界境の市   作:丸米

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超越

「──おいおいマジかよ! 弓場先輩のあのカッケェ拳銃使ってるじゃん!」

 実況席では──実況がやけに盛り上がっていた。

 照屋が拳銃をもって堤を下した場面である。

「....やるじゃねぇか」

 ぼそり、と。

 弓場は呟く。

「──まさか。弓場先輩、照屋ちゃんに撃ち方教えたりとか....?」

「さてなぁ...」

 実のところ。

 弓場は──柿崎を経由して、照屋の稽古をつけていた。

 点を取る技術が欲しい、という照屋が目を付けたのは──弓場の拳銃弾であった。

 旋空よりも距離が保てて。

 射撃速度を速めれば射手よりも素早い攻撃が出来る。

 その上で弾速も威力もある──弓場の拳銃を。

 照屋は──非常に呑み込みが早く、訓練して一ヶ月ばかりで、実践投入が出来るほどの腕前となっていた。

 その辺りのセンスも、照屋はやはりモノが違う。

 

 ──さあ。どれだけやれるか見せてみろ。

 

 

「──成程」

 

 堤が緊急脱出する様を見つめながら、勝山は頷く。

 柿崎隊が1点を追加したとのアナウンスを聞き、──中々に想定が裏切られていた。

 

「──柿崎隊は本格的に作戦を変えてきたみたいですね」

 

 ここにおいて重要なのは、柿崎隊の誰かが”単独で”堤を仕留めたという事実である。

 これまでの合流最優先の策を通してきた柿崎隊の初動として、まずありえない挙動をしている。

 

「──隊長」

「はい。どうしましたか、樫尾君」

「少し作戦を変更します。──今柿崎隊の誰かの位置が割れたので、諏訪隊がそちらに向かってくると思われます」

「はい。──そして、今堤さんがやられた先に柿崎隊もいるのでしょうね」

「今、諏訪さんと笹森先輩が堤さんがやられた地点に向けて移動しているのが見えます」

 レーダーの反応を見てみると。

 開始直後に堤が仕留められた西側の地点に集まってきている。

「西側に移動している駒を、連携して狩りましょう。位置関係上、俺と隊長で挟撃できます」

「いいですね。そうしましょう」

 現在樫尾は、西側へ向かった諏訪と笹森を背後から見送る形になっている。

 数の不利故に手を出すことはしなかったが──西側に向かう諏訪と笹森の進路を勝山が割り込み、背後を取っている樫尾と挟撃を行う。

 

「──隊長は、堤さんを誰が仕留めたと思いますか?」

「勘ですけどね。──多分照屋さんだと思います」

 多分、と言いながら。

 勝山は心中ではもう完全に確信していた。

 やったのは──確実に照屋であろう、と。

 

「こちら東。現在西側の狙撃地点へ向け移動中」

「了解です。──三上先輩。射線の割り出しをお願いします。東さんと連携します」

「了解」

 

 さあて。

 随分と展開が速い。

 ──いや。展開を、照屋が早めた、と言ってもいい。

 

 勝山もまた──西に向けて走り出していた。

 

 

「──文香、よくやった! 今からこちらも合流地点に向かう!」

「はい!」

 合流前の単独の奇襲。

 それも、近接破壊力に定評のある諏訪隊の堤が相手。

 それをほぼノーダメージで仕留めたという事実は大きい。

 

「──東側の、巴に近い所にいるのは勝山か」

「はい。勝山隊長は、諏訪隊の進路に向かって西へ向かっています」

「.....どうだろうな」

 

 このどうだろうな、というのは。

 勝山が向かっている先に樫尾か、もしくは東がいるかどうかである。

 

 勝山ならば──単独で二人に勝負を仕掛けることも十分に想定できる。

 

「隊長。私は一度バッグワームで姿をくらまします。ここは私と隊長は見に徹しましょう」

「.....だな」

「まずは──不明な樫尾君と東さんの位置を割り出したい。その為に、諏訪隊と勝山隊がぶつかりそうなら止めない方がいい」

「了解。真登華、逃走ルートの割り出しを頼む。──それと虎太郎」

「はい!」

「お前は勝山の後ろについて、諏訪隊と勝山隊との戦いで浮いた駒があれば狩り出せるように準備しておいてくれ」

「了解です!」

 

 浮いた駒は潰しにかかる。

 そして──陣形が組まれているならば浮かせる。

 

 それが、今回の柿崎隊のテーマであった。

 

 

 安定という言葉には様々な立ち位置がある。

 上で安定しているか下で安定しているか。

 

 残念ながら──柿崎隊という部隊の「安定」という言葉の立ち位置は下の部類に入る。

 

 安定した部隊戦術。

 安定した連携。

 

 近距離と中距離を状況に応じながら分け、如何なる状況にも対応できる陣形を持つ。

 

 これは。

 隊を預かる柿崎の責任感が生み出した戦略であろう。

 

 誰か一人を突出させ死なせてはならない。

 隊員にリスクを負わせてはならない。

 

 そういう意識が。

 安定した陣形により、互いが互いをカバーできる戦略の構築に繋がった。

 

 ──だが、その結果はどうだろう。

 

 柿崎が預かった隊員は。

 現A級の奈良坂と新人王争いを繰り広げた才媛・照屋文香と。

 最少年で正隊員に上がった天才・巴虎太郎。

 

 この二人が隊を組んで、今いる位置は。

 果たして──正しい位置にいれるのだろうか。

 彼等と共に組んだ隊が。

 この程度の結果に甘んじてもいいものなのだろうか。

 

 責任感から生み出された戦略が、現在はそれに伴う結果に対する責任感を刺激していく。

 

 隊を預かる長として、彼等にリスクを負わせてはならない。

 隊を預かる長として、彼等を相応しい場所にまで引き上げねばならない。

 

 二つの責任がそこにあって。

 前者を選び続けてきた。

 そして──作り出された結果に対し、柿崎もまた苦しんでいた。

 

 だからこそ。

 この状況を打破せんと動いた照屋の提案を拒否することなど出来なかった。

 

 ──あいつ等は。

 

 柿崎は思う。

 きっと自分は追い抜かれていく人間だ。

 才能あふれる人間が次々と入ってきている。

 その中で自分もその速度で上回れるなどと思いあがっていない。

 

 それでも。

 それでも──自分が率いている部隊の価値は、一芥たりとも損なわれることは無い。

 

 ──こんな所に、いるべき人間ではない。

 

 信じたい。

 ここまでが助走であったと。

 積み重ねたものは決して無駄ではなかったと。

 ただ無為に安定を選んできたのではないと。

 

 その証明は。

 これから、行うのだ──。

 

 

「──諏訪さん! 勝山先輩がこっちに向かってきています!」

「おう! ──小佐野! この辺りで東さんが潜んでそうなのはどこだ!」

「東南に大体80メートル位離れたビルと、そこから逆側に二百メートル先のマンションが怪しい。射角と射線送っとく」

「了解だぜ。──相手になってやらぁ!」

 

 一方諏訪隊は。

 照屋が単独で堤を仕留めたとの報を聞き、ならばとこちらは連携して現在浮いている照屋を狩らんと動き出していた。

 諏訪と笹森は、住宅街の一角に入り込むと、周囲を警戒する。

 距離が五十メートルほど近づいたところで、勝山の反応がロストする。

 バッグワームを着込み、奇襲体勢に入ったのだろう。

 

 諏訪と笹森、そして小佐野が周囲の警戒をする中──

 

「──後方六十メートル先! ハウンドが来てるよ!」

 

 小佐野が叫ぶと同時。

 空から細かく刻まれたハウンドが、諏訪と笹森に降り注ぐ。

 

「チィ! 背後を樫尾に取られていたか!」

 

「──気を付けて! 挟まれている!」

 

 樫尾がハウンドで足を止めたその瞬間。

 勝山が弧月を構え、バッグワームを解き側面から襲い来る。

 

 諏訪に斬りかかる勝山を、笹森が止める。

 

「諏訪さん!」

「──よくやった笹森! このまま後ろに避けろ!」

 

 瞬間、バッグステップで笹森が背後に逃れ、開いた空間に諏訪が散弾銃を放つ。

 バッグステップの時点でその動きは読んでいたのであろうか。

 勝山は散弾をシールドで防ぐ。

 防ぎながら、更に笹森を追撃する。

 

 バッグステップから体勢を整えた笹森が、腰を落として下段からの斬り上げを行使。

 

「く....!」

 意表を突いたつもりではあったが、挙動の時点で読まれていたらしい。

 勝山は弧月を斬道上に置き、斬撃を押しとどめる。

 

 そして──。

 勝山はその後軽く鍔競りから崩しを入れ、当身からの前蹴りで笹森を更に奥に吹き飛ばす。

 体勢を崩し、しゃがみ込む──その瞬間。

 

「あ....!」

 

 彼方から飛来した弾丸が、笹森のトリオン体を貫く。

 

 .....東さん! 

 

 バッグステップからの追撃と吹っ飛ばしにより東の射線上に笹森を置き、笹森を仕留めた──。

 

 

 

 

 その光景を見届け。

 樫尾は次なるハウンドを諏訪に叩き込まんとキューブを作成すると──。

 

「──しゃ!」

「な....!」

 

 キューブを作成し、射出せんと意識した瞬間に──弧月を構えた巴虎太郎が斬りかかってきた。

 

 ──そうか。今の俺もまた、浮いた駒だ.....! 

 

 東の位置も笹森の撃破で割れ、勝山は諏訪と対面している。

 今ここにおいて、樫尾は誰の援護も受けられない状態だ。

 

 何とか背後に逃れ致命傷は避けるが──胸元から肩にかけて、かなり深い斬撃を食らう、

 

 樫尾が用意したハウンドキューブの対象を巴に切り替え、シールドを展開すると。

 巴はそのシールドをすり抜ける軌道の拳銃でのハウンド弾を樫尾に叩き込む。

 

 腹部に穴が開く。

 射出されたキューブを弧月と切り替えたシールドで防ぎ、巴は更に弾丸を撃ち込んでいく。

 

 ──まずい。

 巴の側面からくるハウンド。

 これをシールドで防げば──正面からの弧月での斬り込みがやってくる。

 

 防げない。

 ──ならば。

 

 樫尾はシールドを諦め、弧月を生成する。

 放たれるハウンド弾で左腕と腹部を大きく削られながらも──巴と斬り結ぶ。

 

 刀と刀がぶつかり合う。

 ──握り手は、共に片手。

 この場合。

 確か──握り手と逆側に力を籠めれば、相手もそれに反応してくれるって

 

 グッと樫尾は左側に力を籠める。

 さすれば、巴もまた同じように力を籠める。

 

 ここだ、と思った。

 籠めた力を解き、相手の体勢に崩しをかけ──こちらは側面に回り込む。

 

 踏み込み。

 振る。

 

 巴は体勢を崩しながらも、その勢いを利用し体を半回転させ脱出を図る。

 その際に、巴の肩口から袈裟にかけて、左腕ごと叩き斬る。

 

「.....くっそぉ」

 

 樫尾は。

 その一撃を与えたその瞬間より──体に限界が来る。

 

 トリオン大量流出により──樫尾は緊急脱出した。

 

 

 樫尾が緊急脱出する中。

 勝山と諏訪が残された地点においても、変化が訪れていた。

 

 笹森を仕留め、勝山が諏訪へと目標を変えた──その瞬間であった。

 照屋と柿崎が突撃銃を構え、現れる。

 過去の陣形よりも、いくらか互いの距離感が広い陣形であった。

 

「──文香!」

「──はい!」

 照屋が勝山を。

 柿崎を諏訪を。

 それぞれ、突撃銃にて掃射を行う。

 

「──ここでですか!」

 

 勝山は掃射される弾幕をシールドを張り防ぎつつ、住宅の塀を超え迂回しつつ照屋を仕留めんと動く。

 

「──させるか!」

 

 その瞬間。

 照屋は柿崎側に移動しつつ諏訪への掃射に切り替え、柿崎が勝山に体を向け掃射を行う。

 

 ──成程。これで互いの距離を庇い合っているのか。

 

 照屋か柿崎のどちらか片方に迂回すれば、

 迂回された側が逆方向に逃げながら互いの掃射対象を切り替える。

 そうすると迂回して詰めた距離がまた開かれ、相手の有利な射程が維持される。

 

「──東さん」

「一時撤退だな。了解。援護は任せろ」

 

 ここはダメだ。奇襲を受けた状況下からひっくり返せる陣形ではない。

 仕掛けられた状態でどうにかなるものでもないし、どうにかしようとするべきでもない。

 

「ああ、チックショー!」

 

 シールドで防ぎながら、しぶとく散弾銃で迎撃を行っていた諏訪に向け。

 照屋は突撃銃を放り捨て、拳銃片手に諏訪に肉薄する。

 

「──もうタネは割れてんだよ!」

 

 堤からその拳銃については報告が上がっていた。

 射程を削って威力と弾速を高めた、弓場が愛用する拳銃。

 

 別になんて事はない。

 射程が削られているというならこちらが下がりながら、その射程範囲に入らなければいいだけだ。

 

 照屋が肉薄し。

 合わせて諏訪が引きながら散弾銃を撃ち放つ。

 

 しかし。

 諏訪が引く動きをした瞬間──照屋もまた引く。

 

「あ?」

 

 そして。

 お互いが引いた瞬間に──諏訪の散弾銃が届かず、照屋・柿崎の突撃銃の射程が届く距離間に、ピタリ収まる。

 勝山が逃げに転じ、柿崎の手が空いた──その丁度のタイミングであった。

 

「あ──」

 ブラフだ。

 

 それに気付き、畜生、と言った瞬間。

 照屋のハウンドと柿崎のアステロイドが叩き込まれ──諏訪は緊急脱出する。

 こうして。

 諏訪隊は全滅し──柿崎隊と勝山隊だけが残された。

 

「──急ぐぞ文香。勝山の狙いは虎太郎だ」

「了解です。──散開して挟み込みますか?」

「散開したら、それこそ東さんと連携してこっち側を勝山が狩りに来るかもしれない。──”今は”組んで動くぞ」

「了解です」

 

 お互いに目を合わせ、頷き合うと──両者は走り出した。

 

 

「諏訪隊がここで全滅──!」

 

 騒がしい声が実況席から響き渡った。

 まるで野次馬のような声であるが──残念。これは、実況用のマイクを通し爆音となって周囲に轟いていた。

 

「ここまで、柿崎隊が3ポイント。そして勝山隊が1ポイント。──ここから逆転するには、東サンと勝山二人が柿崎隊を全滅させなければいけねぇって事になるわけだ」

「.....まあ、ここでしっかり負傷していて浮いている巴君を狩ればいいわけだから。そこまで絶望的な状況ではないと思うね」

「だな。──とはいえ、柿崎の野郎。ここにきて、中々に作戦の変更がハマっているじゃねぇか」

 

 弓場はここまでの柿崎隊の動きを、そう称賛する。

 

「作戦の変更点....て言うと、アレか? 照屋ちゃんの武装の変更」

「それに合わせて──浮いた駒をしっかりぶっ叩く戦術と陣形の構築だな。大きな変化としては」

 

 初動で、浮いた駒があれば単独でも狩りに行く照屋の挙動。

 そして諏訪・勝山への中距離での制圧力を活かした陣形攻撃。

 

 この二つを弓場は挙げた。

 

「特に──互いの位置をあらかじめ広く取っておいて、迂回してきた相手へのカバーをしながら勝山に対する陣形は、個人的には好みだった」

「好み、ってどの辺り?」

「単純に──あれは絶対に諏訪サンをぶっ潰す意思が感じられる陣形だったからだ」

 

 勝山を互いがカバーしあいながら中距離で牽制をかけ追い払い。

 追い払ったタイミングで諏訪を連携で叩きのめした。

 

「照屋が拳銃っていう決定力を持ったが故に、陣形が防護のためではなくて点を取るための形も持てるようになったって事だ」

 

 中距離での弾幕で敵を孤立させ。

 照屋がそれを狩りに行く。

 そう言う形も、持てるようになった。

 

「──柿崎には、元嵐山隊の血が流れている。点を取る為の駒と意識さえ持てるようになれば、これ位はできる」

 

 そう。

 現在──新人の木虎を擁し、圧倒的な実力を以て上位へ殴り込みをかけている嵐山隊。

 柿崎は、元隊員であった。

 

「──マスターランクの攻撃手と、東さん。この二人相手にどう向かって行くか。しっかり見ていこうじゃねぇか」

 

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