界境の市   作:丸米

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What Do You Want?

「──タイムアップで終了。これで勝山隊、那須隊がそれぞれ3ポイントを取って同率で1位だな」

 試合は。

 那須と東がそれぞれマップに残された状態で終える事となった。

 

「──じゃ、総評を頼むぞ二人とも」

「じゃあ俺から話そうかな。やっぱり、那須さんは強いな、って感想がまず最初に来るなぁ」

 藤丸に話を振られ。

 まずは里見が、そう切り出した。

 

「那須さんの厄介な所って、機動力があるって特性と弾を自在に曲げられる特性がしっかり噛み合っている所なんだよね。これはボーダー全体を見回してもこの二つの特性の両方を持っている人は那須さんだけなんだ」

「そもそも、弾をその場でリアルタイムで曲げられる人が、那須隊長と出水隊員しかいませんからね」

「だから、基本的に那須さんを倒すには連携して倒すしかないんだけど。狙撃手の連携が吹雪の環境設定で出来なくなった。ここで那須さんを倒す手が一気に無くなっちゃった感じだね」

 

 今回。

 特に荒船隊に関しては、狙撃手が二人もいる関係上、攻撃手が追い込みをかけ、狙撃で仕留めるという形の戦略を取る事が多いのだが。

 吹雪の設定と那須の存在でその連携が封殺された形だ。

 

「荒船隊は、本当に組み合わせも環境も全て不利に働いていましたね。今回ばかりは仕方ないように思います」

「だね。作戦としては那須隊はしっかり嵌まっていた。だからこそ、ここで同率の一位に持っていけた勝山隊もまた凄いな~って思うんだよね」

「今回。勝山隊は本当に力推しで三点をもぎ取ったという感じですね」

「勝山君で2点。東さんで1点。今回の吹雪の環境の特性を即座に対応して東さんを終盤まで動かさずにいたのは英断だったと思う」

 今回の勝山隊の動きは。

 勝山の転送位置が東・樫尾と大きくずれ込んでいた上に、那須から非常に遠かった。

 それ故に勝山は那須が到着するまで暴れまわり点を取る方針に切り替え、2点をもぎ取り。

 樫尾が動くことで那須を狩ろうとしたのだろうが、それは失敗。代わりに終盤で日浦を仕留め東が1ポイントを稼いだ。

 

「勝山君に関しては、散弾銃をこう使うか~って感じだね。あの分だと、万能手になるのも近いかもしれないね」

「今回、勝山隊長は2対1の局面において散弾銃を非常に多用していました。銃手の観点から見て、里見君はどの辺りに散弾銃の妙があったと考えましたか?」

「勝山君は荒船先輩、熊谷さんの二名を相手取る中で。基本的に荒船さんを牽制して足を止めさせている間に、熊谷さんにダメージを与えるという方法をとっていたと思います」

「だな。熊谷と勝山がぶつかり合っている所に、荒船がちょい離れた所で旋空を差し込んでいったってのが、あの局面でよく見る場面だったな」

「勝山君は旋空と散弾銃の二つが中距離での選択肢があった。これを本当に上手に使い分けしながら、あの局面を切り抜けていたな~って思うんですよね」

 幾つか攻撃の中でパターンがあった、と。

 里見は解説する。

 

「荒船さんに散弾を撃つ。そこから熊谷さんに攻撃を仕掛ける。これがパターン①。そして二人同時に旋空で足を動かして、熊谷さんに向けて散弾銃を撃ちながら突っ込んでいく。これがパターン②。荒船さんと熊谷さんの距離が十分に離れている時はパターン①を使って、距離が縮まっている時はパターン②を使う。大まかに解説するとこういう使い分けを勝山君はしていたんだ」

 

 散弾銃で荒船の足を止め、その隙に熊谷に斬りかかる。

 

 両者が近づけば、旋空で分断した上でそこから熊谷へ散弾銃を撃ちながら近づく。

 

 この二択。

 

「勝山君の動きは凄く解りやすくて。とにかく2対1の局面になってしまったのなら取り敢えず一人落とそう、という考え。だから二人が同じ距離感で連携を取ってこられたら反撃が中々出来ないから、一人は安全圏で旋空を撃たせる役割に固定化させて、一人に集中して攻撃していたんだと思う。それで攻撃目標が熊谷さんに固定化されちゃった」

「何で荒船じゃなく、熊谷だったんだ?」

「荒船さんはこの場面で無理して斬りかからないだろうって判断したんだと思う。隊で唯一の攻撃手で、落ちちゃったらもう狙撃手一人しか残されない状況だったから」

「その上で、熊谷さんは思い切り気候条件で有利を取っている那須さんが近づいてきていましたし。生かしておいたら後々面倒、とも思っていたんでしょうね」

「散弾銃の強みであり弱みは、拡散性なんです。拡散するから正確に構えなくても当たりやすいけど、その分シールドの貫通はしにくい。ここで勝山君は弧月での斬りかかりで二択を取る事で上手く散弾銃の強みを活かしていたんです」

 

 散弾銃は。

 何発かの弾を一斉に拡散して撃つ銃手トリガーだ。

 

 それ故に、当たりやすい。点ではなく面で攻撃するから。

 それ故に、弾かれやすい。点ではなく面で攻撃するから。

 

 この性質を利用し。

 弧月での攻撃でシールドの設定を狭めさせ。

 その後の散弾銃での広範囲面攻撃の当たり幅を大きくしていた。

 

「特に。弧月はシールドでは防げない攻撃力があるので。散弾銃との二択で使い分ける方法はかなり有効だと思いますね」

「今回はそれがきっちり嵌まったなぁ、と。でも本当に面白い散弾銃の使い方だな、って思いました。──とはいえ、長物二つ使って戦っている訳なので、機動力は凄く落ちますし、シールド使えない分防御もしにくい。諸刃の剣ですね」

「とはいえ、結果的にここで2点を取った事で、同率1位まで押し上げる事が出来た訳ですね。そういう意味では、樫尾君の粘りは全く無駄ではなかった」

「うん。樫尾君が頑張った分だけ、那須さんが勝山君の所に到着するのが遅くなった。それで勝山君が穂刈君に敢えて落とされる時間稼ぎも出来た訳で。凄くいい粘りだった」

 

 樫尾は。

 那須の撃墜を狙い追い込みをかけたが、逆に追い込まれ日浦に仕留められた。

 とはいえあの攻防で那須に対する時間稼ぎができ、そして日浦の居所を炙り出し東が仕留めることが出来た。

 奮闘は、無駄ではなかった。

 

「そして最後の隠れあい。こういう局面になった時、東さんは本当に強い」

「多分、環境設定した那須隊もこの場面を想定はしていたと思いますね。最終局面で東さんが残っていれば、生存点は稼げないと」

 

 東は。

 隠形の達人だ。

 恐らくは単独で探し出すことが不可能であり、他部隊と連携を取った人海戦術でも使用しなければ

 それ故に吹雪の環境下で探し出すのはほぼ不可能と化す。

 

「勝山隊は東さんとエースの勝山隊長がいるので、安定して点数を出せる部隊だとは思います。ただ、東さんが中々見つけられない関係上、特に得点源の勝山隊長は非常に狙われる機会が多くなると思います」

「あのスタイル。銃手や狙撃手相手と連携を取られると中々相性が悪いと思うから。樫尾君と連携をした時にどれだけやれるか、っていう部分が凄く重要になってくると思いますね」

 

 今回で。

 勝山はかなり自身の戦い方を晒した。

 

 その分だけ──次回より、かなりの対策を打たれるであろう。

 

「まあランク戦の先は長ぇだろうしな。勝山隊も新興部隊だ。これから対策も打たれていく中でどう動いていくか。──今後もその辺りを注視しながら見ていこうじゃねぇか」

 

 

「──丸裸にされた気分ですね」

 

 僕は溜息をつきながら、下を向いた。

 

「まさか駆け引きの部分まで綿密に解説されるとは思わなかったです.....」

 うーむ、と唸る。

 今回は2対1の局面で余裕がなかったとはいえ。

 少しばかり手札を晒しすぎた感じがあります。

 

「まあこれもまた勉強だ。対策を打たれたら、対策の対策だ。その為の準備も用意してある」

「おお。ありがとうございます東さん」

 

「さて。振り返りを行おうか。──まずは、そうだな。勝山から」

「そうですね。......今回は悪運に助けられた部分が多かったように思いますね」

「ほう。悪運」

「はい。転送位置が悪く合流が絶望的になったのは運が悪かったですが。那須さんの転送位置が逆で相手にしなくて済んだのは、運が悪い中での救いがありました」

「成程」

「ただ。その分の負債が樫尾君に向かったような形だったので。結局隊全体で見ればあんまり.....とも思いました」

 今回。

 本来僕が負うべきであった囮の役目を樫尾に任せる事となり、これで序盤の計画が大きく狂ってしまいました。

 結局は、那須さんを倒しきれず、東さんの生存能力頼みで終盤を投げ出してしまった事には、大きな後悔が残ってしまった部分です。

「解った。──では、樫尾はどうだ」

「今回......解説の二人にはフォローされましたけど。あそこは、那須さんを仕留めなければいけなかった、と。個人的には思います」

 

 那須さんを引き付けることで、時間稼ぎが出来た。

 

 それはただの結果論だ、と。

 樫尾君は言います。

 

 それを狙って行ったのならば、褒められてもいい。

 だが。

 あの場面──東さんの狙撃地点まで那須さんを追い込むつもりで仕掛けに行ったのであり、それで返り討ちにあっただけの結果だ、と。

 そう樫尾君は言いました。

 

「──那須さんの実力を、解っていたつもりでした。でも、所詮はつもり、でしかなかったのだと、気付かされました.....」

 

 そう樫尾君が言い終えると。

 東さんは頷きました。

 

「三上。オペレートしていて、どう思った?」

「私は....」

 三上さんは少しだけ口ごもり、

 そして言いました。

 

「隊長が最後に穂刈君に敢えて倒されに行った部分......。あの時、ちゃんと私が主張していればよかったな、って。思いました.....」

「何を?」

「穂刈君を最後まで追いませんか、って」

 

 あ、と。

 僕は呟いていました。

 

「あの局面。私はある程度穂刈君の位置を把握していました。確かに、那須さんが迫っている中、凄くギリギリだったとは思うんですけど。──もし出来たら、四得点取れたんじゃないかな、って」

 

 そうか。

 あの局面。

 僕は即座に自殺に行くのではなく──まずは三上さんの意見を聞くべきだった、と。

 

 東はうんうん、と頷き。

 

「今回皆が学ぶべきは──相手と、自分の戦術レベルの差を鑑みなければならない、という事だろうな」

「戦術レベル.....」

「ああ。相手が持つ戦術を正確に予測し、最も妥当な行動を取る事。単純なようだが、これが難しい。相手の事も自分の事も、過大評価も過小評価もしてはならないんだ」

「東さんの目から見て──僕は穂刈君を狩りに行く事は可能だと、思いましたか?」

「出来たと思う」

 

 その一言が、非常に痛い。

 僕は──少々諦めがよすぎたのですね。

 

「三上の解析能力は。俺がここまで見てきた限り、ボーダー全体から見ても非常に高いレベルにある。彼女の力を十分に使えば、那須に狩られる前に穂刈を撃つ事は出来たと、俺は思う。そして樫尾は──」

「......はい」

「やはり、もう少し慎重に動くべきだった。お前はこの隊の指揮官だからな」

 

 樫尾君もまた。

 顔を歪めている。

 

「──まあ、だがな。俺は同時に確信もした」

 

 東さんは。

 一通り振り返りを終えると、言った。

 

「ここにいる四人で──上位を狙える。それだけの人材が集まっている」

 

 だから。

 

「一つ一つ、課題をクリアしていこう。そうすれば──この隊が解散している頃には、一段と皆成長しているはずだ」

 

 そう言って。

 笑った。

 

 

 何というか。

 東さんは流石だなぁ、と。

 

 あの最後の一言で。

 自罰的だった樫尾君の表情も幾らか柔らかくなりましたし。

 隊としてのモチベーションも非常に高まったようにも思えます。

 

 東さんは。

 ビックリするほどに穏やかな方です。

 厳しく統制をかけることもしません。

 ただ、あの柔らかな声で僕等にヒントを与えるだけ。

 

 それだけです。

 それだけで──皆がどの方向へ向けばいいのかが、少し考えれば、解る。

 この。

 少し考えれば、という部分が重要なのだと思います。

 考える中で正解への道筋を示すのではなく。

 枝葉を見せた上で、正答を選び取らせる。

 この思考の連続で、僕等はモノを考える事を覚えていく。

 僕等の思考を十全に読み取った上で、必要な言葉だけをかけているのでしょう。だから、厳しい物言いなんてあの人には必要ないのだ。

 

 野球部でキャプテンをしていて、幾人かの監督を見てきましたが。

 あれだけ思慮深い人は見た事がありません。

 そして。

 あれでまだ二十代中盤というのも、何かがおかしいと思うばかり。

 

「三上さん」

「うん?」

「すみません」

「ううん。いいの」

 

 三上さんは。

 この前の鍋パーティーから、週に一度。僕の分まで買い物をして寮の部屋まで持ってきて頂いています。

 

 これは強制的に決まった事でした。

 その足で警戒区域を超えて市内の買い物をする負担を考えれば。素直に頼れ、と。そう言われました。

 三上さんはどうせ買い物はするのだから、ついでだと仰っていただいておりますが。

 それはそれとして本当に申し訳がない。

 

 という訳で。

 

 せめてものお返しに、と。

 学校に勉強に家族の世話に、と忙しない日々を送っている三上さんに。

 こちらも幾らかの総菜を作って三上さんに差し上げる事にしました。

 

 なので週に一度、部屋で二人してお茶をする時間が生まれる事になりました。

 

「──同じだよ、隊長」

「ん?」

「樫尾君も隊長も。──理解すればするだけ、ちゃんと互いに頼れるようになると思うから」

 

 茶を啜りながら。

 三上さんはにこやかだった。

 

「今度は。ランク戦の場面でも、頼ってね」

「はい。肝に銘じておきます」

 

 そうです。

 まだまだランク戦は始まったばかり。

 

 ここからです。

 また明日──今日よりも1パーセントでも成長すれば。

 

 それはちゃんと積み重なっていくのだと。

 だから。

 一つずつ学んでいけばいい。

 そう──思いました。

 


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