界境の市   作:丸米

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韻波句徒

「──今回のマップ選択権は、柿崎隊にあるんですよね」

 

 作戦室内。

 次回ランク戦の作戦会議が始まっていました。

 

「と、なると。工業地帯がほぼ選ばれることとなりますね」

 

 次回ランク戦は諏訪隊と柿崎隊との三つ巴戦です。

 諏訪隊は、隊長である諏訪さんと堤さんが散弾銃の使い手であり、攻撃手の笹森君と組んでの超火力の接近戦が持ち味の部隊です。

 対して柿崎隊は。三人いる部隊員のうち二人が万能手であり、合流してからの安定した陣形が強みの部隊。

 柿崎隊は──マップ選択権がある場合は、ほぼ工業地帯を選んでいます。

 

「今回のランク戦で唯一の狙撃手である東さんをどう動かすかが鍵になりそうですね...」

 

 こちらは。

 他の二部隊が持っていない、東さんという狙撃手のカードを持っている。

 当然、狙撃に関して何かしらの妨害をしてくるでしょうが──活かさない手はない。

 

「.....工業地帯だと、射線が通る場所が少ない。そして両部隊とも合流をしてからの制圧力に富んだ部隊。狙撃手が運用できる範囲は少ない。どう運用する?」

 

 東さんの問いかけに。

 樫尾君がすぐさまに答えます。

 

「工業地帯はマップが狭く、それ故に各隊がそれぞれ合流しやすい特色があります。──なので、東さんを適時移動させつつ、迎え撃とうと考えています」

 

 樫尾君が言うには。

 

 工業地帯は射線の通り道が少ないという特色と同時に、マップが狭いという特色がある工業地帯では、各隊がそれぞれ合流した形で相敵する可能性が高い。

 その特性を利用すれば──東さんをある程度安全に移動させることが可能だと言います。

 

「なので。東さんをそれぞれの部隊の動きに合わせて積極的に動かしていきます。居場所が暴かれることがあっても、東さんを狩り出すために敵が分散してくれれば──それはそれで好機になる」

 

 敵が合流した際に東さんを狩り出す際。

 必然的に隊から一人を送り出す形になります。

 そうなると、分散し、浮いた駒を狩り出すことも可能であり。

 マップ帯が狭い工業地帯ならば東を狙う敵を追い、釣りだして仕留めることも可能になるだろう、と。

 

 それはまた相手も考える事であり、隊から一人追っ手を出すリスクを簡単に負うとも考えられない。

 東を動かすことで──それを敵が追うにも、追わないにしろ、こちらに利益がある作戦という事になる。

 

「成程。俺を動かすことで敵に分散か放置かの二択を迫る訳か」

「それと、移動するごとにダミービーコンを設置していくことで──こちらの位置を誤認させる事も作戦に含めようと考えています。よろしくお願いします」

「了解した」

 

 前回の作戦で。

 東を過小評価していた、と樫尾は自覚していた。

 東は優秀な狙撃技術を持つと同時に、一級品の隠蔽・逃走技術を持っている。

 動かさなければ、勿体ない。

 

「なので。隊長と俺も最初は合流を目指します。合流地点から逆算して東さんの狙撃位置を決定して──合流した敵部隊に仕掛けていこうかと」

「承知しました。──では、樫尾君。各隊の襲撃の仕方はどのようにしましょうか。柿崎隊は中距離での制圧力に富んでいて、諏訪隊は近接での破壊力があります。合流されてしまえば、僕と樫尾君の二人では決め手に欠けます」

「対諏訪隊には俺が中距離からのハウンドを浴びせて、フルアタックを封じた後に隊長に奇襲をかけてもらう形で。柿崎隊に関しては、待ち構える形での対処が想定されるので。こちらも東さんの射線が通る箇所で、ちょくちょく攻撃を仕掛けながら待ち構えましょう」

「了解です」

 

 ──いいですね。

 作戦の方向性が非常に明確だ。

 合流し、かつ東さんを動かして相手の動きを見ながら動きを決定する。

 

「....よし。これで作戦のおおまかな流れが決まったな。ならば、残った日数。しっかりとお前たち二人の連携の練度を上げておくように」

「はい!」

 

 前回のラウンドでは3ポイント。

 中位の初陣と考えれば上々の出来と言えますが──可能ならば、次のランク戦で上位入りを果たしたい。

 

 

「相手は──勝山隊と柿崎隊だが」

 

 諏訪は。

 対戦相手が通告された瞬間──キレた。

 

「ざっけんな! 何で東さんいるんだよ!」

「何処も同じ事言っているでしょうねー」

 

 ふざけんじゃねぇぞあの野郎──と。実にやかましくうそぶく。

 

「まあ、どうせ今回も工業地帯だろ。だったら射線避けながら取り囲んでぶっぱしてぶっ殺す。東さん? 無視だ、無視」

「わー。この隊長さん、散弾銃使っているんだー。諏訪さんつつみんとおそろいだー」

「あー、クソ! 俺たちのお家芸すらパクりやがって!」

「パクっては無いでしょうよ....」

 

 叫ぶ諏訪に、オペレーターの小佐野と銃手の堤が共に諫める。

 

「とはいえ.....近接での破壊力がとんでもねぇなコイツ」

 

 諏訪は──前回の荒船・熊谷との三つ巴戦の記録を見ながら、一つ溜息を吐く。

 

「なんかすんごく嬉しそうに里見先輩が解説していましたね。足を止めてからの斬撃、斬撃を匂わせての射撃の両方があるって」

「──コイツとはタイマンで仕掛けちゃいけねぇな。ただ中距離での火力だったら絶対に負けやしねぇ」

 

 合流し、ぶっぱして、叩き潰す。

 いつもの通りのやり方だ。

 

 

 そして。

 ──時が、その時が来た。

 

「ランク戦、ラウンド3。実況は──アタシだ!」

 

 ば、っと手を拡げ。待ちに待っていただろうこの野郎と言わんばかりに拡げた手をガッツポーズの形に持っていき。

 

「仁礼光だ!」

 

 ──B級、影浦隊所属のオペレーター、仁礼光が、サイドに纏めた髪をぶんぶん振り回しながら、うおおおおおおおおおと何事かをマイクの前で叫んでいた。

 

「うるせぇ」

「うるさいよ」

 

 そして。

 その喧しさに解説席の二人が文句を一つずつ。

 

「なんだよー、ノリが悪いな。というか弓場先輩はともかく、お前はちゃんと乗って来いよユズル!」

「やだよ」

 

 解説席には。

 弓場隊隊長の弓場琢磨と、仁礼と同じく影浦隊所属の絵馬ユズルがそこにいた。

 

 インテリヤクザが如き迫力を前面に出したリーゼント系男子、弓場琢磨と。

 やる気の欠片もその雰囲気や所作から感じられないダウナー系男子、絵馬ユズルがそこにいた。

 

「いやー! 本当はこの実況解説、嵐山隊が行うって話だったけどさー。何か知らないけど根付さんに呼び出されて無理だって事になったから、仕方なくアタシが変わってあげたわけだよ! あっはっは」

 仁礼光。

 この女の対人欲求というのは実に解りやすく、他者に自分を頼ってほしくてたまらないのだ。

 結果。

 実況に名乗り出、そして同じ隊の弟分である狙撃手の絵馬ユズルを引っ張り出した。

 ちなみに、弓場は同年代の嵐山の依頼を受けてここに来ているのだという。

 

「勘弁してよ。何で僕までやらなきゃいけないんだ.....」

「そりゃあ、アタシがやることになったんだから。手を貸すのが当たり前だろーこの野郎ー」

「引っ付かないでよ鬱陶しい」

「.....何でもいいけどよ。さっさと隊の解説とマップの説明をしろ仁礼ェ」

「おっと、そうだった!」

 

 そう言うと。

 

「諏訪隊は散弾銃ぶっぱなす気持ちよさそうな部隊だな。柿崎隊は──巴が可愛げがあって柿崎さんは弓場さんと同年代だ。勝山隊? え、あいついつの間に自分の隊なんか持ってんだ──うひゃあ! 東さんいるじゃん! 東さん差し置いて隊長やるとかアイツ馬鹿なのか! 馬鹿だろ! 馬鹿に決まっている!」

 

 等と。

 やかましく説明した。

 

「仕事引き受けるなら事前情報くらい仕入れとけ!」

「知らないものは知らないんだからしょうがねーじゃん!」

「.....」

 

 はぁ、と。言い争いする弓場と仁礼を見ながら、ユズルは一つ溜息をついた。

 

 ちなみに言うと──勝山は自分の隊を作ったことは学校で仁礼には説明していた。忘れていただけである。

 

「マップは──市街地Bか」

 

 その発表があった瞬間。

 ほぉ、と弓場が呟いた。

 

「へぇ。初めてかもしれねぇな。──柿崎隊にマップ選択権があって、工業地帯以外のマップを選ぶってのは」

 

 弓場は。

 一つ笑みを浮かべて、そう呟いた。

 

「市街地Bかぁ。──実際どうなんだろうなこの選択。多分柿崎隊は狙撃が嫌だから今まで工業地帯にしていたんだろーし。市街地Bも建物の高低差激しくて射線制限されるし、あんまり変わんねーじゃねーの」

「いや。.....単純に、マップの広さが異なる」

 弓場は。

 仁礼の言葉に反応し、言葉を繋げる。

 

「柿崎隊は、言ってしまえば合流してからがスタート、っていう解りやすい戦術が根底にある部隊だ。だからマップが狭ければ狭いほどいい。──今回、マップ全体が”広め”な場所を選んだ。部隊戦術の根底から、あいつ等は変えてきている」

「それと.....工業地帯と市街地Bでは狙撃のやりにくさが微妙に違う」

 

 ユズルは。

 ダウナーな声の調子は変えず、滔々と説明をする。

 

「工業地帯は、射線が切れているし、狙撃をしようにも相手が固まっている事が多い。だから、下手に撃ったらマップも狭いから狩りに行かれやすい。そういう狙撃のしにくさ。市街地Bは、マップが広い分それぞれの部隊が合流する前に狙撃する事も出来るけど、その分相手部隊の通り道とかを計算に入れて狙撃地点に行かなきゃいかないから、”読み”の難しさがある」

 

 工業地帯はマップが狭い分敵の索敵もしやすく、狙撃を行使することそのものはそこまで難しくない。ただ、一発撃った後のリカバリーが難しい。

 市街地Bはマップが広く、建物も多い。その分、索敵や狙撃地点の決定に関しての難しさがある。

 

「....特に東さんが相手なら。索敵とか読みに関してあの人以上は絶対にいない。東さんの対策だけを考えるなら、工業地帯の方がよかったはずだ」

「はー。成程なぁ。偉いぞユズル。ちゃんと解説していて」

「だからちゃんと実況してよ」

「しているわ!」

 

 ぎゃいぎゃいと騒いでいるうちに。

 

「ったく。もう転送が開始されるぞ。──まあ、柿崎隊の意図は見てりゃすぐに解ってくるだろ。しっかり、見ていこうじゃねぇか」

 

 

「──市街地Bですか」

「やられた.....! まさかここでマップを変更してくるとは!」

 

 樫尾君が、いつになく狼狽しています。

 まあ、それもそうでしょう。

 過去のランク戦の記録上──柿崎隊がマップの変更を仕掛けてきた事は一度たりともなかったはずです。

 

「まあ、こういう想定外の事態にも対応するのもランク戦の意義だ。──どうする、樫尾。作戦はそのままで行くか?」

「....」

 

 しばし、樫尾は考え込み、

 

「相手部隊に合わせて、東さんを動かす方針は変えません。──ただ。敵部隊が合流することを前提に作戦を立てていたので、その分は修正をかけます」

「どのようにですか?」

「隊長には、浮いた駒を積極的に狩ってもらいます。──合流が肝になる部分は変わらないので、合流前に潰せる駒は潰していきましょう」

「了解です」

 

 しかし。

 気にかかるのは──ここで、今までの基本戦術を変えてきた柿崎隊です。

 特に何も狙いなくこのような動きをするとは考えられませんので──今まで見てきた柿崎隊の動きそのものも、変わってきているのでしょう。

 

 ──絶対に負けませんから。

 

 照屋の言葉が、蘇る。

 あの言葉は、生半可な挑発ではなかった。

 本気の宣言だったのだ。

 

 ──何をしてくるのでしょうか。

 

 本当に。

 楽しみだ。

 

 

「──各部隊、転送開始だ!」

 

 仁礼の宣言と共に。

 勝山隊、諏訪隊、柿崎隊がそれぞれ転送される。

 

「転送は──やや諏訪隊が有利かね。笹森と諏訪サンが近い」

 

 マップ東側に、勝山、巴

 北側に東と柿崎

 西側に堤と照屋

 南側に諏訪、笹森、樫尾

 

「割と綺麗にばらけたな」

「笹森と諏訪さんは合流に向かっているな。堤さんが微妙に距離が遠いが....お」

 

 その時。

 動き出した照屋が──堤を視認した。

 そして

「.....おぉ! 照屋が堤さんを視認した瞬間──突っ込んでいった!」

 視認した瞬間に──照屋はすぐさまに堤に向かって行った。

 

「.....成程」

 

 弓場が。

 ニ、と笑みを浮かべる。

 

「──見せてみろ」

 マイクに乗らない程の小声で、弓場は呟いた。

 特訓の成果を、と。

 

 

 銃声が響き。

 頭上に弾丸が降り落ちていく。

 

「──諏訪さん! こちら襲撃を受けました! 相手は照屋さんです!」

「おう! 了解! ──こっちで迎えに行くからとにかく粘れ!」

「了解──!」

 

 マップ西側のビルに囲まれた路地の上に転送された堤は。

 その付近のビルの屋上に転送された照屋に視認され、襲撃を受けた。

 

 ──市街地Bにした時点で何となく感づいていたけど.....合流前でも積極的に戦いに来る方針なんだね。

 

 合流してから迎撃をする。

 その戦術を崩さなかった柿崎隊が──ここにきて戦術を変えてきた。

 

 ──とはいえ。単独でそうそう簡単に狩られるつもりもない。

 

 そもそも。

 柿崎隊のその戦術は、合理性が大いにあるからこその戦術である。

 個で突出して相手を狩りに行ける駒に不足しているからこそ、合流してからの制圧力でもって戦う方針を続けてきたのだ。

 

 実際──近中を自在に切り替えられる柿崎・照屋と、機動力に富んだ巴の連携は本当に崩しにくく、合流されると厄介であることは間違いない。

 それを捨て、単独でこちらを狩りに来ている。

 そうはさせない。

 

 ハウンドの弾丸を避けて、堤は近場のビルディング内に入る。

 建築物に入り、接近戦が出来れば。散弾銃での面制圧力に富む堤の方が照屋よりも有利であろう。

 

 それが解っているのか。

 ビルディングの窓枠からその身を覗かせた照屋はハウンド弾を外側から撃ち放っていく。

 

 堤はそれを受けて。

 より建物のより深い位置まで移動する。

 窓枠から離れ、多くのデスクとオフィス用の椅子が重ねられている部屋の中に。

 

 窓枠近くの開けた空間から、奥の小部屋へと移った堤を視認し──照屋もまた建物に入り、堤がいる部屋の中に入っていく。

 多くのデスクが積まれた部屋の奥に陣取った堤と。

 部屋の入口に入ってきた照屋が──対峙する。

 

 狭い空間であるならば。

 当然──散弾銃が有利になる。

 

 堤はいくつか射撃を行使し、照屋に向けて迎撃を行う。

 バンバンと撃ち放たれていく散弾銃の面攻撃に。

 照屋は焦ることなくシールドを拡げそれを防ぎながら、デスクごと旋空をもって堤に斬りかかる。

 

 縦の斬道で放たれたそれを、堤は横に足を動かし、回避。

 回避しながら、更に散弾を放つ。

 その散弾を、今度は身を伏せて──照屋は避ける。

 

 斬り裂かれたデスクの間を身をかがめたまま移動し──堤との距離を少しだけ詰める。

 

 ──多分、旋空が来る。

 

 堤はそう判断していた。

 

 照屋の選択肢は突撃銃か旋空かの二択。

 突撃銃は構えるまでに時間がかかるし、そもそも先程生成すらしていない。ならば旋空であろう。

 

 ならば。

 弧月を振りかぶった瞬間に、散弾を放つ。

 

 既に銃口を向け、引金に指をかけている自分の方が、旋空が放たれるよりも早いはず。

 

 ──照屋が、屈めた姿勢から起き上がると同時。弧月を振り上げた。

 その瞬間に、堤は銃口を定め、指をかける。

 

 

 その時だ。

 

 バン、という音が二回ほど鳴り響いた。

 

「え」

 

 照屋は。

 右手で弧月を振りかぶりながら──もう片手に、別の得物を握っていた。

 

 リボルバー型の、拳銃だ。

 

 その弾丸は目にもとまらぬスピードをもって堤の腹部と供給器官を貫き──堤の体を崩した。

 

 堤の緊急脱出を見守り。

 一つ、照屋は頷いた。

 

「──まずは、一人」

 

 表情も変えず。

 照屋はすぐさまにその場に背を向け──走り出した。




照屋文香
メイン:弧月 旋空 シールド
サブ:突撃銃(アステロイド) 突撃銃(ハウンド) シールド バッグワーム



メイン:突撃銃(ハウンド) 弧月 旋空 シールド
サブ:突撃銃(アステロイド) 拳銃(アステロイド) バッグワーム シールド 
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