1930年代後半から、世界へと侵攻を開始した異形の敵「ネウロイ」。
開戦当初、人類はネウロイの破竹の進撃を止めることが出来ずに、欧州大陸からの撤退を余儀なくされた。
だが、数年を経て人類は反撃を開始。
ネウロイと同等に戦える「魔女」たちの活躍もあり、欧州大陸各地に点在するネウロイの巣を破壊し、
遂には、カールスラント首都ベルリンにあった大型の巣を破壊。人類はネウロイとの戦いに勝利した…
─────2015年/7月25日/リベリオン
『────マンバ3。撃て、撃て、撃て!』
『────標的5体を破壊。マンバ3、旋回して再度掃射態勢に入れ。マンバ2、続け』
仲間の声が無線から響く。
俺は操縦桿を引く。すると、機首が上向きになり機体が上昇────ぐんぐん、と上がる高度。
高度計を一瞥し、表示された高度に達すると機体を水平に戻し安定させた。
少し機体を傾けると、キャノピー越しに眼下の地上を見下ろす。サボテンと少々の木々、雑草などが点々とした荒野が視界に広がる。
その荒野の上空では、仲間の機体が地面すれすれを低く飛んでいたり、急降下しては地上にある陸戦型ネウロイのイラストが描かれた標的に対し攻撃を行っていた。
『────マンバ4。掃射完了、BDA(爆撃効果判定)を頼む。オーバー』
『マンバ4、標的6体を破壊。無力化は4体、旋回してマンバ3と交代せよ。オーバー』
澄み切った青空を背に、低高度を飛ぶ機体。
その機体は他の戦闘機とは外見が大分違う。もちろん「攻撃機」という点でも、だ。
細長い胴体に大量の兵器を搭載可能な長い直線翼、主翼後方胴体上面という妙な位置にあるGE製ターボファン・エンジンを2基持ち、機首下部には如何にも獰猛そうに描かれているシャーク・マウスと絶大なる威圧感を放つ7砲身の大口径多砲身機関砲が特徴的な機体。A-10“サンダーボルトⅡ”だ。
『────マンバ6、こちらマンバ2。そちらから新たな標的は確認出来るか?オーバー』
「ネガティブ。こちらからは確認出来ない。周辺区域はクリア、演習終了」
A-10乗りの一人であるウィルバート・プライアー中尉はそう報告すると、基地に帰投中の味方機体に合流する為に降下してゆく。
今回のプライアーの担当は演習の映像記録収集であり、機体の兵装ステーションには専用ポッドしか搭載していない。プライアーの対地演習は後日の予定となっていた。
プライアーの機体が味方の編隊と合流すると、まっすぐに所属基地へと向かった…
18:21:44/リベリオン/デビスモンサン空軍基地
アリゾナ州にあるリベリオン空軍の基地デビスモンサンに帰投した彼等は到着するや否や街に出掛ける者、基地内にある映画館へと足を運ぶ者と、皆別々だった。
一人だけ、プライアー中尉だけは自分の機体を点検する為に残り、整備班と共にチェックしていた。
「───よし、プライアー!アヴェンジャーの調整は済んだ。あとはそっちが終われば終了だ」
スパナ片手にそう言う整備班長。
「サンキュー班長。あとは簡単だから、俺に任せてそのまま帰っていいですよ」
「わかった。じゃあ、先にあがるな」
整備班長を先頭に格納庫から出て行く整備班。
広い格納庫に一人残ったプライアーはA-10のコックピットで機器の設定し直しを行い終えると、シートに凭れ掛かる。
初期型からC型へ、そしてこの最新型のEでは更に最新機器へと更新されたグラスコックピット。本来なら機体状態や搭載兵装が映し出されるであろう各ディスプレイはプライアーが電源をオフにした為、沈黙している。
「────明日は、ウィッチとの合同演習だったな。…アイツも参加するのかな?」
脳裏に浮かんだ幼なじみのウィッチの姿、プライアーはそう呟くと胸ポケットから一枚の写真を取り出し眺める。
その写真に写るのは幼き頃のプライアー、幼なじみのウィッチ、そしてプライアーの親父だ。
プライアー自身にとっても忘れられない日。
プライアーがまだ初等学生時代。
ある日、親父に連れられて来たのはネバダにあるネリス空軍基地だった。
最初こそはふてくされていたプライアーだったが、いつの間にか、基地所属の曲芸飛行隊のアクロバティックな動きに目を輝かせ空を見上げていた。
永遠に広がっていると思うような青空にぎりぎりの機間隔で編隊を組み、一糸乱れぬ飛行をし続ける。通常機部隊とは別隊のウィッチ達もそれ以上に切れがあり、美しい飛行を見せていた。
隣にいた親父がどうだ?と聞いてきたのに対し、俺は「僕もウィッチになる!」と言って幼なじみと親父が腹を抱えて笑ったのはあまり良い思い出ではない。
だが、あの航空祭でパイロットに憧れ、空を自由に飛び回りたいと心に決め、今こうして夢が叶い念願のパイロットとして、空を飛んでいる。
「…親父にはいろいろ迷惑掛けた挙げ句に孝行出来ないまま逝かせてしまって、すまない」
ハイスクール時代に必死にパイロットに関する勉強をしていた俺を見続けていた親父はある日、元空軍属という立場を利用して元同僚の…士官学校の教官に頼み込んで17歳と偽り(当時16)士官学校に入学させてもらった。
最初は入学出来たことに歓喜し、親父に感謝した。
親父は微笑み、ただ「頑張れよ」と言った。その頑張れよの言葉の中に深い意味があったことはその元同僚の鬼教官に直接会うまで分からなかったが…
そして、入学して1ヶ月も経たない内に────親父は永遠のフライトに旅立った。
あの葬式の日、隣で泣く幼なじみを慰めつつ、初めて親父の死に顔を見た。満足げに口元に笑みを作り眠るような…そんな表情を。
母は『…ウィル、あなたの夢が叶ったことをお父さんはきっと、きっと天国でも喜んでいるわ』と目に涙を浮かべ掠れた声で言った。
親父のことを片時も忘れたことはない
A-10のコックピットの中で、プライアーはいつの間にかに静かに寝息をたてていた…
7月26日/リベリオン/アリゾナ州
昨日に引き続き、飛行にとっても演習にとっても絶好の青空が広がり燦々と照りつける太陽の光に目が眩む。
『────マンバ1よりプロフェット。演習区域デルタ29(ツー・ナイナー)上空にて待機中、指示を求む。オーバー』
『プロフェットよりマンバ1。そちらに向かっているガンファイターズと合流後、次の指示を下す。ブレイク、ガンファイターズはそちらから3時方向から接近中。オーバー』
編隊長機からの問いに間を置かずして答える観測機。第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊ブラックマンバ隊は6機編成のデルタ編隊で5000フィート上空を飛行していた。
『わざわざアイダホからアリゾナへようこそ、だな。ガンファイターズの奴ら』
『昨日は隣のCVS(キャノン空軍基地)にいたんだろ? 俺の彼女がいるんだが、あとで聞いてみようかな』
プライアー機の右前と隣を飛ぶマンバ3と4があれこれ話していると、無線に女性の声が入る。
『────こちらガンファイター1。ブラックマンバ1、応答を。オーバー』
『おいでなすったようだな』
『マンバ3、私語を慎め。マンバ1よりガンファイター1、聞こえる。オーバー』
『マンバ1、そちらから3時方向にて並走中』
その言葉に自然と右を振り向くプライアー。
視界にマンバ4と5が入るが、その向こう側の雲の切れ目から金属系の煌めきが見えたと思うと雲から飛び出すF-15ジェットストライカーを穿くウィッチたちの姿。
計5名のウィッチがマンバ隊と同じくデルタ編隊を組んだまま、こちらへとゆっくりと接近してくる。よくストライカーユニットを見れば、ユニット胴体側面部が膨れている。…CFT(コンフォーマル・フューエル・タンク)と呼ばれる増槽と、下部にLANTIRN(夜間低高度赤外線航法・目標指示システム)ポッドが装備されているE型ストライク・イーグルだとわかる。
『────ガンファイター3より、マンバ6』
無線から聞こえる懐かしい声。
ガンファイターのウィッチが一人、こちらへと手を振っているのを視界に捉える。その表情は明るい笑顔を浮かべていた。
『久しぶり。…ウィル』
プライアーの幼なじみである彼女───シェリー・ホワイトアウェイは現在、アイダホ州にあるマウンテンホーム空軍基地の第366戦術戦闘航空団のウィッチ隊に属している。ちなみに3つ年下の17だ。
彼女もあの日、空に魅せられた1人だ。
今、目の前にいる彼女はあの士官学校入学以来からだいぶ容姿が変わり、腰ほどまであったブロンドの髪は肩に掛かる程度に短く切られ、風に煽られ靡いていた。
「あ、あぁ久しぶりだな。シェリー」
少しの間、惚けていたプライアーは今まで上げていたバイザーを下ろし、平静を装う。
今の彼は惚けていた気恥ずかしさに顔が赤くなっていた。シェリーは頭にハテナマークを浮かべ、首を傾げていた。
『え!?何?プライアー、彼女誰よ?』
『前言っていた幼なじみのウィッチだろ?というか、ブライアン。声荒げんなって』
『ウィル。ウィッチに知り合いがいるなら教えてくれよな?只でさえ、会う機会も少ねえんだから』
プライアーとシェリーのやりとりにブラックマンバ隊の男性陣の会話が無線越しに飛び交う。それに見兼ねた編隊長がストップを掛ける。
『お前らそこまでだ。演習を開始するぞ、ガンファイターの彼女たちに遅れをとれば基地外周を俺が良いと言うまで走ってもらうからな』
『『『『り、了解しましたぁぁぁ!!!』』』』
マンバ隊の男性陣の様子にガンファイターのウィッチたちはクスクスと笑っていた。
プライアーも何か声を掛けようとした。
だが、編隊が雲の中に入った瞬間────プライアー機のコックピット内は危険を示す警告音が鳴り響く。
「なんだ!?」
ガタガタと振動し始めるA-10。
プライアーが操縦桿を握り抑えようとするが、機体の振動は止まらない。コックピットの各種計器も異常を来たし、多目的ディスプレイに映し出された機体状況は機体全体が損傷を示す赤一色に包まれ、燃料計、高度計のデジタル表示も有り得ない数値やゼロを繰り返していた。
異常に気付いた仲間の声が無線に響く。
『────!?ウィル!どうした!!!』
「機体トラブル発生!!!畜生!機体が言うこと効かねえ────!!!」
『機体を保って雲から出ろ!!!』
『4!プライアー機が見えるか!!』
『ダメだッ!!!雲が濃くて下手に動けない!』
『各機、水平を保ちつつ飛行し続けろ。編隊を崩すな!────プライアー、状況報告』
マンバ隊のメンバーがプライアーの身を案じて声を掛けてくる中、編隊長からの指示にプライアーは絶望的な機体状況を告げた。
「機体を水平に保てません!各種計器にも異常が発生して高度も方向もわかりませんッ!!!……っ───!?両エンジンの推力が低下している!」
先ほどまで快調に金切り声を上げていたTF34ターボファン・エンジンの推力が徐々に低下していき、
遂に、その回転が完全に止まる。
「エンジン停止!!!エンジンが死んだ!」
『プライアー!脱出しろッ!!!脱出だ!』
プライアーが念の為、墜落時の機体爆発を押さえる燃料防漏システムのスイッチをオンにし、脇にある射出座席のレバーを引く。だが、現実は無情で、射出座席は機能しなかった。
「ダメだ。射出座席もイカれてやがる…」
『まだ何とかなる!諦めるなッ!!!』
『プライア…き…んとか……!…』
無線にもノイズが走り始め死に間際に、せめて最期まで聞こえて欲しかった無線もダメになったことに
プライアーは覚悟を決め、そっと目を閉じる。
「………親父、母さん……すまない」
今まで苦労を掛けてきた両親に謝罪し、残されるであろう母とシェリーのことを悔やむ。
『………ウィル!!!ウィル─────ッ!!!聞こえたら返事を……!』
無線から聞こえるシェリーの声。
「……シェ──────」
次の瞬間、彼が乗った機体は眩い光の中へと突っ込み、
彼も、完全に意識を手放した……
─────1942年/夏/アフリカ/ハルファヤ峠
北アフリカの重要地点『ハルファヤ峠』
人類にとっても北アフリカをネウロイの魔の手から守る為に部隊を配備している前線。
だが、その前線も今まさにネウロイの猛攻を受けていた。
「────1時方向から突っ込んで来るゴキブリがいやがるッ!!!アハト・アハト!狙え!」
「照準よし!!!」
「撃てェ!!!」
合図とともに広大な砂漠に響き渡る砲声。
カールスラントの傑作高射砲である8.8cm砲、通称アハト・アハトが迫り来るネウロイの大群に必殺の砲弾を放つ。
狙われた陸戦型ネウロイの正面装甲を貫く砲弾、陸戦型はそのまま光の破片と化し消えゆく。
だがそれも無限とも思えるほどに群がるネウロイの1体を破壊したに過ぎない。
眩い赤い一筋の光がハルファヤ防衛部隊の陣地内に着弾すると、爆発が起こり防衛部隊の兵士たちを吹き飛ばす。負傷したまま“運悪く”生き残ってしまった者もじわじわと身体を走る激痛に顔を歪め、ただ呻くことしか出来ない。
「待ってろ!今、助けてやる!!!」
「よせ!今出ればお前も死ぬぞッ!!!お前が死ねば誰が負傷者の手当てをするんだ!?」
仲間の制止を振り切ってまで助けに行こうとする衛生兵を数人掛かりで押さえる。観念した衛生兵が「必ず助けてやる!それまで踏ん張れ!死ぬなッ!!!」と叫びつつ、塹壕内に身を隠す。
気休め程度の言葉だと、彼らは知っている。
いっそのこと、敵でも味方でもいいからこの激痛から解放してくれと願う者も多数いた。
カールスラント、ブリタニア、ロマーニャの国々から編成された防衛部隊が必死の抵抗を見せるものの、ネウロイは陸戦型だけではなく空からも飛来してきたフライング・ゴブレットが防衛部隊の兵士たちに弾丸の雨を降らせていた。
フライング・ゴブレットに対し、陣地内にいたオープントップの砲塔を持つヴィルベルヴィントが搭載の20mm対空機関砲で弾幕をはるが、如何せん数が多く返り討ちに会う車両もいた。
「シャイセ!(クソ!)このままじゃ…」
「諦めるなッ!!!『アフリカの星』は必ず助けに来てくれる!そうだろ!?」
塹壕内から身を乗り出して、例え効果が無かろうと手持ちの火器で最大限の銃撃を浴びせていた彼ら。
例え絶望的な状況だろうと、彼らは諦めはしない。
何故なら、彼らには希望の光があるからだ。
「来るぞ──────!!!」
陣地内に侵入した陸戦型の1騎が、砲身を向ける。
こちらに向いている砲口が赤く光り始めだすと、誰も彼もが塹壕内に身を潜め、目を瞑り、祈る。
突然────けたたましい銃撃音が鳴り響く。
続く爆発音、異変に気付いた兵士たちが塹壕から顔を上げると先ほどの陸戦型が撃破されていた。
なにがあったのかと、呆然と見ていた兵士たちの頭上を何かが通過し、地上の黒い陰が続く。
見上げた兵士たちの瞳に映るのは鷲の姿────ではなく、大空を優雅に飛ぶ鷲のように飛行しては長い銃身を持つ機関銃の短連射で次々と忌まわしいフライング・ゴブレットを叩き落とすウィッチ。
兵士の一人が歓喜の叫び声を上げる。
「『アフリカの星』────カールスラント空軍のハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉!!!」
「あの『黄の14(ゲルベフィアツェーン)』なのか!?」
絶望から立ち直り始めた兵士たち。
ハルファヤ峠防衛部隊指揮官の“教師”のあだ名を持つヴィルヘルム・バッハ少佐は損傷した88mm砲の復旧作業を行っていたが、その様子を見て歓喜に震えた。
「『アフリカの星』が来てくれたか!だが、敵の数は・・・・」
「少佐!あれを」
ブリタニア軍属の副官であるシンプソン大尉が陣地の一角を指差す。
バッハ少佐が双眼鏡で見やると、陸戦ストライカーユニットを履いたブリタニア陸軍のウィッチたちが陸戦型ネウロイを蹴散らしていた。
「ブリタニア王国陸軍第4戦車旅団C中隊マイルズ少佐────以下12両!到着です!」
塹壕内からこちらを見上げる兵士たちにそう宣言したセシリア・グリンダ・マイルズ少佐は、40mm砲を構えると発砲。狙われた陸戦型ネウロイは魔力で強化された徹甲弾を受け破壊される。
マイルズ少佐を中心に横一列隊形を組んだC中隊12名は前進しつつ、次々とネウロイを屠る。
空のフライング・ゴブレットは『アフリカの星』ことマルセイユ中尉が撃墜していき、地上の陸戦型ネウロイはマイルズ少佐たち陸戦魔女たちが撃破していく。
彼女たちの活躍に負けていられるかと、勢いづくハルファヤ防衛部隊の兵士たち。
「よし!このままいけばハルファヤは───」
バッハ少佐が勝ちを確信した次の瞬間、空を我が物顔で飛んでいたマルセイユ中尉に向け太いビームが放たれる。シールドで防ぐマルセイユ。
「────チッ・・・・!」
あまりの威力によろめきつつ舌打ちする。
「マルセイユ中尉、一旦離脱します!」
マイルズ少佐が前方を確認すると、四つ脚陸戦型ネウロイに混じり迫って来る巨大な黒い陰。
「大型陸戦ネウロイ・・・・だと!?」
陣地にいるすべての兵士がその巨体に圧倒された。
二脚でゆっくりと移動しつつ、その巨大な砲塔を防衛陣地に向け、発射する。
放たれた実体弾はマイルズ少佐たちの部隊に至近弾として炸裂、大量の破片をシールドで弾く。
「奴の装甲は分厚いわ!徹甲弾を一カ所に集中させて!装甲がなるべく薄い下腹部を狙って!」
陸戦魔女の40mm砲や防衛陣地の兵士たちが携行するすべての火器が火を吐くが、大型陸戦ネウロイには蚊に刺された程度でしかない。
一度離脱していたマルセイユも頭上からMG34の弾丸のシャワーを浴びせていたが、あまり効果が無く、そうこうしている内にカチリと、虚しい金属音が鳴り響く。
「黄の14、全弾消耗!」
マルセイユからの報告を受けたマルセイユたち陸戦魔女は一層の集中射撃を喰らわせるが、装甲は少しずつしか削れない。
だが、彼女たちは諦めなかった。
そんな思いを神は受け止めたのか、同じ箇所付近に命中し続けた結果────赤いコアが露出。
「弾が切れた!誰か!誰かッ!!コアを狙ってェ!!!」
マイルズ少佐の叫びに呼応する砲声が一つ鳴り響いた。
次の瞬間には露出していたコアに音速の速さで飛来した砲弾が直撃。直撃を受けたコアがガラスか陶器のように砕け散ると、ネウロイが光の破片となって消えた。
マイルズが砲声がなった防衛陣地を振り返り見ると、たった1門のみ残ったアハト・アハトの姿が見えた。
「バンザイッ!!!」
アハト・アハトを操作していた兵士の一人が叫び、次なる砲弾を用意していたマルコ中尉は88mm砲弾を降ろす。
「尾栓を覗いての直接照準…こいつがよくあたるんだよ」
顔の汗を服で拭ったバッハ少佐が満足げにそう言う。
静まり返るハルファヤ峠。
負傷者の救護に彼方此方走り回る衛生兵。塹壕内にいた兵士たちも手を貸そうとしていた頃合いに、不意に誰かが大声で叫んだ。
「おい!まだ終わっちゃいねえ!!!」
先ほど撤退していった陸戦型ネウロイの群れは、一カ所に集結しつつあった。
その陸戦型の奥に見える2つの大きい陰。
先ほど、撃破するのに手間取り苦戦したあの大型陸戦ネウロイだ。
「嘘だろ・・・・」
「あんなのが2騎も・・・・」
再び彼らを襲う絶望。
マイルズたちやマルセイユも苦虫を噛んだかのような顔つきになる。
弾も尽き、残り少ない魔力では到底勝ち目は無い。
人類は、アフリカ防衛の要である『ハルファヤ峠』を失う─────それは戦線瓦解と、ネウロイによるアフリカ制圧の可能性が決定打となる。
「ここまでか…」
この様子を見ていたバッハ少佐は、怒りに震える手を抑制しつつ、撤退命令を出そうとしていた。
───────そこに、突然、金属音が響く。
マルセイユかと、思ったバッハ少佐は空を見上げる。
だが、瞳に映ったモノはマルセイユでは無く、今まで見たこともない飛行機が空を飛んでいた。
「なんだ・・・・あの機体は・・・・?」
その呟くような問いに誰も答えられなかった…
side.プライアー
深い闇の中から意識が戻り始めたプライアーはまず、耳につんざく警告音に目を開ける。
「…う、此処は…?」
意識がはっきりしてくると、機体が反転しておりコックピットが地上に向けられていることに気付き、操縦桿を握り立て直す。
コックピット内のディスプレイは正常に動いており、高度計も燃料計などの表示もだ。HMD(ヘルメット・マウンテッド・ディスプレイ)も暫く経つとイルミネーターが復活し、バイザーに投影される。
「俺は死んだんじゃないのか…?だとしても、此処はどこなんだ?」
タッチパネル式のディスプレイにGPSによる現在位置が映し出される筈だが、表示されたのは『NO SIGNAL』の文字のみ。飛行ルート表示のウェイポイントすらも出ない。
近くにいるであろう仲間や基地に通信で呼び掛けるが、無線は沈黙し続けた。
「参ったな…って、アレは?」
3時方向の地上に数回煌めく光。
続いて閃光と爆発による黒煙を確認した。
「…演習か?行ってみるか」
右旋回をしつつ高度を少し落とす。
いつもと同じ様に見えた演習区域だが、プライアーは異変に気付いた。
「ん?……な、アレは!」
演習区域だと思われた地点にいたのは巨大な鉄の塊と例えられる姿をした大型陸戦ネウロイだ。
そのネウロイの足元周辺に蟻のごとく随伴する四つ脚陸戦型ネウロイの群。
「コイツらどこから現れやがった!?」
プライアーは同時にそのネウロイが向かっている場所には軍部隊のと思われる陣地が見えた。
陣地内は既にボロボロで各所から煙が上がり、防衛部隊の砲火はごく疎らだった。
「やるしかないみたいだな・・・・!」
タッチパネルを操作し、A-10のマスターアームをオン。搭載兵器を撃てるようにする。
今度は使用武器を選択、AGM-65“マーベリック”対地ミサイルを選ぶ。
「────こちらリベリオン空軍所属、マンバ6。ネウロイと交戦中の地上部隊へ。聞こえるか?オーバー」
だが、無線は沈黙したまま。
「無線が故障しているのか?…仕方がない、攻撃態勢に入るからな。聞こえていたら頭を下げていろよ!」
大型陸戦ネウロイと地上部隊の距離が近く、上昇している隙が無かったため低高度を維持したまま、アプローチする。
マーベリックの画像赤外線シーカーが大型陸戦ネウロイの熱を捉える。
「マンバ6────ライフル!」
対地ミサイル発射のコールを言い、ミサイルの発射ボタンを押す。
A-10の長い直線翼にある3連ランチャーに懸架されていたマーベリックミサイルの1発がランチャーから切り離されロケットモーターに点火、音速を超えるスピードで標的へと突き進む。
更にもう1発を同目標に発射すると、兵装を機首に搭載されている“アヴェンジャー”30mmガトリング砲に切り替える。
数秒後、マーベリックは大型陸戦ネウロイの上部装甲部に命中────続けて2発目が胴体右側面に命中し弾頭が炸裂。
爆発とともに舞い上がる黒煙。
ミサイルを食らったネウロイは叫び声にも聞こえる独特の鳴き声を放つ。まるで痛みに耐えかねるように。
黒煙がうっすらと晴れると、ミサイルの直撃部分は大きく抉られており、その箇所に半分露出している赤いコア─────それをプライアーは見逃さない。
「マンバ6、撃て、撃て、撃て!」
HUDに表示されたガンレティクルを合わせトリガーを引くと、機首下部から顔を覗かせる30mmガトリング砲がスピンアップし始め、うなり声をあげる。
音速で放たれる砲弾は秒間65発……毎分3900発という驚異的な速度で次々と発射されては、大型陸戦ネウロイの抉られた箇所───コアに向かう。
一瞬後、ガラスが割れたように赤いコアが砕け散ると消滅してゆく大型陸戦ネウロイ。
「─────初めて見たな。これが実戦…」
アヴェンジャー掃射後に上空へと退避したプライアーは、その光景をしばらく見つめる。
すると、もう1騎の大型が地上にいる陸戦魔女の防衛戦を強引に突破しようとしていた。
それを見たプライアーはそれを阻止するべく機体を旋回させ、斜め上からの降下を始める。
A-10の30mmガトリング砲による機銃掃射の基本で、50度以上の角度から陸戦級の薄い上部装甲部分を狙い、効果的に破壊するためのものだ。
先ほどのように水平状態で機銃掃射を行うとアヴェンジャーの凄まじい反動で数ノットほど速度が落ちる。A-10の逸話の一つだ。
ぐんぐんと降下し続ける機体。
HUDとキャノピー越しに見える大型陸戦ネウロイの砲塔上部にガンレティクルを合わせる。
「マンバ6、撃て、撃て、撃て!!」
─────ヴアァァァァァァァァ!!!!!!
轟然と火を吐くアヴェンジャー。
砲口から飛び出す鋼鉄の約2.5倍の密度を持つ劣化ウラン弾芯の徹甲焼夷弾(PGU-14)が上空からネウロイへと次々と命中し、装甲の薄い上部はどんどん抉られてはネウロイの修復が始まるが、30mmによるダメージ速度が速かった。
雨のように撃たれる30mm弾にネウロイは悲鳴をあげ、遂に運命の1発が内殻に浸透、コアを貫く。
その瞬間、地面を耕していた巨大な脚が止まり、大型は静かに光の破片へと消えていく。
「────やったか・・・・」
ふぅ、と、一息つくと地上を見渡す。
大型が消えたことで中型、小型陸戦ネウロイの群れは反転し、砂塵を撒き散らしながら逃げていく。
一安心したプライアー。
だが、彼は自身の機体に迫って来た航空魔女の姿を見て、表情が固まる。
現在速度は巡航時の550km/h。
そのA-10の後方から右側へと飛んできたウィッチとプライアーはキャノピー越しに顔を見合わせる。
黒い服に身を包んだ彼女は、その長い白い髪を風に靡かせ、その青く勝ち気そうな目でこちらを見つめていた。
その容姿に思わず息をのむプライアーだったが、それとは別なことが頭の中を行き交う。
「────何故、レシプロ…なんだ?」
彼女が履くストライカーユニットを見て、そう言った。訓練部隊用のユニットなのかと考えていたが、ユニットの側面に描かれていた国籍マークを見て再び眉を顰める。
「あれは…鉄十字か?帝政カールスラント時代のものじゃないか。リベリオンにカールスラント部隊が来たなんて聞いていないが…ん?」
気づくと、彼女がこちらに顔を向けながら耳元を押さえ、口を動かしていた。
「…無線か。でもチャンネルには問題ないはずだが……たしか魔導インカム用の周波数は…」
ディスプレイを何度かタッチし、周波数を検索する。
『─────だ。聞こえたら応答しろ』
無線から響く女性の声、隣にいる彼女からだと思うと呼び掛けに応じた。
「こちらリベリオン空軍第355戦闘航空団所属、コールサイン、マンバ6だ。そちらはどこの部隊だ?オーバー」
俺からの返答に彼女はキョトンとした顔をする。
「リベリオン空軍…?こちらはカールスラント空軍JG27────統合戦闘飛行隊『アフリカ』所属のマルセイユだ。リベリオン軍の機体が何故此処に?」
彼女────マルセイユの言葉に違和感を覚えるプライアー。
「此処?どういうことだ?それに何故カールスラント部隊がリベリオンにいる?」
「リベリオン?何を言っているんだ?」
プライアーの質問にマルセイユは呆れたように次の言葉を述べた。
「此処はアフリカ────ネウロイの侵攻を防ぐ人類の前線だぞ?」と、
「……………は?」
プライアーはなんとも間抜けそうな声を出した。
砂漠の真上にある太陽は、彼を歓迎するかのように燦々と暑い日差しを照りつけていた……
どうでしたか? 感想お待ちしております。