「──次の試合は勝山隊、弓場隊、香取隊だ。今期の組み合わせでは勝山隊がはじめて戦う事になると思う」
嵐山隊作戦室。
そこでも──組み合わせが発表されたその日に、作戦会議が行われていた。
「隊長の勝山君はマスターランクの攻撃手で、散弾銃も使う。多分そろそろ万能手になると思う。──勝山君は弧月と散弾銃のコンビネーションがとても厄介な攻撃手だ。単独で立ち向かえる戦力はこちらにない。連携を組むか、他の隊との交戦時を狙って撃破を狙う。この方針は弓場や香取さんも同じ」
嵐山は、流れるように説明をしていく。
組み合わせが決まったばかりだというのに──既に彼の中ではあらかたの動きが見えているのだろう。
「勝山君は基本的に弧月による立ち技と散弾銃による面攻撃を切り替えながら戦うスタイルを取っている。強力だが、彼のスタイル的に空中戦や射撃戦ではこちらが有利に取れる。ただ複数人で囲むというよりかは、建物や地形で高低差をつけて多角的に戦った方がいい。理想を言えば、狭い路地の中に追い込んで上から飽和射撃で仕留めるのが望ましい」
「今回、マップの選択権は香取隊にありますよね。恐らく狙撃手がいない弱点をカバーできる場所を選ぶだろうから、....工業地帯か。もしくは市街地Bか」
「どちらの可能性もありえるけど、俺達にとって一番不利になるのは市街地Bの方だろうな。工業地帯は狭い分、合流がしやすい。射撃戦が起きやすいから、ウチや弓場隊がその分で有利になるし、合流してからの総戦力も4人部隊のウチや弓場隊が完全に有利だ。だとしたら、広くて合流がしにくい市街地Bを前提に作戦を組み立てた方がいいと思う」
「勝山隊長も囲まれたら不利、というのは解っているでしょうから。恐らく初動としては東さんの援護が受けられる場所へ移動するか、樫尾君との合流を目指すでしょうね」
「だね。ともすれば、対東さん、という事を考えれば市街地Bが選ばれた場合はこちらが有利になる。射線の切れ目が多いマップ構成だから、東さんの援護が受けづらい。──その分賢には負担がかかるけど、よろしく頼む」
嵐山はそう言うと、己が隊の一員である佐鳥に向け一つ肩を叩く。
佐鳥は投げかけられた言葉に腕を捲る動作。
「りょーうかい! このツインスナイプできっちり勝山隊を撃ち抜いてやりますよ!」
「ああ。頼んだぞ。──そして木虎」
「....はい」
「今回のランク戦。他部隊のエースである勝山君、弓場、香取さん──彼等が単騎で浮いている場合、攻撃の起点を任せることになると思う。序盤は生存することを優先して動いてほしい。俺か充か、どちらかと合流してからがスタートだ。頼んだぞ」
「了解です」
「さて。後は香取隊だね。こっちは──」
※
「次の組み合わせが決まった。──勝山隊、嵐山隊、香取隊だ。中々厳ちい戦いになるな」
弓場隊作戦室。
こちらもまた、作戦会議中。
隊長の弓場が組み合わせを発表すると──真っ先に声を上げたのは、万能手の神田忠臣であった。
「この組み合わせ、欲張ったチームほど死にそうだね。乱戦で点とれる駒が勢揃いって感じ」
そう神田が呟くと。
「欲張ったチームから死ぬってどういう事だよ?」
オペレーターの、藤丸ののがそう聞き返す。
「勝山隊は東さん。嵐山隊は木虎。そんで香取隊の香取。ごちゃった所で的確に攻撃できる駒が全部の隊に揃っているんですよね。三つ巴の戦いとかで勇み足した方から撃たれるか斬られるか。乱戦だとあんまり欲張らず距離取った方がいいと思ったわけッス」
「とはいえカンダタ。この組み合わせだと乱戦は避けられそうになくない? 浮いた駒を見ると条件反射的に突っ込むカトリーヌがいるわけだしね。恐らくマップは市街地AかB辺りの、広めのを選ぶだろうし」
神田の言葉に、王子一彰がそう返す。
カンダタ。カトリーヌ。素っ頓狂にも程があるネーミングをぶちまけられながらも、皆もう慣れているのだろう。突っ込む事すらしない。当人は端正な顔の上に涼やかな表情を浮かべ、自然さを醸し出している。
「相手のエースがことごとく機動力が高いタイプだからな.....。転送場所にもよるが、乱戦そのものは避けられないというのは一理ある」
射手の蔵内和紀は王子の声に頷きながら、そう声を上げる。
「そうなんだよなぁ。乱戦自体は防ぎようがない。だから立ち回りに結構気を遣わなくちゃいけない。──取り敢えず、乱戦になったらその中で一番強い駒に攻撃を仕掛けて、全員の矛先を向けるような動きができれば理想的かな。まあその前に、こっちが中距離で相手を動かして隊長の前に釣りだすいつもの戦法が出来るのが一番いいけど」
「.....そううまくいかねぇだろうな。連携戦術が極まってる嵐山隊と、東さんがいる勝山隊。誘導の意図が見抜かれて先回りされる可能性もある。そうなると狙撃手がいねぇこっちは背中からズドン、だ」
「序盤の内におおまかでもいいから狙撃手の居所を掴んでおきたいところだけど──東さん相手にそうも言ってられないか」
「基本的に東さんはかつやんの援護をする形で待機しているだろうから、初動であんまり勝山隊に手を出すのはやめた方がいいかもね。香取隊は割と誘導しやすい部隊だから、そこから他の隊を釣りだせれば──」
弓場隊は、その全員が遠慮なしに話し合いを行い、作戦が煮詰まっていく。
全員が全員判断力が高い隊員が故に、誰かが主導となって、という形にはならない。
大方の作戦が決まるまで──弓場隊の作戦室は常に声が聞こえ続いていた。
※
「──葉子! お前解ってるのか! 次の試合取れねぇと、最悪中位落ちだぞ! 前回も2点しか取れてねぇんだ!」
「.....」
一方その頃。
香取隊作戦室。
何やら、こう、どんよりとした空気が流れていました。
「せっかく俺達がマップの選択権もあるってのに! ログもロクに見ないで....!」
「ま、まあまあろっくん...」
眼鏡の少年、若村麓郎は──眼前でいかにも人を駄目にしそうなソファの上に座ってスマホをいじいじしている少女に対し、口調を荒げる。
されど。
意にも介さない。
変わらずスマホを弄っているだけである。
「ログ見てどうすんのよ。それで嵐山さんや東さんの作戦を読むことが出来るワケ? アンタが?」
「.....何もしないよりもマシだろ....!」
「チェックした事が役に立ったことあるの? 前回も序盤で落とされたくせに」
「この....!」
「──言い争いはやめて」
険悪な空気に火種もつき。ヒートアップ寸前の作戦室のなか。
ピシャリ冷や水を浴びせるかの如き一言が入る。
オペレーターの染井華の声。
「....」
その声は、熱が入り込んできた互いの頭を冷やす力は持っていたが。
沈殿した重苦しい空気を、更に冷やし凍り付かせる結果ともなった。
「.....はいはい。アタシがここにいちゃムカつくってなら出ていってやるわよ。飲み物買ってくる」
ソファから立ち上がり、香取は作戦室から出ていく。
沈黙だけが、ただそこに静寂を形作っていた。
※
「はじめましてー! 君が勝山君だよね! わー、前の試合見てたよ! 凄かったねー!」
「ありがとうございます、里見君」
「はじめまして勝山先輩。烏丸です」
「はい。よろしくお願いします。烏丸君」
そうして。
勝山隊作戦室内に、二人のA級隊員が同席しておりました。
里見一馬君と烏丸京介君。
二人とも、僕よりも早い段階で頭角を現しいち早くA級隊員になった人物であり。正直な所恐縮してしまいます。エリート中のエリート中のエリートです。ヤバいですね。そして烏丸君。本当にイケメンですね。あまりにも顔立ちが整いすぎててこうして間近で見ると本当にびっくりしてしまいます。イケメンは男女問わず対面すると緊張してしまうものなのだ。
「お二人ともありがとうございます。一方的な相談に乗ってもらう形になってしまいまして」
「いえいえ。いつもウチの隊長が迷惑をかけているので。これ位は」
「こっちは一度話してみたいと思っていたからオールオッケーだよ。貴重な散弾銃使いの人だし!」
なんといい人でしょう。
特に烏丸君は.....まああの隊長だから仕方がありませんが。あの人と親しくなる事イコールあの人がのべつまくなし振りまいている面倒ごとの露払いに大なり小なり関わらないといけないという意味でもあります。そしてその関係性が部下であるということなら、その関わり合いは間違いなく”大”になるでしょう。お疲れ様です.....。
現在、作戦室はもぬけの殻です。
樫尾君は個人ランク戦に向かい、東さんは狙撃訓練の教導。そして三上さんは家の用事で早めの帰宅。
という訳で。
現在僕とこの二人が向かい合っている状態になっております。
「お聞きしたいのは嵐山隊の事ですね。仮にお二方があの部隊と戦うとなったら、何を意識して戦うのか。その部分を聞きたいな、と」
「嵐山隊かぁ! あの部隊は本当に強いね。多分A級に行っても十分に戦うことが出来る部隊だと思う」
「ですね。現状でもA級で上位が狙える部隊だと思います」
やはり、A級隊員からしても嵐山隊の評価は高いのですね。
「何が強いかと言うと。相手によって完全に距離が選べる上に、戦術の柔軟性が高い事につきますね。嵐山隊長の現場の把握力と判断力が高いのもその強みに拍車をかけている」
「そうそう! 例えば、嵐山さんと時枝君が突撃銃で相手を追い込んで、佐鳥君の狙撃が通る場所まで誘導したりとか。逆にハウンドで足を鈍らせて佐鳥君を移動させたりとか。ここに木虎さんっていう機動力が高いエースまで入ったんだから。強くない訳がない」
「現在の嵐山隊は合流してからが強い、というよりも。合流するまでの動きが上手いという印象がありますね。──B級上位のどの隊も、合流したら強いというのは変わりないんですよ。ただ嵐山隊の真価は、合流した後ではなく合流するまでにあると思うんです」
「合流した後ではなく、合流するまで....」
「あ。解るなぁ~烏丸君の言っている事。──嵐山隊は、転送されて、ばらけた部隊が合流するまでの動きも多彩なんだ。仮にだけど、勝山君が部隊を合流したいと思っていて。味方の所まで走っているとして──途中で敵の姿を見かけたら、どうする?」
「.....迂回して合流を目指すでしょうね」
「だよね。それが普通だよね。──ただ、今の嵐山隊は。ここで交戦を行いつつ合流路を辿って、敵の背後を突くという陣形も使える」
ああ、と僕は頷いた。
ログを辿った際に幾度となくあった光景です。
嵐山さん。もしくは時枝君が敵と交戦を行い、敵を引き付けながら合流路を辿り──その背後から木虎さんや佐鳥君をぶつける.
単独で浮いている駒を集団で囲いたい相手の心理を利用して、敵を引き付け。追い込んでいると思っている敵の背後から──更に味方の駒をぶつける。
「強い部隊は、合流が出来ていない状態からでも各々の隊員が一つの共通の戦術をもって動いていく。まあ影浦隊みたいに各隊員が好きに動いた結果強さが出る場合もありますけど。嵐山隊は──この戦術の引き出しが部隊全体としてとても多いですし、更に嵐山さんが正しい引き出しを開ける能力に長けている。そういう強さがある部隊だと、俺は思っています」
「ふむふむ...」
何と言うか。
本当に──嵐山隊は全ての動きに対して、即興の型が作れる部隊なのでしょう。
A級B級問わず、部隊にはそれぞれ固有の戦術がある。
一回戦で当たった間宮隊は、部隊全員が射手であるという特性を生かした型が。
例えば諏訪隊であれば、散弾銃を持った前衛二人による破壊力満点の連携という型が。
しかし嵐山隊は──この戦術の型の引き出しが多い。相手によって戦術を変えられるだけの幅の広さがあり、嵐山さんという巨大な頭がそれをしっかりと統制している。
「それで。──ここからは対策の話になるんですけど。嵐山隊に対しては、攻撃を仕掛ける際に外側の意識を持った方がいいでしょうね。基本的に攻撃を仕掛けた瞬間から、何らかの戦術的行動が始まると考えた方がいいです」
「そうそう。浮いている駒があるから攻撃を仕掛けた瞬間に、逆に攻撃を仕掛けた側が囲まれる状況が一番ありえるから。攻撃したとしても深入りしない事。もしくは退路を確保するための味方を用意しておくこと。──相手の戦術に対応できるように準備をしなければいけない部隊、って事になるだろうね」
「成程...」
「君の部隊だったら、やっぱり頼りになるのは東さんだろうね! あの人の射線内で戦うだけでも、嵐山隊の対策になるだろうから」
「やはり....そうなりますよね」
次の試合。
間違いなく嵐山隊は、これまで戦った部隊の中で最強だ。
勝ちを拾う為には──東さんを十全に使い切る立ち回りをしなければならないのでしょう。
「......ううむ」
難しい。
とはいえ。これからやるべき事の方向性は見えてきました。
※
「ありがとうございますお二人とも」
「いやいや! お話しててとっても楽しかったから全然大丈夫だよ。またお話しよう」
「何度も言いますけど、いつもウチの隊長が世話になっているので。気にしないでください」
「いや、本当にありがとうございます。これは心ばかりの品ですが...」
僕は以前購入していたどら焼きのパックを、お二人に渡します。秘技、袖の下送り。
「あ。いいとこのどら焼きだ。わー。これは駿が喜びそうだな~。ありがとう!」
「こっちも国近先輩が喜びそうですね。ありがとうございます」
「いえいえ。こんなもの安いものですよ。それでは~」
二人を見送って、──そのまま一旦作戦室を出て、ドリンクを買いに行きます。
そして
「.....」
何故かこちらを睨みつけている香取さんがそちらにいました。
「.....勝山先輩」
「はい」
訝しげな眼でこちらを見る。
ええっと。僕は何かやらかしてしまったのでしょうか.....?
「.....さっき作戦室から出てったのって、烏丸君」
「えっと.....はい」
そう僕が答えると。
「......」
無言のまま睨みつけ、そのままドリンク片手に立ち去っていきました。
「.....」
女性というものは怖いものですね。はい。