「試合終了──―!! くぅ──―! 熱い試合だった!」
喧しい実況の声と共に、ランク戦の終了が告げられる。
「いや、マジで最後の勝山と照屋ちゃんの試合熱かった! あー、楽しかった!」
「....いいから実況の仕事しなよ」
「まあ、熱い試合だったのは否定しない」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる仁礼の声はそのままに。
解説の二人はそれぞれ解説を始める。
「今回のポイントは──結局2位に終わっちまったが、やっぱり柿崎隊の大変化だろうな。ここが一番個人的にはよかった」
「照屋さん?」
「照屋が変化の中心だったのは間違いねぇだろうな。──しかし、そもそもの方針の変化が一番大きいだろうな」
その方針というのが。
浮いた駒は積極的に仕留めに行く事。
合流した後の陣形の中に、駒を浮かせる事も加えた事。
「今回。照屋が突撃銃、拳銃、弧月を切り替えながら戦う術を得た。攻撃手相手の時は拳銃で距離を取って戦い、距離が詰められれば弧月、そして離れれば突撃銃。この切り替えにかかる判断がうまい。上手いからこそ、陣形をスムーズに回せる」
柿崎とのコンビネーションの中で。
照屋が前に出る、後ろに出るの判断を下していた。
照屋の手札に拳銃が一つ追加されただけで。
それだけで──柿崎隊の戦術は大きく拡充された。
「勝山も、東さんの援護抜きであの陣形を崩せなかった訳だからな。相当強力だったのは間違いねぇ」
「なるほどなるほど.....おい、ユズル。お前も何か言え」
「えー。.....今回諏訪隊は何というか、運がなかったね」
「だな!」
ユズルの言葉に、何故か仁礼が同意する。
恐らく諏訪はかなり頭にきている事だろう。
「柿崎隊が戦術変更したのが今回が最初なんでしょ? だから序盤で堤さんが仕留められて。その後勝山隊と柿崎隊に挟まれる形で倒された。何というか、本当にどうにもならない感じだったと思う」
「まあ諏訪隊は時々こういう試合がある。前衛での破壊力がとんでもねぇ部隊だからこそ、取れないときはてんで取れない。──しかし、柿崎隊の成長著しいからこそ、今回それ全部斬ってる勝山も紛う事なきエースだと思える」
勝山は。
巴、柿崎、照屋の三人を全員仕留めている。
無論その中でも、巴は樫尾に削られていたし、柿崎は東のアシスト込みだ。ただ、そういう好機を逃さずしっかり点を繋げられる能力もまた──エースとしての素質なのだろう。
「樫尾は、ちと脇が甘かったな。巴が目ざとく東サンと勝山の援護を受けられず孤立している樫尾を目にかけて点を取りに行った分。東さんの位置が割れた瞬間に、急襲は想定してなきゃいけなかった。ま、でも動きそのものはかなり鋭かったし、今後に期待だな」
弓場がそう言い終え、ユズルに何かを喋らせようとした瞬間。
仁礼光、叫ぶ
「──お! お! すまん二人とも! もう時間すぎちまってる!」
「あ? ──なんだなんだ終わりかよ。だったらもう少し早くいってくれ。俺ばっか喋ってたじゃねーか」
「いや。凄く助かりました」
「.....お前なぁ」
大急ぎで実況席から飛び出していく仁礼を背後で見ながら、弓場は一つ溜息を吐いた。
※
「....」
「文香...」
勝負がつき。
総評を聞き。
照屋文香は、ジッとその話を聞き続けていた。
おおむね、自分の動きに関しては好評であったと思う。
それだけに。
それだけに──勝山をそれでも超えられなかった事実に、やはり歯噛みしてしまう。
悔しい。
心底から、悔しい。
何故かと言えば。
この戦いには確かな責任があったからだ。
自分のエゴを通し、自分を変化させ、そして隊長に懇願し何もかもを変えて挑んだ試合。
最善を尽くし、力を込めて、戦った結果。
負けたのだ。
そして。
その責任は──変わる事を望んだその身に降りかかってくる。
だから悔しい。
本当に、悔しい。
「....ごめんなさい、隊長」
「謝るな...」
「隊長は──ずっと負けるたびに、こういう思いをしていたんですよね。私の分まで」
「...」
変わる事を要請する事には、責任が生まれるのだ。
変わりたい、という願いも。
そこから派生する変わってほしいという祈りも。
全て全て。巡り巡ってこちらに帰ってくる。
責任、という感覚として。
「その事に、ごめんなさいと言いたいんです」
この責任を全て隊長に負わせていた。
──何よりもその事実が恥ずかしく、悔しかったのだ。
「それは違うぞ、文香」
そして。
柿崎は言う。
「俺は──今まで責任から逃げていた」
言う
「お前が入った時も。虎太郎が入った時も。真登華が入った時も。──本当に嬉しかった。嬉しかった半面、お前らみたいな優秀な奴が俺の下にいてもいいのか、と悩んでいた」
──言う。
「だから──いつも合流を優先させて。考えるべき他の可能性を放棄して。責任なんて、何も果たしてなんていなかったんだ。俺は....」
違う、と言いたい。
違う。
そうじゃない。
そうじゃないんだ。
隊長の責任の取り方が、ああだったんだ。
その重圧が、ああさせたんだ。
責任を取っていないから、ではない。
自分たちの分の責任まで背負おうとするその姿勢から、ああなったんだ。
だから──。
「.....ここからが、俺達のスタートだ。皆で、悔しがれる隊になったんだ」
柿崎は。
そう言った。
「頼りにさせてもらうな。──文香、虎太郎」
「あ....」
──頼りにさせてもらう。
もう。
その言葉だけで。
──この悔しさの甲斐があったと。そう照屋文香は思った。
そうだ。
支え甲斐だ。
甲斐が欲しかったんだ。自分は。
それがいま見つかったような気がして。
嬉しくて、嬉しくて、堪らなかった。
※
大勝に終わり、そして振り返りの時間を終え。
樫尾はボーダー本部の廊下を歩いていた。
何だ。
何だあのザマは。
今回──自分は何をしていた。
ハウンドを降らせて。
敵に急襲され。
死んだ。
──今回。
1ポイント目は勝山が笹森を蹴り出しての東の狙撃。
2ポイント目は、自分が仕留められなかった巴を勝山が処理した。要は、自分の尻ぬぐいだ。
3,4ポイント目は、東のサポートによって仕留めた。
全部。
勝山と東が関わっている。
俺は。
俺はどれだけ──あの部隊に寄与できたのだ。
このままいけば、上位に行けるのだと思う。
何せ。
マスタークラスの弧月使いに、東春秋がいるから。
もしかしら、嵐山隊に勝つことが出来るかもしれない。
あの二人がいるから。
「──違う」
それは。
それは違う。
許されない。絶対に。
「.....」
休憩室内で缶コーヒーを飲みながら。
樫尾はただただ──本日の自分のあり様に、頭を悩ませていた。
その時だった。
「....」
コーヒーを飲み終わり。
ゴミ箱にそれを捨てていると。
そこに──木虎藍の姿があった。
「あ...」
「....」
木虎は何も言わず、同じように缶コーヒーを購入し、席に座る。
休憩室に二人。
何も言うことなく、無言のまま時間が過ぎていく。
「....樫尾君」
「....はい」
沈黙を続けていると。
意外にも、会話の端緒は木虎からであった。
「勝山隊長から聞いたわ。──嵐山隊にリベンジしたいって?」
「....ああ」
「なら一言いわせてもらうわ。──今の貴方じゃ無理よ」
現実が槌となり脳を直接叩くような。
そんな感覚が走って。
視界がくらくらしてきた。
槌は木虎であり、振り下ろされる手が彼女の言葉。
リベンジしたいと心燃やす相手から告げられる、残酷な言葉。
「勝山隊長は──貴方は現実を見ている、と評価してました」
「え」
「どうやら──勝山隊長は実力はともかく、人を見る目は無かったんですね」
それじゃあ、と言い捨て。
木虎は部屋から去っていく。
「....あ」
視界が滲む。
何が。
何が.....リベンジだ。
今のままで。何も変わらぬままで。
あの二人におんぶにだっこ以外の方法で.....打倒できる絵図を用意できているのか?
現実に、地に足をつけて。
「....」
考えて。
考えて。
浮かばなかった。
それが答えだった。
※
「──ちょっと樫尾君が心配ですね」
「うん...」
さて。
ランク戦の第三ラウンドを終えて。
結果として──僕等は上位進出を決めました。わーい。ぱちぱち~
しかし心配事は幾らかあります。
中位に上がってからの二戦。
樫尾君は二戦連続で序盤で落とされてしまい、その事にひどく自分を責めているように思います。
僕は食堂の中。
三上さんとその事について相談をしていました。
「幸い。次のランク戦まで一週間の空きがあります。何処かで樫尾君と話をする機会を設けたいんです。──申し訳ありません。その際には同席してもらってもいいでしょうか」
「うん。大丈夫」
「ありがとうございます」
こういう時。
女性がいてくれるのは本当にありがたい。
隊を組むのです。
その中で、隊員が成果を出せずに思い悩むのも、ごくごく自然です。
だからこそ──向き合ってあげたいと、そう思う。
「....なんだか、隊長って感じがするね。そういう話を聞くと」
「隊長らしくしなければいけませんからね。──東さんが隊長をしないばかりに」
東さんを差し置き隊長を務めるという責任は、本当に重い。何でこうなっているのだろう本当に.....。
「....それに。人の感情というのは何かを変える為の燃料になります。今悩んでいる樫尾君も。そのベクトルさえしっかり向けることが出来たらきっともっと変わるきっかけになってくれると思うんです」
「うん。私もそう思うな」
「特に──今回の柿崎隊を見て思ったことです。照屋さんとお話をしたのですけど。あの人はとても変わりたがっていて。その思いが、あの試合に現れていたような気がして....」
正直。
勝山はあの試合。心の底から柿崎隊と、照屋文香という女性の凄さに打ちのめされそうになっていた。
全てが変わる、というのは。ああいう事なのだと心から思った。
「....あの」
「はい?」
「照屋さんって.....その、柿崎隊長の事が、好きなのかな?」
「それは....すみません。本人から聞いていただけると助かります」
「....」
ああ。
この返答だと、何だか肯定っぽい受け答えになっている気がします。
でも「知らない」だと嘘になりますし、そして「そんなことはない」でも嘘になる。
この返答を行うしかないのです。許してください、三上さん。
「....そっか」
三上さんは。
僕のその返答を聞くと。
ほわり、と一つ笑みをこぼしていた──。