@moriseonovel
俺は花枝のアパートに来ていた。遺品整理のためだ。花枝の家族に頼まれていた。自殺という「処理」になった。本当は俺が悪いわけではないが、両親には深く謝罪をした。
今こみあげているのは、悲しみや憎しみ、怒り…。負の感情が俺を襲っていた。
涙が静かに流れ続けていたのは分かった。途中で作業の邪魔になると思い、洗面所に行った。
鏡の前に立つ。全てはここから始まった。俺は今どんな顔をしているのだろうか。
赤く腫れているだろうか?
しかし、鏡を見た瞬間、俺は驚きのあまり飛び跳ねたのだった。あまりにも想像していた表情と違っていたため、逆に自分が恐ろしくなった。一気に心拍数が上がり、呼吸が荒くなった。
少しすれば落ち着いたが、なんだったのだろうか。
遺品を整理していると、手帳を見つけた。どうせ仕事の予定などが書きこまれているのだろうと思っていた。だから覗いても意味はないだろうと。
しかし、俺の指が勝手に動く。本当に勝手に動き、手帳をめくっていく。そしてたどり着いたのは、カレンダーのページが終わってメモ帳として活用される無地のページだった。
何かが記されている。
「ビート…。力山?」
力山ってあのボクサーの力山か?メモの続きに目を通した。
『ビート=力山 ボクサーの
謎の人物が病室にやってきた。 タイムベント?
→腕が治った。内臓はまだ。 内臓を治す為に戦っている』
メモを読み終わった。偶々、花枝のひび割れたスマホに目が行った。俺は花枝の遺志を受け取ったつもりだった。だが、また表情は違っていた。にやけていたのだ。
どうした。俺の表情を命令する脳の部分が壊れちまったのか?口を閉じているつもりだが、鏡面に移る俺の表情はまるで別人のようである。
鏡面に目を合わせたくなくなったので、一旦アパートを出た。
瑠維を呼び出し、俺は力山が所属しているボクシングジムにやってきた。
「開斗さんから呼び出すのは珍しいね。…てか顔色悪いけどなんかあった?まさか、あのファムってライダーに惚れてたとか?」
つくづく調子のいいやつだと思った。しかし今はどちらかというと同情してほしい気分だったので、素直に気持ちを吐露した。
「ってわけだ」
「嘘でしょ?ファムが彼女で…しかも」
「俺だってびっくりしたよ。願いも俺より長生きしたい、だなんて願わなくてもできそうなことなんだから」
瑠維のいつもの明るい表情は失われた。ちょっと悪い気がしたが…。
そして、ビートとタイムベントのことも。
「まじか、あの力山がビートだったのか」瑠維は窓越しに力山の姿を捉えた。シャドーをして、リハビリに励んでいる。「強そうだな」
「メモによると俺らよりはレベルが低いらしい」
「そうか。なら鴨だな。にしても、タイムベントってなんだよ。それ使い方によってはサバイブなんかよりも強いだろ」
「と思って俺も先輩に聞いてみた。どうやら時間が逆行するらしい。当然、戻った時の未来の記憶も消えるらしい。ラスボスが持ってるカードって聞いたから、相当手ごわいかもな」
「なんか出来レースに見えてきたというか、そのラスボスが勝つようにできてるようにも見えるな」
「なんだあんたたち」
二人の会話に水を差すものが。二人は、ぎくっと身を震わせた。誰が来たかはお察しだった。
振り向くとスマートはアスリートという感じの男が。力山だ。
「記者か?」
それは当たってる。
「継巳といいます」俺は名刺を渡した。
「話が早いな」
「え?」
驚いて俺は顔を上げたが、明らかに力山とは目が合っていなかった。後ろの瑠維を見ているように思えた。嫌な予感がしたが、恐る恐る振り向いた。
瑠維がにこにこしながらカードデッキを見せつけている。
「お前!」
「どうせ戦うんだからいいでしょ」
そういうと力山もカードデッキを取り出した。
「いや冷静に考えろ。戦う必要はないだろ」
「開斗さん、ファムの仇取りたいんじゃないのかよ」
「…ちょっと待て、あんた、あの人と何か関係があるのか」
俺は顔から汗が出ているのがわかった。またこの辛い話をしなけりゃならないのか。…もうめんどくさくなった俺は、力山に花枝とのツーショットの写真を見せた。そして龍騎のカードデッキも。
「…嘘だろ」
「聞きたいことがある。取引をしよう」
俺は今、顔をにやけさせた。今は思い通りの表情になっているに違いない。