会社に戻ると、早速冬沢さんと記事の打ち合わせが始まった。
パソコンの画面を前にして、冬沢さんが椅子に座ったままこちらにやってくる。いい匂いがする。
「今日はあまりいい収穫はなかったですね」
「そうね」冬沢さんは案外冷静なのだ。流石に先輩なだけある。「明日また個別に突撃するしかないのかもね」
地獄か・・・・。俺は一瞬嫌な顔をしそうになったが、この人の前では堪えた。何をされるか想像もつかない。
「あたし、伝手があるから電話しておくね。書けそうなところまでは書いておいて―」
と一旦席を立った。
一応キーボードを叩くが、あまりにも黒井に関する情報が少なすぎる。あまりデマに走るのも雑誌全体のイメージ悪化に繋がるからよくない。
俺たちは、真実を知り、真実を伝えたいだけなんだ。
冬沢さんが戻ってきた。いい表情をしている。ということは・・・。
「連絡取れたわ。明日、ウラル本社に行くわよ」
なんて敏腕なんだ。一瞬で俺の明日の予定が決まった。ここ最近、オフィスを物置代わりにしか使っていない気がする。たまにはじっくりとオフィスで記事を書いていたいものだ。
だが、小久保デスクがそれを許すかどうか。あの人の机には「現場百回」と書かれた札が掲げられている。刑事かっての・・・。尊敬はしているが、この班でよかったのかどうか。
明日ウラル本社に取材に行くことになった。ということは、また王蛇と交戦する可能性が高いわけだ。
念のため、瑠維に連絡をいれておいた。
『寝坊したら後免』
今日やっと気づいたが、こいつあれだけかっこつけておいて中身はただのだらしない典型的な大学生なわけか。俺はそういう生活とは無縁なわけだったが。
『13時な。流石に起きてるだろ』
これについての返信はスタンプを送られて終わった。何だか嫌な予感がする。ウラル本社の一階にはカフェが併設されていた筈だ。そこで待っていてくれれば助かると追申しておいた。明日訪れてカフェにいなかったらそういうことだ。
翌日。俺は冬沢さんと合流してウラル本社を訪れた。確実にライダーバトルは起こる。
緊張はしていたが、どちらかというと瑠維がちゃんと来ているかどうかだ。
冬沢さんが出会うなり早速行きましょ、と一言。やたら張り切っているように見える。ということは、今回の質問等に関しては任せていいということだろうか。
ミラーワールドの話には興味あるが、黒井本人に関しての話は怖くて手が付けられなくて困っていたところだった。今回はあくまで助手って感じの立ち回りで行こう。
そして、瑠維は・・・。いない。
はあ。思わずため息が出た。それに冬沢さんが反応する。
「何?緊張してるの継巳君。意外なんだけど」と微笑する。
思わず花枝を裏切ってしまうほどにその笑顔は美しいのである。緊張しているのは合っているが、あなたが思っているものとは違う。
高層のビルをエレベーターで一気に駆け上ること40階。一度耳抜きをしなければいけない高さだった。
エレベーターの扉が開いた瞬間、一つの部屋の扉が見えた。周りはそれ以外何もなく、寧ろ狭い。まるでゲームのラスボスの部屋に入るかのような雰囲気だ。
冬沢さんが先に行き、ドアをノックしている。
それにしても瑠維のやつ、13時過ぎてもまだ寝ているなんてどうなっているんだ。最悪会戦した時にナイトが間に合ってくれていればいいが、黒井はもう目の前にまで迫っている。
俺は覚悟を決めてスマホの通知を入れた。ライダーバトルの通知を・・・。
瑠維と一緒に戦えば大丈夫なはずだ。一緒にいれば、の話だけど。
扉が開き、黒井の姿が目の前に現れる。
「やあ。ようこそ」開口一番に黒井が挨拶をする。「文啓にこんな美人記者がいるだなんて」
年上だからいえる台詞だ。
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
珍しく作り笑いをしている。こういうのはタイプじゃないってことか。
俺たちが席をかけると、取材が始まった。
「ウラルはなぜここまで複合的な企業になったんでしょうか?最初は自動車産業の会社でしたよね?」
確かにそうだ。トヨタもホンダもここまで大きくはない。あえて言うなら日産くらいだろうか、他の事業にも手を出していると言えば。
「いい質問ですね。こういうのを待っていたんだ。昨日の記者会見は、実に退屈で、平凡な記者しか質問してこなかった。だから早く帰りたくなってね」
と言って高らかに笑った。冬沢さんはその様子を気味悪がっているだろうが、記者魂でなんとか堪えているようにも思える。取りあえず俺はメモに必死だ。今日の俺の仕事はこれなのだから。
ペンを走らせていると、胸の隠しポケットに入れていたスマホが震えた。
何かの通知だ。
ちらと服を持ち上げてスマホの画面を垣間見た。
『近くにライダーがいます』
ビンゴだ。
俺は確信した。
黒井は王蛇だ。
だが今はこのまま取材を続けるしかない。
「僕は思うんですよ。人間は変わり続けるべきだと。変わるには新しいことを日々試し、古い皮を脱ぎ捨てていかなければいけない。だから新しい産業に手を伸ばすんです」
案外子供みたいなこと考えるんだな。結局世界征服とかと言っていることが変わらない気がする。
「でも、資金とかに限界はあるんじゃないですか?いくら大企業と言えど」
「だから今それを増やそうとしている。私の野望を叶えようとしている」
というと黒井はポケットから何かを取り出した。紫色の四角い・・・。
ってそれカードデッキじゃないか。王蛇のカードデッキじゃないか。
俺の予想は当たった。
黒井がやろうとしていることには察しがついた。辺りを見渡し、鏡を探した。だが部屋は黒い壁で囲まれている。水溜りほどの反射性があるようにも見えない。なら何処から・・・。
「そ、それはなんですか?」と冬沢さんが尋ねる。
声が震えているのがわかる。
「これは、あなたを葬るためのものだ!」
突然黒井が声を荒らげる。同時に左手の腕時計もこちらに見せつけていた。腕時計の表面にはガラスが・・・。
映っているのはベノスネーカー。
「冬沢さん!」
俺は咄嗟に冬沢さんに覆いかぶさるように倒れた。
瞬間、相手の腕時計の鏡面からベノスネーカーが一瞬だけ姿を現し、再びミラーワールドへ戻っていった。
「なるほど。そうやってあの記者も殺したわけか」
運よく冬沢さんは気絶している。突然のことで無理もないが、今は都合がいい。そうしてくれてないと困る。
「お前、やっぱりあの時のへっぴり腰か」
黒井が立ち上がり、オールバックの髪の毛をかきあげる。そして俺を睨みつける。
俺もスマホを取り出す。
「今日は逃がさないぞ。意地でも殺してやる」
というと、机の裏のスイッチを押した。すると黒い壁だったはずの周囲の壁面が上へシャッターのごとく上がっていき、鏡が現れた。全面を鏡で囲まれている。これが本当のミラーワールドか。
黒井が鏡の前に立ち、Vバックルを装備する。
俺も鏡にスマホを向け、カードデッキに変化させる。Vバックルが俺の腰に巻き付く。
「変身!」
俺たちは龍騎と王蛇に変身し、ミラーワールドへ突入した。
瑠維は何やってるんだ・・・。俺は晴れない不安を抱えたまま、戦闘へ突入した。
俺たちはウラル本社ビルの外のミラーワールドへ出た。静寂の中、二人のライダーが向き合う。