すみません.....。
取り敢えず連載は再開します。
勝山隊は、第3ラウンドの勝利を受け上位進出を果たす。
そして。
第4ラウンドの組み合わせが発表される。
第四ラウンド、夜の部。
──勝山隊・弓場隊・嵐山隊・香取隊の四つ巴戦。
部隊全員が中距離攻撃手段を持ち、抜群の破壊力を持つ弓場隊。
エースである木虎を迎え、現在1位まで順位を伸ばしている嵐山隊。
隊長兼エースである香取葉子の爆発力が売りの香取隊。
この三部隊。
「.....初の上位戦でかなりきつい組み合わせになりましたね」
「特に、嵐山隊と弓場隊が相性的に正面からはぶつかりたくない感じだね。中距離での戦術が確立されてる」
「嵐山さん、時枝君、神田さん、香取さん。四人万能手がいるとなると、撃ち合いだと間違いなく勝てませんね。射撃戦を避けて、各個撃破できる状況を作る必要がありますね」
「....」
嵐山隊──。
この部隊名を目にして、表情を強張らせるは、樫尾であった。
「嵐山隊....」
樫尾由多嘉にとって、嵐山隊との戦いは望むべくものであったはずだ。
そのはずであった。
しかし──その表情は、リベンジへの好機を喜ぶものではなく。
反転した感情を湛えた表情であった。
「.....樫尾君?」
「は、はい!」
三上が声をかけると、樫尾は慌てたように返事をした。
「す、すみません」
「いえいえ。対戦カードを伝えただけですから、謝る必要はないです。──やはり、木虎さんが気にかかりますか」
「は....はい」
木虎の一言を告げた瞬間──樫尾は更に表情が硬く、重くなった。
やはりか、と勝山は思う。
どうやら──二戦連続で序盤で落とされたことが、かなり尾を引いているようだ。
「樫尾。何か気にかかる事でもあるのか?」
その時。
作戦室でコーヒーを啜っていた東春秋が、そう声をかけた。
「い、いえ...」
樫尾は一旦、誤魔化そうとした。
が。
──現在の自分の態度。発言。そして、周囲から向けられる視線。共々全てを換算して。
誤魔化しは効かないと判断した。
「実は...」
※
やはりというか。
樫尾君は──ここ二試合での自分の動きに関して、非常に悩んでいるようでした。
「.....ふむん」
東さんは樫尾君の言葉に一つ頷くと、僕に目線を送ります。
ここから先の言葉に関しては、隊長としての責務であるという事でしょうか。
「.....樫尾君」
「はい」
「整理しましょう。──樫尾君は、今までの自分の結果に対して落ち込んでいるのですか?」
「....いえ。そうじゃないんです」
「──結果を見て、この先の目標を遂げられるのか。単純にそこに不安を持っているんですよね」
「....」
樫尾君は一つ頷く。
「木虎から言われました──おれは現実が見えていない....と」
──成程。木虎さんか。
以前会った時に樫尾君について僕が現実を見ていると評価した事に対して、恐らく彼女の視点からだと全くそう見えないのでしょう。
.....木虎さんは、厳しい。
厳しいが、その厳しさというのは人を傷つける為だけに行使されるものではない。
その言葉が、今の樫尾君に必要だから。そう確信したから、言ったのだと思う。
「僕は──樫尾君は現実が見えていると、そう思っています」
「....」
「樫尾君は──木虎さんに対してどういう結果を残せば、木虎さんを倒せたと言えますか?」
「え...」
「樫尾君は何の為にこの部隊に入ったのですか?」
「.....ランク戦で、木虎を倒す為です」
「ですよね。──樫尾君は、自分で木虎さんを倒すためにここに入ったのですか?」
「....」
「そうではないですよね? それならば、個人戦で木虎さんを打倒できる方法を模索すればいいだけです。そうではなく──部隊の中で彼女を倒す事を選択したから。樫尾君はここにいるんですよね」
樫尾君は──部隊の中で飛躍していく木虎さんを倒す事に拘った。
それは。
自らもまた──部隊に所属する中で、追い縋れる材料を手に入れる為に。
「今、嵐山隊は1位です。木虎さんの加入によって得点力も、基盤となる連携も、全てが何段階も昨年よりも上がっています。A級でも遜色のない部隊でしょう」
エースの役割を木虎さんが果たしたことにより。
エースと指揮官の両の役割を負っていた嵐山さんの負担が減った。
その結果──もとより指揮官として優秀であった嵐山さんが、その適性を遺憾なく発揮し、部隊としての完成を迎えた。
「──樫尾君。君は君の力のみで木虎さんを倒す事が、君の目的ではないはずです。君にとって木虎さんを倒すという定義は何処にあるのですか?」
「....俺、は」
樫尾君は。
喉奥を絞る。
吐き出しにくい淀みを、腹から吐き出すように。ばらついた言葉を、なんとか言葉にするように。
「──ただ。木虎に、認められたかったんだと思います....」
樫尾君は、そう呟いた。
「理解しているんです。俺よりもずっと優秀な人は、ボーダーでごまんといるって。それでも.....頭で理解できていたことを、現実として突きつけたのは──木虎なんです」
だから、と続けて
「俺は.....部隊の中で更に強くなっていく木虎に置いていかれたくないんです。部隊にも所属しないでいたら、もう木虎の眼中にも入らなくなってしまう。それが、嫌だったんです」
樫尾君に現実の大きさをぶつけ、一度その心を折ったのが木虎さんなら。
その現実を前についた膝を伸ばして、立ち上がった事もまた──木虎さんの前で証明したい。
樫尾君を突き動かしているのは、その意思だった。
「いいですか樫尾君。僕等は部隊の仲間です」
「.....はい」
「ですが。大前提として──僕等は利害関係で結ばれたチームです」
「あ...」
そう。
僕たちは、そもそもA級を目指している部隊ではない。
それぞれがそれぞれの思惑と目的をもって結成された部隊です。
「君が木虎さんに対しての目的を果たすために僕等を利用することに、何の羞恥を感じる必要はないんです。現在この部隊の指揮者は君ですから。──僕等を上手に利用して、木虎さんを倒してください」
そうだ。
利用すればいい。ふんだんに。
木虎さんに認められたいのならば。何もエースである木虎さんと同じ立場で認められる必要はない。
「それじゃあ。ひとまず各部隊の対策を考えて行きましょう。まずはそこからです」
※
「まずは弓場隊から。──弓場隊長、王子先輩、蔵内先輩、そして神田先輩の四人部隊ですね。狙撃手はいないですが、その分全員が中距離での戦闘手段がある。全員合流してのヨーイドンの撃ち合いだと間違いなくB級最強の部隊でしょうね」
「.....この部隊は、全員の機動力が高くて足並みがそろっているのも特徴だね。全員が走れて、個々の判断力がとても高い」
「そうなんですよね。──実際に指揮を執っている神田先輩は勿論ですけど。王子先輩と蔵内先輩の場面場面での判断力が本当に高い。エースの弓場先輩が、タイマンで戦う事が多い分。他の隊員は戦況の動きを常に読みながら戦わなければいけないのに.....今までミスというミスが何も見られない」
「....」
弓場隊──。
樫尾の脳裏には、以前弓場隊の隊員である王子と個人戦をした際の記憶が思い浮かぶ。
まだ新規部隊の一つでしかない勝山隊の、その中でも木っ端隊員でしかない自分を既にチェックをし、対策が出来ていた。
そして実戦の中でこちらの特徴まで分析をして、対応までしてきた。
あの男が所属している部隊なのだ。──手強いに決まっている。
「弓場隊の強みに関していえば、中距離での制圧力と個々の隊員の判断力の高さ。そしてエース弓場の破壊力。どれも非常に高レベルだ。なら、こちらが勝っているところはどこだ?」
東がそう尋ねると、
「──狙撃手の存在です。弓場隊は狙撃手がいない分、戦いに大きな制限がかけられることになります」
「だな。まず一つ言えることがあちらになくてこちらにある有利な点は狙撃手だ。それは香取隊にも言える事だな」
「弓場隊の隊員は個々の判断力が高いからこそ、狙撃手の射線にはそうそう入ってこれない。だからこそ、必然的に移動ルートも限られてきますし──狭い路地での戦いが多くなる」
一つ東が頷いた。
「そう。射線が切れる場所での戦いが多くなるだろう。その分、勝山の散弾銃がより活きる場所にもなるだろう。──しかし、弓場はどうする?」
「問題はそこですね....」
弓場拓磨。
彼は弓場隊の隊長であり、そしてエースだ。
その戦い方は──
「前回のラウンドで戦った照屋さんが、新たに装備していた拳銃トリガー。──アレが二丁分。更に早撃ちで叩き込んでくる。僕だけじゃなく、攻撃手にとっての天敵の一人でしょうね」
威力十分な銃弾を、早撃ちで叩き込む。
それだけ。
しかしこのシンプル故に対策が難しい戦法は──特に弧月を用いて戦う攻撃手にとっては鬼門となる。
「肉薄すれば早撃ちの猛攻で仕留められる。中距離から旋空で対応しようとすると、その範囲外から射撃を放つ。並みの攻撃手では対抗策が見つからない」
弓場の拳銃の有効射程は22メートル。
これは──通常の旋空の射程20メートルよりも、僅かだけ長い。
この僅かな差異の間合いを維持しつつ射撃を叩き込む──という方法で以て、一方的に攻撃手を屠ってきた。
「次のランク戦の中で──間違いなく僕にとって鬼門となるのは、弓場さんでしょうね」
勝山は立ち技と散弾銃を用いた駆け引きで戦うタイプの攻撃手だ。いわば、攻撃手同士での差し合いの中で力を発揮できる人間で、──シンプルな瞬間火力とスピードを叩き込んでくる相手に対する対抗策が少ない。
「勝山は弓場への対策は考えているか?」
「はい」
東からの問いに、勝山は一つ頷く。
以前までなら、相対して勝てるイメージが出来ない相手であったが──今ならば、まだ勝ち筋が見えている。
「そうか。──となれば、問題となるのは嵐山隊だな」
「ですね」
嵐山隊。
隊長の嵐山。万能手の時枝。銃手の木虎に狙撃手の佐鳥。
この部隊は──
「まず──弱点が一切ない。本当に存在しない。嵐山隊長の指揮が完璧。万能手二人が組み込まれているから戦う距離が完全に選べる。そして何より──」
「木虎ちゃんが加入した事によって、部隊が運用できる戦術が冗談抜きで倍以上になったよね。今までのランク戦全部見直してみても──本当に突出している」
何よりも。行使できる戦術の引き出しの多さが尋常ではない。
万能手が二枚いて、点を取れる銃手が一つ。そして狙撃手。
構成としては、狙撃手を除けば柿崎隊と似たり寄ったり。
しかし。以前までの柿崎隊が「合流してからの陣形」が多様で、そこから作戦行動が開始されるのに対し
嵐山隊は──恐らく、ランク戦が開始されたその瞬間から既に、部隊における作戦行動が始まっている。
嵐山の指揮の凄まじさもそうであるが──部隊全員が距離関係からどう動けばいいのか、しっかり共有しているのだろう。
前回ランク戦。
嵐山隊は、影浦隊と生駒隊との三つ巴戦であった。
この試合。
嵐山隊は、影浦と生駒というトップランカーが名を連ねる部隊との戦いであったが。
木虎が作成したスパイダー陣へと追い込み逃げ場を無くさせ、嵐山・時枝の連携によって影浦を仕留め。
水上と連携を取り点を取りに来た生駒に対しては、木虎の急襲と佐鳥の狙撃により二人を分断させた上で、水上を撃破。その後嵐山が合流したうえで生駒を射撃で削り仕留めた。
──エースの木虎は、優秀ではあるものの単騎での破壊力はトップランカーに比べれば劣る。しかし、連携の中で最善を選び戦える能力が極めて高い。
突出した点取り能力がある駒が無くとも。
卓越した指揮能力と、豊富な戦術によって常に最善の立ち回りをして相手を打倒する。
だからこそ、弱点がない。
基軸となる駒がない。どの駒も基軸成りえるし、どの駒とも連携が取れる。だから一つ駒を奪ったところで戦術が瓦解することがない。
「....」
ここで。
勝山隊の勝ち筋はあるだろうか?
嵐山隊には、勝山程単騎で点取りが出来る駒はない。東のような化物じみた技量の狙撃手──あ、いたわ。二つ狙撃銃使って別々の標的仕留められる変態技術持っている奴が。とはいえ、純粋な技量や隠蔽能力で勝ることは無い。
本当に、突出した──というより、尖った駒が無い(佐鳥は除く)
尖っていないからこそ、どの駒もどの役割をこなすことが出来る。
だからこそ強い。
「──弱みがないという強みを相手が押し付けてくるなら。こちらもまた、新しい強みを作り出して対抗するしかない。その為には、樫尾君と僕との連携で何かしら他の部隊にないものを作り出す必要がありそうですね」
※
作戦会議の中で、弓場隊・香取隊への方針はひとまず決まったが──。
嵐山隊だけは、議論はかなり行ったものの、対策が定まらない。
「──どうしたものですかね」
これから訓練で樫尾君との連携の練度を上げる事そのものも重要であるが。
その連携一つとっても何かしらの目的意識を作らない限りは、訓練のしようもない。
「....」
よし、と一つ頷く。
一人で息詰まっていても仕方がない。
一人でいて考えが纏まらないのなら、他の人の協力をお願いするほかない。
携帯電話を取り出して──同級生に電話をかける。
「はい。──すみません。ちょっと軽く相談してもいいですか。はい、ご飯でも奢りますので。え? .....いいんですか? それは本当にありがたいんですけど...」
通話先には出水君の声。
嵐山隊の対策について聞きたいというと、射手の自分よりも適任がいると答えを返してきました。
「了解です。本当にありがとうございます。──では。里見君と烏丸君によろしく伝えておいてください」
という訳で。
A級1位部隊の万能手と、A級4位部隊の銃手──烏丸京介君と里見一馬君が相談に乗ってくれることになりました。
ご....豪勢だ!