最後のアヴァターラ   作:クシャトリヤ絶対許さねぇ!

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「ねぇ、インドラ。君確か聖槍所持者に指示してたよね」
「…おい、まさか」
「そのまさかだ、無鉄砲さは君由来かな畜生が」
「ッ───! クソッタレ、今から間に合う訳も無いだろうが…いや、行かないよかマシか」
「いや、動かない方が吉だ。それよりも僕はこの時間を利用して引き続きアシュヴァッターマンを引き摺り出す。
 マハーバリのおかげで時間と隙だけはあると分かったからね、まさに地獄に仏だよ」
「…下手をすればカルキの勢力も多少なりとも探れる、か。よし、念の為に俺の盗聴を仕込んでおく」




文化障壁

 (フリード・セルゼン)は多分、イカれてるのだと思う。

 

 出生が出生だ。シグルド機関で生まれたデザイナーベビー。ガラスの胎でその命は育まれ、子の時より殺しの技を教えられ、主とやらの教えを説かれ、あてがわれた役割のままに悪魔やその関係者を殺してきた。

 そこに憎悪は無いし、憤怒もない。あるとすれば悦楽と快楽。殺しに徹した時、俺はえも言われぬ陶酔を味わうことが出来た。俺はそれを味わう為に殺しを続けた。

 

 しかしながら、しかしながらだ。仕事(かいらく)に耽る俺に一石を投じた、下手をすれば中学生ぐらいのガキがいた。

 名前はカルキ。外見なぞに惑わされてはいけない。このクソガキ…今の上司と、俺は一度殺し合った。当時の俺からすれば当然の帰結だ。負ける事なんて一分も頭に思い浮かべなかった。

 

 “───梵天真言・万象穿孔(ブラフマーストラ)

 

 (いなな)く爆音。目を焼かんばかりの閃光。いとも容易く俺の腹を貫いたそれは確かな絶技で、しかしカルキの野郎曰く、完全なものより程遠いという。

 いや無限追尾かつ万物貫通の時点でもう完全で良いだろうが。何なの? これ以上この技を極めて何がしたいの? お兄ちゃんもうついていけないわよ。

 

 まぁ、完敗だ。死ぬだろうと思っていたし、別にそれを悲観したわけでもない。殺しているのだから、殺される。その程度に考えていたが、あの男は俺にこう言った。

 

 “君を雇いたい。死しか知らない呪われた者よ、死に見惚れた者よ、ああ───どうか私の手を取ってくれ、君は「死の征服者」足り得る素養がある”

 

 何のこっちゃ知らないが、やつの目は本気だった。本気で俺を欲しがる目だった。その時の俺は死にかけで頭が茹ってたんだろう。伸ばされた手を取り、奴の言う「死の征服者」とやらに足を踏み出した。

 だってほら、最高にワクワクするだろ? 死なんてのは、悪魔すらも逃れられない。人間の、天使サマのエゴの産物がそれに克己する。

 最初はガキに師事を仰ぐなんざ馬鹿らしいと思っていたが、それもすぐに消しとんだ侮りだ。

 

 “誰かに技を教えるのは、まぁ得意だ。

 私のアヴァターラの中で、まだ存命な聖仙(パラシュラーマ)がいてな、彼の記憶を追体験して身に付けた。

 …現界したのなら、彼に顔を合わせなければならないと分かってはいるが…馬鹿みたいに怖い。奴はヴィシュヌ神の化身の中でも一際苛烈で…”

 

 取り敢えずそのパラシュラーマとか言う奴には絶対会いたくねぇ。奴の事を語るカルキの顔は青ざめていた。それだけで会ったらやべーやつと分かる。

 …ともかく、カルキの師事を得て、アストラとか言うやつもいくつか使えるようになった俺は、いつの間にか奴の組んだ徒党でも、それなりの地位にいた。

 

 そうともなればまぁ、多少なりとも名前は売れるし、面倒なやつにも絡まれやすい。

 

「…あー、もう一回言ってくれ」

「ああ、もう一度言おう。英雄派、曹操が君達を勧誘にしに来たと」

 

 いや高々そうに言われても俺知らんよ英雄派とか。初めて聞いたんだけど、え、真面目に何それ。

 

「用件は伝えた。君達の首魁、カルキに会わせてくれないか? ああ、此方も手荒な真似は本意ではない。出来れば話をスムーズにしてくれ」

 

 ()()()()。そうそうねぇ…聞いた事ないな。取り敢えずカルキのところに通しちゃいますか。面倒そうなことは上司に丸投げする部下の鏡ってね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺は構えをとり、口の中で真言を紡ぐ。

 

 “アグニ(火天)よ、其処に我らを導き給え”

 

 これがアストラの装填式。神の力を投擲物の形で召喚した物の総称。熟練者は真言無しに威力を選べるらしいが、今の俺はまだまだそれには程遠い。

 

「OK. ならお仲間共々そこに並びな! 不肖、このフリード・セルゼン!貴様等十把一絡げを格安便でお届けしてやりますんでね! ウヒャハハハハ!」

「何を…」

 

 バレてねぇと思ってんなら失笑ものだ。やたらデカい男に、それに加えてメガネが光反射を起こしてるとも気づいてない男。恐らくこれが“そうそう”と名乗った野郎の率いる英雄派とやらの主軸の内の数人だろう。

 数は多い。しかし粒は柔い。数が少なく、粒が硬い俺達とは対照的だ。前途はある。見込みもそれなり。まぁ、あのガキの眼に適えば、多少の良い目は見られるんじゃねぇのかなぁ?

 

「───火天真言・一切人火(アグネヤストラ)ぁ!!」

 

 嘲と共に火神のアストラを放つ。選んだ真言により、今回のそれは導きの性質を持つ。

 地より吹き上がる火の渦。それは俺が殺した堕天使の残りカス(黒羽)を完全に灰にして、巻き起こり巨大な一条の矢となる。それに包まれた俺、英雄派の皆様は、矢と化した炎に遥かな青空───未だ神が席巻する空に運ばれる。

 

 矢は虚空を割いた。

 其処に広がるは星の大海の姿をとる結界領域。

 全く我がシショウサマは頭がおかしい男だ。

 この天の中央に座すのは絢爛空虚の城。

 我らが棲まう新しきヴィマナに他ならない。

 

「我々のホームにヨウコソ、英雄派諸君」

 

 

 ───◇───

 

 空虚に在りし神殿(ヴィマナ)。古代インドの建築法をベースに構築された塔の群れ。高さは統一されておらず、バラバラで、しかし唯一他と比べ群を抜いて高く建つ塔があった。

 フリードは英雄派の面々に顎で付いてくるようにと示し、ドカドカと足音を鳴らしつつ塔の内部へ入って行く。

 

 螺旋階段と、途中途中の踊り場、備え付けられた部屋の数は多い。こんなにあっても使わないのだろうというのが英雄派の印象だった。

 少しすると空から高い声が飛ぶ。皆一斉に天井を見上げると、高層部の踊り場から地を覗く人影があった。

 

「今度は何連れてきたんっすか?アニキは」

「おー、おー、ニートのリントちゃんじゃありませんの! ちょうど良いや、カルキの旦那とレオナルドきゅん呼んで来て。どうせ暇だろ、愚妹」

 

 白と黒が入り交じった髪の毛をアップにまとめた女、リント。その口振りからするに、白髪の男フリードとリントは兄妹らしい。

 

「うっさいわクソアニキ! ウチは実働向きじゃないんですー、後方支援型なんですー」

「なら邪神ヤエガキと英傑デュリオとコンゴトモヨロシクしてくんない?」

「向き不向きをご存じない!?」

 

 さぁっと顔色を蒼くするリント。その様を見てケラケラと笑うフリード、マイペースに過ぎる彼等に、曹操は苛立ちが募ったのだろう

 

「…おい、そろそろ…」

 

 ややトゲのある口振りで案内を急かそうとした曹操。

 そんな彼の喉を、突如として塔の中を満たす濃密な威圧感が塞ぐ。まるで一気に水中の中に落とされた体感。彼に付き従う者もそれを実感したのか、一斉に肺を抑えた。

 

「フリード、お前今度は何を拾った?」

 

 天井から浮遊して見下ろす人影。その体躯の大きさは14、5歳ほどのものだろう。髪の色は黒一色。瞳の色は翠色。服は古代インドを彷彿とさせるもの。

 得意な外見の少年だが、英雄派への圧力は彼から放たれている。警戒の態度なのだろう。その双眸は猛禽類のように鋭かった。

 

「拾ったんじゃなく、こいつらから直談判願いを受けたんだよなぁ…、まぁいいや、用件は何なのさ、そーそー君」

 

 話を振られた韓服の男は、圧力に抗うように空の少年を睨む。

 

「───俺は、うん、侮っていたんだろう」

 

 血を吐くように男は言う。

 

「名乗らせてくれ、俺は曹操。英雄派の頭目をやらせてもらっている。此度の邂逅は、君との交渉の為に嘆願した」

 

 英雄派。それは人間達のみで構成された組織。神器を宿しただけの人間が異形の存在たちにどこまで届くのかを試すため、神器を宿していたが故に不遇な扱いを受けた復讐のため、といった目的を持っていた。

 そう語る曹操に、カルキは彼を見定めるように細めた目を向ける。フリードはぼそりと“デュリオいなくて良かった”と呟いていた。

 

「俺たちの勢力はまだまだ心許ない。だからこそ君達にも共に来てもらいたい。君達と俺達となら、きっと高みを目指せる」

「すまないが交渉決裂だ。そもそもの目的に相違がある。私達の目的の最低限には、悪魔の駒と神器の抹消にある。この時点で相互扶助は不可能だろう」

 

 即決だった。取りつく島もないと言った感じだ。

 

「そもそも私は、自分の真名も語れない者に背を許す事が出来ない。というか話の腰を折るようですまないが…、お前達は祖や前身の名を名乗ってるようだが…曹操ってどこの英雄? 義弟、フリード、リント分かる?」

「えっ」

 

 次の瞬間には頭を抱えてる少年がいた。顔には本気で申し訳ないと思ってる気持ちがありありと浮かんでいる。

 彼の言う義弟だろう。顔立ちや身体に未だ多くの幼さの残る少年が、レオナルドが、天井近くの部屋から出てくる。その手には“餓鬼でも分かるマハーバーラタ”という本があった。

 

「知らなーい、日本のひとじゃないの? なまえそれっぽいし」

「は?」

 

 困惑する曹操を他所に話が進む。

 

「アッハハハハ! 嘘だろさっきまであんなキメ顔だったのに頭ん中疑問符の山だったのかよ、なんてこった最高かよ!

 まぁ俺も曹操が何なのか知らないんですけどね〜〜〜〜」

「ちょっと」

「まったくあんたらダメダメすっね、曹操つったら三国なんとかの巨大兵器に呂布に勇敢に立ち向かったやつでしょう!」

「馬鹿を露呈すんな愚妹。あとそのゲーム面白そうだから後で貸して」

「正気なのか君達…?」

 

 文化圏によっては、著名な英雄の名すら無名と果てる。生憎と、ここにいる者達はアジア圏の英雄に詳しい者はいないようだった。

 

「ふむ…どうやら私達の勉強不足らしい。すまないがまた出直してくれないか? その時にはちゃんと履修しておくから、また話そう」

「いやいやいやいやちょっと待ってくれ!! 幾ら何でもこれ何かこう、あれだろう!? 全然納得出来ないんだが!?」

「ふふっ」

「笑うなよゲオルグ…! マイナーさで言ったら君もなかなかだからな…?」

 

 怒り顔で仲間の一人につかみかかる曹操。

 それを見計らってカルキは合掌し、声を紡ぐ。

 

「───終わらぬ天蓋。無窮の奈落。神は座に離れ、阿修羅は遠く、人は自由に放たれた。秩序に在るべき形無く、故に終わらぬ発展は連鎖する。

 しからば離れよ。世に駆けよ人よ、この塔に汝が在るべき居場所は無し」

 

 それは追儺の声。合わされた手を起点に発された光波に触れた英雄派は、幾つもの光となってこの結界領域から追放された。

 

「…ああ、前途はある。だからこそ“愉”しそうだ」

 

 それを見て、怪しい笑みを浮かべる白髪の男。

 彼は光の行く先を眺めたまま、恍惚に酔い痴れる。

 

「…フリード」

「ああ、悪いねカルキの旦那。でも堪んねえのさ、ああいう新鮮なの」

 

 




死の征服者(カラン)
本場インドのマハーバーラタ二次創作。原作においてヴィラン的役割の、しかし施しの英雄としてインドでも人気のカラン/カルナを主人公とし、彼はこれにおいて「低カーストから見た英雄」としての視点で語られた。
 インドラによる策により、鎧を自ら捨てた際は「自らの死を招く施しを神に与える」=「死の征服者」つまり、死に打ち勝つ者と解釈されている。

パラシュラーマ
ヴィシュヌ神第六のアヴァターラ。その名は「斧を持つラーマ」を意味し、若い頃、一人でアスラを倒した功績を認められ、シヴァから(パラシュ)を授かったのが由来である。尚第七のアヴァターラであるラーマとは別人。
 とある時代においては戦士階級クシャトリヤを文字通り皆殺しにした。マハーバーラタではビーシュマやドローナやカルナの師として、彼らに武器と自身の武技を与えた。
 インド神話終末期カリ・ユガを生きたまま迎えられる「チランジーヴィー」と呼ばれる不滅の者の一人。パラシュラーマはヴィシュヌ第10の化身カルキにも会い、彼に奥義を伝授するという説も存在する。

フリード・セルゼン
悪魔祓いとしての仕事中、とある悪魔契約者と相対して死にかけていた所をカルキに拾われ、完治後に殺し合った。レオナルドの調査で実妹の存在がわかり、“なんとなく”シグルド機関を一掃している為、教会からはお尋ね者扱い。
インド神話を読み始めて語彙が増え出したので後々某カナンの発禁男みたいになりそう。推し神はカーマ。

リント・セルゼン
実兄に拾われた試験管ベビー。現在無役職。ちなみに仕事が割り当てられてない事情にはとある白髪男が絡んでいる…らしい。どうも面倒な情を受けているようだ。兄と同じくインド神話を読み始めた。推し神はスーリヤ。


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