特に意味はありません。ただ言ってみたかっただけ…
3話始まります♪
「歩夢〜!彼方さ〜ん!」
とりあえずの目標地点を保健室に定めた俺は、道中で2人の名前を呼び続けていた。
何度呼んでも、
「はーい」という元気な声も、「ふぁ〜い」という眠たげな声も帰っては来ない。
結局のところ返ってきたのは、見つからない事への焦りと軽い苛立ちめいたものだった。
歩夢のやつには朝のうちに、新曲持ってきたとは話しておいたのにな。
「本当?あなたが作った曲、早く聞かせて欲しいな!」
そんな反応を期待していた俺に歩夢は、
「へぇ…そう」
と、アンニュイな表情で反応を見せた。
今朝の見たこともない怒りの表情に加えて、あんな顔も久しぶりに見た気がする。
何か、彼女の中で自分の根底を覆すような出会いや、出来事でもあったのだろうか。
その起因が自分自身にあったりするのかと、ここ数日の俺と歩夢のやりとりを思い出してみて、気になる言動がないか思い返してみる。
しかしどう考えても、歩夢が変になったのは、今日の朝からだ。
心の中にできたささくれのように頭から離れてくれないのは、やはりあの見たこともない表情のせいだろうか。
あれはふざけてできるようなものじゃない、およそ何かに激しい憎悪を抱いていなければできないだろう。
ま、歩夢とは長い付き合いだ。今日帰ったら話を聞く事にしよう。
悩みがあれば相談に乗ってやればいい。
今は彼方さんを保健室から連れて帰らなければ。
「さてと、彼方さんいるかな…」
保健室の札を確認し、横に引っ張るドアを開けて中を確認する。
「失礼します。彼方さん…いますか」
保健室の先生は出払ってしまっているようで、俺は部屋全体に向かって声をかけた。
モゾモゾッ
音がした方向に並んでいるベッドの真ん中だけ、布団が不自然に丸く膨らんでいる。
やっぱり、彼方さん寝むりに来てたんだな。
ベッドの近くまで行き、今度は静かにもう一度声をかける。
「かーなーたさん。練習は終わりましたけど、まだミーティングが残ってますよ?」
「うぅ〜ん…にゃに?」
寝起きで呂律が回らないのか、ゆっくりと目を開けては閉じてを繰り返しまた眠りの世界へと入ろうとする。
「かくなる上は…ほらほら起き…て!?」
仕方なく、彼方さんの身を包む布団を勢いよく引き剥がす。
目に飛び込んできたのは、制服のあちこちがはだけて純白の肌を露出させている彼方さんだった。
普段の雰囲気からは程遠い、男心をくすぐる姿に心臓がドキッと跳ね上がり、体内のリズムが否が応にも加速していく。
そんな俺とは裏腹に、彼方さんは子供のような無垢な表情でむにゃむにゃと唸っていた。
見つめていたいという思いを断つために、後ろを向いて視界から彼方さんを一旦消す。
「彼方さん!早く起きて制服を直してください!」
ちょっとだけ肌に触れておけばよかった…なんて考えながら背後へと大きな声をかけて、彼方さんに促した。
「ん…わぁ…ナギ君だ〜」
俺の言葉は彼方さんに伝わらなかったのか、彼女はベッドの上に立って背後から抱きついてきた。
背丈は俺の方が断然高いのだが、彼方さんはベッドの上に立っているから必然的に彼方さんの胸の辺りが俺の頭の位置に来るのであって。
「ちょ、ちょっと!」
「ナギ君も一緒に寝よう?」
甘い声と甘い匂いに包まれて、脳が蕩けそうになる。
甘い誘いににやけそうになる顔をなんとか抑え、抱きついている彼方さんの腕から逃れようともがく。
「むぅ〜!ナギ君暴れないのー!えーいっ!」
抵抗虚しく、彼方さんに引き込まれる形で布団に覆われてしまった。
さらに抱きつく力を強くした彼方さんは無意識にやっているのか知らないが、胸を背中に押しつけて自身の足を俺の足に絡ませる。
「むふーっ。彼方ちゃん幸せ〜♡」
「ま、まずいですよ!こんなとこ誰かに見られたら!」
「…じゃあ誰か呼んじゃおうかなぁ」
「なっ!やめてください!お願いします!」
「じゃあ抱き枕のナギ君は大人しくジッとしてて〜」
ミイラ取りがミイラになるが如く、脅されてしまってなす術が無くなってしまう。
「みんな待ってるのに…誰か探しに来たらアウトじゃないか…」
そんな焦りを感じつつも、久々に感じた人肌の温もりや、布団の中に充満する彼方さんの優しい香りと吐息の音に意識が少しずつ薄れていく。
徹夜続きの俺には、この眠気に抗う術が無く受け入れてしまった。
「むにゃむにゃ…ナギ君…大好き…」
そんな彼方さんの寝言が聞こえたが、閉じていく目蓋を開くことは出来なかった。
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「あっ」
身体の近くで何かが動いたのを感じて目が覚める。
布団の暗闇の中では、その正体はよく分からない。
「どうだ〜みんなぁ…これが新曲だぁ…」
寝言だろうか、ふにゃふにゃした口調の声が上がり私はその正体に気づく。
「な、な、なんでナギ君が!?」
慌てて身体を彼から離して、素早く布団から抜け出す。確かに、夢の中で彼と一緒に眠ったのは覚えている。
眠れる事の幸せ、大好きなナギ君と2人でいれる事への幸せ。
そんな幸せの重ね焼きに満足な私だったが、どうやらそれは夢ではなく現実だったようだ。
抱き枕のように抱きついていたのが彼だと分かった途端、身体の底から火が吹き出すような感覚を感じ、顔が熱くなる。
「どうしよう…私、寝言で変な事言ってたら…」
好き…そんな風な事を彼に囁いていたら。
不安はどんどん膨らんでいてもたってもいられなくなり、私は彼を置き去りにしたまま廊下に飛び出す。
さっき腕時計を見たら、時刻は部活がとっくに終わっている時間だった。
近くの教室に入って、扉にもたれかかりそのままヨロヨロとしゃがみ込む。
「彼方ちゃん、心臓…止まりそうだよぉ…」
私が彼を好きになったのはいつからだったか。
昔から私の取り柄は頭がいい事。
でもそれが逆にみんなの反感を買ってしまうのか、友達はなかなかできなかった。
そんな私が、いろいろあって始めたスクールアイドル活動はとても楽しかったけれど、勉強が上手くいかなくなってすぐに抜けてしまった私。
「うう…ふぅわぁ〜あなた…だれぇ?」
「初めまして、音楽科二年生の九条渚斗といいます。しずくちゃん達に聞いて、伺わせてもらいました」
初めは男の子ってあんまりいいイメージが無かったから、話すのが苦手だったけれど、彼の前向きな所とか高校生離れした音楽センスとか優しい笑顔とか…スクールアイドル活動で触れ合う内に、気付いたら目で追うようになっていた。
でもそれと同時にたくさんのことにも気付いた。
みんな差はあれど、ナギ君に異性としての好意を抱いている事。
ナギ君は優しいから、誰かが告白したら多分受け入れてくれる。
でも、そんな事になれば他のみんなは嫌な思いをするに決まっていて、メンバー間の絆が1番大事なスクールアイドル活動はたちまちダメになってしまう。
みんな気づいているから、本当の想いは打ち明けられない。
だからかすみちゃんや歩夢ちゃんが彼と触れ合ったりしていると、切なくて切なくておかしくなりそうになる。
「彼方ちゃん、どうしたらいいんだろう…」
『解き放てばいいでしょう』
「えっ」
教室に誰かいるのかと思って、慌てて辺りを見回す。
でも声が聞こえてきたのは真後ろ。扉を挟んだすぐ向こうだった。
『九条渚斗の事が好きなら、自分の物にしたいというのなら、そうすればいい。全てを失っても手にした彼で埋めればいい』
ボイスチェンジャーを使っているので誰が話しかけてきているのかは分からない。
でも不思議と、その声は私の心の奥底に静かに語りかけるようで心地よかった。
「でも!そうしたいけど…」
『閉じ込めればいい。誰の手にも届かない場所に。近江彼方、あなただけのものにすればいい』
私…だけのもの?
…閉じ込める?
私の中で良くない気持ちや考えが浮かんできては消えていく。
ノイズが走ったような声。
それは彼が他の女の子に笑いかけた時、自身が抱いた感情を呼び起こす。
『でなければ、取られてしまう。上原歩夢に。中須かすみに。朝香かりんに。桜咲しずくに。宮下愛に。優木せつ菜に。エマヴェルデに。天王寺璃奈に…貴方ではない何者かに!!』
いや…いやだ。
いやだいやだいやだ!
『彼の笑顔も。彼の優しさも。彼の…何もかも。全部全部取られてしまうぞ!!』
ナ、ギ君…の?
少女の穏やかな心に、ドレドロとした憎しみの感情が湧き上がる。
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!!!!!!!!
陽が傾きかけ限りなく黒に近い茜色に染まる教室。
その片隅に溜まった影帽子の闇に、少女は飲み込まれた。
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「あーあ。結局新曲お披露目できないままかよ…」
辺りがすっかり暗くなってしまった頃、俺は1人寂しく帰路についていた。
結局あの後、チャイムの音に慌てて目を覚ますと彼方先輩は愚か、せつ菜達の姿も無かった。
「彼方さん…何も黙って帰らず起こしてくれたっていーだろうに」
小憎らしい顔をして、1人お月様相手に愚痴をこぼしてみる。
が、意味がないとすぐに辞めた。
「はぁ、みんなに謝んなきゃな」
SNSアプリを開いて、みんなが入っているグループで文を打つ。
"ごめん、いろいろあってあのまま帰ることになっちゃって。新曲は明日披露するよ"
と送っておいた。
そうこうしているうちに自宅の前に着き、鍵穴に鍵を合わせようとしてある事に気付いた。
鍵が…開いてる…
確かに今日の朝、俺は鍵をかけて歩夢と登校したはずだ。
恐る恐る、ドアを開けて家の中を覗く。
すると…
「お帰りなさい♪」
陽気な顔で、ひょっこり顔を出したのは歩夢だった。
「いるならいると連絡してくれ!泥棒かと思ったんだぞ」
「えへへ、あなたのお母さんに合鍵貰っちゃったから。ビックリさせようと思って」
母さんも母さんで渡したのなら事前に言えよ!!
「はぁ…てゆうかなんで今日お前練習の後、勝手に帰っちゃったんだよ」
リビングのソファに寝転びながら、そ鍋で料理を作っている歩夢にそれとなしに問いただした。
「……」
「おい、なんかあったのか?」
「ねぇ。私も聞きたい事あるんだけど」
歩夢はこちらを振り返らず、鍋の中身をお玉で回しながら質問に質問で返してきた。
「彼方さんと何してたの」
っ!?
ビシャ!
思いがけない問いに気が動転してしまい、冷蔵庫から出したペットボトルの飲料水を落としてしまう。
「ねぇ。何してたのかなぁ」
「お前、見てたのか!?」
「その反応…やっぱり何かしてたんだ」
「あれは!練習終わってどこかに行っちゃったお前と彼方さんを探してて、保健室で彼方さんを見つけたはいいが、彼方さんにいろいろ脅されて仕方なくベッドで抱き枕にされただけであっ
グサッ!!!!
それが何かは瞬時に判断はできなかったが、飛んできた飛来物を間一髪で避ける。
ソファの背もたれのあたりに何かが突き刺さった。
見ると、包丁が深く刺さって振動で震えている。
「なんで嘘をつくのかな?本当はシたんだよね?彼方さんと」
「おいおい…さっきから冗談にしては度を超えすぎてるぞ歩夢。さっきも言ったように彼方さんと成り行き上保健室で睡眠しちまっただけだ」
俺はソファから立ち上がって、大きな誤解をしている歩夢に真剣な声で話す。
そんな事するわけがないと改めて俺は、包み隠さずありのままを説明した。
「ウソだ!!!!!!!!ねぇ?なんであんな女なのかな?あなたには私がいるでしょ?ねぇなんでかな?私魅力がないの?答えてよ….答えてよ!!!!!!」
歩夢は突然、狂いだしたかのように大きな声を上げて、暴れだした。
用意していた食器をあたりに投げつけ、壁にかかっていたカレンダーを引き裂き、イスを思い切り倒す。
「歩夢!彼方さんに対してそんな言い方するなんて…どうしたんだよ!朝から変だぞお前!!」
冗談などではない、明確な侮蔑が込められた言葉を前に俺も感情が昂ぶる。
「変?私が?あはは、そんなわけないよ…あなたこそ穢れてる。あの女の匂いがこびりついてるよ!!!」
「俺の知ってる歩夢はそんな事言わない。俺が真剣に話せば黙って信じてくれる。何か悩みがあるなら話してくれ。俺はお前の味方だ」
歩夢を落ち着かせようと、近くに行って強く抱きしめる。
絶対におかしい。昔から温厚で優しい歩夢がこんな事するだなんて相当大きな悩みがあるとしか思えない。
「あっ…」
歩夢は乱れた息を俺の胸に顔を埋めながら沈めていく。
そして、
「…ごめん」
一言、かすれて消えそうなか細い声で言い残し、走って家を出てしまった。
「…くそッ!幼馴染が悩んでんのに俺はなんもできないのかよ!!」
脱いだ制服のブレザーを着直して、歩夢のお母さんに急いで電話をしようと携帯を開いたその時、俺は自分の目を疑った。
エマさんから届いていたグループ内のメッセージ。
「渚斗くん。もう部活に来ないでください」
次いで、俺の中の大切なものが割れていく音が響き渡った。
渚斗はまだ知らない。
歩夢が放った「ごめん」という短すぎる言葉の裏に潜む恐ろしいまでの感情を。
そして、これから対することになる少女達の裏側が、「平凡」とも「普通」とも表しがたいーー異常な「恐怖」であるという事も。
満月に照らされたこの日の夜。
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会という絆の繋がりに、亀裂を走らせる全てのピースが揃おうとしていた。
最後に組み上げられる未来の完成図すら、誰一人想像できぬままに。
怖。歩夢は完全に末期ですね。はい。
次回はエマから届いたメッセージの謎を渚斗が探ります!
〜ヤンデレ度チェック表〜
正常:愛 しずく 璃奈 エマ
正常(?):果林 せつ菜 かすみ
異常:彼方
末期:歩夢
↓例を挙げると、歩夢をヤンデレから普通状態に戻せるチャンスがあるとします。しかし主人公が選択肢を誤ったため、他のメンバーが歩夢に殺されるとか主人公が監禁されて一生を過ごすとかそういう結末。
要はこの小説の最後はもう決めていますが、それとは別にバッドエンド見たいですか?って話です。わかりにくかったらごめんなさい…
選択肢による分岐で9人それぞれのバッドエンドって作って欲しいですか?
-
欲しい
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どうでもいい
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いらん
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歩夢怖い