2015年/8月2日/リベリオン/アリゾナ州/デビスモンサンAFB.
時刻は昼を少し過ぎたあたり。
いつもと変わらぬ青が広がるリベリオンの空の下、アリゾナ州にあるリベリオン空軍基地デビスモンサンでは基地に所属する第355戦闘航空団の各飛行隊は訓練に明け暮れていた。
基地内の一画にあるエプロン(駐機場)近くにあるカマボコ型の簡素なハンガー内にて、二人の整備士が格納されているA-10Eを整備していた。
「……なぁ、聞いたか?」
「何をだ…?」
左主翼に上がり左エンジンのファンブレードを点検していたデジタル・タイガーパターンの迷彩柄の作業服姿の男が、カウリング下部を開きエンジン本体の油圧ポンプや配線をチェックする同僚だが、服装の違う男に話し掛ける。
「プライアーの捜索が打ち切られた、そうだ…」
男の言葉に手の動きが止まる。
「……マジかよ。まだ、残骸すら発見出来ていないのにか?」
「あぁ、お偉いさんからの指示らしいぞ、サエキ」
サエキ、と呼ばれた男が潤滑剤の入ったスプレーを静かに作業台に置くとモンキー・スパナ片手に脚立に腰を下ろす。
サエキ────本名は佐伯 義一(サエキ・ヨシカズ)で、扶桑国防空軍の航空団整備補給群に所属する扶桑軍人だ。何故、扶桑人である彼がリベリオン空軍基地に居るのか?と言われれば、人材交流プランの一環として来ているといえる。
ペットボトル内の飲料水を飲み干した佐伯が口を開く。
「……あれから一週間か……」
第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊に所属するパイロット ウィルバート・プライアー中尉が消息不明となって一週間が経つ。
あの日、最後に機体信号が確認された位置に捜索救難部隊が向かったが要救助者であるプライアーは疎か墜落機の残骸すら発見されなかった。ベイルアウトした信号を受信してないことから既に死亡していると仮定してはいる、が、せめて遺体だけでも回収出来ればと一週間粘った結果が、捜索の打ち切り……。
「それに」と言って主翼から降りたのはデビスモンサン基地第355戦闘航空団整備中隊技術軍曹のバーナード・クルスだ。
「どうもお偉いさん方は残骸すら発見出来ないことに訝しんだらしくてな。プライアーをネウロイのスパイじゃないかと疑いだしたんだよ」
「どうかしてるだろ……」
消息不明になったパイロットをネウロイのスパイと決めつけるとは……9.11から神経質になったリベリオン政府の今か、と心の中で思った佐伯が俯くが、直ぐに顔を上げると視界の隅にいた此方に背を向け空を見上げている人物を見つける。
「彼女は、その話を……?」
疑問に思ったことをクルスに問うと案の定の答えが返ってきた。
「あぁ知ってるよ。可哀想に…」
彼等の視線の先にいる彼女は照りつける太陽の光の眩しさに、右手の掌で顔を隠しながらも見上げるのを止めなかった。
「…あの日からずっとあんな調子だよ」
クルスが呟くように言った。
佐伯は腰を上げるとハンガーの隅にあるクーラーボックスを開け中から炭酸飲料が入ったジュース缶を手に取る。
空いた片手で作業台に置いていた扶桑国防空軍識別帽を被る。その識別帽には整備補給群修理隊を表すエンブレムの他に銀髪で目を瞑った横顔のメイドさんらしきキャラが刺繍されたバッチがつけられており、2本のナイフがクロスしている箇所には「ELEGANT SERVANT」との文字が入っていた。
それは扶桑で人気のとあるキャラなのだが、この基地にいる者は佐伯以外知らない。当然だろうが。
佐伯が空を見上げ呟いた。
「今日も暑くなりそうだなぁ……」
この時、彼等は知らなかった。
自分たちも、その消息不明の仲間入りを果たすことを……。
バーナード・クルス技術軍曹(20)
リベリオン空軍デビスモンサン基地所属
航空戦闘軍団第355戦闘航空団隷下第1整備中隊第3小隊整備士
佐伯 義一(サエキ・ヨシカズ)一等空曹(20)
扶桑国防空軍新田原(ニュウタバル)基地所属
航空総隊隷下西部航空方面隊第5航空団整備補給群第1修理隊所属整備士
階級の割に年齢若すぎじゃないかと思われますが、其処は御了承を御願いします(苦笑)