仕方なく俺は瑠維をファミレスに連れていき、ミラーワールドの話を聞くことにした。
俺はそこまで腹が減っていなかったので、コーヒーしか頼んでいない。が、瑠維は調子に乗ってカルボナーラとピザを頼んでいる。記者になって、こういうことがあることは覚悟していたが、取材の際に食事を奢るのは初めてだ。経費で落ちるだろうか。
「で、瑠維は何のために戦ってるんだ?なんか、景品とかあるんだろ、このライダーバトルは」
「え、景品?俺そんなの知らないよ。初めて聞いたぜ」
流石に驚いたのか、瑠維の手が止まった。カルボナーラを中途半端に垂らしながら視線をこちらに向けてきた。行儀が悪い。
「俺はこの戦いが願いを叶えるためのデスゲームだって聞いてる」
少し大げさかもしれない。だが表現は間違っていないはずだ。ついさっきまで俺たちは殺し合いをしかけていたのだから。
瑠維は落ち着くと、カルボナーラをすすって口を開いた。
「誰から?」
「先代の龍騎から」
「へえ、そんな人と会っていたんだ。じゃあ先代のナイトはどんな人だったんだろう」
と興味があるのかないのかわかりづらい態度を見せる瑠維。彼は再び腹ごしらえに夢中になった。気まぐれな奴だ。だが俺は真司から聞いた話をするしかなかった。
「先代の人が言うには、13人のライダーがいてそのバトルロイヤルの勝者はどんな願いも叶えられるって聞いた」
「まじか」瑠維は手を止めた。やはり俗な奴だ。「俺はそんなこと聞いていないなあ。でも一つ願いが叶うとしたら、・・・俺は行方不明になった親父を探すための金とかが欲しいかな」
今までの態度からは一変して、急に重い話になった。
「俺が・・・生まれた時にはもうなくなっていた。。母さんは死んだって言ってるけど、どうにも嘘くさい。葬式をした記憶もないし、死体が見つかったわけでもない」
確かに謎ではある。割と適当な奴だとは思っていたが、意外な真実だった。
「何か知っていることはあるのか?」
「んまあ、どこかの社長だったってだけかな」
大した情報ではなさそうだ。今すぐには力を貸すことができない。
「あんたは何か願いでもあるの?」
またこの質問。小久保デスクと同じだ。やはり願いを持たないといけないのだろうか。俺はライダーになりたくてなったわけでもない。それでも俺は、何故か戦わなければいけない気がした。
「なんだろう。今は、・・・仕事。仕事のために戦ってるっていう取りあえずの理由しか思いつかない。すまん」
「なんで謝るんだよ。あんたやっぱ変わってるな」
瑠維は相変わらず気さくだ。俺の予想斜めを行く。彼を殺すには勿体ない。
それから俺はどう返せばいいかわからず黙り込んでしまった。
瑠維は残った食事を平らげると、静寂を打ち破った。
「でもいいんじゃないか。俺もわからないまま戦ってるし。調べていくうちに、何かわかるだろ。それに、仲間は多い方がいいだろうって今日分かったしさ」
少し励まされた気がする。こんなよくわからない年下を見縊っていたが。
「またなんかあったら連絡くれよ。アプリから連絡できるから」
そういうと、瑠維は大学の授業があると言って席を立った。代金は払わずに。
俺の願いか。
昨日から考えているが、直ぐには思いつかない。今言った仕事のため、というのが本音だ。
欲がない、といえばそうなる。
俺は記者だ。真実を明かすのが仕事だ。
ミラーワールドは謎が多すぎる。その謎を解き明かさなければいけない気がした。
翌日、俺はネタ探しにTwitterでネットサーフィンをしていた。
『黒井社長 大手音楽会社を買収』
ああ、最近話題の黒井社長か。メディアにもよく顔を出すようになった芸能事務所の社長だ。なんでも最近もうけ話が多いようだ。俺が取材する日も近いのだろうか。
ダンディな顎髭が特徴で、オールバックの髪型は年齢を感じさせずに若く見える。黒井だけに黒い噂もあるがそれはまたの機会って感じかな。
夏樹瑠維は法学部だった。
今日の授業はゲストスピーカーがやってきて、失礼の無いように出席者を増やすため、出席を取るとあらかじめ言われていた。だから今回はどうしても出席しなければいけなかった。
そのゲストというのが、
「こんにちは。清岡重吾です。最近ありがたいことに、メディアに出るようにもなったので知っている方も多いかもしれませんね」
少し低めの声がマイクで伝わる。二枚目という感じのハンサムな顔。それに加え、この若さで実力のある検事だ。それはそれはメディアも注目するわけである。
出席票を提出したらもうそれで満足な瑠維は眠りについた。
清岡が教卓に置いているスマホの通知が鳴った。出っ張った衝立に隠れて生徒にはかろうじて見えていない。
たまたま電源を入れてしまっていたのが、清岡にとってはミスだった。
『近くにライダーがいます』
―おいおい。まさか大学生でライダーな奴がいるわけ?嘘だろ・・・。つい画面に食い入ってしまった清岡は、付近にいた大学教授の声掛けで我に返った。
スピーチが始まったころ、瑠維は自分のスマホの通知が来ていることに気づいていなかった。