最後のアヴァターラ 作:クシャトリヤ絶対許さねぇ!
維持の神、ヴィシュヌ。
インド神軍の最高位“トリムルティ”の一柱。
彼は世界の為、九度自らの神性を捨てた。
その意図的な転落より生じた化身は“アヴァターラ”と呼ばれ、彼らはその偉業から、時に多くの信仰を集めた。
それは未だ顕現を果たさぬ最後のアヴァターラとて、決して例外ではない。
第十のアヴァターラ、粛正者“カルキ”
誕生と行いを予言され、降臨を待たれる者。
最後の神。最後の英雄たる者。
しかし───降臨の時である
星に満ちる命は生存競争を続けた。進化のために遍く冒涜を行った。互いを尊び侮蔑し高め合い、しかしただの一度も直接的に種の後退に着手した者は無い。
これまで多くの病理、獣、資源、価値がこの星を去った。前に進む為に人類が行った足切り。それが神々にすら届いたとなれば、
最早この星に神の法が介在する余地はない。
人類を庇護する者達はいない。
最後の神は降臨しない。
「───だがそれは違うのだよ、
未だ世に無き“私”はその決議を否と断じる」
遥かな霊峰。その頂に在る少年は言う。未熟な肢体に、曇りなき眼。しかしてその体に宿した神性は、数多の神々を凌駕しうるほどに濃密だった。
翠色の瞳はこの世の全てを見定めた。消費社会に生きる人類。神秘を絶った人世界。開闢より数千年を経てようやく平和へと歩み出した国々。
その流れにある淀みをこの少年は見逃さなかった。全てが悪いわけではないが、それでもなお余りある負債を、彼は決して許せない。
未だ世に蔓延る旧き者。誠実な信者を欺く愚か者。報い無く生き延びた非道者。そのすべてを焼き払わんと決定を今下す。
あれらが人ならば、まだ良い。
いかなる時代、国であれ悲劇があった。
いかなる聖者、子供であれ間違いを犯した。
いかなる王、民であれ潔白では無かった。
だが───その全てが神代の遺物であるとはどういう事だ? 何故未だ未練がましくしがみついている? お前達の役目は終わったのだから、観客席に座し、時が来るのを待てば良い話でしかないのに、何故それすら出来ない?
「ああ、嫌だ。認めない。このような世界など許さない! 終わるべきだ、死ぬべきだ、断たれるべきだ。お前達の為に、命は有るのではない」
故に、最後の“
彼は“未来の功績”を投げ打ち、慟哭に応えて現れたが、他の神々はその顕現に否定的だった。
だが維持の神は“この現状の維持”を赦すことなどしなかった。このような世界には蔓延る悪性が、あまりにも多い。これの維持など我慢ならぬと。
「偉大なる神ヴィシュヌよ! シヴァよ! ブラフマーよ! 我が名はカルキ! 未来の行いを捨て、現代に現れた愚か者! しかしてどうかこの顕現を赦してはくれまいか!」
霊峰の頂にて彼は叫ぶ。
少年の名はカルキ。未来の英雄、救世主。
しかしてその未来は既に無い。
しかしてその力も大半が消え失せた。
本来の顕現を捨て、無理やりの誕生を成したのだから───これはまったくもって当然の帰結でしか無い。何もおかしなことでは無い。
神々は絶望した。神々は憤慨した。それではどう足掻こうとも
「何、案ずるな! 人はいずれ己が力で
しかしカルキはそう断言した。
「───であればこそ、それを食い物にする者達は捨て置く訳にもいくまい。主演に野次を飛ばし、あまつさえ足を引くどころか拉致する役者には退場を願おう」
自らが優れているという高慢。世界に淘汰される事を忌避し続ける執念。大体的な発展をする事もなく、さりとて後退する事もない惰性。その全てに幕を引くために、彼はその手に
さりとて単独の力には限度がある。彼はそれを熟知している。今の己は大半の力を顕現に使い尽くしてしまった。故にこそ、だからこそ修行が必要だ。
絶対必滅の一撃が必要だ。個を殺す力では無く、群を殺す力が必要だ。
しかしこの霊峰に篭り、研鑽に時間を費やす事は良い事ではない。こうしている間にも慟哭は増えていく。それを許さぬ為の顕現だというのに、それを見越してはならない。それでは私の意味がない。
人の世に降りるとしよう。興味と好奇が理由ではないのかと問われれば、完全に否とは返せないが、私は己の責務を果たすために降りるのだ。
───手を出すべきではない? 傍観すべき? 終末期の救済? ああ、確かにそれも大事さ、大事だろうとも。
「無くしたものは戻らない」
それが人代の理。
これまで多くの未来が食い物にされて来た。
「それを知りながら、私には何も出来なかった」
だからこそ、その全てへの贖罪として。
「…けれど、今は違う。今は違うぞ!」
粛清の少年は涙と共に顕現する。
───◇───
「インドラ、これどうする?」
「HAHAHA! …いやこれマジにどうするよ…」
とある地にて、頭を悩ませる男が二人。一人は青光りする黒髪の美少年。もう一人はサングラスをかけた男。少年の名はシヴァ。男の名は帝釈天。
方やトリムルティの一角、方や神々の王だ。インド神話、須弥山の重鎮である彼等の頭を懊悩の海に追い込んだのは、言わずもがな顕現したカルキだった。
「正直こうなるとは誰も思わないじゃん…ブラフマーなんて今絶叫しながらサラスヴァティに泣きついてるよ…」
「トリムルティがそんな有様でどうすんだよ…いやこっちもこっちで大騒ぎしてるけどな…」
本来なら互いに反目する彼らが顔を合わせていたのは、一重にヴィシュヌの意図的な転落の報せが原因だった。かつてインド神話に身を置いていた事を理由に、帝釈天にもこの連絡は行き届いていたのだ。
そして何より己から信仰を奪ったあのシヴァが“これからの方針について君の意見も欲しい(切実)”という旨を記した封書を送って来たのも理由の一つだった。
「…胃が痛いなぁ…はは、涙出て来た…」
「畜生…元から仏門に生まれてりゃ…」
惨憺たる有様である。最後の英雄が思わぬ形に現れてしまった。これで世の流れは一体どうなるのか。変わらず虚飾の太平を続けるのもやぶさかではなかった。各々目的があり、程の良い“準備期間”となっていたからだ。
しかしカルキの到来で全てが狂った。彼は間違いなく“粛清”を行う。その規模、被害は計り知れない。最小で済むのか、それとも擬似的な
「カルキの顕現はまだ良いんだよまだ。
…若い衆は納得しないとは思うけど…どの道、宇宙終末期まで人類が持つかどうかも分からなくなってたんだし。
希釈版ブラフマーストラじみた爆弾作るとか、大概頭おかしいでしょ人間も…」
頭を抱える少年はその場で身を床に投げ出す。
「…僕が一番怖いのはさぁ…これで連鎖的にアヴァターラの転生体が出て来る事なんだよね…」
「おっそろしい事言うなよ…んな事起きてみろ、クリシュナがアルジュナ訪ねて三千里とかやりかねぇんだよ」
連鎖的に顕現する歴代アヴァターラの図を思い浮かべて帝釈天は顔を蒼くする。
アヴァターラの1人、クリシュナについては帝釈天にも心当たりがありまくる為、歓迎出来ないというか“己がやらかした所業”につき顔を極めて合わせたくない。
「でもラーマ×シータが見れる可能性が出てこない?」
「お前天才かよ、新たなラーマヤーナか…」
どうやら二人の思考は疲れ切っているらしい。
一頻り乾いた笑いを出しながら二人して頭をまた抱えた。
「うぉー…パールヴァティー…僕へ膝枕プリーズ…」
「…お前割と余裕あるだろ」
「ねぇよ!!!!クソが!!!! 取り敢えず他神話に現状報告と危険勧告! でもその前にうちの阿鼻叫喚状態の解決! よし方針まとまった! でもお願い色々手伝ってインドラ! 僕もう胃がやばい!」
「その名前で俺を呼ぶんじゃねぇよ! あと手伝うかわりにカルキをこっちによこすなよ頼むからマジで! フリじゃねぇからほんと!」
カルキ
本来ならば宇宙の興亡期に現れる者。数多の悪性を殺し尽くし、黄金の時代を想像すると予言されているが、今回は「未来の功績」を代償に極めて異例的な顕現を果たす。
その為、力の大半が消失しているのでブラフマン・ダ・アストラを始めとした多くの技や武器が使用不可となっているが、それが彼に修行と研鑽の余地を与えた。
処刑用BGM:Next new wørld
アヴァターラ
シヴァ「皆パニックで滅茶苦茶だよ!助けてインドラ!」
帝釈天「カルキとか聞いてねぇんですけどぉお!?」
カルキ「人助けの旅と修行と行きますか!」