その翼は何処へ   作:フェネック

5 / 11
佐伯とクルスが主の話ですね


その二人は、翼を癒やす者

2015年/8月4日/15:30:11/デビスモンサンAFB.

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のフライトは全部キャンセルだ」

 

 

第355戦闘航空団副司令が言った。

今日もいつも通り機体の整備点検に駆り出されていたクルスと佐伯の2人がその言葉に顔を見合わせ苦笑する。それもそうだ、訓練実施部隊の装備取り付けや補給を済ませたばかりだった。

 

副司令に中止理由を問うと中東でのネウロイの動きが活発となっているらしく、此処(355FW)の部隊を派兵するかもしれない、だから、それを選定する為のお偉いさん方がこの基地に足を運んでいる、とのこと。

 

 

「中東かぁ……」

 

 

佐伯が呟く。

 

 

「もしも派兵ってなれば、サエキはどうなるんだ?」

 

 

資材運搬用のドリーの荷台にて寝っ転がっていたクルスが聞く。

 

 

「どうだろうな。  このまま部隊について行くか、別な基地の航空団整備中隊に回されるかのどちらかだろうな」

 

「いい経験になるぞぉ?  実働部隊の整備は」

 

「コイツ(A-10)の装甲交換がどれだけ大変なのか知ってるだろう?  俺は勘弁願いたいね」

 

 

そんな会話を続けていると、低バイパス機特有の甲高いジェットの音が聞こえてきた。滑走路を見やると足にF-15E戦闘攻撃脚“ストライク・イーグル”を履いたウィッチ隊とそれに続くのはクルスが知らなく、佐伯は幾度となく見たことがあるユニットを履いたウィッチ隊だ。

 

先頭のウィッチ隊“ガンファイターズ”がタッチダウンする。

 

ガンファイターズが滑走路から誘導路に入ると後続のウィッチ隊が着陸し同じ様に誘導路に進む。

 

 

「あれは何処のウィッチだ?」

 

 

「扶桑国防空軍のウィッチだよ。  あのストライカー・ユニットはF-3A戦闘攻撃脚、第5世代ジェットストライカーだ。  クルスは実物見るのは初めてだったか?」

 

 

「F-3……か、いや、初めて見たな。 話には聞いていたが…」

 

 

「まぁ、知らないのも無理ないだろう。つい1年前に本格量産が始まって半年前ぐらいに実用部隊に配備されたからな」

 

 

先にエプロンにあるウィッチ専用の簡易ハンガーに入った『ガンファイターズ』のメンバーはユニットケージに戦闘攻撃脚を固定させ降りる。直ぐに第1中隊第1小隊の男女混成整備班が駆け寄り整備に取り掛かる。

 

すると、1人のウィッチが佐伯たちに歩いてくる。

 

 

「整備お疲れ様二人とも」

 

 

ブロンドの髪をたなびかせ、その空のように青い瞳で此方を見つめるのは『ガンファイターズ』3番機担当のシェリー・ホワイトアウェイ中尉だ。

 

階級では彼女が上なので敬礼した2人にシェリーが答礼すると、いつもの口調で互いに話し合う。

 

 

「演習お疲れさん、シェリー。  調子は?」

 

「少し精密爆撃をミスっただけであとはいつも通りよ」

 

「何か飲む?  炭酸と果汁ジュース、どっちがいい?」

 

「果汁、オレンジある?」

 

「ほいよ」

 

佐伯からオレンジジュースの入った缶を受け取るとタブを起こし戻すと口をつけ飲み始めるシェリー。

 

 

「……そーいや、シェリー、あのフソーのウィッチ隊は?」

 

 

ミネラルウォーターの入ったコップを呷っていたクルスが問う。

 

 

「演習空域で会ったのよ。  W-AWAC(Witch-Airborne Warning and Control:空中警戒管制ウィッチ“ウォーワック”)からの指示で今日は此処で補給と休みをさせてやれ、と」

 

 

「 今の時期でW-AWACが居てステルス脚で演習する基地ってなれば……ネリスか」

 

 

顎に手をやり呟くクルスをよそに、佐伯は次第に近づいてくる扶桑部隊を見つめ疑問に思う。

 

 

「……ありゃ第9航空団のウィッチ隊じゃないか…?  でも“八咫鳥(ヤタガラス)”の連中が扶桑本土から離れたって前例は聞いたことがないな…」

 

 

彼女たちが履く黒く塗装されたF-3AユニットのV字型尾翼に……扶桑では“太陽の鳥”と呼ばれる八咫鳥が灰色で描かれた部隊マークが見える。その名、マークを持つ航空部隊は扶桑最強の精鋭部隊の証、と、呼ばれている

 

彼女たちの装備を事細かに観察する佐伯。

扶桑皇国陸軍時代からの伝統である白衣と緋袴、手甲と脚甲というのが正装なのだが、白衣と緋袴はステルス性を意識したような黒を基調としたデジタル迷彩だ。黒衣と黒袴と言うべきか。

手甲と脚甲は外見上では変わりないように見えるが、おそらく最新の軽量化された物だろう。

手にしている銃器はレールシステムを施した89式小銃のようで様々なアタッチメントを取り付けている。

 

注目したのは頭部で、扶桑国防空軍で普及しているウィッチ用の10式ヘッドセット(帽子型のHMD)ではなく、クロスボウ型のHMDゴーグルだ。

 

 

「……」

 

 

無言の佐伯にシェリーが缶ジュース片手に話し掛ける。

 

 

「どうしたの?  サエキ」

 

「いや、ちょっと……な」

 

 

その言葉に首を傾げるシェリー。

すると、簡易ハンガー傍に停車したドリーから第3整備班長が降り、周囲に向け大声で喋る。

 

 

「第2、3小隊は今すぐに集まれ! 急げ!!」

 

 

班長の掛け声に整備用具一式を持ち、集合場所まで走る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……PM21:47:03

 

 

 

 

 

 

その夜。

ハンガーでは日が沈んでも、作業を続ける2人の影があった。

 

 

「─────っと、APU(補助動力装置)チェック」

 

 

機体下面カバーを戻しチェックリストに✓印をつける佐伯。

 

 

「EOTS」

 

「チェック」

 

「空調」

 

「チェック」

 

「アヴェンジャー(GAU-8/A 30mm機関砲)」

 

「駆動モーター、チェック。 あとは送弾ケースだけだ」

 

 

佐伯とクルスの息のあった連携プレーにより、着々と片付いていく整備リスト。あの召集から数時間経った今で通算7機目のA-10のフルメンテナンスが終わろうとしている。

 

 

余裕の表情の2人。

 

 

「射出座席異常なし、チェック。 本日の仕事終わりっと!」

 

 

コックピットから飛び降り、着地したクルスが言った。

 

 

「よし……22時前か、兵舎に戻って寝るか」

 

「えぇーBARに行こうぜサエキー?」

 

「昨日も、だっただろ? さすがに2日連続はキツいし、俺は溜まったゲームを消化しなきゃならんからパスな」

 

「一杯! 一杯だけ!……いいだろう?」

 

 

顔の前で手を合わせこちらに上目づかいでお願いするクルス。

 

 

「やめーい、野郎の上目づかいなんてやめーい。誰得だよ」

 

 

ハンガー内を消灯した佐伯が外に駐車していたハンヴィー(高機動多用途装輪車両)に乗り込む佐伯。それに続くクルスが助手席側から乗る。

 

 

「つれないねェ。 そんなに付き合い悪いと彼女できねぇぞ?」

 

「元から諦めてるよ。 俺の天使が部屋で待ってるんだよ」

 

「画面の向こうに、だろ?」

 

「ヽ(*゚д゚)ノ<カイバー」

 

「かい…なんだよソレ」

 

「悪い。 変な電波を受信したみたいだ」

 

「またわけの分からないことを……はぁ、早く帰るぞ」

 

 

ドアの縁に肘をつき頬杖をついたクルスに佐伯がケラケラ笑いながらキーを回し、ハンヴィーのエンジンが掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

前方からろくに目も開けられない程の眩しい光が、2人の乗るハンヴィーを照らす。

あまりの眩しさに2人は手で顔を隠す。

 

 

 

「なんだよ!?」

 

「眩しくてッ…! 何も見え──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈な光が周囲を一瞬、真っ白にさせるほど発した次の瞬間には、辺りは静寂を取り戻した。

 

 

 

 

何も変わり映えのないように見えるその景観で、唯一変わった……いや、“無くなって”しまった物は一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う……ッ!」

 

 

暗い意識の中から抜け出した佐伯は目を開けるが眩しさに目が眩み、小さく呻き声を上げる。

 

 

だんだんと鮮明になっていく視界で最初に見えた物はハンドル。二日酔いのような頭痛に頭を押さえる佐伯が視界の隅に前に平伏すように倒れているクルスを捉える。

 

 

「ッ────おい、クルス! 起きろ!」

 

 

彼の身体を揺さぶる佐伯。

 

 

「ん……? グッ……ってぇなぁ…サエキ? 無事か?」

 

 

佐伯と同じ様に頭を押さえるクルスに佐伯が背に手をかける。

 

 

「俺は大丈夫だ。 お前は?」

 

 

「なんとか……頭の中に声が反響する、二日酔いみてぇだ」

 

 

「俺もだ。 さっきの光は一体なんなん…ッ─────!?」

 

 

「どうした? てか、いつのまに朝に……ってぇ!?」

 

 

 

途中でお互いに驚愕の表情が浮かべる佐伯とクルス。

 

それもそうだろう、ガラス越しに見つめる先には銃口をこちらに向けた兵士たちがいるのだから。

 

 

 

 

 

「なんの冗談だよ……?」

 

「ルートミスったァ……」

 

「お前はこんな時に何を言ってやがる」

 

 

呆れたように溜め息を吐いたクルスは佐伯を一瞥すると、再び目の前に顔を向ける。

こちらに銃口を向ける男たちはどうやら軍人のようだが、えらく装備や服装が古い。クルスはソレがカールスラントが帝政時代の物だとわかったが、

 

 

(コイツら何なんだ? 撮影のキャストか何かか?)

 

 

頭を働かせるクルス。

やがて、その思考の海から連れ戻される事態が訪れた。

 

 

兵士たちを掻き分け、目の前まで来た人物は、2人がよく知っている人物だった。

 

 

 

 

 

「──────サエキ……クルス……?」

 

 

 

 

2人の名前を口にする人物。

 

それに対し2人は酷く呆けた表情で、彼の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

「「───────ウィルバート・プライアー?」」

 

 

「何故フルネーム?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、3人は大きな天幕の中に居た。

あの後……多数の人だかりを見かけた加東が何があったのかをプライアーに問い、話を理解した加東が周りの兵士たちに事情を説明し解散させた。

 

 

天幕の中にはプライアー、佐伯、クルスの3人を始め加東やマルセイユと言った『アフリカ』の面々が揃っていた。

 

 

「……なるほど、そんなことがあったのか」

 

 

プライアーの話を聞いたクルスが言った。

 

 

「1942年の第二次ネウロイ大戦の真っ最中、か。 所謂タイムスリップをしたわけだな俺たちは」

 

 

『アフリカ』の一員である稲垣真美(いながき まみ)軍曹から水の入ったコップを受け取った佐伯。

 

 

「えーと、ウィル、この人たちは?」

 

 

まだ両名の名を知らぬ加東がおそるおそるっといったような感じで聞いてきた。2人が立ち上がる。

 

 

「リベリオン空軍第355戦闘航空団第1整備中隊第3小隊所属、バーナード・クルス技術軍曹です」

 

 

「扶桑国防空軍西部航空方面隊第5航空団整備補給群修理隊所属、佐伯義一1等空曹です」

 

 

切り替えスイッチの入った2人が敬礼しながら所属、氏名を言った。それに加東も答礼する。

 

 

「扶桑皇国陸軍アフリカ派遣独立飛行中隊隊長の加東圭子よ。 今は統合戦闘飛行隊アフリカの隊長も兼任してるわ」

 

 

加東圭子、その名を聞いた佐伯の表情が変わる。

もしや、と呟くと加東に尋ねる。

 

 

「あのー……もしかして扶桑海の電光と呼ばれた加東圭子大尉でしょうか?」

 

 

「えーと、一応そうだけど」

 

さその言葉を聞いた佐伯がプルプルと震えだし、次の瞬間には拳を突き上げ歓喜の声で叫んだ。

 

 

「いやっほ──────ッ!!!」

 

びくりと佐伯以外の全員が身を震わせ、女性陣は少し引き攣った顔になっていた(マティルダ以外)

 

 

「扶桑海事変にて“巴御前”の穴拭智子や“扶桑海の隼”加藤武子と共に戦い、23機撃墜を成し遂げた歴史上の人物が……今、目の前で! 息をして俺たちに敬礼してくれている! 俺の人生の中で今は絶頂期だッ!!!」

 

 

「あ、今後についてですが……」

 

 

一人だけテンションが高めの佐伯を無視したプライアーの言葉に全員が苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

1942年夏、プライアーがこの世界に降り立って9日……二人の整備士が砂塵の戦場へ足を踏み入れた。




今後から少し日を使って投稿します。
話に出てきた“八咫鳥”やF-3などについては、今後出す設定話にて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。