俺が、俺が殺した?
一応職場に顔は出していたものの、パソコンも起動させずにただひたすらに缶コーヒーを飲んでいた。勿論脳が働いておらず、何も考えていない。
すると右肩に電撃が走った。
振り向くと冬沢さんが立っていた。
「ニュース見た?行くよ」
と聞くと答えも言わせぬまま俺を外へ連れ出していった。思えば、このくらいの強引さがないと俺は動き出せなかったかもしれない。
話によると、EAVSGYの源二が怪我をしたそうだった。彼はこの事を告発し、そして清岡検事が起訴まで持っていったそうだ。
全てを知っている俺からすると、よくできた話だなと思わず感心しそうになった。
「ねえこれ、あの戦い始まりそうでしょ?でしょでしょ?」
冬沢さんは興奮気味に尋ねてきた。この人には黒井と清岡のことを話してしまっているからそうなるよなとは思った。
俺は流石に答えづらく、その事を表情で合図した。冬沢さんは口を尖らせてつまんないとぼやく。そうしている間に、裁判所から清岡が出てきた。
他に集まっていた記者が一斉に押し寄せ、清岡を囲んだ。更に一斉に質問攻めに合う。俺はあえてそうはせず、報道陣の網を掻い潜り、清岡の手を掴んだ。
そして冬沢さんはまるで関係者のフリをして報道陣をこじ開け、道を開いた。
清岡が用意していた車にどさくさに紛れて俺たち2人も乗り込んだ。
真ん中に俺が座る形になったがまあこれはこれでいいかと思った。
「助かったよ」
「いつもあんな感じなんですか?」
「まあな」と言って清岡が顔を上げると、冬沢さんと目が合った。「あなた、とても綺麗ですね。今夜食事にでもどうです?」
と急に二枚目の顔でナンパし出した。
「まあ。嬉しい」
冬沢さんは口説かれて何処か嬉しそうだった。この女、美人な割には酒癖の悪さで大損をしているのだ。
仮に食事に行けたとしても、清岡が公開しなければいいが。
俺は落ち込んでいた気分を何とか払しょくして、仕事モードに切り替えることができた。
「冬沢さんも喜んでないで…」冷たい視線を浴びせられる。「で、今回は何ですか。黒井を嵌めようとでもしてるの?」
「そうに決まってるだろ」
とんでもないことを理路整然と話す。これがスーパー検事と呼ばれているのだから全く世間はどうなっているのか。
そんな彼のクールさに、益々冬沢さんは惚れかかっている。先輩のこういう姿はあまり見たくないものだが。
「取りあえずあいつを牢獄にぶち込めば実質ライダーが一人減る。そうとなれば、お前にしても悪い話じゃないだろ?
あとはマスコミのお前が悪印象を植え付けてくれれば、万々歳ってわけ」
全く、清岡の清いという字に微塵も当てはまらない悪徳検事っぷりだった。自分のキャリアのことしか考えないで生きてきたのだろうが、
彼にとってはどうやらライダーであることもキャリアの一部らしい。
清岡からの話を聞き終えた開斗たちは、今度は源二の元へインタビューしにきていた。
源二は快く応じてくれた。どうやら清岡が作戦のために根回しをしてくれていたらしかった。
黒井が不在の事務所で、応接室に通された。
そこには右手首に包帯を巻き、左頬にも湿布を貼った若い青年がいた。彼が竜木源二。アイドルは顔が命というのに、残酷な目にあっていた。
自己紹介を終えると、事情を聴取した。
源二のマネージャーがパワハラに合っており、源二が抗議をしたところ、彼が暴力を受けたとか。少し疑問に思ったのは、黒井も手首を同じように
捻挫しているところだった。取っ組み合いの喧嘩になったという話を聞かされ、開斗はそれを信じた。
記者の二人が帰り、源二がスマホの通知を見ると、ライダーがいるという情報が入った。
(こんな偶然なことあるんか?あの記者の人もライダーっちゅうことかいな。これは面白いことになるな)
興奮した源二はにやけが止まらなかった。
裁判の第一審当日。
黒井が法廷に現れた。
検事側の席に、既に清岡と源二はいる。
俺は傍聴人として座っていた。ちなみに既に源二から聞いた話は記事に上がっていて、SNSなどで大炎上中だ。
少なくとも黒井はもう社長に戻れそうにはない。
裁判が始まり、清岡は敏腕検事っぷりを発揮した。だが、今回の難敵は黒井ではなく裁判官だった。どうも源二の素行
などの観点から、黒井が圧倒的不利に傾くことが無さそうな状況だった。
さらに言えば、こんなことで起訴をした清岡と源二のほうを世論が叩いてもおかしくはなさそうだった。
そして判決が下されようとした時だった。
裁判官たちが審議から法廷に戻ってくる中で、裁判官が一人いなくなっていたことに気づき、法廷がざわつき始めた。
そして呼びに行ったもう一人の裁判官も中々戻ってこなかった。終いには断末魔の悲鳴が聞こえた。
傍聴席をも巻き込み、裁判は混乱を招いた。
周囲がざわつく中、黒井はやたら落ち着いていた。
事態に収拾を付けたのは彼だった。天井のガラスから巨大な物体が飛来する。
紫の巨大な蛇。
「ベノスネーカー!?」と清岡が声を漏らした。
明らかにモンスターの名前を喋った清岡と源二の目が合った。清岡の視界には、源二が手に持っているアドベントカードが映った。
「まさか君が!?」
「つべこべ言ってないで、逃げた方がええで!」
源二は一目散に法廷を飛び出していった。
清岡がそのあとを追う。
ベノスネーカーは周囲にいた警備員たちを蹴散らし、怪我を負わせていった。俺はその有様をただ茫然と見守っているしかなかった。
その後、黒井の体が徐々に透明になっていくのが見えた。
俺はトイレに駆け込み、ミラーワールドに突入した。
ドラグレッダーと共に降り立つと、そこには緑、紫、オレンジのライダーーダイナソーーが既にいた。
一人は知らないライダーだ。
「なんや。みんなライダーやったっちゅうわけか」
「源二。お前だったんだな。だけどお陰で助かったぜ」
王蛇とダイナソーが睨みを聞かせていた。
その間で、ゾルダがこちらにタッグベントをちらつかせていた。