感想で怖いとか言われると。
可愛い顔をして眠ってしまった歩夢を家に送り届けた頃、あたりはすっかり暗くなってしまっていて、それが今日1日の内容の濃さを物語っていた。
ひと段落ついて、俺は携帯でしずくちゃんに電話をかける。
彼方さんの事を報告するためだ。
コール音が2、3回鳴った後、通話が開始される。
「もしもし、しずーー「先輩!!!先輩無事なんですね??良かった、良かったです!私もう心臓が鳴りっぱなしで爆発しちゃうんじゃないかと思ってましたよ!!!」
唐突な大音量に、思わず耳から携帯を離す。
どうやら彼女は、携帯片手にずっと待機してくれていたらしい。
「遅くなってごめん!色々あったけど俺はなんともないからさ、落ち着いてしずくちゃん」
電話越しでも鼻息が聞こえるほど興奮気味のしずくちゃんに圧倒されながらも、至った経緯を含め事の説明を始める。
結構ハードな内容だと自分では思うのだが、落ち着きを取り戻した脳は淡々と言葉を紡いでいくことができた。
「…だから原因は俺なんだ。彼方さんの気持ちに気付いてあげられないままでいたから、何気ない俺の言動が彼方さんをおかしくしてしまったんだと思う」
「そうなんですね…なら、あれはやっぱり気のせいじゃなかったんだ…」
落ち着いていたのも束の間、しずくちゃんの声のトーンが沈むように落ちていく。
「あれって?」
「最近みなさんとお話をしていると先輩の名前がよくあがっていたんです。先輩がいる時はそうでもないんですけど…」
俺の話だって?
普通なら喜ぶとこなんだろうが、今は落ち着いて話を進めた。
「それは、みんなお互い様じゃないか?俺だって他の男子としずくちゃん達の話はするし」
「いいえ…それが普通じゃないんです。彼方さんを例にあげれば"ナギくんと一緒の時間に登校できた"とか、"ナギくんがお弁当を褒めてくれた"とか…口を開けば先輩の事しか話さないんです」
しずくちゃんの話を詳しく聞くと、差はあれど果林さんとせつ菜も同じような状態になっているらしい。
そうなると少なくとも歩夢に加えてその2人の前で刺激を与える様な事はしない方がいいだろう。
よく考えてみれば、かすみもいつもやたらと俺に絡んでくるが…あれはじゃれてるだけだし、心配はいらない…か。
しずくちゃんに3人の様子を気にして欲しいとお願いしてから通話ボタンを切ろうとすると、彼女は待ったをかけてくる。
そして何かを決心したように深く息を吸った。
「…先輩。私、明日から同好会に復帰します」
しずくちゃんが復帰すると言ってくれたことは、嬉しかった。
しかし、誤解が解かれていない今、他のみんなは来てはくれない。
そんな現実が俺の胸を締め付けて、なんと返せばいいのかが分からなくなった。
「1人でもできる事はあります。今は彼方さんやみんながまた笑って活動できるように…戻ってくる場所を作らなきゃいけないんです」
気持ちを察してくれたのか、黙ったままの俺を無視してしずくちゃんは、意気込むように声のトーンを上げながらそう言った。
多分自分に言っているようで俺に向けて言ってくれているんだな、と勝手に解釈する。
「…そっか。そうだよな。なら俺も、ちゃんと彼方さんに会って話をしてみるよ」
「はい。先輩ならきっとまた、みんなで笑えるようにしてくれるって信じてますから」
「…ありがとう」
「はいっ♪」
ハツラツとした返事に、暗い気分も幾分マシになっていく。
俺は、改めて桜咲しずくという人間の強い部分を垣間見た気がした。
明日、彼方さんに会いに行こう。
俺の思いも伝えなければ、この先の未来は暗いままだ。
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終礼が終わると、すぐにクラスを出て一直線に部室へと向かう。
今朝、学校に着いた俺は彼方さんと同じクラスの先輩に言伝を頼んでおいた。
"放課後、部室で待っています"…と。
正直彼方さんが現れる保証は無いが、それでもいい。来てくれないのなら、明日もまた言伝を頼むだけだ。
扉の鍵を開けて、部室の中へと足を踏み入れる。
まだ、彼方さんは来ていなかった。
練習が始まる時間まで、しずくちゃんは演劇部の練習にも顔を出すと言っていたから俺は部室の中で暇を持て余す。
不思議と、緊張とか不安は感じていなかった。
もしかしたらまた後ろから殴られて、目が覚めたら四方八方鉄格子なんて事態もあり得なくは無いけれど。
流石に俺もそこまでの馬鹿じゃあない。
不審な動きを見せればすぐに、彼方さんを取り押さえる準備はしてある。
百均で買っておいた結束バンドの輪っかに指を通してクルクルと回す。
適当にしていたからかすぐに指から外れて宙を舞った。
放物線を描いて落ちていったバンドを目で追うと、写真立てが一つ倒れているのを見つける。
「…これは」
写真を覗いてみると、俺達10人がそれぞれ色んな顔をして映っていた。
まだ出会って間もない時に結成記念で撮影した時のものだからみんな今に比べるとめちゃくちゃ表情が固い。
この日からたった何ヶ月かしか経っていないのに、ずっと前から一緒にいたような感覚になるのはなぜなんだろうか。
そんな風にセンチメンタルに浸っていたら、扉が音を立ててゆっくり開いた。振り返ると扉を開いた人物と目と目が合う。
サッと隠れてはまた少し覗き…また隠れるを繰り返す弱々しく、怯えた瞳に向けて、俺は微笑みを送る。
「来てくれたんですね、彼方さん」
「えっと…その…」
「来たんですから今更逃げるのはなしですよ」
「あっ…」
扉のドアノブ捻ったまま、なかなか中に入ろうとしない彼方さんの手を取って近くの椅子に腰掛ける。
椅子が俺たち2人の重みでギィと軋む音をあげた。
なんだか、今の関係をそのまま音にしたようで不思議な気分になった。
そんな得体の知れない感覚を振り解くように、俺は彼方さんに声をかける。
「傷は大丈夫ですか?」
「う、うん…そんなに酷い傷じゃなかったから…」
心配させまいと思ったのだろう。彼方さんはクリーム色のカーディガンをたくし上げて、包帯に巻かれた白い腕を見せてきた。
「…なら良かった。時間もないですから単刀直入に用件を言いますね。彼方さん、同好会に戻ってきてください」
「…えっ」
申し訳なさそうに俯いていた彼方さんは、面食らったように目をパチパチさせて、素っ頓狂な声をあげる。
それは至極当然の反応で、もし俺が逆の立場だったとしてもそっくりそのまま同じような面をした事だろう。
彼女を無視して俺は話を進めた。
「しずくちゃんは俺を信じて今日から復帰してくれるんです」
「…」
「だから俺も、彼方さんを信じて今日あなたをここに呼びました。同好会にはあなたが必要なんです。代わりなんてあり得ない、"近江彼方"が必要なんです」
なかなか顔を上げてくれない彼方さんをまっすぐ見つめながら、嘘偽りない思いを話す。
普段なら気恥ずかしくて言えたもんじゃないが、今この瞬間は羞恥心を捨てて話さなければ何の想いも伝わりはしない。
茜色に染まる保健室の片隅で、彼方さんは沈黙のまま俯く。
思い悩むように揺れ動くその瞳の下には黒い線が薄らと浮かんでいた。
「初めて彼方さんと会ったのは、保健室のベッドの上でしたね…」
「……」
「覚えていますか?あの日を」
一年も経っていないのに、どこか遠い記憶となったあの日。
ひょんなことから同好会を廃部から救う計画に巻き込まれた俺は、かすみの案内で元部員がいるっていう保健室の扉を開けたんだ。
上級生だからって少し緊張していた俺の耳に入ってきた第一声は、
『うう…ふぅわぁ〜あなた…だれぇ?』
なんてホワホワして気の抜けたセリフだった。
そんな調子で日々を過ごす彼方さんを見て、最初は本当にこの人俺より年上なのか?なんて思っていたけれど、触れ合っている内に彼女の色んな魅力に気づいていく事になる。
決して裕福ではない母子家庭で育った彼方さんは、母親に楽をさせようと虹ヶ咲学園の特待生になった。
しかし、特待生は一定の成績を取り続けなければ学費の免除が取り消されてしまうため、彼方さんは寝る時間を削ってまで勉強する日々の中で部活も頑張っていた。
それに彼女は妹の遥ちゃんが大好きで、朝早くから起きてお弁当を作ってあげたりしているし、スクールアイドルを始めたのだって妹さんの為なのを俺は知っている。
「俺は彼方さんに憧れてました。なんで、そんなに頑張れるんだろうって不思議でした…だからいつかあなたに聞いたことがあります。"何故そんなに頑張れるんですか?"…と」
「そんなこと…」
「ええ覚えていないでしょうね。その時もあなたは半分うたた寝しているような状態でしたから」
そう、彼女は机に突っ伏しながら寝言のように呟いたんだ。
「"大好きなみんなに笑ってほしい"…あなたはそう言ったんです。俺はその言葉を今のあなたに言いたい。彼方さんには笑っていて欲しいんだ」
「ナギ君…」
「大して気にしてませんよ。あんな事をされたとしても、この程度の事で俺たちの絆は壊れたりはしないって信じてますからね」
「…」
「戻ってきてください。同好会に」
「…りだよ…」
「聞こえませんよ「無理だって言ってるの!!!」
ずっと俯いていた彼方さんが初めてこちらを向く。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「私、ナギ君もみんなも裏切っちゃったんだよ?大好きなみんなの事忘れて、本気で殺してしまいたいって思ってたんだよ?そんな私がどんな顔して戻ればいいの!!」
「……」
「ナギ君は優しいから…優しいからそう言えるんだよ…他のみんなは私を許すはずない…みんなの夢を壊したんだから…」
床に、彼方さんの瞳から大粒の涙が落ちる。
1つ、2つ、3つ…一度溢れ出したら止まらない気持ちが形となって現れた。
「昨日だって、もしナギくんが助けに来てくれなかったら…ねぇどうして?なんであんなに酷い事したのにナギくんは私を助けてくれたの?」
「大切な人を守りたいのは誰だって同じです。俺は彼方さんを助けた。それが答えですよ」
そっと彼方さんの小さな身体を包み込むように抱きしめる。
俺の胸がどんどん湿って行くのを感じた。
「そんなに大泣きするくらい申し訳なく思ってるなら、ついた嘘を撤回してくださいね?じゃないと俺、犯罪者ですから」
胸の中にすっぽり収まっている彼方さんに向けて笑いまじりに囁くと、釣られたように彼方さんも泣きながらクスクスと笑ってくれた。
「もう…ナギ君、お人好しすぎるよ…だからどんくさい私に捕まっちゃうんだよ」
「えぇ…それ彼方さんが言っちゃいます?」
「ふふっ…彼方ちゃん、しっかり責任をとって誤解を解く!みんなにちゃんと謝るから」
少し腫れぼったくなった目元をゴシゴシと拭いた彼女は、笑顔で言った。
その表情が夕陽に照らされて、とても綺麗だ。
「その言葉を待ってました」
「うんっ」
2人して、照れ笑いなのか、嬉しくて笑っているのかよくわからないけれど。
きっといつものように笑い合えているのだろう。
しかし、一言だけ彼方さんには文句を言っておきたい。
場が和んだ所で、俺は部室のパソコンの電源を入れてムッとした表情を作る。
彼方さんに見せつけるように写真を見せながら。
「にしても彼方さんひどいですよ…わざわざ嘘をより本当に近づける為に写真を送るなんて」
「写真?…彼方ちゃん、そんな事してないよ?たしかにしずくちゃんには嘘ついちゃったけど…」
「え?」
彼方さんがはてなマークを頭上に浮かべながら言った言葉に俺は耳を疑う。
彼方さんじゃないなら、一体誰が…
俺の心にかかった霧はまだ晴れてはくれなかった。
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「もー!2人とも、ほんっと役立たずだなー!」
夕闇に照らされた学園の片隅で、少女は1人苛立ちを露わにする。
しかし、すぐにその表情を満面の笑顔に変えて近くにあった缶を蹴飛ばした。
「ま、邪魔な虫が1人戦いの場から落ちたのは変わらないし…次は2人一気に仕掛けてもらいましょう♪」
パソコンのメッセージ画面に先程撮ったばかりの写真を添付させ、2つのアドレスに向けて送信を完了させた少女は鼻歌混じりに帰路につく。
彼方との絆を取り戻した、渚斗。
しかし、その背後には新たな黒い影が迫っていた。
to be continued…
お久しぶり?です〜
ヤンデレはガンガンかけるのにこういう仲直りの感動?シーンは滅法苦手な"てらりうむ"です。
改名しました、平仮名に。
そんなことはどうでも良くて、とりあえず1人を病み状態から救い出す事ができました!
渚斗くんおめでとう!
さてさて最後の少女は誰でしょうかね〜。
次回はちゃんとヤンデレしますから、どうか俺は恋愛求めてねぇ!とか言ってお気に入り解除は勘弁してください。
ますますモチベーションが下がりますから…代わりに投票感想お気に入りを…マジでモチベーション爆上がりになりますから…
↓異常と末期の違いは、まぁ仲間を傷つけちゃったり主人公監禁したりしちゃったらランクアップする仕組みです。
正常:愛 しずく 璃奈 エマ 彼方
正常(?):かすみ 果林 せつ菜
異常:
末期:歩夢
そんなわけで、次回もお楽しみに…と言いつつ二話連続投稿というね。
次はヤンデレ要素ありまっせー。
怖いのは誰ですか?
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歩夢
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彼方
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作者
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ヒソカ
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ポケモンホーム 「え?過去作から送るのは有料だよ?」