界境の市   作:丸米

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助演男優賞

散弾銃を辻に向け。

 その足を止めさせる。

 

 その隙に斬りかかろうとする犬飼は。

 既に勝山の攻撃範囲から逃れ、ばんばんと銃声を鳴らしている。

 

 ──犬飼先輩との戦いは、楽しくはないですが本当に為になります。

 

 足を止めれば突撃銃で手足を削りに来る。

 近づこうとすればハウンドで足を止め辻に斬りに行かせる。

 辻と斬り合っていれば、頭→腕→足というように、シールドでカバーが利かない範囲に狙いをつけて着実に削りに来る。

 

 戦えば戦うほど。

 勝山が持つ弱点が浮き出てくる。

 

「──勝山君はさ」

 

 辻を旋空で仕留め、その瞬間に犬飼が銃弾を走らせる。

 何とか反応しシールドを発生させると同時。

 シールドの発生地の前から弾が曲がり、足元が貫かれていく。

 

 ......本当に。こちらの思考を的確に読んでくる。

 

「強みをより活かすって意味では──足を止めずに戦える手段を持った方がいいと思うんだよね」

 

 タタタタタ、という小気味よい音を刻みながら、犬飼先輩はこちらの脚を削っていく。

 ......うーん、厄介。

 

「立ち合いでの強さって対攻撃手のタイマンでは本当に強いけど、結局連携組まれると足を止めることになるからね。ほら、こんな風に」

 

 タタタタタ。

 辻君が前に出て、僕を止め、犬飼先輩に撃たれる。

 この連撃だけで勝山は完全に封殺されていた。

 

「散弾銃も、2対1になったときに片方を足止めするには有効だけど。結局足を止めさせたところで倒すのに手間取っていたら意味はないからね」

「勝山君、新しいトリガーを追加するつもりはない?」

 

「そうですね.....」

 

 この訓練でも、やっぱり理解できる。

 自分は、まだまだ弱い。

 

「少し.....考えていたことがあります」

 

 サブトリガーに空いた、もう一枠。

 ここに入れるべきトリガーは何なのか。

 

 変えていかなければ。

 そうでなければ──この部隊を組んだ意味がない。

 

 色々と。

 試していきましょう。

 

 

「──あ」

 二宮隊での訓練を終えて、作戦室に帰るついでに個人ランク戦ブースを覗いてみますと。

 見知った顔が。

 

「こんにちわ、照屋さん」

「勝山先輩。お久しぶりです。──合同任務以来ですね」

 

 同期入隊の照屋文香さんがいました。

 

「今日は個人戦に?」

「はい。──ちょっと稽古をつけてもらってました」

「稽古.....ですか」

「ふふ。──次の試合、楽しみにしていてください」

 

 笑いながら、そう照屋さんは言いました。

 成程。

 何かしらの隠し弾を用意しているらしい。

 非常に楽しみです。

 

「──先輩も、もう隊長なんですね」

「そうですねぇ」

「どうですか。新しく隊長となった気分は」

 

 気分。

 気分、ですか。

 

「──何というか。まだ地に足がついていない感じですね。僕の場合」

「まだ、あまり実感がない感じですか」

 ですね、と呟く。

 実感がない。

 東さんは当然として、樫尾君もとてもしっかりした人です。

 

「とはいえ。──まあこのままではいけませんけど。でも、隊長って肩書をあんまり重く捉える必要もないと思います」

「.....そう、ですか」

「隊は隊です。──僕は隊長ですけど。東さんよりも、樫尾君よりも、自分が上だなんて一度だって思ったことは無いです。むしろ色々気をまわして戴いているのは東さんの方なので」

「....」

「僕は──単に現場で最終決定をするだけの人間です。樫尾君とも平等な立場で作戦を話し合いますし、訓練もします。多分東さんがいなかったとしても、この形は変わらなかったと思います」

 

 照屋さんは。

 じっくりと、考え込み始めました。

 

「......平等。平等、か」

 

 ふむん、と。

 その言葉を反芻していました。

 

「成程。──先輩」

「はい」

「ありがとうございます。──色々と、私がやるべき事が見えてきた気がしました」

「それは....よかったです」

 

 あとですね、と。

 照屋は言った。

 

「以前。──勝山先輩は恋情と親愛は違うものであると仰っていたと思います」

「はい。言っていましたね」

「そうだな、と。私も思います」

「おお。意見の合致ですね」

「──そして。違うものだからこそ、同居できるものだとも思います」

 同居。

 ──ううん? 

 いえ。

 言葉の意味は解るのです。

 ただ──それを照屋さん自身が言っているという事実の方に。少しばかり混乱が走る。

 

「はっきりと自覚しました。──私は私の手で、柿崎隊長を支えてあげたいんです。他の誰でもなく、私自身が」

 

 それが。

 照屋文香の本心。

 

「結局のところ──恋しているから、エゴがあるんです。それだけの話でした」

 あっけらかんと。

 照屋さんは──柿崎隊長への恋情を口にしました。

 この辺りの、自覚してからの割り切りの速さも流石というか。凄まじいものがあるなぁ、なんて思ったりもして。

「そ、そうですか...」

「しかし、──うーん、大変ですね。隊長は三つ年上です」

「そうですね」

「人並み以上の常識だったり、倫理観を持っていますと......これだけの年の差があると躊躇せざるを得ない部分もあると思います」

「でしょうね....」

 現在柿崎隊長は18歳で、照屋さんが15歳。

 高校三年生と中学三年生。

 来年になれば大学生と高校生です。

 

 ......本当に、三つという年の差は絶妙な所です。

 

 ギリギリ、身分が異なる。中学生と高校生。高校生と大学生。

 多分、柿崎隊長は照屋さんを意識していないでしょう。意識していたとしても、それを無意識の次元に叩き落していると思われます。そういう人です。

 

「──まあでも。自覚しただけ前進ですから」

「前向きですね」

「戦いは、勝つつもりでいかないと意味がないですからね。──私は勝ちます。柿崎隊長にも。そして先輩にも」

 

 そう言って。

 

「──目的があるって、幸せなことですね」

「はい。僕もそう思います」

「なので──お互い、目指すところまで頑張っていきましょう」

 

 照屋さんはにこやかな笑みを浮かべそう言うと、こちらに一礼してブースを後にしました。

 

 

「さて」

 

 どうしたものでしょうか。

 個人戦ブースに寄って、何もしないというのも勿体ないですし。

 

 周囲を見渡しキョロキョロと見回します。

 ふむん。

 知り合いは誰もいませんでした......。

 

 仕方がないので作戦室に戻って鍛錬でもしようかと背を向けると、

 

「──勝山先輩」

 

 声が聞こえてきました。

 少しだけ鋭い、突っつくような声です。

 

「あ。こんにちわ木虎さん。......ん? はじめまして、でしたっけ?」

「会うのは二度目ですからこんにちわでいいですよ」

「あ、そうでしたか。それは失礼いたしました」

「隊結成、おめでとうございます」

「ありがとうございます。──ああ。その分でも、僕は木虎さんに感謝しなければいけませんね」

「....? 私に感謝ですか。何故?」

「──貴方にリベンジしたい一心で、樫尾君が隊に入ってくれたからですね」

 

 そう言うと。

 木虎はふぅん、と一つ呟いた。

 

「──木虎さんは。どうですか。貴方にボコボコにされた日から、樫尾君の動きはよくなっていると思いますか?」

「まだまだです」

「まだまだ、という事は。前進はしているという事ですね。それはよかった」

「.....意識が変わった、という点では認めます。でも、空回りしている感じも受けます」

「空回り、ですか」

「──東さんと、そして先輩。ここのラインにどうにかついてこようとして、実力以上の立ち回りをしようとしている」

 

 そうなのでしょうか。

 

「この前の那須先輩相手の攻防でもそうです。──あの場面、東さんの狙撃地点までの誘導をするつもりで立ち回っていたんでしょうけど。地形条件ですら不利を取らされている射手相手に、”誘導”なんて事が出来るわけがない。動くなら樫尾君ではなく、東さんが動くべきだった」

「....あの試合。僕としても大きく反省していますね」

 あの試合。

 東さんを有効活用できなかった。

 そこに関しては、大いに反省しているところです。

 

「──短期間で実力が飛躍的に上がることは無い。向上心は認めますが、現実を見ない努力はただの自己満足です」

 

 木虎さんのいう事は。

 至極もっともだ。

 ただ、一つだけ言いたい。

 

「多分。樫尾君は現実を見ていると思いますよ」

「....そうですか?」

「今の実力のままだと、目的が達成できない。だから必死になって──貴方にリベンジをできるだけの動きを身に付けようとしているんだと思います」

 

 彼にとっての現実とは。

 今シーズン中でなければ──木虎にリベンジできる機会は訪れないという切迫したものだ。

 

 その切迫した現実に──彼は眼をそらしていない。

 その現実があるから、彼は必死なのだ。

 

 現実逃避としての空回りではなく。

 現実を直視しているが故の空回り。

 そこは大きく違う。

 

「──木虎さんも。よろしければ樫尾君を見守ってあげてください。きっと、このランク戦が終わるころには見違えるほど強くなっていると思いますから」

「.....ランク戦で相手をする可能性がある以上、当然チェックはします。それでは、失礼します」

 

 そう言って。

 木虎さんは去っていった。

 

 .....新人ですよね、木虎さん? 

 

 あまりにもしっかりとした返答と堂々とした立ち振る舞いに、身震いしてしまう。

 

 僕は先程話した照屋さんの事も同時に思い出して、

 

「強いですね、ここの女性の方たちは.....」

 

 本当に。

 芯がしっかりしすぎるほどにしっかりしている方たちばかりです。

 

 ──あんな人に追いつかなければいけないのです。焦るのも仕方がない。

 

 次のランク戦。

 何とか上位に滑り込めるだけの結果を残したいところです。

 

 そうすれば──嵐山隊との対戦という樫尾君の悲願が達成できる。

 

「こちらも──やることをやらなければいけないですね」

 

 

「.....成程」

 

 柿崎は。

 ううむ、と一つ頭をひねった。

 

 それは、隊員である照屋文香の提案内容である。

 

「陣形の追加、か」

 

 そう柿崎が呟くと。

 照屋は頷いた。

 

「はい。──今までは隊長と私がセットでそれぞれ役割を切り替えながら陣形を組んでいたと思います。基本は合流して、有利な地形で”迎え撃つ”形です」

「.....だな」

「これと追加して──私は、浮いた駒を取り囲んで確実に点を取るための陣形を提案したいんです」

 

 照屋は。

 新たな陣形について柿崎に説明をした。

 

「私たち二人は中距離も近距離もいける駒で、そして巴君という機動力が豊富な隊員もいます。──相手を散らして”浮かせる”事も浮いた相手を狩り出すことも十分可能だと思います」

 

 だから、と。

 照屋は提案する。

 

「こちらから──攻めていく陣形を提案したいのです」

 

 .....柿崎国治は。

 当然であるが──隊員の意見をただ無下に却下するような人間ではない。

 

 むしろ。

 今の──不甲斐ない状態に行動を開始したのか、と。変わらない立ち位置に甘んじている隊を憂いた故にそうさせてしまったのか、と。

 申し訳なさが先に立つ人間だ。

 

「──俺も。照屋さんから説明をしてもらって.....やりたい、って。そう思います」

 

 巴虎太郎もまた。

 新たな陣形を持つ事に賛成の意を述べる。

 

 

 ──解っている。

 得点こそが肝であるランク戦という環境の中で防御中心の陣形に拘る事そのものが、最初から選択のミスであると。

 

 実際の防衛戦であるならばともかく。ランク戦は点の取り合いだ。

 点を取ることを抑制する陣形に拘る事に──どれだけの意味があるのか、と。

 

「──文香、虎太郎、すまん」

「何故謝るんですか?」

「いや。俺が不甲斐ないばかりに....」

 そう柿崎が言うと。

 

 照屋は、微笑む。

 

「いいえ、隊長。──私はただ、提案しただけです。そこに隊長を非難する意図はありません」

「.....文香?」

「私たちは──対等なんです。意見を言うのも、戦術の話し合いをするのも、当然のことです。むしろ──今まで私はその事を怠けていた、というのが正しい」

「いや」

「だから。──これからは。出来ると思ったことも。やりたいと思ったことも。どんどん言っていくつもりです。この隊が、もっと、もっと、強くなって、上に行くために」

「.....俺も、ずっと柿崎隊長に任せっきりで。自分で考えることをしていなかったな、って。そう思ったから...」

 

「文香....虎太郎....」

 

「──私たちにできない事はありません、隊長。私たちを、信じてください」

 

 ニコリと微笑み。

 照屋文香はこちらを見やる。

 

 ──その目は変わらない。

 変わらない強さを持ったままだ。

 

 それでも。

 その強さの中に──確かな覚悟を、感じた。

 決して揺るがない強さを。

 かつての照屋から、柿崎は感じていた。

 断固とした意思を。

 支え甲斐がありそうだ、と眼前で言い放った時も。変わらない強さを持っていたと思うのだ。

 

 だが。

 今はそれと別個の強さもまた持っているように思う。

 

 変えていくこと。

 変わっていくこと。

 変化を恐れない心。

 ──そういう確かな

 

「──文香。お前、少し変わったな」

「はい。──変わりたい、って。本気で思うようになりましたから」

 

 変わりたい。

 ──その思いは。

 柿崎もまた、持っていたものだった。

 

「.....解った」

 

 柿崎は、一つ頷いた。

 変わりたい、と訴える隊員の思いを。

 拒否できるわけがなかった。

 

「──次のランク戦まで。死ぬ気で連携の訓練をするぞ。絶対に、勝つ!」

 

 はい! 

 威勢のいい返事が聞こえると同時。

 柿崎隊は──訓練室に向かって行った。

 

「....」

 

 その様子を見守っていた、柿崎隊オペレーターの宇井真登華は。

 

「.....うん」

 

 と。

 一つ呟き、嬉しそうに訓練室の設定を始めた。

 

 

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