1 黒い蛇のうわさ(分割版)
記者会見に行くのは、久しぶりだ。緊張する。
マイクを手に持っている手が汗ばんでくる。
今日俺は先輩の冬沢恭子と一緒に来ていた。花枝とは違い、真逆のセミロングの髪型である。アラサーの色気が出ているのが特徴的で、深キョンと見た目が似ている。だから会社でのあだ名は冬キョンである。ただし性格はあんな天然ではない。
「あ、継巳君来たよ」
と冬沢さんが指さした時には黒井社長が登壇していた。軽く伸ばした顎髭とオールバックの髪型が特徴的だ。正にダンディという言葉が似あう男性だ。
そして黒井の会見が始まった。
今回の会見の内容は、ニュースにもあった買収の件に関してだった。社内で行われた会議の内容から始まり、今回の買収に至った経緯について淡々と話されていった。
一旦一区切りしたところで、後ろの他社の記者から質問が飛ぶ。
「黒井社長、弊社は暴力団との関係が噂されていますがそれについてはどういった意見でしょうか?」
寝耳に水だった。噂に聞いてはいたが本当だったのか?まあ暴力団と絡んでいそうな見た目はしているが・・・。
「黒井だけに、黒い噂ってわけですか」突飛な質問に対して、ジョークで返す。「ただその手の質問に関しては返答しかねますね。私自身にも身に覚えがないもので。今回は買収に関係のない質問はお控えください」
と冷静に返した。最後の一言で場の空気が凍った。
その後は一般的な質問が飛び交っていった。慣れた様子で黒井も対応していく。
数十分後には黒井のスケジュールの都合で会見が終了した。黒井が会場から出ていくとき、傍に誰がいるわけでもないのに何処かを指さした。それには俺も含めて、何人か気づいた者もいたが、特に何かあるわけではなさそうだった。
「とても三年前に設立されたとは思えないくらいに大きくなったわねこの会社」
そう、黒井の会社であるkING of Ural。元々はウラルというロシアの軍用トラックを元にしたトラックを製造・販売する会社から始まり、物凄いスピードでM&Aや買収を進めていき、一気に多角化していった。結果、今回はiTの会社をも買収したため、更に多角化を進めることとなるようだ。
「そうですね。しかもまだ社長にしては若い」
黒井は42歳だと聞いた。普通の会社じゃあり得ない若さだ。ベンチャー企業ともいえない規模の会社では考えられないだろう。
会場の出口に辿り着いたところで、俺はあの質問をした記者がいなくなっていることに気が付いた。帰り道はこの出入口一つしかないため、混みあっている。直ぐに帰ったのかもしれない。
だが、それは違うのではないかと疑うことになった。
俺と冬沢さんが会場を出たところで、殺気を感じた。殺気なんて生まれて感じたこともないが、確かに俺はこの肌で感じた。自分が殺されるわけでもないが何か嫌な気配が。
「すいません、トイレ行ってきます」
と一言言って俺は冬沢さんの元を離れた。
鏡が俺を呼んでいる気がした。衝動に駆られる。
俺は本能の赴くまま、洗面所のトイレにカードデッキを翳した。Vバックルが出現する。
「変身」
俺は龍騎に変身し、ミラーワールドへ突入した。