引かないでくださいね?
「ふふふふっ…………出すわけないでしょ」
「っ!?」
意識が。
身体が。
本能が。
頭の中の赤い危険信号を点滅させる。
咄嗟に彼方さんのそばから離れ、部屋の隅に身を寄せた。
な…何だ!?目が…
一点を掴んで逃がさないその眼差しは俺を射抜く様に見つめ続けている。
この瞳を俺は知っているはずだ。
光を持たず、闇に染められたラファリーピンクの瞳に映されているのは、この空間ではない。
俺という存在のみだ。
「どうして彼方ちゃんから離れるのかな?」
ゆらりゆらり…と揺れながらこちらに近づく彼方さんの姿。
その姿は最近の歩夢に重なるものがあった。
「彼方さん、単刀直入に聞きます。あなたの目的は?俺を閉じ込めようとする理由は?」
やっぱり昨日、俺は彼方さんには何もしていなかったんだ。
つまりあの写真も、彼方さんによって仕組まれたものに違いない。
「…………」
「どうして彼方さんがこんな事を!!」
仲間を欺き、自身が大好きなスクールアイドルを捨て去ってまで求めるモノとは…一体?
「おかしな事を聞くんだね?彼方ちゃんがどうしてこんな事をするか…だなんて」
見たこともないようなとろけた表情の彼方さんが、呆然とする俺の元に寄り添って、首に腕を回してくる。
「1番よく分かってるのは、ナギ君でしょう?」
「それはどういう…っ!?」
意味、と聞く前に、彼方さんの腕が俺の肩を強く押した。
部屋のコンクリート壁に身体がついた瞬間、制服のワイシャツ越しに冷ややかな感覚が背中に伝わる。
次いで、体まるごとでのしかかられて、口を何か柔らかく生暖かいもので塞がれた。
「ーーんっむぅっ!?」
唇。彼方さんの。
無理矢理ねじ込まれた舌に口内を舐め取られるのと、気づいて青ざめるのはほとんど同時だった。
「やめっ!……はむっ……んんっ!?」
のしかかる彼方さんの胸が当たり、否が応にも息が詰まりそうになる。
混乱する俺の頭に、彼方さんの唇から漏れた言葉がとどめを刺した。
「好き……大好きっ」
「…え?そ、それって」
彼方さんの甘い接吻に脳が痺れていたが、その言葉の意味を理解する事は容易だった。
「キミが大好き…そんな私を許して?…見捨てないで?お願い…お願いだからっはむっ…」
見捨てるって…
「知ってたんだよね?彼方ちゃんがナギ君を、ずっとずっとそういう目で見てたって事…こうしてキスして、全身で愛してあげたいって思ってた事…だから気持ち悪くて一緒に寝てくれなかったんだよね?」
何を…何を言っているんだ。
「後輩を性的な目で見る先輩なんて…気持ち悪いよね…?」
そんな、ねっとりと感触を確かめるみたいに上唇を貪って。
唾液まみれの舌で歯の一本一本まで舐めまわして。
彼方さんは懇願するように続けた。
「んっ…もう逃がさないから。最低の先輩でいいから…キミの…触らせてっ!」
彼方さんの手が俺の下半身に触れようと動き出す。
ダメだっ!!!!
咄嗟に腕を掴んで、彼方さんを引き剥がす。
「っぷはっ…ふふっナギ君、恥ずかしがり屋さんなのかなぁ!」
「そうですね…まだまだガキですからっ!」
尚も迫ろうとする彼方さんの身体を押さえようと両腕を突き出したが、彼方さんも引き下がらず同じように力をかけて来た。
んだよこの馬鹿力はっ!
全然おしのけられねぇ!
「っ彼方さん!あなたが俺のことを好きでいてくれるのは正直言って嬉しいですよ、でもこんなやり方間違ってる!!」
「ふふふふふふ何も間違ってなんかないよ〜?だって彼方ちゃん、ナギ君の事が大好き…ううん、愛してるんだから!!!!」
「俺を監禁して何になるんですか!!それに、彼方さん!あなたはスクールアイドルが大好きだったんじゃないのか??あなたの嘘のせいで今、同好会は大変なことになっている!歩夢も何か悩みがあって、こんなところにいる暇はーー
バチンッ!!!
痛い…何が…
頬にヒリヒリとした痛みを感じながら恐る恐る彼方さんを見直すと、冷え切った感情のない目と視線が合った。
「歩…夢。そっか…そっかそっか〜そっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっか〜〜♪」
「彼方…さん」
「あの女が…あの女のせいで…いいや、あいつらがいるから!!!!!!ナギ君を困らせる奴らが!!!」
俺の言葉は彼方さんには一切聞こえていないようで、ウェーブがかかった髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。
加えて、乱れた前髪と力んだ手の隙間から覗く瞳は血走っている。
俺を…いや俺を含む全てを恨むように。
「少し待っててね…今すぐにぜんぶ。ぜ〜んぶ!消してくるから〜」
「何をする気ですか!」
「だから〜殺すの♪邪魔する人達はみんな、ね」
頭のネジが外れているとかそういうレベルじゃない。
冗談で言っていないのであれば明らかに、彼方さんは……
「…狂ってる」
優しくて、いつもは眠たげな顔でボーッとしていて、けど仲間思いで、何より大事な妹さんや家族の為にスクールアイドルと勉強を両立しようと頑張っていた彼方さんを俺は知りすぎている。
だから、あんな言葉を口から出されたら、悲しくて…切なくて…。
こんな風になってしまうまで気付いてあげられなかった自分を呪った。
俺の制止を無視して牢屋から出ようとする彼方さん。
抜け出すなら今しかない!
タイミングを見て、彼方さんが牢屋の鍵を開けた瞬間に後ろから押さえ込もうと歩を進める。
しかし、それと同時に冷たい表情の彼方先輩が何かを俺の首筋にあて、スイッチを押した。
「ダメだよ。逃げたら」
咄嗟に軽い痛みを感じた首筋を触るとなにかの液体が指先に付着していた。
「っ!!」
身体が痺れて動かなくなる。
何かの薬品を注射されたようだ。
「少し大人しくしていてね…ナギ君」
部屋を出る彼方さんの後ろ姿に手を伸ばす。
服の裾を掴む前に、意識が途絶えた。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
「あ〜あ…できればお薬使いたくなかったのに…でもナギ君のはじめてのキスはもらえた…♡」
ナギ君を閉じ込める計画がうまくいった私は、とても上機嫌だった。
昨日教室で聞いた誰かの言葉で私は、私がやらなければいけないことに気づきすぐに行動に移した。
まず第一にナギ君を一刻も早く確保しなければならなかったので、ナギ君と私だけの秘密の部屋にする場所を探し、人気の全くない比較的新しい、放棄された施設の一室を見つけることができた。
何の目的で作られた施設なのかはよくわからなかったが、さっき使った睡眠薬や鉄格子などはここにあったものを利用している。
構造も複雑で、電気系統こそほとんど死んではいるが水はまだ生きていた。
だから飲み水には困らない。
私は昼間は学校に行き、放課後はナギ君と愛し合う。
これから始まるそんな甘い生活を想像するだけでゾクゾクと身体が震えた。
問題は、私達の邪魔をするハエどもの事。
昨日私を探しに来たナギ君が戻らないからと、次に誰かが探しに来たらその場で殺してあげようと思ったけれど。
探しに来たしずくちゃんを殺してしまうのは、あまりに頭の悪いやり方だと気づいて、私は一つ嘘をついた。
それは私がナギ君に無理矢理犯されたという嘘。
まんまと信じたあいつらは勝手にナギ君から離れていったようだし、判断は正解だったみたい。
まぁ、それでも私のようにもはやスクールアイドルや仲間の事なんかどうでもいい奴らは気にせずナギ君を奪いにくるはず…
でも向かってくるやつは殺せばいい。
私とナギ君の間を邪魔させはしない!
「ふふっ」
スムーズに進む計画を確認していると、無意識に笑みが溢れてしまった。
「随分と嬉しそうだね〜……か・な・たさーん?」
「くっ!」
大きく垂直に振り下ろされた金属バットを間一髪で避ける。
「あははっ。いつもはノロマのくせに…気持ち悪いくらいよく動くんだね♪」
故障した外灯が不規則に直下の人物を照らし出す。
私の目に映ったのは、学園の制服。
リボンの色は…ピンクだ。
それにこの声…
「危ないなぁ歩夢ちゃん〜いきなりどうしたのかなぁ?」
「白々しいですよ彼方さん。ナギ君を返してください」
訝しむ彼女の言葉を無視して私は小首を傾げた。
「なんのこと?」
「誤魔化さないでください。あなたから彼の匂いがぷんぷんするんです…濃い匂いが!」
ちっ…この女、もう嗅ぎつけてる。
もはや、隠していても意味はないだろう。
私は満面の笑みで彼女に、言葉をかける。
「私達さっきまで…大人のキスしてたんだもの…当然でしょ」
「はぁ?お前…死にたいのかな… 私の…私の渚斗を汚すなぁぁぁぁぁぁ」
そう言って、彼女は一際強い憎悪を胸に湧き上がらせた。
「ふふふ…本性が出ちゃってるよ?歩夢ちゃーーーガンッ!!
私が言い終わる前に、重い一撃が振り下ろされ、金属のぶつかる音が鳴り響く。
「っ!危ないなぁ!!人の話は最後まで聞いたらどうかな!」
歩夢ちゃんは尚も手に持ったバットを勢いよく連続で振り抜く。
このまま責め続けられて当たってしまえばひとたまりもないだろう。
「死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!」
慎重に、かつ冷静に一振り一振りをかわして、私も携帯していた包丁の刃をスッと前に突き出す。
「っ!なんであなたがその包丁を!」
私の手元を見て距離を取った歩夢ちゃんは目を丸くする。
当然だろう。
この包丁はナギ君の家から持って来た包丁。
私が料理を教えてあげる時に彼が使っているものだ。
「ナギ君が私のものなんだからナギ君のものは私のものだもん。ふふっ」
相手を挑発する意味を込めて、私はあえてこの武器を選んだ。
思惑通り効果は的面。
歩夢ちゃんの動きが止まり隙ができる。
私はそれを逃さず一気に懐に潜り込もうと走る。
「おバカさんだね♪」
「っ!きゃぁっ!?」
腕の辺りに鋭い痛みが走る。
制服のシャツを超えて、いつも来ているクリーム色のカーディガンがじわじわと赤く染まっていた。
「私だって彼のものたくさん持ってるもの…彼方さん♪どれで殺されたいかな?」
笑顔の歩夢ちゃんがポケットから無数の道具を覗かせる。
どれも日用品ではあるが、使い方では人を殺すことのできるものばかりだ。
「そんな睨まないでくださいよ…安心してください。とーっても苦しみながら死んでもらいますから♪」
無慈悲に…冷徹に…道端の蟻を踏み潰すかの如く、彼女はバットとハサミを器用に使い分けて私の体目掛け、攻撃を重ねる。
一瞬の隙もない攻撃に私は反撃どころか、回避をするので精一杯だ。
このままじゃ、私は……!!
その刹那圧倒的な殺意の差に気後れしたのが運の尽きだった。
私の唯一の武器だった包丁が打ち払われて宙を舞う。
「あはははは…もう、終わり?」
手の甲からポタポタと赤い血が滴る。
クソッ!
クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!!!!!
こんな所で…私、やっとナギ君を手に入れたばかりだというのに!!!!
私は目を閉じた。
ローファーが地面を踏みしめてコツコツと音を立てる。
そして歩夢ちゃんの高らかな笑い声が聞こえた。
耳を劈くような声だった。
膝をついて、傷ができた腕の辺りを抑える私へ向けた勝利を示す笑い声だった。
多分、私が想像もできないような残忍なやり方で殺されるに違いない。
完全に彼女の方が準備も、相手を消さんとする殺意の強さも一枚上手だったのだ。
ごめんね…ナギ君…遥ちゃん…私、死んじゃうよ…
ランキングに載りました!ありがとうございますー!
評価、感想じゃんじゃんやっちゃってくれたら嬉しいです♪
〜ヤンデレ度チェック表〜
正常:愛 しずく 璃奈 エマ
正常(?):果林 せつ菜 かすみ
異常:
末期:歩夢 彼方
さて、アンケートですが皆さんバッドエンドがお好きなようで…という事で次回は小説の途中で分岐を作り、通常とバットエンドの二話を連続投稿します!
なので少し時間がかかると思います…楽しみにしていただけるとありがたいです。
選択肢による分岐で9人それぞれのバッドエンドって作って欲しいですか?
-
欲しい
-
どうでもいい
-
いらん
-
歩夢怖い