1 ディストピア&パラダイス
仕事にひと段落ついた俺は、憂さ晴らしのために花枝をデートに誘った。
どうやら、仕事にひと段落ついたらしく、直ぐに乗ってくれた。珍しく返信が早かったな。社会人になってからというものの、わかりやすくも返信が遅くなっていた。
ただこういう小さな幸せがあるだけで、なんとなくかなり上機嫌になる。
花枝とディズニーに行くのは久しぶりだろうか。
ストレス発散も込めて、大人向けのアトラクションが多いディズニーシーの方にした。
集合は東京駅だった。
現れた花枝は正におめかしという感じだった。大学生の頃とは違う、これまた大人びた格好だった。青いワンピースに、白いブラウスがとても似合っていた。
「待った?」
「少しな」
と冗談っぽく言う。
「開斗のそういう素直なところ好きだよ」
滑らかな動きで俺の腕に自身の手を絡めてくる。指の間に指が入り込む。いわゆる恋人繋ぎというやつ。花枝はどうやらこれが好きらしい。
それから現地へ到着。
ガチ勢とは縁もなく、開園してから少し時間が経った時刻に入園した。
お互い、タワー・オブ・テラーが好きと言うのはわかっていたので、真っ先にそのエリアへと向かった。
タワー・オブ・テラーは人気アトラクションなため、長蛇の列。1時間待ちだったが、それでもマシな混み具合だ。
俺はここで通知が来ないことを祈っていた。
ここでまさか、花枝が俺と同じことを考えているとは思いもよらなかった。
電源を切っていれば安心するだろうというのが、甘い考えだった。
「ねえこれやった?」
突然花枝が横からスマホの画面を見せてきた。
それはお互いが共通してやっているアプリゲームの画面だった。どうもフェスが始まっていたらしく、それを伝えたかったようだ。
「あーやってないね。最近忙しかったからな」
と誤魔化したが実を言うと、通知を切るようになってからはめっきりスマホを見ることが少なくなったせいであった。
「早くやったほうがいいよ!明日で終わりだし」
マジか、と俺は言うと何も考えずに電源を入れ、ゲームを起動した。まあ、こんな夢の国に、物騒な考えを持ったライダーなんかがあるわけない。そう信じていた。彼女に言われたのだから仕方ない。
しかしそれは言い訳であった。
俺は目を見張った。
バトルの通知が届いてしまったのだった。
あの通知が画面上部に出現する。反射的にスマホをポケットにしまった。電源を切る暇はない。
当然、不審に思った花枝は、
「何?どしたの?」
「いや、....」
言い訳が思いつかなかった。
「浮気?」
顔が笑っていたから冗談だとはすぐわかった。
恵まれたことに、前にいた列が動いていく。搭乗までもう少しだ。
「あ、ほら動かないと」
偶発的に起きた事象を言い訳に、話を中断させた。怪しい、と花枝は呟いた。これも冗談の範疇で治ってはいた。付き合いが長くて良かったと改めて感謝する。
その後、アトラクションに乗っている最中も、電源を切っていなかったためポケットの中でバイブ通知がうるさいのがよくわかった。あまり集中できなかったのが悔いが残る。
(終わった後、トイレにでも駆け込むか)
予定通り、俺はトイレに駆け込んでいった。花枝もトイレに。
恐る恐るトイレの中に足を運ぶ。尿意など本当はないのに。
幸いにも、人はいなかった。
洗面台に向けてカードデッキを向けた。
「変身!」
俺は龍騎に変身して、ミラーワールドに突入した。
到着すると、既に目の前にはライダーのような人影が一つあった。
白いフォルム。細いシルエットはどこか女性らしさを思わせる。所々、ナイトと似ている部分がある。
バイザーにはFAM と表示されてた。
「女の、ライダー?」
と呟くと、途端に相手はレイピアを向けてきた。
次回 5-2
「その傷、どうしたの?」