世にも奇妙な俺ガイルの世界   作:スポポポーイ

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※pixivでも投稿していたものを改稿した作品となります。


ぼっち学のすゝめ

 唐突だが俺はつぶやく系のSNSアカウントを持っている。

 とは言っても、俺自身が積極的に呟いている訳ではない。主な用途は情報収集がメインであり、アニメやゲームの公式アカウントや千葉県内の時事情報を発信してるアカウントをフォローしているくらいだ。

 当然、俺のアカウントに対するフォロアー数は、ゼロ。誰も俺の呟きなんて興味を持っていない。俺自身としてもそんなものに自己承認欲求なんて求めていなかったので、まったくもって気にしていなかった。

 

 そして高校二年生になった四月のある日。

 俺はとある事情でむしゃくしゃしていたのもあって、このつぶやく系アプリを使ってある持論をぶちまけた。

 

 

 《青春とは嘘であり、悪である》

 

 

 当然ながら俺のつぶやきに【いいね】が付くこともなく、何の反応もなかった。

 そもそも何か反応を期待してやった訳ではないので特に気にしなかったのだが。

 

 それからも、俺は気まぐれに呟いては、ぼっち学とも言うべき持論を世に発信していった。

 

 

 《なぜ自分の感じている楽しさを、自分の正しさを、己一人で証明できないのか》

 

 《人生はリセットできないが、人間関係はリセットできる》

 

 《特殊で何が悪い。英語でいえばスペシャルだ。なんか優れてるっぽく聞こえるだろ》

 

 《みんなでやることが素晴らしくて、みんなでやることがいいことで、じゃあ、一人でやることは悪いことなのか?》

 

 

 もしかしたらそれは、ストレス発散も兼ねていたのかもしれない。突然部活に入部させられて、それまで乏しかった人間関係が急速に広がって、いつしかそのことを受け入れてしまっている自分に気が付いて……。変わらないことを信条としていた自分との均衡を保つように、俺はネットの世界へ言葉を投げ続けた。

 

 そんなある時、俺のアカウントに一人のユーザーが返信してきた。

 

 『すごく共感しました! フォローさせてもらいます!!』

 

 初めてのフォロアー。しかし、俺は特に感じ入ることもなくはなかったけど、気にすることは無かった。強いて言えば、こいつ頭大丈夫かな? とは思ったけど。

 

 

 《お互いに期待しない、期待されないというのは結構楽でいい関係なんじゃないかと俺は思う》

 

 

 違和感を感じたのは、それから暫く経ってからだった。気がつけばアカウントのフォロアー数が増えていたのだ。

 

 

 《おそらく、非モテぼっちほどのリアリストはいないだろう。非モテ三原則【(希望を)持たず、(心の隙を)作らず、(甘い話を)持ち込ませず】を心に刻んで生きているのだ》

 

 

 それも二~三人とかいうレベルじゃない。桁にしてゼロが六個ぐらい違う。よくよくチェックしてみれば、これまで俺が発したつぶやきを誰かが英訳してリツイートしており、ローカルの極地にいたはずの俺のアカウントがいつの間にかワールドワイドでグローバルなアカウントになっていたのだ。

 

 

 《本来、ぼっちというのは誰にも迷惑をかけない存在だ。人と関わらないことによってダメージを与えない、究極的にエコでロハスでクリーンな生き物なのだ》

 

 

 何だこれ? と首を傾げる俺だったが、自分の主張が認められるのはぶっちゃけ嬉しかった。

 毎日おそろしい勢いで増加していくフォロアー数をニヤニヤ眺めていると、とある出版社からDMが飛んできた。曰く、俺の持論を書籍化しませんか、と。

 

 いつもの俺なら、そんな如何にも胡散臭い誘いになんて乗らなかっただろう。だが、すっかり有頂天になっていた俺は印税というパワーワードに目が眩み、二つ返事で了承してしまった。

 

 

 【SNSで話題沸騰中の『ぼっち学』が遂に書籍化!】

 

 

 そうして、俺を取り巻く世界は一変した。

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 月日が流れるごとに、テレビや新聞、ネットニュースで取り上げられる頻度は増し、扱われ方もどんどんとデカくなってゆく。

 

 

 【現役高校生が世に放つ異彩の学問『ぼっち学』とは!?】

 

 【いま社会人こそ読んでおきたい『ぼっち学』を池下先生が徹底解説】

 

 【大ベストセラー『ぼっち学』をテーマにした実写映画が製作決定!? 主演は人気アイドルグループの○×君か!】

 

 

 気がつけば、もはや俺の理解を超えて世界へと羽ばたいてしまった『ぼっち学』。

 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何がなんだかさっぱり分からなかった。

 

 

 【『ぼっち学』に感化された宗教テロ組織が解散を宣言】

 

 【長年いがみ合っていた中東諸国がお互いに不干渉を貫く声明を発表。背景には『ぼっち学』による孤高主義が影響か!?】

 

 【アメリカ大統領が演説で引用したことで話題の『ぼっち学』が全米を席巻!】

 

 【国連でも『ぼっち学』について本格討論を開始。『ぼっち学』を通して見た世界の在り方とは!?】

 

 

 ぶっちゃけ意味不明過ぎて理解が追いつかない。狂気すら感じると言っていい。

 何で著者である俺が時代の流れに置いて行かれちゃってるの? そこまでぼっちを極めた覚えは無いはずなんですけど。

 

「どうしてこうなった……」

 

 久しぶりに過ごす部室での一時に、俺は思わず溜息を吐く。

 そう、久しぶりなのだ。販売されるなり瞬く間にベストセラーとなってしまった俺の『ぼっち学』。無警戒にも実名で出版してしまったが為に、すぐさまメディアに俺の存在が特定され、取材申し込みの連絡が殺到した。しかしながら、俺は当然ながら断固として取材拒否を貫き、業を煮やした一部マスコミが高校に押し掛け、総武高校は一時大混乱に陥った。

 それからというもの、自宅から高校までの通学路で待ち構える野次馬やメディア連中から雲隠れするため、俺はずっと自宅に引きこもっていたのである。しかし、流石に出席日数がヤバくなり、朝の四時から平塚先生に迎えに来てもらうことでどうにか登校を果たしたのだった。

 

「お、お疲れさま。ヒッキー」

「今やテレビで取り上げられない日は無いものね。良かったわね。どう、人気者になれた気分は?」

「どうもこうもあるか。寄って集ってぼっちに群がりやがって。あいつら本当に俺が書いた本読んだの? ぼっちへの配慮が無さすぎるんですけど」

 

 気遣うように俺を労わる由比ヶ浜と、皮肉げに祝辞を述べる雪ノ下。

 変わりまくる世間とは対照的に、奉仕部の二人は以前と変わりなく俺に接してくれることに安堵…………することを世界は許しはしなかった。

 

「ひ、ひひひきがやぁぁぁああ!?」

 

 なんか絶叫しながら勢いよく部室へと飛び込んできた平塚先生。いつもの余裕ある姿は見る影もなく、ひどく狼狽した平塚先生はヨロヨロと俺のすぐそばまでやってくると、俺の両肩に手を置いてガックンガックンと俺の身体を激しく揺さぶるぁぁぁぁぁ!? ちょ、待ってこれ揺れ過ぎ気持ち悪い死ぬ…………ぐぇ。

 

「ちょ!? 先生、落ち着いて! ヒッキーが白目剥いちゃってるから!!」

「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁ」

「とりあえず、それ以上は比企谷くんが昇天してしまいそうなので自重してください」

 

 その後、何とか一命を取り留めた俺は、未だに動揺著しい平塚先生に事の経緯を問い質す。

 

「んで、どうして俺は平塚先生に命を狙われたんすかね?」

「いや、スマン。それについては謝罪しよう。メンゴ」

 

 軽いな謝罪。いや、まあ別にいんですけど……。

 

「それで、どうして先生はそんなにも取り乱していたのですか?」

「あ、ああ……。三人とも、落ち着いてこれを見てくれ」

 

 先生はそう言うと、持っていたスマホの画面を俺たちの眼前へと突き付ける。画面にはネットニュースの記事が表示されており、そのタイトルは──

 

 

 【『ぼっち学』の著者である比企谷氏が、ノーベル平和賞を受賞! 前代未聞の快挙!!】

 

 

 脳が思考停止に陥った俺たち三人は、五分ほど固まってしまった。まじわけわかめ。

 

「あはは……。先生、エイプリルフールは四月ですよ? いまは十二月だから時期を間違って……」

「残念ながらエイプリルフールネタではないぞ、由比ヶ浜」

「……フェイクニュース」

「雪ノ下、私も真っ先にそれを疑ったが、どのメディアでも速報でこのニュースが流れている」

 

 現実を否定しようとした二人の言葉を、平塚先生が即座に撃ち落とす。なにこれ。どうなってんの。ちょっと宇宙の法則乱れ過ぎじゃない?

 

「じ、辞退を……」

「それを辞退するなんてとんでもない!」

 

 あまりの事態に動揺した俺が辞退を申し出ようとすると、平塚先生がそれを遮り、諭すように俺に語りかける。

 

「まさか私の教え子からノーベル賞を受賞する者が現れるとは……教師冥利に尽きるな!」

「いや、ちょっと待ってください。どう考えてもおかしいでしょう、これ!?」

「何もおかしいことなんてないのよ、比企谷くん」

「そうだよ、ヒッキー」

 

 いつの間にか、先ほどまで茫然自失としていたはずの雪ノ下と由比ヶ浜が俺を挟むように立ち、優しく微笑みながら告げる。

 

「間違っていたのは、私たちの方よ。あなたは私がずっとやりたくて、できなかったことを成し遂げてみせた。見事としか言いようがないわ」

「は? 雪ノ下は何言って……」

「誇りなさい、比企谷くん。あなたは、世界を変えたのよ」

 

 雪ノ下はそう言うと、両手を胸の間で合わせ、拍手をしながら俺に笑いかけた。

 

「おめでとう、比企谷くん」

 

 同時、由比ヶ浜と平塚先生も同じように拍手しながら俺を褒め称える。

 

「おめでとう、ヒッキー」

「おめでとう、比企谷」

 

 正気を疑いたくなるような光景だった。

 どうして、あんなものが世界に認められるのか。なぜ、雪ノ下たちがそれを称賛しているのか。

 

「……違う。こんなの間違ってる」

 

 俺が書いた『ぼっち学』なんて、所詮はただの屁理屈で言い訳だ。それは俺自身が一番よく分かっている。

 世間一般の常識で考えれば、俺の持論が間違っているのなんて当たり前だから、だからそれに抗うように、まるで反抗期の子どものように『ぼっち学』なんて幻想に縋っていた。そのはずだった……。

 

「お兄ちゃん、おめでとう」

「おめでとうございます、先輩」

 

 いつの間に現れたのか、ぐるりと俺を取り囲むように色々な人が拍手しながら笑っていた。

 

「おめでとう、比企谷」

「ヒキオ、おめでと」

「ヒキタニくん、おめでとう」

「マジおめでたいっしょ、ヒキタニくん」

 

 葉山が、三浦が、海老名さんが、戸部が──

 

「おめでと、比企谷」

「おめでとうっす、お兄さん」

「はーちゃん、オメデトー」

 

 川崎が、大志が、京華が──

 

「おめでとう、比企谷くん」

「うん。比企谷くん、おめでとー!」

「マジうける。比企谷、おめでとう」

「……八幡。おめでと」

 

 陽乃さんが、城廻先輩が、折本が、ルミルミが──

 

「おめでとう、八幡!」

「八幡、おめでとう」

 

 材木座が、戸塚が──

 

「おめでとう」「おめでと」「オメデトウ」「おめでとー!」「おめっ!」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでと!」「おめでとう」「おめでとう」「オメデトー!」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでと」「おめでとう」「オメデトウ」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでと~」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」

 

 遊戯部の二人が、相模一派が、大和が、大岡が、海浜総合の生徒会連中が、これまで依頼を通して出会ってきた沢山の奴らが笑顔で俺を祝福してくれる。その与えられる称賛に、送られる讃辞に、向けられる尊敬に、俺は────

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

*  *  *

 

「──という夢をみたんだよ」

「……比企谷くん。あなた疲れているのよ」

「ヒッキー……。病院、いこう?」

「おい、ガチトーンやめろ」

 

 なんでだか奉仕部で最近見た夢の話になり、俺は今朝見たばかりの悪夢について語ってやった結果がこの二人の反応である。

 失礼な……とは思わない。俺自身、起きてから小一時間ばかし自分の深層心理について思い悩み、うっかり遅刻しちゃったからね。なんで今日に限って一限が現国なんだろう。マジ迂闊。

 

「何にしても、現実にはあなたがノーベル賞を受賞することなんてないでしょうから安心しなさい。万が一あったとしても、イグノーベル賞だろうし」

「それはそれで安心できないんですが……」

 

 まあ、そもそも俺の持論が世間に受け入れられることなんてないだろうから、要らぬ心配なんですけどね。

 

「でもさ、もしもヒッキーの夢が本当になったら、どうなるんだろうね?」

「……文明社会が崩壊するわね」

「だな」

「ヒッキーも認めちゃうんだ!?」

 

 由比ヶ浜が驚愕しながらツッコミを入れてくるが、良く考えてみてほしい。

 

「全員が俺の思想に感化されるんだぞ? 誰が働くんだよ? 労働者皆無とか雪ノ下が言う通り文明崩壊するわ」

「……そこまで理解していながら、どうして自分が働こうという思考にならないのかしら。いっそ尊敬するわ」

「そんな褒めるなよ」

「呆れてるのよ」

 

 そんな風に雪ノ下や由比ヶ浜と軽口を叩き合う俺は、気がつくことができなかった。

 このとき俺のSNSアカウントに届いていた一通のDMの存在に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『○×出版の□◇と申します。突然ですが、あなたの呟きを拝見し、是非とも書籍化させていただきたく思います。詳しくは……』

 

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