、同時に荒船の旋空への回避動作であった。
「......」
「......」
勝山は散弾銃を投げ捨て。
弧月を再度手に取る。
2対1の連携の果てに。
勝山は十分に傷ついていた。
型と脇腹を斬り裂かれ、左手も斬り落とされている。
勝山は左肩を前に出し。
右肩に弧月を担いだ。
「...」
「...」
勝負は、一瞬。
さあ。
──荒船は何を選択するだろうか。
間合い外からの旋空だろうか。
それとも、斬りかかるだろうか。
どちらでもいい。
荒船は。
旋空を選んだ。
縦からの、旋空による斬り込み。
これを身体を翻しながら。
担いだ弧月を回旋に合わせ、斬撃に転化する。
ざっくりと、勝山は旋空で袈裟を斬り裂かれながらも──何とか急所であるトリオン供給体を守り。
踏み込んだ一撃が、荒船の首元を刈り取った。
荒船もまた、緊急脱出する。
「.....」
那須が、もう近くまで近づいてきている。
「──すみません、東さん。後は頼みました」
勝山はそう言うと。
即座にその場を離れ──敢えて狙撃手の射線に入り込みながら、那須から逃亡する。
これもまた、敵同士の利害関係の一致による連携だ。
那須隊に点をやりたくない勝山。
無得点のまま終わりたくない荒船隊。
──荒船隊狙撃手、穂刈からの一撃により、勝山は緊急脱出した。
※
「──ごめん。勝山君は穂刈君に仕留められた。あと残っているのは」
那須がそう通信を入れる。
その瞬間であった。
──日浦、緊急脱出。
「茜ちゃん!?」
那須が勝山を追い、反対方向へ向かっている最中。
樫尾を仕留め、潜んでいた日浦茜は。
那須が丁度反対側に向かったタイミングで仕留められた。
「.....やられたわ」
勝山隊に1ポイント入る。
やったのは東だ。
この環境下では狙撃手では太刀打ちできない那須が勝山を狩りに行くタイミング。
そのタイミングを見計らい──日浦を仕留めた。
ここまで距離が空けば。
後は隠形に徹するであろう東を仕留める事は出来ないであろう。
となると、残る駒は──荒船隊の穂刈しかいない。
「....」
勝山を仕留めた穂刈を見つけ、那須は仕留める。
これで。
勝山隊は三ポイント
那須隊は三ポイント
荒船隊は一ポイント
共に得点数は一位のまま──那須と東だけが残された。
「....」
「....」
そうして。
タイムアップが宣告された。