……1942年/夏/アフリカ/ハルファヤ峠近郊
それは稲妻のように飛び、雷鳴の如き鉄槌を下す“鳥”
だが、ただの鳥ではない。
全体を灰色で塗装し、すらりとした長い胴体に直線翼。
後部胴体上部左右の位置にポッド式に装着されている推力40.34kN(静止最大推力)を誇るTF34高バイパス比ターボファン・エンジン。アルミ合金が主のミモノコック構造の機体だが、重要各部防弾部には12.7mmから38.1mmの装甲に覆われ、コックピット周りは23mm口径の砲弾にも耐えうるチタニウム合金を施している鋼鉄の鳥……。
機首にペイントされたシャークマウスには、太陽の光もあり幾度となく反射する7門もの砲身を束ねた大口径機関砲が絶対的な威圧感を放っていた。
『─────目標の位置確定。機銃掃射《ガンラン》に備えろ』
地上にてブリタニア陸軍補給部隊の車列を蹂躙していたサソリ型の陸戦ネウロイが、今正に舞い降りようとしている鋼鉄の怪鳥に気付いた。
迫り来る怪鳥にテール先端部から赤色の速射式ビームによる弾幕を形成し立ち向かうが、
相手は、サソリにとって天敵である存在《鳥》だ。
ただばらまいただけのビームに掠りもせず、悠々と飛び続ける怪鳥は次第に迫り大きくなるその姿をアピールする。
『────目標確認……機銃掃射開始』
怪鳥は、舞い降りた。
─────ヴアァァァァァァ!!!!!!ゥゥゥゥンンンン……!
機首に装備された“アヴェンジャー”こと7砲身30mm機関砲が真っ赤な火を吐き咆哮する。立ち込める発射煙が機体を包む。
コンバット・ミックス。
つまりは劣化ウラン弾芯の徹甲焼夷弾PGU-14/Bと曳光弾としての役割を果たすPGU-15/B訓練弾を使った弾種混合のこと。
秒速988mを誇る劣化ウラン弾芯のAPIが秒間65発と言う発射速度で発射され、狙われたサソリ型ネウロイを蜂の巣となる。
立ち上る無数の砂煙……。
30mm機関砲による掃射は凄まじく、掃射コース上に居た複数のネウロイを白い光の破片へと変えていた。何騎かのネウロイは移動に必要な部位を失ったことでもがいていた。
『こちらブリタニア陸軍補給部隊ベイカー1だ。上空の友軍機へ、残存ネウロイは撤退した……支援に感謝する』
『了解したベイカー1。ハルファヤ防衛部隊が間もなくそちらに到着する。負傷者の移送準備を頼む。オーバー&アウト』
高度2000フィートにて眼下の地上部隊を中心に旋回していた“ウォートホッグ(イボイノシシ)”の愛称ことA-10攻撃機。
そのコックピットにて機体を操縦するプライアーは、HMDS(Helmet Mounted Display System)付きフライトヘルメットのバイザーを上げキャノピー越しに地上を見下ろす。
「レイウルス級は思ったより装甲が薄いな。徹甲弾に対する耐性がついているパラドゥス級より脅威ではない、か」
先程の、主に砂漠に現れる強襲陸戦型ネウロイ“レイウルス”のやられ具合を思ったプライアーが呟く。
「ガンは……残弾610か、2秒掃射で終わってよかった」
安堵の溜め息を吐くプライアー。
秒間65発の大飯喰らいのアヴェンジャーだ。残りの30mm弾をものの9秒ちょっとで撃ち尽くしてしまうだろう。
「あの男が話していた物資が何時来るのか分からない以上、弾薬の節約をしなきゃならないしな。……さて、帰投するか」
スティックを右に倒し引き緩やかに戦域を離脱するコースをとるウォートホッグ。
「マンバ6よりアフリカHQ(HeadQuarter:本部)へ。B補給部隊を奇襲したレイウルス級ネウロイの撤退を確認、これよりき……」
ピーッと、コックピット内に警告音が鳴り響く。
「っ…航空型ネウロイか!?」
眼前にあるMFD(多機能ディスプレイ)の一つに機体下方から接近しつつある航空型ネウロイが表示される。
これはUHF/TACANアンテナ(取り外し済み)直下胴体下面に収められているEOTS(Electro Optical Targeting System:電子光学目標指示システム)が捉えたものだ。
EOTSはF-22やF-35と言った最新鋭機を生み出したロッグヒード・マービン社のミサイル&火器管制部門が開発したF-35用のセンサーで7面のガラス張りで構成されたカヌー型フェアリングをしている。内部には空対地用のFLIR(前方監視赤外線追跡装置)、空対空用のIRST(赤外線捜索追跡装置)、レーザー・スポット追跡装置、アクティブ・パッシブ測距、高精度座標生成機能などを収めた電子光学機器だ。
プライアーが操縦するA-10Eには試験的に搭載されたEOTSが装備されているが、胴体中央にある6番兵器ステーションに600ガロン増槽があれば使用出来ないとの欠点がある。使用するには増槽を投棄するしかない。
話が逸れた。
そのEOTSで捕捉されたブリップは赤い△で囲われ、右上には敵種である『ENEMY_NF-03』との数字が表示される。
「NF-03……ケリドーン高速小型か!」
士官学校時代に見た航空型ネウロイ識別表を思い出したプライアーが叫ぶように言った瞬間、真下から突き上げるように上昇してきたケリドーン型ネウロイ3機の機首にある機銃が火を吐く。
「くそっ……!」
左翼付近を掠めた曳光弾に、機体を右に倒し旋回。
スロットル・レバーを前進させ、ジーニアス・エレクトロニクス製TF34ターボファン・エンジンがファンを高速回転させ唸り声を上げる。数秒で最大推力状態となった機体がケリドーンの追尾から逃れようと降下する。
高度は5000フィートから2000フィートへ。
時速750km近くで飛行するA-10の後ろを200kmほど遅い速度で追いかけてきながら機銃を撃ち続けるケリドーン3機。
「サイドワインダー(AIM-9X)があればッ…!!」
確かにA-10には両翼端付近にある1,11番ステーションにLAU-114ランチャーを使用することで最大4発のAIM-9X“サイドワインダー”視程内射程空対空ミサイルを搭載可能だが、今は無い。
するとEOTSのIRSTが再び脅威情報を告げる。
光学機器が捉えたものをズームアップでディスプレイに表示する。前方から4機のケリドーンが向かって来ていた。
「マジかよッ!!!クソッ!」
思わず悪態を吐くプライアー。
相対しているケリドーンとの距離が詰まっていく。
プライアーが手段の一つであるアヴェンジャーによるガンキルを行おうと、兵装切り替えをした時だった。
前方にいたケリドーンの1機が銃撃を喰らい墜ちていった。
『やっぱり私がいないとダメみたいだな────ウィル?』
同時にヘッドセットから響く聞き慣れた声に自然と笑みを浮かべ言い返す。
「俺は対地専門なんだよ、マルセイユ!」
また1機、“アフリカの星”と呼ばれるカールスラントウィッチのハンナ・ユスティーナ・マルセイユの銃撃を受けたケリドーンが火を吐き撃墜された。
『敵、ケリドーン型4機散開、2機撃墜』
マルセイユとは別な声がヘッドセットに響く。マルセイユの僚機であるライーサ・ペットゲン少尉だろう。追従する彼女がマルセイユの撃墜成果を逐一無線で報告する。
『9時の方角、上方よりケリドーン型3機!』
プライアー機を後方から追っていたケリドーンが追跡を止め、最優先目標をマルセイユたちに指定したのだろう。
上方のケリドーンが発砲。だが、マルセイユはそれをひらりと身を捩らせ回避すると手持ちのMG34機関銃の単連射で1機屠る。続いて来た2機目にも単連射、片翼を失った敵機はクルクルと回転しながら墜ちていき地上に激突する。
残存3機中2機のケリドーンが左右から、1機がマルセイユの背後から迫る。
「マルセイユ!」
思わず叫ぶプライアー。だが、次の瞬間には其れは心配無用だったことを気づかされた。
左右から迫った2機が同時に発砲する、その瞬間を狙ったマルセイユが静止状態から一気に減速し、下に逸れる。
左右の2機は相対している為、互いの銃撃を浴び散華する。後方からのケリドーンに対しマルセイユは反り返りMG34のトリガーを引き発砲、7.92mm弾を喰らった敵機は穴だらけになり爆発四散、空中に光の華を咲かす。
「……さすが、“アフリカの星”だな」
彼女の戦闘を目の当たりにしたプライアーは賞賛する。
全機撃墜するのに要した時間は僅か10分足らず、流石はエースウィッチ、と言ったところか。
戦闘を終えたマルセイユがライーサを引き連れ、此方に来る。
プライアーがスロットル・レバーを後退させ推力を絞る。A-10の速度は時速550km台になる。ニヤニヤとした表情でコックピットの直ぐ隣を並進する。
『だから言ったろ? 私の援護が要るって』
「あぁ、今さらになって分からされたよ。今度からよろしくな」
『こちらこそ』
「さて……基地に帰投するか。カトー大尉に報告しなきゃな」
『だな、ライーサ、基地に戻るぞ』
『了解』
翼を翻し帰投コースへ針路を変えるA-10と二人のウィッチ。
此処アフリカに“無理やり”連れてこられて一週間は経つが、未だに砂漠の生活には慣れない。
この一週間で俺、ウィルバート・プライアーは二度の戦闘を経験した。一度目は此処に来た日、二度目は3日前にトブルクからハルファヤ峠へのMSR(主補給路)を移動中のブリタニア連邦陸軍の補給部隊車列がネウロイ地上部隊の待ち伏せをうけた時だ。
俺は『アフリカ』の指揮官である扶桑陸軍の女性ウィッチ────いや、エクスウィッチ(元魔女)の加東大尉から要請を受けて出撃した。
『アフリカ』の彼女たちウィッチのストライカーユニットより時速300kmほど早いA-10で現場に一番乗りで到着し、補給部隊の車列を攻撃していた蠍《サソリ》に似た強襲型陸戦ネウロイ数体に機銃掃射を行い破壊叉は撃退した。
途中、飛来したケリドーン高速飛行型ネウロイの編隊と交戦したが、“アフリカの星”ことマルセイユが駆けつけものの10分ほどで7機を全機撃墜した。
ともあれ、彼等の働きにより補給部隊は安全にハルファヤまで荷を届けられた訳であったが……
「─────暑い……」
今はこうして、真上から照らす太陽の光に汗を流し、格納庫の隅でうなだれているプライアー。
手にしていた水筒に残った水を最後の一滴まで飲み干すと、自身の周りにいる整備士たちを見る。自分とは違い砂漠の生活に慣れた彼らは黙々とストライカーユニットの整備、点検をしていた。
「……慣れって、いいな……」
羨ましそうに彼らを見つめるが、すぐにぐったりして地べたにべたーっと倒れ込むが、そこに格納庫の入り口から中を覗き込む影に気づくプライアー。
キョロキョロと格納庫内を見渡してその人物の二つの目が、プライアーをロックオンするや、ニヤリと口元に笑みを作る。
プライアーにとって其れはスパイク(“レーダースパイク”要はレーダーロックオンを喰らった状態)であり、RWR(レーダー警戒受信機)がひっきりなしにピーッと警告音を出しているだろう。顔が引き攣るプライアー。
「此処に居たかウィル。さぁ、私と空戦でしょ……」
「違うでしょ? ティナ」
「むぅ……仕方ない」
黒い飛行服に身を包んでいる彼女、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉は猛禽のような目で相変わらずプライアーに勝負を挑もうとしたが連れ添っていたマルセイユの僚機を務めるライーサ・ペットゲン少尉の止めに大人しく従った。
「で、何だ? マルセイユ」
「ケイから召集だ。すぐに来てくれ、だそうだ」
「今度はなにがあるのやら……」
そう言うと水筒を片手にプライアーと二人は丘と丘の間にあるあの一際大きい天幕へと向かう。
「お呼びでしょうか、カトー大尉」
天幕に入ると目の前にある土嚢を改造したソファに座る加東大尉とオリーブドラブ色のカールスラント軍熱帯野戦用の将校姿の男性がいた。男性のすぐ傍にある小さな机の上にはゴーグルが付けられた将校制帽があった。
「閣下、彼がプライアー中尉です」
加東大尉がそう言うと隣にいた将校が立つ。
「初めましてプライアー中尉。私はエルヴィン・ロンメル。カールスラント・アフリカ軍団、通称KAKの司令官をやっているよ」
「り、リベリオン空軍航空戦闘軍団第355戦闘航空団所属、ウィルバート・プライアー中尉であります!」
穏やかな表情で話し掛けてきた目の前の人物がまさか歴史上でも偉大な人物であり、第二次ネウロイ大戦中アフリカ戦線での活躍から『砂漠の狐』と呼ばれたカールスラント陸軍中将 エルヴィン・ロンメルが、手を伸ばせば届く距離にいるのだ。
マルセイユ達との邂逅の際、プライアーは彼女たちが歴史上の有名人であることは知っていたがあまり興奮や驚きと言った感情はあまり出なかった。
リベリオン人にとっての歴史上の有名人、特に第二次ネウロイ大戦で名を馳せた人物なら自国の人物なら知っていたりするが、他国の者なら話は別。まったく知らなかったりする場合もある。
だが、プライアーの目の前で相対している人物なら空軍野郎でも知っている有名人だ。
ロンメルが話す。
「あの日、君がこの地に来なければ我々は今この場所には立っていなかっただろう。礼を言う……りがとう」
「いえ!自分はただ……」
「そう謙遜する必要はないよ。現に君はハルファヤの防衛部隊やブリタニアの補給部隊を助けた。十分胸を張れるよ」
「恐縮です」
自ら手を伸ばしたロンメルにプライアーは握手に応える。すると、加東大尉が喋る。
「閣下、そろそろ……」
「あぁそうだったね。では、プライアー君、また今度」
入り口付近にて立っていた副官らしき将校と共に天幕を後にするロンメル中将。
「さっき、ロンメル中将に話をしたの」
加東が再びソファーに腰を下ろすと話し出す。
「話?」
「今後の貴方の処遇について、よ」
「あぁ……」
「とりあえず、貴方には『アフリカ』の隷下として今後の活動を共に動いてもらうわ。それでいいかしら?」
「行く宛が無い以上、この世界で一人は辛いし、何も出来なくなれば元も子もないからな。大尉の提案に賛成するよ」
「ありがとうウィル。それと、ケイでいいって言ったでしょ? その堅苦しい言葉使いは禁止、禁止よ」
ヤダヤダと言ったような感じでパタパタと手を振る加東。
「わかったよ。……ケイ」
「ウィルー! 今日は飲むぞー!」
その言葉に加東は微笑む。が、次に天幕に入って来たマルセイユの一言に頭を抱えて深い深い溜め息を吐いた。
E型A-10に関しては後々に詳細書きます。
最近は作業BGMに茶太さんの「笑顔の約束」を聴いてます。この曲が一番落ち着きます。1分30秒ほどしかありませんが(苦笑)