運命のススメ【特異点F読み切り版】   作:K氏

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第二話 覚悟完了

 

 

 

 

『――悟! 目覚めよ覚悟!』

 

 その声に弾かれるように、覚悟は沈んでいた己の意識を強制的に浮上。すぐさま飛び起き、周囲を警戒する。

 

「どれ程、意識を失っていた」

『この場に転移してから約二分。戦場であれば致命的だ』

 

 と、言う事は、少なくともこの場においては敵性存在がいないのだろう。

 覚悟は僅かに構えを解きながらも、警戒を緩めずに周囲の様子を確認する。

 

 見渡せば、そこは見知らぬ街。

 しかし、どこを見ても炎が煌々と燃え上がり、ビルは崩れ、人の気配はまるでない。

 

「見たところ、日本の市街地のようだが」

『しかし、この光景……まるで戦禍に巻き込まれたかのようだ』

「だが、生者の気配がまるでないのは妙だ。……それに、これ程の惨事にも関わらず、亡骸も一切見当たらないのも気になる」

 

 漂う死の気配は濃厚。されど、そこには人はおろか、そこにいたであろう動物達の亡骸も見当たらず。

 実に奇怪である。

 

 そんな折。

 

『――む!』

「どうした、零」

『感じる……何者かが助けを求めている!』

「方角は!」

 

 零からその方角を聞いた覚悟は、一目散に駆け出す。

 牙無き人の祈りに答え、命を脅かす悪鬼を討つ為に。

 

 黒と白の疾風が、廃墟の街を駆け抜ける。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 ――藤丸立香は、極々普通の一般人である。魔術師の家系に生まれた訳でもなく、何かしらの異能を持っている訳でもなく、常人ならざる経験や鍛錬を積んできた訳でもない。真正の一般人だ。

 

 それは、自他共に認める事実であり――同時に、今この場においては一番のネックであった。

 

「く……うぅ……!」

 

 少女の持つ大盾の表面で、火花が弾ける。何度も、何度も。

 

 周囲を囲むのは、チェーンによって形成されたリング……否、狩場。

 

 自分を守るように、しかし戦う者としては頼りない背中を見ながら、ただの人間、藤丸立香は考え続ける。

 今できる、最善の指示を。

 

 あの時。燃え盛るカルデアの中央管制室で、何故か自分を先輩と慕ってくれる後輩と、そして小学校を卒業して以来行方知れずだった親友と共に、あの光――レイシフトに巻き込まれた。

 そして目が覚めれば、来たこともない日本の都市に、謎の小動物……フォウと共に放り出されていた。

 訳も分からないまま歩いていると、唐突に矢の洗礼に晒された。

 後にアーチャーなるサーヴァントの仕業と知らされたそれから守ってくれたのは、瓦礫に圧し潰され、瀕死の状態になっていた筈のマシュだった。

 健康的な青少年としては何とも際どい格好で、身の丈以上はある盾を持つ彼女に守られながらその場から離れれば、今度は骸骨に襲われている所長、オルガマリー・アニムスフィアを見つけ、助けた。

 

 そして――合間に所長のヒステリックを挟みながら――マシュがサーヴァントなる存在になった事を知らされた。

 

 魔術のまの字も知らない立香はその概要の全てを把握した訳ではないが、大雑把に『マシュが過去の英雄と合体して超人になった』という事は把握した。実際には細かいところが違うのだろうが、まぁ概ねこんな解釈で大丈夫、のはずである。

 加えて、そんなマシュのマスターに、事もあろうに自分がなってしまっていたのだ。

 

(なんで、俺なんだろう)

 

 ここに至るまで、ずっと自問し続けた。答えは、出なかった。

 最初は、アルバイト感覚でこのカルデアの任務に参加した筈だった。実際、彼は数合わせだったのだから。

 それが、気づけば命のやり取りをする場に急に放り込まれ。

 気づけば、凄く責任重大であろう役回りに当てはめられた。

 

 彼は悩む。きっとあの親友なら、こんな状況でもあっさり呑み込めていたのだろうと。

 親友がこの数年間、何をやっていたのかは知らない。だが、人情に厚く、責任感が強く、何より悪を許せない真面目な男なのは、今も変わらないようだった。

 そんな彼なら、今の立香の役割を進んで引き受けただろう。

 

 ――だが、この冬木の街という特異点に来てから、一度も会えていない。

 

 なら、自分が何とかするしかないのだ。

 そう思い、胃が痛くなるような錯覚を覚えながらも頑張る事を決意した――まではよかった。

 

 サーヴァント同士の戦い。

 

 実際には、敵はシャドウサーヴァントなる、サーヴァントの紛い物のような存在らしいが、強力無比という点では、一般人の彼にとっては変わらない。

 それを目の当たりにした今――彼はただ、息を飲み、失禁しそうになるのを我慢し、マシュに守られる事しかできなかった。

 上手く指示を出そうにも、焦りからか、考えがうまく纏まらない。

 

(なんて……情けないんだッ! 俺ッ!)

 

 立香は、血が滲み出る事も構わず、強く下唇を噛む。

 その間にも、マシュは徐々に、歪な槍と鎖を振るうシャドウサーヴァントに追い詰められていく。

 

「シャアアッ!!」

「うッ……くぅッ……!」

 

 素人目でもわかる。マシュと敵の、技術的な差が。戦闘者であるか、そうでないかの差が。

 元々、マシュは戦闘訓練を受けた兵士というわけではない。いくら力が与えられたとしても、その振るい方を知らなかったら……その結果が、今のこの状況である。

 

「ふふ……獲物としては少々がっかりではありますが、まぁいいでしょう。これで終わりです」

 

 まるで蛇の如き食欲と殺意を向けながら、シャドウサーヴァントは余裕綽々といった様子で、妖艶に、意味深に手にした歪な槍を舐め上げる。

 妖艶に伸ばされた舌が這った痕が、周囲の炎の明かりに照らされ、てらてらと妖しげに輝く。

 だが、そんなものを見せられたところで、立香は興奮を覚えるどころか、寧ろ恐怖心しかない。

 

「ま……まだ……倒れるわけには……!」

「マシュ!」

 

 ボロボロになってもなお、抵抗を試みるマシュ。

 そんなマシュの姿を見て悲痛な声を上げるオルガマリー。

 

「さぁ……これで終わりですよ!」

 

 シャドウサーヴァントの槍が振り下ろされる。

 そして、縦に切り裂かれるマシュ。

 この後起きるであろう光景は、想像に難くない。

 

「マシュゥゥゥ!!!」

「せ、先輩!?」

 

 気づけば、立香はマシュの前に躍り出ていた。

 何故かは、分からない。気づけば身体が勝手に動いていたとしか言いようがない。

 

(あ、終わった)

 

 嫌でもそう確信してしまう。出来てしまう。こんな事、やるべきではないと、頭ではわかっていた筈なのに。

 

 ――それに全く後悔していない、自分がいる。

 

 しかし、死への恐怖だけは薄まらない。

 思わず、立香は目を伏せ――

 

 

 

 

 ガ ガ ー ン ッ !

 

 

 

 

 来るはずの、痛みが来ない。

 いや、もしかしたら痛みもなく切り裂かれて、死んでいるのかも。

 

 ……なら、このやけに重々しい音は一体?

 

「……あ!」

 

 そっと目を開けた立香の視界に映るは、両腕を交差させ槍を防ぐ黒い背中と、たなびく白い羽。

 

「せ、先輩!?」

「何者ッ!?」

「貴様ァ……!」

 

 残りが三者三様の反応を見せる中、突然シャドウサーヴァントと立香の間に割って入った黒い鎧の赤いレンズの瞳が、立香を捉える。

 

「早く避難しろ」

「――! その声!」

 

 同年代そうでありながら深みを感じさせるその声を、立香はよく知っていた。

 

「何者だ! 他にサーヴァントがいるなど!」

「級友だ」

 

 鎧の男、即答。

 

「ふざけるなァ!」

 

 その返答に、シャドウサーヴァントは激昂。槍を振り下ろす手に更に力を籠める。

 女性ではあるが、その実、筋力は常人以上。重厚な鎧が、地面を割りながら徐々に陥没していく。

 

「無用な争いをするつもりはない。この武装の撤去を望む」

 

 しかし、それでも鎧の男は、まるで調子を崩す事なく、逆に要求を突き出す。

 当然、シャドウサーヴァントは聞く耳持たず。

 

「黙れ! 私の邪魔をした代償は高くつくぞ! こうなれば貴様のその鎧を剥いで、中身を臓腑諸共食ってくれる!」

「悪鬼の類か。了解!」

 

 明らかに常軌を逸したその言動を聞き、鎧の男は眼前の存在が尋常ならざる存在――悪鬼に近い存在であると認識。

 もはや容赦せぬと言わんばかりに、己の身体から力を抜く。

 

「ぬッ……!?」

 

 急に反発が無くなった事で、シャドウサーヴァントは勢いを止められずそのまま槍を振り下ろす。

 鎧の男はそれを見逃さず、素早く槍の軌道から退くと、槍を左脇に抱える形をとる。

 

「その程度で……ぬぅ!?」

 

 それに気づき、咄嗟に槍を引こうとするシャドウサーヴァント。だが、槍はまるで微動だにせず。

 

(馬鹿な、この男からは魔力は感じられぬ! だというのに、私と力で拮抗するなど……!)

 

 動揺を隠しきれないシャドウサーヴァントを他所に、鎧の男が引いた右足を構える。

 

「重爆!」

 

 超重の脚部が、唸りを上げて振るわれる。もはやそれは、単なる蹴撃に非ず。鋼鉄の鉈の如し!

 重爆の一撃がシャドウサーヴァントの膝を捉え、あらぬ方向へと圧し曲げる。

 

「ぐうぉおッ!?」

 

 頭に血が上り冷静な判断が出来ていなかったシャドウサーヴァントも、この一撃は効いたらしい。

 

(ま、まずい! 何者かは分からんが……コイツ、強い!)

 

 本能的に、先程まで戦っていたマシュとは比べ物にならない程の戦闘能力を有している事を察したシャドウサーヴァントは、咄嗟に槍から手を放すと、片足だけでその場から飛び退く。

 

「片足であの跳躍力……あれが話に聞くサーヴァントか」

 

 常人であればそのような無茶な動きはできないであろうが、彼女は人ではなく、サーヴァント。しかも――彼女の相手をしている鎧の男は知る由もないが――彼女は元々、怪物の属性を持つ存在。

 多少の肉体的な無茶は強引に押し通せてしまうのだ。

 

「今の内だ。君達、早くこの場から離脱を」

「あ、ありがとうございます! その、貴方は一体……?」

「今は問答の暇はない! 即刻退去を!」

「ちょっと! いきなり現れて――」

 

 シャドウサーヴァントが退いた事で出来た猶予で、鎧の男はカルデアの面々に退却を推奨する。

 だが――ついさっきこの場に乱入した彼は知らない。

 

「ぬゥ!?」

「捕まえたァ!」

 

 敵シャドウサーヴァントが、鎖を自在に操れるという事を。

 紫の艶やかな長髪から変じた二本の鎖が、黒光りする鎧を腕ごと絡めとり、身動きが出来ないようにしてしまう。

 

(この鎖、まるで生きているかのように……!)

「フフ、感じますよ……鎖を通して、貴方の心臓の鼓動が! このまま締め上げて――」

 

 内部(ナカ)で臓物をまき散らさせるのも面白い。そう続けようとしたシャドウサーヴァントの笑みが、またもや凍り付く。

 見れば、黒い鎧が段々と赤く、熱を帯び始めているのだ。

 

「赤熱化!」

 

 全身を赤熱化させると、彼を縛り上げる鎖にも熱が伝わり、赤々と光出す。

 仮にもサーヴァントの扱う鎖故に、熱にもそれなりの耐性があるようではあったが……程なくして、鎖が融解を始める。

 それを感じ取った鎧の男は、力づくで鎖の拘束を破壊せしめた。

 

「馬鹿な……こんな事が……!」

 

 驚愕。そして恐怖。彼女を支配するのは、その二つの感情だった。

 彼女の記憶にある限りでは、()()()()()においてこのようなサーヴァントはいなかった。

 それだけならまだいい。さっきまで戦っていた盾の少女もサーヴァントには違いないのだから。

 彼女を驚かせる要素があるとすれば、それは、この鎧の男からは一切、()()()()()()()()。それ即ち……鎧の男は少なくとも、ただの人間に過ぎないという事である。

 彼女自身が持つ普通の人間への嘲りもそうだが、それ以上にその事実が、彼女が抱える負の記憶を刺激する。

 

(……認めるものか。認めてなるものか!)

「人間如きに、負けるなどォォォォ!!!」

 

 故に、彼女が選んだのは『逃走』。ただし、ただ逃げるのではない。

 シャドウサーヴァントが、被ったフードに手をかけ――

 

「――()()! そいつの目を見ちゃダメだ! 石にされる!」

 

 立香少年の声が響く。その声を聞いた鎧の男――葉隠覚悟は、「了解!」と一言叫ぶと、姿勢を低くし――

 

「爆芯!」

 

 脚部、及び背部の噴射口から推進剤を噴射。

 恐るべき速度で間を詰めるべく動き出す。

 

「閃光点火!」

「な――」

 

 更に、フードが瞳の中程まで開かれていたところで、『生☆七(七生)』の二文字が刻まれた黒兜の赤いレンズがストロボ光を発光。

 それを見てしまったシャドウサーヴァントの視界が瞬き、平衡感覚が揺らぐ。

 このストロボ光は、浴びた霊長類の三半規管を麻痺させ、転倒を誘発する効果を持っているのだ。

 無論、サーヴァントであり、なおかつ真っ当な霊長類とは言い難い彼女には、その効果が余すところなく効いているという訳ではない。

 

「しまッ――」

 

 ――だが、覚悟が彼女に接近するだけの隙は作れる。

 

「零式 積極直突撃(じきつき)!」

 

 超加速から繰り出された正拳突きが、シャドウサーヴァントの腹部にめり込む。

 

「ぐ、げェ」

 

 おおよそ見目麗しい女性の発してはいけない声を漏らしながら、シャドウサーヴァントはじりじりとその場から下がる。

 

(水月経由で脊髄中枢に刺激を加えた。並の存在ならばこれで戦闘不能となるが……)

 

 そう思考しながらも、覚悟は決して構えを解こうとはしない。

 

「既に勝敗は決せり。存命したくば、何故彼らを狙ったかを言え」

「ちょ、ちょっと貴方! 何を勝手に――」

 

 場外から何やら非難の声が上がるが、覚悟、これを一切無視。

 シャドウサーヴァントの行動目的を聞くべく詰問する。

 それに対し、彼女は鼻で嗤う。

 

「……ッ、何故? 私の狩場に、迷い込んだものを、狩る事、にッ……理由など、必要、ないでしょう?」

「狩り、だと」

 

 その言葉を聞き、ちらり、と周囲を見渡す。

 先程まで眼中に無かったが……そこには、無数の石の彫像が立てられ、あるいは転がっていた。

 

 ――違う。それは単なる石像に非ず。

 

『そいつの目を見ちゃダメだ! 石にされる!』

 

 立香の言葉の意味が分かった。その上で、彼女の正体が何であるかも、ある程度推測ができた。

 

「貴様……」

 

 そう静かに呟く覚悟の顔は仮面で見えないが……どういう感情を抱いているのか、想像に難くない。

 

「ふふ……いい、顔を、しているでしょう……? 恐怖で引きつった、その顔……!」

 

 シャドウサーヴァントは、ひくひくと動く腕をだらりと下げ、苦し気にしながらもなお立ち上がる。

 その顔には、嗜虐の色がありありと見て取れる。

 

「もはやこの身体では、貴方を、倒すッ、ことは、できないでしょうが……せめて、一人でもッ、多く、石にしてしまえば……くふ!」

 

 シャドウサーヴァントが、妖艶に舌なめずりをする。

 そして、フードの下から覗く嗜虐的な魔眼が、覚悟の背後にいる三人を視界に捉えた。

 直接彼女の目を見たわけではない。だが、彼女の魔眼の効力は、伝承にあるようなものとは違い、目を見ずとも発揮される恐るべきもの。

 ひっ、という女の引きつった声が、覚悟の耳に届いた。

 

「――その言葉、宣戦布告と判断する。当方に迎撃の用意あり!」

 

 その言葉に応えるかのように、兜の両耳と頬辺りの穴から角の如き突起が生え、眉間からはプロテクターが、口元を覆うように展開される。

 それなるは、その鎧――『強化外骨格 零』の戦闘形態。理不尽に超克し、悪鬼を討ち、牙無き人を守る為の形態(すがた)

 

 

 

 

 ―― 覚 悟 完 了 !

 

 

 

 

 高らかに、覚悟が吠える。

 それに合わせるかのように、シャドウサーヴァントも獣の如き咆哮を上げ、猛突進!

 もはや立ち向かう以外の選択肢無しと腹を括ったのか、道連れとなってでも確実に敵を仕留めるべく、ぶわっ、と広がった髪を鎖へと変化。彼女と覚悟を閉じ込める檻を形成しだす!

 

「シャアアアッッッ!!!」

 

 獲物を前にした蛇の如き殺意を漲らせ、妖女が鋭い牙を剥く。

 そのフードは既に剥がれ、開かれた魔眼が覚悟を捉えた!

 

「覚悟!」

 

 立香が叫ぶ。しかし、覚悟、一切動じず。

 左掌を前に、握りしめた右拳を頭の横に、さながら弓を弾くかのように構える。

 

 『零式防衛術 破邪の構え』

 

 それこそは、悪鬼を討つ為の構え。

 

 そして――彼女は知る由もないが――魔眼を発動させた時点で、既に彼女は覚悟の戦技(わざ)の射程圏内にあり。

 

「 因 果 !」

 

 突撃を紙一重で避け放たれた一撃は、飛び掛かってくるシャドウサーヴァントに命中。心臓部……『霊核』と呼ばれるものが存在する場所を、的確に貫いた。

 

 『因果』。それこそは覚悟が最も得意とする、クロスカウンターの戦技。

 相手の持つ威力(ちから)を利用し、そのまま相手へと返す(応報する)、まさしくその名に相応しい一撃。

 

「ぎゃううぅーーッッ!」

 

 獣の如き絶叫を上げ、妖女のサーヴァントは黒く染まったその身を霧散させていく。

 

 

 

 

 ――肉体(からだ)を構成する黒い魔力が空気に散っていく、その刹那。

 

(……嗚呼。やはりというか)

 

 目に映ることごとくを石に変え、人類(ひとびと)を脅かす怪物。そんな怪物に勇敢にも立ち向かってくる、一人の男。

 

(……怪物は、英雄(ヒーロー)に討たれるが運命(さだめ)、という事ですか)

 

 そして、英雄は彼女の首に刃を滑らせ――

 

 この土壇場において正常に戻りつつある彼女の脳裏に過ったのは、暴虐を働いたが故に討たれた、一人の怪物の最後の記憶であった。

 

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