逃げ足だけが取り柄なんだが、いつの間にか胡蝶様に捕まってた。 作:サヴァン
逃げ足は物理のみに在らず。
ちょっと読みにくかったり、見返して描写くそだなってなったりしたので少し書き直しです。
書き直しとか多くなりがちなので、煩わしくなるかもですがよろしくお願いします。
蝶屋敷で訓練を受けて2週間が経った頃から、同期の間でいじられている。
要は「あんな美人姉妹と暮らしてて何もないのか」ということらしい。
馬鹿野郎この野郎!!!人は見かけで判断しちゃいけません!!
…まぁ、確かに?
世間では美人と謳われ、茶道、華道、料理をそつなくこなし、ふと気づくと屋敷の中で聴こえる筝のそりゃ上手いことと言ったら他に類を見ないかもしれない。
ちょ、痛いから蹴るなよ!
あと苛立ちすぎて刀鳴りすぎてるから、落ち着け。
…でもな、あの人は元とは言っても最上級の柱様なんだぜ?妹さんは鬼に効く毒の研究をしてる才女で在らせられる。
普通に考えて高嶺の花過ぎるだろ?
手なんか出したら殺されるじゃん。
あと普通に逆立ちしても刀で適う気がしないんだよな。胡蝶様は柱まで登り詰めた技術があるし、妹さんは力は弱いが、突きに限っては他の追随を許さない。
そんな2人に稽古でもボコボコにされてるのに他のことに気なんて回る訳ないじゃん。…決して怖気付いてるとかそんなんじゃないから!
やめろ、
くそ、てめぇらそこに直れ!叩き斬ってやる!
────
蝶屋敷に訪れた同期と鍛錬(笑)をする。
手合わせしてる時に、あまり下世話な話はしないでほしいんだが。
同期は気づいているのだろうか?
ここは蝶屋敷であの障子の奥には胡蝶様が居るんだぜ?
そんな話をしていたら、今度の稽古からどんな反応をされるか分からないんだが…。
蝶屋敷に住めて羨ましいとか、俺もここに住みたい!とか、あの鍛錬を受けてから言ってくれないかな。
胡蝶様は優しいけど、妹さんは鬼だぞ?
まじで遠慮なく叩くし、突いてくるし、怪我の八割は妹さんとの手合わせで出来てる。
だからさ、それ以上、胡蝶様達の話をするのはやめよう?下手なこと言って首が飛ぶのは俺だからさ…??
あ、どこかでバキって何かが折れる音を聞いちゃった!もしかしなくても妹さんが原因ですね、そうですね。
俺がこの後、絞られることが確定しました。
くっそ、許さん!
────
「隆景君、もうちょっと踏み込みに緩急をつけようね。いつも同じ速さじゃ、相手も慣れちゃうから、早い時と遅い時の使い分けで翻弄するの」
そう言って胡蝶様は俺の木刀を受け止める。
「確かに速い動きは何に対しても有効なんだけどね。だからこそ、遅い動きは相手の油断を誘うの。遅いってことは力の未熟さを表すから」
少し弱く踏み込み、相手の間合いに入る。
胡蝶様は木刀を振ってきたから、木刀の下を通るように右に避ける。その後、強く踏み込み胡蝶様の視界の外である背後に回り込む。
首に木刀を当てる。
「こんな感じですかね?」
「そうそう!想像してたよりいい感じに視界から居なくなって焦っちゃった。優秀な弟子で嬉しいわ」
そう言ってこちらに振り向き、頭を撫でられる。
はい、ご褒美頂きました。これで今日も生きていけるぜ!
え?何から生きるって?そりゃこちらを親の仇を見るような目で見てるあの子からですよね。
「あ、しのぶも隆景君と鍛錬したいんだって。相手してあげてくれるかな?」
oh…師匠からのお願いならば行かねばならぬのが弟子の運命。
「では妹さん、よろしくお願いします」
頭を下げ、対面する。
妹さんこと、胡蝶しのぶちゃんは鬼の頸が斬ることができない剣士だ。
しかし、侮ることなかれ。
彼女の本領はその軽さから来る速さだ。
一般隊士で彼女の一突きの速さに適うものはなかなか居ない。
「あらあら、足元がお留守ですよ。その目は飾りですか?ならその目は要らないですよね、抉りとってあげましょうか」
こっわ。
いつの間にか間合いに入っていた妹さんは木刀で足を叩く。鬼の頸が硬すぎるだけで、人の足程度なら余裕でチョンパできるんだからやめて!痛いよ!
「隙だらけですね。姉さんは甘いですけど、私はそんな調子なら殺しますよ?」
ひぇ…。ここに真の鬼がおるぞ…。
その後みっちり鍛錬しますた。妹さんの殺意で、また体の至る所にアザが出来ている…。
オデノカラダハボドボドダ!
────
日中の鍛錬を終え、夕飯を頂く。
今日は胡蝶様が作られたらしい。美味すぎて…馬になっちゃうわね。
くだらない事を考えてるのがバレたのか、妹さんにしばかれました。すみません。
この後は、俺と妹さんは各自見回りで外に出なければならない。
夜は鬼の領域だから仕方ないね。
でもなぁ、最近見回りしてると変なやつがいるんだよなぁ。別に鬼でもないしただの人なんだけど。
やっぱり今回も俺が蝶屋敷を出て少しした所で、後ろから気配を感じる。
今回も鬼でもないし、襲うような気配を感じないので放置しとく。
通常通り見回りをしつつ、街を歩く。
まだ夜も更けきってないので、夜店が賑やかだ。
行きつけの団子屋さんに訪れたり、お世話になってる胡蝶様達に簪でも買うか、と小物店に足を運ぶ。
あ、でも髪飾りあるし違うものの方がいいのか…?やっぱり、つげの櫛とか手鏡の方にしよう。
ちなみに後ろにいるやつはまだついてきている。あと、何か書いてる音も聞こえる。
え、なんで?
気味が悪くなったので声をかける。
「先程から何を書かれているんですか?」
男に話しかける。
男は焦ったように万世極楽教の信者であることを告げる。
教祖様が俺を知りたいらしく、お願いされたそうだ。
なんで万世極楽教の教祖様なんかが俺のことを知りたいのか全く分からないが、特に害を与えてきそうにもないので、提案する。
「んじゃ、そこの団子屋に入りましょう。俺自身、知られて困ることもないので簡単な質問なら受け付けますよ」
良いんですか、と笑顔をうかべる男。
-好きな食べ物は?
鰤の照り焼き
-では、好きな動物は?
俺は柴犬が好き
-好きな甘味は?
大福餅だな
-好きな女性の特徴は?
黒髪長髪。個人的には笑顔が多い人が好きだな。
ほうほう、と頷く男。
取り敢えずはこのくらいでいいとの事で話を終える。
「何か聞きたいことがあればこの辺りを散歩しているので、また来てください」
男はお礼を言って立ち去る。
見ず知らずの人に話しかけられて質問されるなんて、珍しいこともあるもんだなぁ。
────
「へぇ、忍者くんは黒髪長髪の女の子が好きなんだね!俺は優しくて、忍者くんの友達だから、忍者くんに好きな女の子を食べさせてあげないとね!」
そう言って、質問と回答を書いた紙を見ながら笑う。
「早く鬼になろうね」
────
今日は特に鬼に出会うことも無く見回りが終わった。
夜店で買ったつげの櫛と手鏡を持って蝶屋敷に帰る。
「胡蝶様、ただいま戻りました」
座敷にいると思って声をかけると、違う所から声が返ってきた。
どうやら台所で朝食を温めてくれていたみたいだ。
妹さんは俺より早く帰ってきて既に寝てしまったらしい。
朝食を頂いていると、胡蝶様は俺の横にある包みが気になったらしく、チラチラと見ている。
「それはどうしたの?」
「あぁ、見回り中に夜店で良いものを見つけたので」
どうぞ、とつげの櫛を渡す。
少し驚いた顔をしているが喜んでいるようだ。
妹さんにも、ともうひとつの包みを渡してもらうように言う。
「素敵な贈り物をありがとう」
胡蝶様はつげの櫛を胸に抱え、お礼を言ってきた。
はい、心が撃ち抜かれました。
んんんんん、それは反則でしょ。素敵!つげの櫛より俺を抱いて!
笑顔でお礼を言う胡蝶様、美しすぎますわ…
────
食事を終えた後、沸かしてあったお風呂を頂いて、仮眠をする。
ご飯も用意してもらって、任務から帰ればお疲れ様と労わられる。
もしかして蝶屋敷は極楽だった…?
微睡む中、そう考えながらあながち間違えでもないなと思った。
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何か威圧感を感じて目を覚ます。
起きたら般若の顔をした妹さんがいらっしゃいました。
エェ!なんでェ!
極楽から地獄じゃん!まさに表裏一体とはこれの事!すみません、嘘です。思考を読まないで。え、口から出てました?
あはは…、ごめんなさい!(土下座)
「…今から聞くことに正直に答えないと首を斬ります」
誰か助けてェ!
妹さんはオチ要員