「お前…」
邪魔するなよ、というセリフが喉元まで出かかっていた。黒井はそこで感づいた。いつもの記者の若造にしては落ち着きすぎていると。口調こそ悪いものの、黒井はかなり冷静な性格である。今は獲物を狙う蛇のごとく、びくとも動かなかった。
しかし立場が逆だとすぐに気づいた。蛇睨みを食らっていたのは王蛇のほうだった。
今の龍騎の殺意は半端じゃない。それどころか、今までライダーバトルで人を殺しそうな雰囲気になかったからだ。王蛇がもう抵抗する気がないと判断した龍騎は背を向けた。
『ソードベント』
もう死にかけているヴィーナスにとどめを刺す気だった。
その時、黒井の少しだけ残っている良心が働き、零れだした。
「お前…誰だ?記者じゃないな?」
「…いや、いやああああああ!!!!」
聞こえていないのか。そもそも手遅れであった。龍騎は意外にも躊躇なく剣でヴィーナスのデッキを粉砕した。元々王蛇の攻撃で契約モンスターを失っており、敗北いや死が目の前に迫っていた。あとは誰がとどめを刺すか?という問題だけであった。
ヴィーナスの体は砂のように溶けて消えた。
「ちっとも面白くねえな。俺がとどめを刺せなかったからじゃない…」
刹那、龍騎は黒い炎に包まれて真の姿を現した。王蛇のバイザー内にライダーの名前は???と表示されている。バグが起きているようだ。
「お前が知らねえ奴に乗っ取られてるからだよ」
目を疑った。
今いくらサバイブを手に入れたからとはいえ、カードが少ない状態で戦うのは得策でないと先ほど身をもって体感した。
「どうなってやがる…」
何も答えない、黒い龍騎。正しくは答えられないのかもしれない。
まただ。またこの黒い空間にいる。何も感じないから、不安なんだよな。
しかし、起きたと思ったのにまた何故ここにいるんだ?
目の前には、黒い龍騎!
「またお前か!」
「お前は俺だ。もう少しだ。もう少しでお前を乗っ取ることができる」
俺はカードデッキを漁って取り出した。
「そうは、させない...!変身」
とりあえず龍騎に変身はした。相変わらず相手の名前がわからないのがもどかしい。それがまた不安となり、俺の戦闘意欲を減少させている。
ドラグセイバー同士をぶつけ合う。
「何者なんだお前は!」
「言ってるだろ。お前だって。お前の負の感情から生まれたんだ」
負の感情?確かに心当たりはある。いやしかし、よりによって俺なんだなと思う。
一瞬の気の緩みが、俺を油断させた。鍔迫り合いに負けた俺は吹っ飛ばされた。
その後もゆっくりと黒い龍騎は近づいてくる。何か、何か対抗しなければやられる。焦った俺は、作戦なども思いつかずにがむしゃらにカードを引いた。
一度何を引いたか確かめる。知らないカードだった。いやちょっと待て。
「...これは」
思わず声が出た。ファムのガードベントを俺は引いたのだ。どうして?
でもとりあえず使うしかなかった。
『ガードベント』
俺の左腕に装備されたウイングシールドが白い羽を撒き散らし、幻覚を見せる。その攻撃には思わず黒い龍騎も顔を覆う。
さらに俺の側にはブランウイングが現れた。刹那、脳裏に花枝のイメージが過った。俺に力を貸してくれるようだ。そういえばあの時、ファムは確かタッグベントを俺に向けて打った。その効果が今になって発動しているのか。
俺は更にカードを2枚引き、1枚目のアドベントでドラグレッダーを召喚した。そして、
『ユナイトベント』
花枝、俺に力を貸してくれ!
ドラグレッダーとブランウイングが光の中で交わり融合していった。