「春子さん。俺はやってやったで」
源二に電話を掛けた。しかしそれは3回かけてやっと繋がった電話だった。繋がったことに興奮を覚え、相手の反応も聞かずに一方的に話し込んだ。黒井を訴えたこと。ウラヌスを潰したこと。ウラヌスが潰れることは自分自身の崩壊を招いていることに気づかないまま、源二は暫くの時間を過ごしていた。
「は?何言ってんのよ。あんた何やったかわかってる?何人の人に迷惑かけたかわかってるの?」
春子からの正論に、源二は携帯を落とした。好きな人を想ってしたことが逆効果であったことを理解した。ここで興奮が落ち着き、逆に絶望が逆流するように彼の体を襲った。
源二からの返事が聞こえないことから春子は電話を切っていた。電話が切れている音に源二は気づかないまま頭を抱え込んでいた。
数秒後、体がいうことを聞かなくなった。
怯えていた。震えている体を抑えながら、視線を感じる窓の方を見た。彼は窓ガラスが嫌いだった。その向こうにいるのは大抵面倒なパパラッチだったからだ。
窓ガラスに映る恐竜は、涎を垂らしながら飼い主を見つめていた。追い払おうと源二は机の上にあったコップを投げつけた。
だがそれより前に鏡の中から鋭い牙が飛び出したのだった。
「ねえ見た?ニュース見た?」
と冬沢さんが俺に近づいてくる。
俺はコーヒーを啜りながら、視線をパソコンの画面に戻した。全てを知っていて察している以上、オフィス内では話しづらかった。
結論から言うと、源二は自殺という扱いになったが、遺体は見つからなかった。どこかに埋められていると言う陰謀論も上がっているようだが、どうせモンスターに食われたんだろうとミラーライダーなりの予想がついた。
こんなこと、冬沢さんはギリ信じたとしても世間が信じるわけがない。1円にもならなさそうな真相を語る気になれなかった。
「見ましたけど」
俺は画面に向かって呟いた。隣に座った冬沢さんは話を続けた。
「何か知ってる様子ね。もしかしてだけど」
「そのもしかしてですよ」
それを聞いて絶句した冬沢さんは、開いた方が塞がらなくなり俺から視線を逸らした。
「黒井も追放されて追う価値すらなくなった。突き詰めても多分何も出てこいっすよ」
俺は気晴らしに外に出てネタでも探そうと席を立った。
怒らせたと勘違いしたのか、冬沢さんは後を追ってくる。
「ちょっとどこ行くのよ」
「散歩ですよ」
冬沢さんを振り払った俺は、スマホのアプリを開いた。
通知はない。
かつての自分とは真逆の路線を辿るように、無性にライダーと戦いたかった。
ここまで戦闘意欲を掻き立てるのは、やはり自分が花枝を愛していたからだろうか。俺は必ず花江を生き返らせてみせる。
そんな時、都合がいいように俺の頭に声が響いてきた。
「戦え。戦いたいだろう?」
反射的に鏡を見た。俺は気づいていなかったが、鏡をかなり意識する生活を送るようになっていた。
鏡には声の主である戦士が立っていた。金色のあの戦士だ。タイムベントの持ち主。
俺はなりふり構わず飛び込んだ。その瞬間を、人に見られているとも知らずに。
ミラーワールドには、ナイトとビートが既にいた。面食らった気分になる。オーディンがあるかと思えば違ったのだから。
そして、ゾルダもやってきた。
更には王蛇も。ただし足元がおぼつかないようすだ。かつての狂気的なオーラは失われている。
面子が揃うと、オーディンは喋り始めた。
「残りのライダーはお前たち」
俺の方を一瞥した。
「6人だ」
主語にオーディンが含まれていないことを確認した。ここにいるのは5人だ。もう1人はどこにいるんだ。
オーディンの仮面はビートの方を向いていた。
「いや、5人か」
何故言い直したのか。そこで驚愕の真実が明らかになる。
ビートの体は砂のように消えかかっていた。ミラーワールドの滞在時間はまだまだ残っているはずだった。しかしビートは何故。
突如胸を押さえて苦しみ出すビート。
「タイムベントの効力が切れたのだろう」
「そんな!」
ナイトはビートの肩を揺すった。しかし、ビートは力を失っていくように体制を崩し、終いには完全に姿を消してしまった。
ナイトの手には、虚無だけが残った。
「嘘だろ」
「どういうことだ」とゾルダ。
「それと、5人ってどういうことだ。4人しかいないぞ」
「まだわかんねえのか?」
ここで王蛇こと黒井が口を挟んできた。何か知っているようだ。
「それはお前だよ!」
王蛇が金色のドリル状の剣を振るった。俺は思わず両手で仮面を覆った。
鈍い金属音が響いた。
俺には何の痛みもなかった。バイザーの奥で目を開けると、そこには黒い戦士が突っ立っていた。
「お前は!?」
黒い龍騎が王蛇の剣を押さえつけていた。傷だらけの王蛇はいつもより力が入っていない。黒い龍騎からすればこんなものお茶の子さいさいだった。
剣を軽々しく跳ね返した黒い龍騎は、ソードベントを使って反撃を開始した。
一方的にやられる王蛇を俺たちは黙ってみているしかなかった。そう。これはバトルロイヤルなのだから。誰かがやられる分には構わない。と思っていたのは俺だけだったようだ。
俺の視界を紺色の影と緑色の影が走り出す。
ナイトとゾルダは王蛇を守るように黒い龍騎との間に割って入った。
「どういう風の吹き回しだ?」
と王蛇は問う。
「なんだか馬鹿らしくなってよ」
「ああ。俺も目が覚めたよ。手のひらの上で踊らされてることに気づいたんだ」
ナイトがウイングランサーを召喚し、一突き。黒い龍騎はよろめいた。更にゾルダがマグナバイザーの引き金を引き、距離を離した。
「どうして開斗さんの体からこんなやつが」
「俺は無だ。あいつの闇から生まれた無だ。全てを無に返す」
黒い龍騎はそう言った。あの時と似ている。
「夢じゃ、夢じゃなかったのか」
俺は立ち尽くすしかなかった。