最後のアヴァターラ   作:クシャトリヤ絶対許さねぇ!

3 / 4
破綻

 神性応用による、大規模「神殿」の構築と隠匿。

 戦力を整えたカルキがまず行ったのはそれだ。

 完成したのは誰からも見えず、触れられない城。

 その名を「空虚に在りし神殿(ヴィマナ)

 カルキの率いる「徒党」の根城。

 

 神々を裏切り、極めて異例な誕生を成した「我慢の出来ない男」の元に集った数は、決して少なくは無かった。それがいつかは徒党ではなく、勢力と形になりつつあった。

 

 ───ある男は齎された遺物に苦しむ子供達を救うために、自ら己が信ずる神を裏切った。それは自らが人間である事の証明だ。

 

 ───ある女は別離した家族をその手に取り戻すために、自らの矜持と技の全てを捧げた。それは彼女が心ある者である事の証明だ。

 

 ───ある兄は悪魔の殺戮という己の機構を果たすために、殺しの技を磨ききった。それは彼が血も涙も無くそうとしている事の証明だ。

 

 ───ある妹は行き場が無いからこそ寄るべを探す為、遺伝子上の兄の背へと続いた。それは彼女が未だ己も定まらぬ者である事の証明だ。

 

 ───ある怨霊は怨嗟の果てに神へ届き得た。その怨嗟の全てを晴らさんが為、何よりかつて見た情景と焦がれた愛しき誰かの為に、その男は生き恥を晒すと決意した。

 

 ───ある幼子は徒党の長の義弟としてその道を行く。それは彼が未来を望むが故の証明だ。

 

 

 神とその御使いにより生まれた悲嘆と慟哭。

 意義を奪われた者、幸福を奪われた者と、彼等の在り方は千差万別なれど、善悪に関しましては此度は明白。

 悪とは是、彼等「徒党」のことであり、善とは彼等が殺さんとする「神の意思」である。

 

 一個人の我儘による神への反逆。誰もが石を投げるだろうその行為を、しかし彼等は恐れる事など無かった。恐怖をねじ伏せ、殺し尽くす感情。

 それは殺意、それは享楽、それは待望、それは悲観、それは絶望、されど一括とするならばこれは、純粋、そして確たる「怒り」に他ならない。

 

 カルキはこの徒党を組むのに実に多くの情報を手に入れた。有益ではあるが、憤怒の相を出すには十分過ぎた。

 神器とは聖書の神が与えしもの。しかしそれは時として災禍を招く。悪魔の駒とは他種族を悪魔へと転生させるもの。それは余りにも多くの命を蝕み、弄び、なにより隷属を生んだ。一つの侵略と言っても過言では無いだろう。

 堕天使は言わずもがな探究のために多くを殺した。天使もまた異端を屠り、追放し、また命の愚弄を黙認した。余罪は吐いて捨てるほどあったのだ。

 

 果たすべきは殲滅。世界を断つ権能は、今のカルキには無い。かと言って、三界破滅の一撃もまた、失われている。愛馬の合流は未だ達成し難く、また敵も多い。

 この徒党の敵は決して聖書だけでは無い。下手を打てばインド神軍も彼等に牙を向き得るだろう。こう言っては何だが、カルキ自体が今の神々には邪魔なのだ。

 

 ヴィシュヌ最後のアヴァターラ。世界を揺るがしかねない者。彼に邪悪・不要と認定されたものは、その存在が許されない。唯一の除外対象は、彼が信じる人間のみであり、他の神々や種族には適用されない。

 度を過ぎた潔癖は、時として多くの者から疎まれる。それは誰であっても、例外ではなかった。

 

 空虚に在りし神殿(ヴィマナ)の頂、最奥の座にて瞑想に入っていたカルキの元に、一条の閃光が空から降り注ぐ。それは紛れもなく神の武威。

 瞑想により前身ヴィシュヌや歴代アヴァターラの“経験”を“知識”いう形で獲得していたカルキは、咄嗟にその手にとある武具を顕現させ、その光を打ち崩す。

 

 それは身の丈程の円環武器。いわばチャクラム。

 太陽の如く紅蓮の色を宿したそれを、黒髪の少年は軽々と手繰った。

 

「来たか、思いの外遅かったな」

 

 獰猛に笑うカルキ。突然の襲撃に城の中が騒がしくなったが、今の彼の関心は、空の彼方にありし襲撃者にのみ向けられた。

 隕石のように此方へ来たる者。視認できるのは六の腕と六の武具。長い黒髪、と鍛え上げられた体躯。伝統的なサリーという衣装。間違いなく同郷のもの。

 

太陽攪拌・仙輪(スダルシャナ)、起動」

 

 その言葉と共にチャクラムが燃え上がる。少年はそれを静かに振り上げ───、次の瞬間、襲撃者を両断せんと勢いよく振り落とした。

 チャクラムより放たれた回転し、走る円形の斬撃。燃え上がるそれは、一度回る都度に速度と大きさを増していく。

 

 襲撃者は、その炎撃を六本の腕と武具を持って受け止める。それにより発した光は、夜空を一瞬にして照らした。ある者は夜が死に、朝が現れたと思った程だ。

 次に崩壊の音が響く。六の腕が裂け、六の武具が砕け散る。それを引き換えに、襲撃者は炎撃を消し飛ばす。

 そしてかの者はカルキの眼前へと降り立ち───その六の腕を地につけ平伏の意を見せた。

 

「マハーバリ、阿修羅の理想王か」

「突然の無礼、陳謝致します。ヴィシュヌ神の権現よ。力を測る事も任されていたので」

 

 マハーバリ。その名の意味は、偉大なるアスラの王。かつてインドラや、傲慢な神々を打ち倒した彼は、天と地と空の三界の王として、理想的な治世を行った。

 だがそれも神々の嘆願を受け入れたヴィシュヌ神第五のアヴァターラ、ヴァーマナにより終了する事になる。

 しかしヴァーマナはマハーバリの人徳に感服し、命を奪わず三界の支配圏のみを剥奪し、地下世界スタラを領地として与えた。

 

「…私はヴァーマナでは無いのだが…」

「しかし光明神の系譜には変わりありません」

「……そういうところだぞマハーバリ」

 

 困ったように顔を苦くする。

 カルキが手をかざすと、マハーバリの傷と武具が修復される。

 

「用件を聞こう。大方、シヴァ神かブラフマー神からの言伝だろう」

「ご名答です。シヴァ様から“頼むから維持に戻れ”と」

「“断る、止めたければ『破壊』の一つぐらい落としてこい”と伝えておいてくれ、ヴィシュヌ神(かつてのわたし)が維持すべきは秩序ある世界だ。だが今この世界はどうだ?

 人が人の秩序で生きる中、その領分を踏み越え抜け抜けと繁栄にたかる寄生虫の群れ。どの道悪魔の駒と神器は最早見過ごせん、根絶の意を示す。ヴィシュヌ(かつてのわたし)としても、カルキ(いまのわたし)としても、そしてこの地に根を下ろしたアヴァターラとしてもな」

 

 チャクラムを亜空間にしまいながら、カルキは言う。それは彼の譲れない一線であり、故郷とも袂を分かちかねない意思。

 

「では確かにその旨をお伝えしましょう───そして我が祖父が敬い、我が祖父に王位を与えたかつての貴方に誓って、私は嘆願さえあれば、貴方に与すると」

「…私はナラシンハではないし、ヴァーマナでもないが…お前にとっては、ヴィシュヌ神の権現であるならば、皆等しく同じように、膝を折るのだな」

「無論。我が身はスタラの王。安定のみを選び退廃を切り捨て、万物流転の秩序を欠いた三界統治の理想王は既に無く、今ここに在るのは、維持の神を信ずるただの阿修羅なればこそ───」

 

 複雑極まりない顔をするヴィシュヌ神のアヴァターラ。

 彼は何も言わず、平伏する王に膝を折った。

 

「私はな、決して“救世者”では無いのだ。救済者には…かの“悟りし者”の様には、かつての我が身に毘紐天の名を与えた者のようには、決して成れない。

 私は、殺す為の者だ。血を浴び、骸を積み上げ、黄金の定礎を作る虐殺者。何を行い、何を眺め、終端か黎明のいずれに至ってもそれは変わらないのさ」

 

 まるで贖罪かのように独白するカルキ。

 かつての理想王は、ただ跪きその慟哭を聞き届ける。

 

 

 ───◇───

 

 

 ある日気がついた時から、誰かを探していた。

 ある日気がついた時から、誰かを求めていた。

 だけどそれが誰の事なのか、思い出せない。

 

████(シータ)───」

 

 名を口にしようとすればノイズが走る。

 顔を思い出そうとすれば記憶が死滅する。

 これはきっと、僕の罪なのだと思う。

 僕はきっと、許されない事をした。

 …謝罪など、意味がないんだろう。

 

 民に怯え、(きみ)を大地に追いやってしまった。

 国を重んじ、人を軽んじてしまった。

 その様な己の謝罪など、意味がない。

 

 月下にて生まれ持った矢尻を握りしめる。

 痛みなど些細な事だ。

 流れゆく血など、どうでもいい。

 ただもう一度(きみ)に、会いたい。

 会って謝りたい。もう一度声を聞きたい。

 

 ああ、しかし、───僕は何故ここにいるのだろう?

 “君”は、“シータ”は、一体、どこにいるのだろう?

 

「───あれ?」

 

 役目の時は終えれど、不出来な顕現が呼び起こした神人同一化の崩壊。これは始まりかもしれないし、終わりかもしれない。

 しかしそれでも、このような破綻を許した時点で、最初から神の死は証明されていた。

 

 




〜現在のインド〜
シヴァ 「は?(ブチギレ)」
ブラフマー「ヒューッヒューッ…(過呼吸)」
帝釈天「選ばれし者だったのに!(某ジェダイボイス)」

・スダルシャナ
 ヴィシュヌ神の武器の一つ。ヴィシュヌだけの命令で飛び、ヴィシュヌ以外は誰にも止められない。全ての武器の中で最も強力だと考えられている。マハーバーラタでクリシュナによく使用された。


本来通りの顕現を果たしたカルキ(独自解釈)
時空破壊、時空再構成、悪性抹殺という権能持ちのドチート。白馬に乗って悪人を殺し回りヒャッハーするドキッ☆世紀末の王子様☆インド版のオーマジオウみたいなもん。ヴィシュヌの武具やら、歴代アヴァターラの武具やら使うし、全種アストラをぶっ放しまくる。ぶっ壊れた性能だが、それだけ昔の神々はクリタ・ユガに執心していた。

今回の顕現のカルキ(独自解釈だってば)
大幅弱体化。時空破壊、再構成、悪性抹殺の権能を持たない。愛馬の白馬は現在必死に合流を試みてる状態。使える武器がヴィシュヌ由来のものだけとなり、放てるアストラも不完全な状態になった。
 現在の実力はシヴァの手前クラス。一対一なら殆ど敵なしだが、一つの勢力を相手取るには適さない。なお修行しまくってさらに実力を高めようとしている模様。オイもう誰かこのアヴァターラ止めてとはシヴァの悲鳴。ライダーで言えばグランドジオウ。

▶︎アヴァターラの中でもパラシュラーマさん並みにやばいお方がログインしました。正直バララーマかクリシュナかパラシュラーマの3人の中でだいぶ迷った。
豆知識:ヴィシュヌ神の奥さんラクシュミーは、ヴィシュヌに寄り添う形で顕現する場合がある。

予告

カルキ「そうそうって何だ義弟」
レオナルド「知らなーい」
ある兄「草、うっそだろオタクら。まぁ俺も知らないんですけどね〜〜(某伝説の三忍ボイス)」
ある妹「さんごくなんとかの凄い人っすよ」
そうそう「ヒューッヒューッ…(過呼吸)」

次回:文化障壁
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。