何か不味いことがあると爪を噛む癖のある彼は、パソコンの画面にくぎ付けになっていた。
バグと思われるリュウガの存在は、管理者である彼の心を脅かしていた。
櫻井恭弥(さくらい きょうや)。
現在はシステムエンジニアの職に就いており、アプリ開発を担当している。元々彼は少年時代に子役をやっていた。将来有望とまで言われていた。
だがそんな矢先、突如現れた「高見沢瑠維」という子役が恭弥の芸能界のポジションを奪っていった。その時から、父に期待されなくなり、見放されるようになった。それでも恭弥は俳優業を高校生になるまで続けていた。
子供の頃から続いていた地元のCMの出演も、「しらとりはなえ」という高校生が取って変わった。家庭内で唯一優しくしてくれていた母も自分のことを哀れんだ目で見るようになった。
恭弥は大学生になってから、芸能事務所をウラルに移し替えた。しかし、そこで新たに社長となっていた黒井という男に恭弥は首を宣告された。というのも、新しくアイドルユニットを立ち上げるにあたり、恭弥がそれに不採用となったからだという。黒井の当初の予定では、アイドルなど歌手業を営める人材を集めていた。
そうこうして、恭弥は結局引退の道を歩むことになった。結局普通に就職して、普通の暮らしを送るようになった。就職活動当時はまだ売りにできていた自分の過去も、今では忘れ去られるほどに時間が過ぎ去っていた。
アプリ開発の技術を身に着けた彼は、タイミングよく図書館にてミラーワールドの記事を見つけた。
恭弥はそれをヒントにライダーバトルのアプリを作った。先ず近づいたのは「しらとりはなえ」だった。
はなえ、は普通の大学生になっていた。あの時CMに出ていた彼女の面影は無かった。
近づき、スマホのドロップシステムを使って彼女のスマホの中にライダーバトルのアプリを埋め込んだ。それが全ての始まりだった。
次は黒井社長。彼が登壇する記者会見の会場に潜り込んだのだった。
記者会見では新アイドルユニット発表が行われていた。そのユニットのセンターにいるメンバーの、竜木源二にもアプリを埋め込んだ。その会場を後にした時、偶々検事の清岡ともすれ違った。テレビで見たことがあるという理由だけでアプリを埋め込んだ。
実際にアプリは過去に存在していたミラーワールドを復活させた。恭弥はミラーワールドの中でゴルドフェニックスという黄金の不死鳥と契約を交わした。
彼はオーディンを操る能力を得て、更に時間を巻き戻すタイムベントを手に入れた。
ただタイムベントには制約があった。大幅な時間の巻き戻しまでは不可能だった。恭弥は過去をやり直せると勘違いして、絶望した。どうやらゴルドフェニックス自身に宿る時渡りの能力は、過去に大幅な時間の巻き戻しを繰り返したせいで失われていたのだった。
だがゴルドフェニックスは言った。ミラーワールドでは、命を12個捧げることで願いが叶うと。
恭弥はタイムベントを交渉材料にしてライダーバトルの参加者を増やしていった。と同時に、過去に自分をこのような状態にさせた者達への復讐を初めていったのだった。
彼はそして焦っていた。
あのバグで出現したリュウガが、いつ自分を襲ってくるのか。自分の身を案じて彼はミラーワールドに飛び込んだ。
俺は焦っていた。
花枝を生き返らせるため、オーディンを探していた。リュウガよりも早く、誰よりも早く。あいつを倒してタイムベントを奪い取るんだ。
ミラーワールドを、ドラグレッダーの背中に搭乗して駆け抜けていたところに、金色の羽がまるで雪のように降ってきた。これがあいつの出現の合図だ。
「私を...探しているのだろう」
どこか取り繕ったような喋り方。いつものオーディン独特の冷静さは見えなかった。様子がおかしい。
「ああ。ちょうど良かったぜ」
俺はドラグレッダーから降りて、剣を構えた。オーディンも黄金の双剣を装備した。
沈黙が訪れ、風だけが俺たちの間を吹き抜ける。
先に仕掛けたのは俺からだった。正面から剣を振り下ろす。オーディンは双剣を交差させて受け止めた。恐ろしいことに、受け止めた後すぐに俺は弾き返された。
凄まじいパワーだ。アタックポイントの差をはっきりと感じる。もう一度負けじと俺は立ち向かっていく。
走る途中で俺は装填しておいたカードを読み込んだ。
『ガードベント』
ファム-花枝-から受け継いだウイングシールドを装備する。盾から湧き出す白い羽の吹雪がオーディンを襲う。
奇襲に思わずオーディンも顔を手で覆った。そこに一撃を叩き込んだ。
吹っ飛ばされたオーディン。
逆転を狙ってきたのか、カードを1枚引く。
それは時計の絵が描かれたカードだった。