逃げ足だけが取り柄なんだが、いつの間にか胡蝶様に捕まってた。 作:サヴァン
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しのぶとカナエさんと共に街へ出かけた数日後、鴉から見回り以外で、久しぶりに任務を言い渡された。
「タカカゲェ!胡蝶シノブトトモニ、ココカラ南西ノ方向ニアル山マデイケ!複数人隊士ガ負傷シテ、未討伐ノママ帰ッテキテイル。十二鬼月ノ可能性アリ!!」
ん???十二鬼月????
ハッハッハッ…ナンデェ!?
もう柱が行けよ…十二鬼月は柱が討伐したらええやん…。
「柱ハ今夜、ソレゾレガ別ノ任務二着イテイル!距離ガ近イノハ、オ前ラダ!」
心を読むなよ。…皆、心読みガチじゃない??
「それは隆景さんがわかりやすいんですよ」
うっせ、隠し事ができない素直なやつなんだよ、俺は。
立ち上がり、日輪刀を腰に差す。
また、廃刀令で煩い警官に絡まれないように、それを覆い隠すような紅い羽織りを着る。
「よし、しのぶ行くか」
俺と同じような風体をしたしのぶに声をかける。もう用意は済んでいたらしい。
「それじゃあ、気をつけていってきてね」
見送りに来てくれたカナエさんは、不安で瞳が揺れている。
そりゃそうだ、自分の体を今のようなものにしたのも上弦ノ弐、十二鬼月の連中だ。
今回もその可能性が高いと言われており、そんな中に妹を送り込むのだ。
不安しかないだろう。
「任せてください。しのぶには傷1つつけさせないで帰しますよ」
羽織をまくり、力こぶを見せるようなポーズをとる。…隊服で見えないけど。
そこ?ちょっと呆れた目でこちらを見ないで頂けますか??
しのぶの目線に少しばかり居心地が悪くなったので視線から逃げるように玄関を出た。
しのぶはカナエさんと三言程交わして、俺の後を追うように出てきた。
さぁ、初めての共同任務、頑張りますか!
────
鴉に場所を確認したところ、徒歩で凡そ30分程、人里から離れた山中との事だ。
いや、現存している人里から離れたと言うだけで、これから行く山にはかつて里がいくつかあった。
…つまるところは鬼が全部を食ったということだろう。
山に着くと、人はおろか動物の気配さえない。
これは別に鬼がいることから、そこまで想定していなかった訳では無い。
しかし、いやな匂いが立ちこめている。
鼻が曲がりそうだ。
「ほい、そこら辺根っことかあるから転ぶなよ」
しのぶの前に立ち、草木を掻き分けて進む。
まだ、山の中に入って間もないが、少しずつ血の匂いが濃くなってきた。
そろそろ鬼と遭遇するかもしれない。
「隆景さん、これ…」
しのぶが前の大木に何かを見つける。
人の死体だ。血の匂いはこれが原因だったか。
鬼は人の腐乱臭で匂いを消しているのかもしれない。
「…百舌鳥の早贄ってことか。今回の鬼は異形型かもしれん。しかも空を飛ぶ分厄介だ」
刀に手をかける。素早く枝を切り落とし、骸を下ろす。
「しのぶは周りの見張りを頼む。これは予想だが、やつは鳥型であることの可能性が高い。この山には鬼と俺たち以外の動物はいないから、何か生き物を発見した時点で俺に伝えろ」
「分かりました」
死体を埋める。恐らく、ここにあった里の1人だろう。この山にある死体は、殆どが同じような状態であると考えられる。
「隆景さん!上です!」
バサッ、と鳥の羽が広げられる音がする。
上を見上げると、予想していた通り、百舌鳥に近い見た目の怪鳥がいた。
今回の討伐対象である鬼だろう。瞳にある文字が十二鬼月の一角であるとわかる。
「お前、下弦ノ参か。」
「アァ、鬼狩リカ。ドウセ、マタ逃ゲル、ダケ」
しのぶに視線を送り、隠れるように促す。
「一つ質問していいか?お前ほどの鬼なら、今までここに来た隊士も傷を負わせて返すだけじゃなく、殺すこと、ましてや食べることも出来たはずだ。何故それをしない?」
「簡単ナ、理由ダ。俺ハ子供シカ食ワナイ。柔ラカク、歯ガ無クテモ食ベラレル」
「理由が爺じゃねぇか!」
思わずつっこんでしまった。
しかし、子供しか食べていないのなら、周りのこの惨状にも頷ける。
「とりあえず、お前の頸狩ってやるよ」
木に止まる怪鳥と同じように自分も木の上に上がる。
────壱ノ型・飛鳥
怪鳥に向かって放った斬撃は上に飛ばれて避けられる。
2次元的な動きが多い剣士と、高さの有利性を持ち、3次元的な動きを可能にする鬼。
…こりゃ、普通の隊士には荷が重いぜ。
仕方ない。────空中歩行
木から空に跳躍し、怪鳥に迫る。
鬼はその進路から予想し、進路外に避けて静観する。
どうせこんなものだ、と思っていた瞬間、急に進路を変えて自分の方に向かってきた剣士に驚き、刀を避けられない。
────弐ノ型・千鳥
無数の突きを身体に喰らい、鬼はその大きな翼を折る。
地に落ちた鬼は高速再生で瞬時に再生するが、予想外の動きをした目の前の剣士に恐怖する。
しかし、そこは下弦ノ鬼。
直ぐに空の上にあがり、反撃として超高速でこちらに突っ込んできた。
その体重を乗せた一突きは思わず抜いた刀に罅を入れてしまった。
さすがに馬鹿力かよ…。
さすがにこのまま逃げても後ろから刺されるだけか。
刀は…くそ、あと触れて一振。
どうするか。
鬼は二打撃目の準備をする。
その高さは先程よりも高く、日輪刀を壊すことも覚悟しなければならない。
出来れば最良、無理ならその時はその時だ。
鬼が突っ込んで来る。
こちらに突っ込んでくるその瞬間、その嘴の僅かな隙間に刀を差し込む。
特攻は止められたが、そのまま頸を斬ることは出来なかった。
勝ち誇った目をして、俺の日輪刀を噛み砕く。
その柄だけになった刀を見て笑う。
「ドウダ、オ前デモ防ゲナカッ…!?」
「────いつから、敵が独りだと思っていましたか?」
────蝶ノ舞・戯
後ろからしのぶが鬼を一突きする。
「…兄さんを傷つける人は、許しませんから」
鬼が汚い高音で呻きながら、事切れる。
えっ、こわ、毒ってこんな風になるの…??
しのぶがこちらに向かって微笑んでくる。
「隆景さん、お怪我は無いですか?」
「…はぁ、助かったよ。しかし、いい感じに持ってかれたな。俺も途中まで気配さえ気取れなかったよ」
笑いながら褒めると、ぷくーっと、頬を膨らませる。
「私が褒めて欲しいのはそこでは無いです!」
えぇ、じゃあ、何を褒めろって…、そういう事ね。
「しのぶ、お前いつの間に下弦ノ鬼に通用する毒を作ったんだよ!めっちゃびっくりした!」
「ふふふ〜、それは内緒です。でも凄いでしょ?」
胸を張りながら、しのぶが刀をカチャカチャと出し入れする。
テンション上がりすぎて全然落ち着いてない。
「とりあえず、これでしのぶは十二鬼月を倒したし、鬼の討伐数は50体は行ってたよな?すごいなー!もう柱になるのかー!」
頭をグリグリと撫で回す。
しのぶがなんか言ってたけど、別に聞こえんかったし特に重要なことでもないだろ。
ずっと撫で回してたら、怒られた。
髪が乱れるってさ…。
鴉に伝令と隠の派遣を頼み、その場を後にする。
夜も明けてきたし、あとは家に帰るだけだ。
家に帰るまでが任務ってな!
────
「「カナエ(姉)さん、ただいま!!」」
2人して笑顔で蝶屋敷に戻って来た。
一気に蝶屋敷が騒がしくなる。
「ねぇ!聞いて、私、下弦ノ参を倒せたの!十二鬼月に効く毒が作れたのよ!」
興奮冷めやらぬとはこういうことなのだろう。
しかし、下弦とはいえ十二鬼月を倒せたのはとてもめでたいことだ。
「すごいわ、しのぶ!さすが私の妹ね」
しのぶをぎゅっと抱きしめる。
こんな小さい体で鬼を沢山切って、毒で殺して、涙が溢れそうだった。
それにしても…隆景君は刀をどうしたのかしら…
「いやぁ、下弦ノ鬼との戦いで折られちゃって…」
HAHAHA…と乾いた笑いをため息と一緒に吐き出している。確かに新しい刀を打ってもらうには里に行かなければならない。
その…頑張ってね!一緒に行ってあげるから!
────
鴉に伝令を送ったあと、御館様から連絡が入った。
『胡蝶しのぶを蟲柱に』
との事だ。もともとそうなるだろうと考えていたため、驚きは少なかったが、それでも喜びはひとしおだった。
「今日は宴だー!!しのぶーー!好きなもん買ってやる!好きなもん食べさせてやる!なんでも俺に言え!!」
その日、貯め続けていた貯金が半分消えた。
いいんだ…宴だから。可愛いしのぶのためだもの…。
────
翌日、御館様の屋敷に招かれて、しのぶは蟲柱になった。
…俺はカナエさんと、刀鍛冶の里に行くことになった。
絶対、あのおっさんに殺される気しかしないんだけど、どうしたらいいかなぁ。
藁にもすがる思いでカナエさんに尋ねる。
カナエさん曰く「諦めも肝心」らしい。
誰か助けてェ!
蟲柱になっちゃった〜!
次こそちゃんとカナエさんだから!!ちゃんと書くから!!!
しかし戦闘描写苦手だなぁ…。
アドバイスめっちゃ欲しい…。