最後のアヴァターラ 作:クシャトリヤ絶対許さねぇ!
「ふむ、間に合わんな」
カルキは旅を続ける中で、世界中で同時進行に起きる惨劇を自分一人で止めるのは無理だとあっさり認めた。これは意地を張っても仕方のないことだ。
未来の己なら手始めに“粛清の権能”をぶっ放して悪性の駆逐なぞお手の物だが、今の自分にそんな力はない。
「私の敵は聖書の勢力そのものと言って良い、となると、やはり組織というものは必要か…かと言って、今の私は故郷にとって厄ネタというやつであるのは間違いないだろう。私自らが立ち上げるのが良作だな」
よしと頷けば彼は再び歩きだす。その足元には
神器とは魂に深く結びついたもの。収集されれば宿し手である人間は死ぬ。カルキが今分かる知識はそんな所だ。神器が人間にしか発現しないこと、神器自体が聖書の神によりもたらされたものとは知らない。
今回殺されかけていたのは、年端も行かぬ子供だった。カルキが先刻神通力で焼き払った堕天使曰く、“魔獣創造”なる神器を持っているらしい。
子供から無数の魔物のオーラを感じるのはそれが理由か、と考えながらカルキはその幼子へと手を差し伸べた。
「さて童よ、君の名前を聞かせてくれ。生まれながら無数の
「……───」
しかし無言。そもそも会話のキャッチボールが始まりすらもしない。どうしたものかと空を仰ぎ見るカルキ。最後のアヴァターラにも苦手な事は存在するらしい。
「…もしやショックによる失語症状か?」
「……」
「まいったな…」
“魔獣創造”───名前の通り、あらゆる魔獣を生み出す神器だろう。ともなれば、易々と孤児院に押し付けるわけにもいかないと、翠色の瞳の少年は考える。
神器だけ摘出出来ればいいのだが、今の己では不可能だ。今の自分は殺戮にのみ特化している不出来な顕現。救済など出来はしない。ままならぬものである。
どうしたものかとカルキが悩んでいる時、唐突に幼子は少年はの纏う古代インドを彷彿とさせる服を引っ張った。
「…私と行きたいのか?」
幼子は肯いて肯定。カルキは己の黒髪をぐしゃぐしゃにしながら悩むように呻く。
「…童。私が行く道は血と殺戮に塗れる。それは私個人の身勝手によるものだ。君はそこに付き合う義理はない。君と私の縁はこれで終わりなんだ」
「…いっしょにいく」
“喋れたのかよ”と内心で突っ込むアヴァターラ。その時でも幼子がカルキの服を掴む力は強くなる。行かないでと、心中の我儘を形にするかのように。
カルキは膝をおり、幼子と目線を合わせる。目をそらさない。彼は子供だからといって対応を変えたりしない。
「それはどうしてだい?」
「…わかんない、でも、たすけてくれた」
「私は独善の悪人だ。自分勝手な男だ」
「……でも、たすけてくれた」
助けてくれた。理由はただそれだけで、他に特別性なんてない。個体の生存本能か、それとも別の理由───いいや、ちがう。多分、そんなありきたりな話じゃない。
「童、家族は?」
「わかんない」
少年は幼子の頭に手を置き、慈しむように撫でる。分かってはいた。このような命、珍しくない。だが、ヒトとしての目と心を持って見るには、あまりにも耐えがたい。このような話など、あっては欲しくなかった。
「お前の名は?」
「レオ、レオナルド」
レオナルド、その名前にある歴史の中でも、かなりの類で高名な人物が頭をよぎった。そしてつくづく名とは因果だなと笑う。
「そうか、かの万能天賦と同名か! ははははは! そいつは良いな! お前はあらゆる
カルキは覚悟を決めた。背負う覚悟だ。ただ助けるのではない。助け、導き、次に繋げる。それが殺戮の力しか持ち得ない自身への、これとない修練だ。
しかしそれを乗り越えた時、己はきっと本来の姿に近づける。であれば、神ブラフマーに祈りを捧げよう。この試練達成の暁には、我が身に数多の人々を背負い、守るに足る新たな力を。
「レオナルド、私の名はカルキ。自分の責務を放棄し、今に憤り、この世に現れた愚者だ。私はお前を助けた。なら、お前の命の責任は私にもある。
───私と来い、そして義兄弟となろう。子供には家族が必要だ。私はそれを与える。その代わり、お前は学べ、食え、泣け、笑え! お前の人生はまだ始まったばかり。故にこそなれば、その前途は希望に溢れなければな!」
銀髪の少年は、幼子の手をとる。義兄弟の契り。彼なりに考えて出した救いの手は、奇跡のような間違いでありながら、何処までも人の優しさに塗れていた。
幼子と少年は旅を始める。少年の終着は粛清と救済の成就にあり、幼子の終点は人が持つべき幸福の形を手にした時である。
義兄弟となった彼らは進む。互いのゴールのため、決して短くはない旅を続けるだろう。
「先ずは住処、食料と金の確保。次に人員収集、発足と運営! さぁて、やることは山積みだな!」
「っ、てつだう! がんばる!」
「我が弟は頼もしいな! はははははは!」
───◇───
───苦痛が走る。苦悶が溢れる。苦渋を飲む。それが戦を冒涜したオレへの最大の罰であり、償いである。
長年の放浪で、既に時間の感覚は消え失せた。ここが何処なのか、それすらも忘れてしまった。
オレはやってはならない事をした。その応報が三千年の彷徨である。血と傷による苦しみである。死から見放される事である。人世から隔絶される事である。無数の病に苦しむ事である。オレにはそれを持ってなお有り余る罪がある。
傷に呻く。病に慟哭する。死ねぬ体に絶望する。誰もいない孤独に恐怖する。
この地獄のような苦しみを───オレは数え切れないほど味わった。しかし足りない! 足りないのだ! 我が身の所業は雪げない! 赤子を殺し、戦士を戦場以外の場で殺し尽くした!
このような悪鬼に慈悲など要らぬ。我が身は愚物。憤怒に落ち、法を冒した愚か者の身に、同情など要らぬ。許しなど、もってのほかだ。
───ああ、でも。
聞こえるのだ。我が神が、オレに抑止の役目が出来たのだと。何とも都合の良い幻聴だろう。我が身の浅ましさに耐えられん。シヴァ様が、このような恥晒しに役目などお与えになるものか。
オレは自らの傷口をえぐる。都合の良い幻聴になど惑わされてはならぬ。許しを得ることなどオレには出来ない。痛みに苦悶し、ただ贖罪の時であるカリ・ユガを待つ。オレに“スーリヤカンタ”の名が賜わされるまで、オレは罪に向き合い続ける。
───だぁぁぁ面倒くさいなクソ真面目がぁぁぁぁあ!!!!
そう、これもきっと幻聴だ。シヴァ様がかような慟哭などあげたりするものか。
アシュヴァッターマン
マハーバーラタの英雄。シヴァの半化身(残りの半分はヤマと貪欲と怒り)として生を受け、文武両道ぶりを誇るバラモン最終兵器のやべーやつ。
父を謀殺された憤怒により、当時の法を冒し敵陣に夜討ちをしかける。その後も幾つかの過ちを犯し、最終的にはこれを咎めたクリシュナに呪いをかけられた。
カルキ「個人の力じゃ限界あるよな!よし!でっかい組織つくろ!人を助ける事を試練としよう!ブラフマー様に祈らないとな!」
シヴァ「アシュヴァッターマンに着拒否されたんだけどぉおぉおおおお!?もうやだあああああああ!!」
ブラフマー「ワタシニハナシフラナイデ…オトナシクシテ…」
帝釈天「ユルシテ…コロシテ…」