皆様の感想、お気に入りを受け、作者も奮闘していきたいと思います。
1942年/夏/アフリカ/統合戦闘飛行隊アフリカ基地
佐伯義一(さえき よしかず)とバーナード・クルスの両名がタイムスリップして数時間後の現在。翌朝となった。
プライアーの具申により2人はこの基地のカールスラント・扶桑皇国陸軍整備班の所属(居候)にしてもらった。一時は歓迎ムードで盛り上がっていたが、その後、2人はこの時代の主力戦脚であるレシプロストライカーの整備の仕方を教授してもらいキ61、Bf109ストライカーの癖や砂漠に欠かせない冷却調整等を一つ一つ覚えていった。もっとも、2人はリベリオン空軍の練習飛行脚T-6B“テキサンⅡ”を整備練習脚として散々腕を磨いた為、慣れるのは早かった。
「ん──────エンジンは、問題無さそうだ。ウィル」
先程までBf109ストライカーの整備をしていた2人は作業を終え、今はプライアーの乗機であるA-10の整備をしている。
エンジン・カウリング下部を開き、LEDライトで照らしながら圧縮機やタービン、油圧ポンプ等をチェックしていた佐伯が言う。
「まぁ、コイツ(A-10)のエンジンはFOD(Foreign Object Damage:異物吸引によるエンジン損傷)対策が完璧だし湾岸やペルシアでの成績見りゃ一目瞭然だろう」
コックピットにて電子機器とシステムチェックをしていたクルスの声がハンガー内に響く。
第二次ネウロイ大戦以降────人類とネウロイは双方共に大規模な戦闘が起きず睨み合いの状態が続いた「冷戦」に突入した。
途中、限定的で小規模な戦闘や人類同士……国家間での“喧嘩”等があった。その冷戦期に、A-10は生まれた。
連合軍が懸念していた大規模な陸戦ネウロイ群の存在に対し、波を食い止める攻撃機(叉は攻撃脚)としてA-X(次期攻撃機・脚)計画で開発されたA-10。
だが、デビュー当初とは裏腹にその十数年後の評価は一変していた。
冷戦の集結である。
冷戦後のA-10の扱いは惨憺たるものだった。「醜い姿だ。 あれがサンダーボルト(雷電)かね? とてもそうのように見えないが(笑)」「あんな低速度では対空型陸戦ネウロイや航空型ネウロイに直ぐに叩き落とされるに決まっている」「羽食い虫」と、当時の議員や空軍将校たちの口癖がこれだった。この評価は後に訂正されることになった。
1991年に勃発したペルシア・オストマン・ウルク地域に於ける「湾岸ネウロイ戦争」の開戦である。
1月15日から開始した「デザート・ストーム」作戦中に記録した144機のA-10攻撃機叉は攻撃脚を履いたウィッチの働きは、19,545戦闘飛行時間、8,775コンバットソーティ(出撃機数)。確認されたネウロイに対する攻撃効果の成果は陸戦輸送型ネウロイ1,106騎、戦車型987騎、大砲型926騎、APC型501騎、拠点型212、レーダーサイト型96騎、長距離ミサイル・ランチャー型11騎、対空型20騎、航空型12機と戦果を上げ、これには「A-10不要論」を口にする者達も脱帽した。
今では中東を舞台とした戦場で活躍中のA-10だが、そろそろ統合打撃戦闘機・脚であるF-35“ライトニングⅡ”にその座をバトンタッチさせる日が近づいているが、それまでは第一線にて飛び続けるであろう。
プライアーが機首側面に背中を預け水筒の水を飲む。
「まさか、お前らが来るとは思わなかった」
「まったくだぜ。 こっちもまさか、そんな大仕事に回されるとは予想していなかったし、来たくもなかったね」
溜め息混じりに答える佐伯。
プライアーから時間の管理局員であるロジェックと言う男について話を聞いていた2人。
ハンガー入り口付近に停めてあるハンヴィーから工具を持ってきた佐伯が前脚横に腰を下ろし識別帽を被り直す。
「……仮に過去を変える、としてバタフライ効果とかは大丈夫なのか?」
「バタフライ・エフェクト?」
「例えば、扶桑の東京で蝶が羽ばたいて起きた小さな風がリベリオンのワシントンに大雨を降らせる。 小さな出来事が大きな変化をもたらすってことだよ。 まぁ、既に俺達が歴史に絡んでいる以上、もう、後戻りは出来ない」
その言葉にプライアーは苦笑を返すのみ。
「さて、と」と言いながら腰を上げた佐伯が工具箱に手をやった瞬間だった。
突如として、基地内に警報が鳴り響く。
「ハルファヤからブロークン・アロー(全力魔女支援要請)!」
1人の若いカールスラント整備士がストライカーユニットがあるハンガーに走りながら周りの整備士たちに聞こえるよう叫ぶ。
基地施設から飛び出すようにハンガーに向かう整備班。
天幕の方からはマルセイユを先頭に身なりを整えながら、走る統合戦闘飛行隊アフリカの面々。
対して、プライアーはハンヴィーのルーフに置いてあった耐Gスーツに手を伸ばす。今日のプライアーはアラート待機ではないが、万が一の事態に備えて基地内ではABU迷彩服ではなくフライトスーツを着ている。装備を整えている間、佐伯とクルスはA-10の開いていたカウリングを素早く閉じ、搭載兵器の安全チェックを行う。
「よし!」
装備したプライアーがHMD付きフライトヘルメットを掴み、機首左舷にある乗降用梯子を使いコックピットに乗り込む。
佐伯が梯子を仕舞うと前脚の車輪止めを退かす。
プライアーが酸素供給ホースやマイク用コードが付けられたらコネクターを左コンソールに接続し、計器盤にある電源起動スイッチを押す。多機能ディスプレイに機体状況が映る。
キャノピー越しにヘッドセットを取り付けた佐伯に話し掛ける。
「WSC(兵器の安全チェック)?」
『クリア』
「フラップ、エルロン、エレベーター、ラダー?」
『…動翼動作確認。クリア』
「APU(補助動力装置)を起動させる。…APUオン」
スロットルレバーにあるAPUのスイッチを押す。
A-10は後部胴体内にAPUを装備しており、高度15,000ft(4,572m)以下なら始動出来る。発電機と油圧ポンプが駆動することで地上支援機材無しでエンジンを始動させることが出来る。自立運用が出来るA-10の大きな強みの一つだ。
APU作動から少し経った時点で次の段階へ進む。
「エンジンスタート。右エンジン始動」
スロットルレバーにある右エンジン始動スイッチを押す。かキイィィィと言う音と共にファン・ブレードが回転を始め低圧圧縮空気を吸引し徐々に推力を得て目覚め始めたTF34。
『右エンジン、クリア』
「左エンジンも始動させる」
同じくレバーにある左エンジンの始動スイッチを押す。
『左エンジン、クリア』
「両エンジン、アイドル。 計器、グリーンライト」
眼前にあるディスプレイの一つに映る機体全体を俯瞰視点から見た図には搭載兵器の位置、種類、数、安全ピンの有無が表示され、違うディスプレイには燃料量やエンジン回転数、現推力、各種センサー情報やバックアップシステムを操縦者に伝える。
プライアーが酸素マスクを固定するとバイザーを下ろす。
ヘルメット外側にある起動スイッチを押すと機体とオンライン化され、画像生成されイルミネーターがバイザーに機体情報を投影する。
「HMDバイザー、オン。 機体とリンク、異常無し」
『了解、ファイナルに入る』
佐伯とクルスが再び機体全体を見て回りさ最終チェックを行う。
いくら電子機器が優秀であろうと、人が作った物に変わりはない。誤った情報を機体が示す可能性もある為、このような最終確認は常に行われる。
『ファイナルチェック、クリア。 ハンガーアウトせよ』
「了解《ラジャー》」
クルスが機体前方に走ると両腕を使い、前に進め、の合図を行い誘導する。
プライアーがスロットルレバーを前進させA-10をハンガーから出す。ハンガーから出た機体が徐々に陽の光を浴び始める。
幾度となく反射するA-10。
クルスの誘導の下、エプロンから誘導路に進む。
クルスが機体前方から離れ、横に逸れる。
無線のスイッチを入れるプライアー。
「かんせ……いや、アフリカHQ。 こちらマンバ6、離陸に備えてエプロンから誘導路に入った。滑走路への進入、離陸許可を要請する。オーバー」
『こちら加東よ。 マンバ6、離陸を許可します』
「了解」
間髪入れずに返ってきた無線にプライアーが答える。
機体は誘導路から滑走路へと進入する。
横目でエプロンにてストライカーの始動準備中のマルセイユたちを一瞥すると、スロットルレバーをエンジン最大推力位置まで前進させる。
甲高いエンジン音を響かせ、加速し滑走を始める機体。
プライアーが操縦桿を引くと機体が反応し、滑走する感覚がなくなり浮遊感が身体に伝わる。
0を示していた高度計の数字が増えていく。
ある程度の高度に達すると降着装置のハンドルを上げ、前脚と左右の主脚が収納される。
「マンバ6、離陸完了。 戦域に急行する」
方向を変え、ハルファヤ峠のある地点まで向かう。
AM10:04:51/アフリカ/ハルファヤ峠
「────マンバ6よりハルファヤ防衛部隊、応答を」
戦域に到達したプライアーはハルファヤ峠上空5,000ft(1524m)を旋回し、キャノピー越しに見下ろす。
眼下の地上ではブリタニアとカールスラントの混成部隊が、蟻の如き数で群がってきている中型クラスの陸戦ネウロイとフライング・ゴブレット(飛行杯)に対し必死の防衛戦を展開していた。
無線にノイズが走り、声が響く。
『マンバ6!こちらハルファヤ防衛部隊ドッグ1だ!現在、敵陸戦ネウロイの猛攻を受けている!!至急、航空支援を……来るぞッ!!!』
無線からは爆音や銃声または砲声が鳴り響き、それに混じって兵士たちの怒号も度々聞こえる。再び無線。
『航空支援を要請する! やってやれッ!!!』
「了解したドッグ1。北からアプローチする」
地上部隊の要請を受けたプライアーがマスターアーム(兵器安全装置)をオンにすると、ディスプレイにはSAFEの文字からARMへと切り替わり、各兵器が準備万端を示すRDY(READY)になる。
ウォートホッグの主任務であるCAS(Close Air Support:近接航空支援)は通常、地上部隊に随伴する前線航空統制官(Forward Air Controller:FAC)が伝える9行ブリーフィングを持ってその目標に対する攻撃を行うが、この世界にはいない。
南から進入するホッグ。
プライアーが見るディスプレイにはFLIRで捉えた対地赤外線画像に映るは蠢く無数の陸戦ネウロイ。
正面から見れば左から迫るネウロイの群れが右にあるハルファヤ峠に向かう様子だ。つまり、ネウロイはこちらに対し無防備な側面部を見せてつけていることになる。
「アヴェンジャー準備よし。 アプローチ」
兵装切り替えでGAU-8/Aを選択するとRDY-GAU-8の文字と共に残弾数が表示される。
緩やかに降下し速度を上げる。
HMDバイザーに投影されたガンレティクルには射撃不可を示す2本の斜線が出ていたが、今消え、射撃可能となる。
十分な距離に達しプライアーが操縦桿のトリガーを引く。
高速でスピンアップした7砲身ガトリング砲から30mmAPI(徹甲焼夷弾)が吐き出され、射線上のネウロイを凪払う。
ワンバースト射撃(2秒間射撃)後は一旦距離を取り、その間に1分間の風速冷却を行う。
旋回しながら成果確認を行うと、射線上にいた陸戦ネウロイは一掃されていたが、既に後続のネウロイが埋め尽くす。
「マーベリックを使う。……マンバ6、ライフル!」
翼下のランチャーから切り離された2発のAGM-65空対地ミサイルがロケットモーターに点火し、数秒後には赤外線画像シーカーがネウロイのコアが発する熱源を捉え群れの中で着弾。
弾頭重量136kgの爆風貫通型の成形炸薬弾が命中、炸裂し辺りを吹き飛ばす。直撃を受けたネウロイと共に数騎を葬る。
だが、それでも勢いは止まらない。
「何処かに指揮型は居ないのか……?」
FLIRをフルに使った索敵を行う為、ディスプレイをタッチ操作するプライアー。
すると、少し離れた砂丘の後ろにて身動き一つせず、車体上部に円錐形の物を光らせるネウロイを発見した。
「アレか! SDBスタンバイ」
主翼付け根部分付近にある兵装ステーションに搭載されているGBU-44 SDB-L(レーザー小直径爆弾)が用意される。
GPS(全地球測位システム)やINS(慣性航法装置)を誘導装置として持つGBU-39 SDBに赤外線レーザー誘導装置を先端に取り付けた滑空爆弾である。
兵器搭載状況を示すディスプレイにはSDB-Lが準備完了を知らせる赤い点滅を繰り返していた。
プライアーがEOTSを起動させる。
指令を受けたEOTSから目標指示用の赤外線レーザーが照射され、投下に備える。
「SDB-L……投下」
投下ボタンを押すとスマートラックからSDB-Lが切り離され滑空用の飛翔翼が展張、後部制御フィンも展開すると滑空を開始。
通常落下爆弾と違いSDBはその滑空により70km以上先の目標に到達することが可能だ。
迫り来るSDB-Lに気づいたネウロイがアウトトリガーのような部位を収納し動き出したが、もう遅い。
赤外線レーザー誘導により目標を捉えたSDB-Lは高速で突き進みネウロイの上面に直撃。190mmの弾体に搭載された弾頭は19kgのトリトナル炸薬で、これは900kg級航空爆弾に匹敵する破壊力を持っている。薄い上面装甲を易々と引き裂きコアを破壊、動きを止めたネウロイはそのまま光の塵と化す。
指揮ユニットを失った為か、突如としてくるりと反転しもと来たルートに戻っていく陸戦ネウロイ群。
「ふー……SDB命中、目標破壊、敵部隊撤退確認、と?」
ふと離れた上空を見上げると無数の白い航跡と爆煙が幾つか咲いていた。マルセイユたちが航空ネウロイと交戦中なのだろう。
HMDに表示されたのは残り1機……いや、撃墜されたようだ。
静寂を取り戻す砂漠。
今日も任務を果たしプライアーは操縦桿を操りマルセイユたちのアフリカ航空部隊と合流すべく翼を翻した……。
なんか終わり方がアレですが(´ω`)気にしないでください。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。訂正は夕方になります。仕事があるもんで(泣) 作者は感想があれば頑張れます