BD発売でギアス熱が再燃してきました。
戦士の国、ジルクスタンの祭事を執り行う神殿。その最奥にある広間で政治と神事を一手に司るシャムナは、壁二面に映る各国の情報を見ながら頭を悩ませていた。
現在、神聖ブリタニア帝国を中心として世界中では絶えず戦火が上がっている。それは戦士の国と呼ばれるジルクスタンにとって、最大の輸出品である軍事力を各国に売りつける絶好の機会であり、またとない外交のチャンスだった。
ブリタニア帝国は既に植民地を14にも増やしており、その勢いは衰える事を知らない。いままでジルクスタンの傭兵事業は、主に中華とインド軍区の争いに軍事力を派遣したり、地方の小競り合いに介入するだけだったため実入りが少なかった。
しかしいまやジルクスタンの軍事力を当てにする国は多い。
それというのも、現在エリア11である旧日本を落とす時にブリタニアが使用した新兵器、ナイトメア・フレーム。その威力を前に一月も持たず日本が敗戦した事から、各国は人型自在戦闘装甲機ナイトメア・フレームをこぞって開発し始めた。
しかし従来の兵器とはまるで使い勝手が異なるナイトメア・フレームを扱う上で、いままでのような陣形や戦術は過去の遺物と成り下がった。人型であるため同じように使える戦術などもあるにはあるが、そもそもの大きさや身のこなしが大きく異なるナイトメアでは、数少ないそれらもそのまま使用できるものではなく、軍隊の運用は抜本的な改善を余儀なくされたからだ。
そんな中でいち早くナイトメアの扱いに習熟し、機動性を生かした戦術をもってブリタニアに対抗したのは、ジルクスタンから派遣された傭兵チームだった。彼らは持ち前の戦闘技術をナイトメアに活かし、ブリタニアに蹂躙されるばかりだった各国の戦場で獅子奮迅の活躍を見せ、破竹の勢いを持ったブリタニアに土をつける事に成功する。それは局地戦での小さい勝利ばかりだったが、日本の『厳島の軌跡』と呼ばれる勝利とは異なり一戦限りのものに留まらなかったため、ジルクスタンの名は耳聡いものには知られる事となった。
そうした結果、功績を耳にした各国の要人からは援軍要請が多く寄せられており、シャムナはいまその要請に応じて軍事力を輸出する国の選別と傭兵チームの検討を行っていた。
情勢、戦力差、士気、資源、物資、利益、危険、国家体制、文化、地理、移動経路、気候、判断に必要とされる要素は山のようにあるが、それら全てを総合的に踏まえて決断しなければいけない。気の遠くなる作業だからと気の抜いた判断などできようはずもない。自身の下した命令一つでジルクスタンの国民が死地へと身を投げ出すのだから。
全ての情報を頭に叩き込み熟考を重ね、ようやくある程度候補が絞られてきたところで、聞き慣れた駆動音が入り口の方から響いてくる。
疲れた頭を振って視線を上げると、予想通り自らの弟であるシャリオがフォーグナーを伴って入室してきた。
「ただいま姉さん。新型ナイトメアの慣熟テスト、終わったよ」
「お帰りなさい。シャリオ。怪我はない? フォーグナーは優秀だけど加減を知らないから」
疲れなど微塵も感じさせない声音でシャムナは訊ねる。
その甲斐あって愛すべき弟は朗らかに頷いた。
「平気だよ。それに手加減をされたんじゃ意味がないよ。僕はフォーグナーも、ブリタニアのナイトオブラウンズさえも超える最強になるんだからね」
子供のように語る未来の話は、シャリオにとっては決して夢物語や大言壮語の類ではなかった。
ジルクスタンの王であるシャリオは、国民のために本気でそれを望み、血の滲むような努力を重ね、誰もその言葉をバカにできないほどの実力を身につけている。それは偏に、自分の身体のために国民がどれだけ傷付き、苦労しているかを痛いほどに理解しているからだ。
「頼もしい事ですな。今日の訓練でも感じましたが、シャリオ様は機体の操作にさえ慣れてしまえば、すぐに私など追い抜かれる事でしょう」
フォーグナーは忠臣だが、決しておべっかは口にしない実直な軍人だ。彼がそう言うのなら、本当にそうなのだろうとシャムナは頷く。
「ゲド・バッカはどうだったの? あなたの期待に添えるだけの機体だったかしら?」
「もちろんだよ。こんな目でも、まるで夢の中で走り回っているみたいに自由に動かせた。これならもう、実力の劣る相手に不覚を取るなんて無様を晒す心配はないよ。だから安心して、姉さん。僕は近いうちに必ず、最強の戦士になるからね」
ジルクスタンで新たに開発された量産型試作機ナイトメア・フレーム――『ゲド・バッカ』。
下半身は人型ではなく、脚部が四つ分かれており、そこにはそれぞれ機銃が取り付けられている。上半身は人型だが、両肩の部分にはキャノン砲が備えつけられた遠距離戦に特化したナイトメア・フレームである。
最大の特徴は、従来とは違い視覚情報を専用のゴーグルを装着する事によってARで認識する新機能だ。これにより戦闘中狭くなりがちな視野を広く保つ事ができ、ナイトメアに地形情報をフィードバックする事で、より効率的な動きを実現できる。
しかしARにおける反映にゼロコンマ5秒のラグが生じてしまうため近距離戦には向かず、こうして移動砲台としての遠距離戦特化のナイトメアとなった。今後はARにおける誤差を限りなくゼロにした近距離戦特化のナイトメア・フレームの開発も予定されている。
そしてそのコンセプトの中心には、実利以上に王であるシャリオの存在が大きく関与していた。
シャリオは身体が弱いため、自分の足で立つ事すらままならず、視力も極端に低い。
身体の弱さは持久力という点で大きなマイナス要素であり、シャリオは短期決戦に特化する事でその短所を補おうとしているが、視力の方は努力や戦い方でどうなるものではなかった。相手を視認するために極度の集中力を必要とし、良く見ようと集中すれば視野が狭まり不意を突かれる。戦闘センスは輝くものを持っているシャリオだが、その身体的欠点だけは実力や努力でどうこうできる問題ではない。
そこで今回開発されたのが視覚情報をARで認識する従来とは全く違うナイトメアだった。この新型ナイトメア・フレーム『ゲド・バッカ』を使えば実際の視力の悪さは関係なく立ち回る事が可能となる。
ゲド・バッカはまさしく、王であるシャリオのために開発されたナイトメア・フレームなのだ。
「フォーグナーにはデータを取り終わるまで訓練に付き合ってもらうから、そのつもりでいてくれ」
「ナム・ジャラ・ラタック。王のお望みのままに」
片目を隠して臣下の礼を取るフォーグナー。
それ満足したシャリオが鷹揚に頷くのを見て、逆にシャムナの顔はわずかに曇った。
「シャリオ。訓練はいいけれど、決して無理をしないようにね。あなたはこの国の王なのだから。いえ、たとえ王でないとしても、あなたに何かがあったら私は……」
「大丈夫だよ、姉さん。何も心配いらない。僕が最強になって、姉さんもこの国も全て守って見せるから」
「シャリオ……」
お互いを労わり見つめ合う二人。
その誰も立ち入れない麗しい光景に、水を差す声が入り口から響き渡る。
「美しい姉弟愛だね」
「何者だ!」
「僕は思うんだ。兄弟ってこの世界で最も美しい関係なんじゃないかって」
誰何の声を無視して持論を語りながら入室してきたのは二人の子供だった。
場違いな十歳くらいの少年が二人。一人は白い長髪を地面すれすれまで伸ばして不敵に笑う白人の少年。彼が先程持論を述べた子供だろう。
もう一人は大人しそうな少年だった。亜麻色のふわふわした髪に紫色の瞳。感情の読めない無表情で視線はこちらを映していながら何も見ていないようにも見える。
「どうやってここまで入ってきた。警備は厳重だったはずだ」
神事を行う神殿のため電子的な警備は厳重ではないが、その分だけ人力の警備は厳しい。その最奥であるこの場まで誰にも気付かれずに侵入するなど、どんなに隠密に長けた人間でも不可能のはずだった。
「やあ、初めまして。僕の名前はV.V.。ギアス嚮団の嚮主って言えば伝わるかな?」
「嚮主様!?」
子供の名乗りにシャムナは目を見開き驚愕を露わにした。
ギアス嚮団といえば代々この国に語り継がれてきた組織の名称だ。決して表立って名前が出た事はないが、建国から裏で国を支えてきたと言われている。
かくいうこの神殿も、ギアス嚮団のために建てられたと言い伝えがあり、神事に深く関わっていた事には間違いない。
「今日はね、ファルラフである君たちにお願いがあって来たんだ」
ファルラフ。それはこの国の別名だった。いや、正確にはこの国の国教の宗教団体の名前だ。
「その前に先程の問いに答えていただきましょうか? どうやってこの場へ? 万全の警備を敷いていたはずです」
嚮主が相手と分かり礼を失さぬ態度でシャムナはそう訊ねるが、警戒は怠らない。
いかに建国以来この国を支え続けた組織の長といえど、それはもう大昔の話。
三百年以上も関わりを証明する記述すらない相手が、突然厳重な警備を潜り抜けてやってきたのだ。疑わない方がどうかしている。
「あれ? 分からないの? ファルラフはギアス嚮団の分派って聞いてたんだけど」
「やはり、ギアス……」
神事を司るシャムナはジルクスタンで最もギアス嚮団に詳しい。
そしてギアス嚮団にはおよそ人間と思えない存在が二種類いる事をシャムナは知っていた。
その一つがギアスユーザー。王の力とも呼ばれる、超常の力『ギアス』を宿した人間。彼らは人でありながら人とは思えない能力を有するという。
シャムナはそれを頭から信じていたわけではないが、だからといって全面的に否定するには、あまりにそれはジルクスタンの神事と密接に絡み過ぎていた。
「ふぅん。ギアスの事はちゃんと知ってるみたいだね。分派の癖にそんな事も知らなかったらどうしようかと思ったよ」
どんなギアスかは口にせず、存在だけを仄めかすV.V.。
必要以上の情報を与えようとしないV.V.の口ぶりに、これは外交だとシャムナはわずかに目を眇める。
「それで、頼みというのはなんなのでしょう? この国にいくつかある『アラムの門』に関する事ですか?」
シャムナが知る中でギアス嚮団と最も関わりが深いであろう単語を口にする。
Cの世界につながると言われる巨大な門だが、そもそもがCの世界が何かも分からなければ、一度も開いた事のない開かずの門でもある。
「へぇ、アラムの門の事も知ってるんだね。けど、今回それに用はないんだ。いつか使わせてもらう事になるとは思うけどね」
「ではなぜこの国へ?」
「うん。それはね……」
「失礼致します!」
V.V.の言葉を遮って凛々しい声と共に一人の男が入室してくる。
男の名前はシェスタール・フォーグナー。大将軍ボルボナ・フォーグナーの実の息子であり、聖神官シャムナの親衛隊長だ。
シェスタールは入室するやV.V.の姿を見て抜刀する。
「貴様誰だ! なぜこの場に?」
「やめよ! 武器を下ろすのですシェスタール。それよりも、要件は何か?」
シャムナの制止にシェスタールは剣を下ろし、しかし鞘には納めぬまま報告を行う。
「ハッ。神殿にて不審者を捕縛いたしましたので、その報告に参りました」
「いまは忙しい。その不審者については牢にでも……」
「ううん、連れてきてよ。その不審者。いまここにさ」
「何を……」
国内の事件に無遠慮に首を突っ込んできた子供に対し、シェスタールは不快気に眉をしかめる。
そのまま怒鳴り出しそうな彼の機先を制すように、シャムナは指示を出す。
「シェスタール。連れてきなさい」
「姫様、しかし……」
「二度は言いません」
反論しようとするシェスタールに、シャムナは冷徹に告げた。
「……ナム・ジャラ・ラタック」
不満を押し殺して臣下の礼を取るシェスタールは、V.V.を一睨みして去って行く。
親衛隊長であるシェスタールからすれば、自分の知らない間に見知らぬ子供に侵入を許したのだから、その内心は穏やかではないだろう。しかしその感情をぶつけさせるわけにはいかない。
「いいのかい?」
「あなたが仰られたのではないですか。その者は嚮主様の配下というところでしょうか?」
「ふぅん。ま、そんなものだよ。それと手土産かな」
「それはどういう……」
「失礼致します!」
詳しく聞こうとしたところで、シェスタールが何かを引きずる音と共に戻ってきた。
「シェスタール・フォーグナー。君命に従い不審者を連れて参りました」
跪いて口上を述べるシェスタールに組み敷かれた拘束された、頭にターバンを巻いた男が文句を言う。
「いってっ。おいおい乱暴はやめてくれよ色男。こう見えても繊細なんだぜ、俺は」
「黙れ罪人! 誰が発言を許可した!」
怒鳴られながら罪人とは思えない軽薄とした態度で首を竦めた男は、床に転がったままV.V.に視線を向ける。
「V.V.様。俺の扱いだけあんまりじゃないですかね」
「仕方ないだろ。ロロじゃ君を運べないんだから。この場に来れたんだし、問題ないでしょ」
明らかに顔見知りの関係にある侵入者に困惑し、シェスタールは事態を把握しようと自らの主に問う。
「姫様。この者たちは一体……」
「おい色男」
シェスタールの言葉を遮って組み伏せられた男が挑発まがいの言葉を口にする。
それを再び怒鳴りつけようとしたシェスタールの瞳が、赤く染まる男の眼を映す。
「一体いつまで俺に跨ってるつもりだよ」
その言葉を聞いた途端、シェスタールの視界は一変した。
いままで組み敷いていた男の姿が消え、代わりに王であるシャリオを押さえつけていたのだ。
「シャリオ様! も、申し訳ございません!」
咄嗟に飛びのき、深々と頭を下げる。
もし罰として自害を命じられたなら、即座にシェスタールは実行に移しただろう。
しかし頭を下げる途中で視界の隅に映った男の姿に、シェスタールは抜刀しながら怒声を上げる。
「貴様、一体いつからそこに! どうやって拘束を抜け出した!」
シャムナやシャリオから少し離れた場所、さきほどまで父であるフォーグナーがいた場所に組み敷いていたはずの不審者が立っていたのだ。
「シェスタール、何を……!」
いきなり腰に差していた剣を抜いて実の父に向けるシェスタールに、目を見開くフォーグナー。
その様子を見て、シャムナはすぐに真相に辿り着いた。
「これは、まさかギアス……?」
言い伝えでしか聞いていなかった力を目のあたりにして、シャムナは驚愕の声を零す。
その様子にV.V.と名乗った少年は不気味に唇を歪めた。
「やめよシェスタール! 貴様自分が何をしているか分かっているのか!」
「賊の癖に洗練された動き……さっきまでは手を抜いていたという事か!」
噛み合わない会話をしながら、フォーグナー親子は目にも止まらぬ速さで白兵戦を演じる。
シェスタールの刃は全て急所を狙った鋭いものだったが、大将軍であるボルボナ・フォーグナーはそれらを一太刀残らず見切っていた。
しかし謁見するにあたって帯剣していなかったフォーグナーに反撃の手段はない。万が一のためにシャリオの許可を得て拳銃なら懐に忍ばせているが、乱心したといえ息子に対してそれを使う事は躊躇われた。
じり貧になるかと思われた状況に、鋭い声が掛かる。
「フォーグナー!」
自らの主の呼び声に息子の剣を回避しながら視線を向けると、突如として飛んできた何かを咄嗟に受け止める。
それはシャリオがいつも腰に巻いて帯剣している、フレキシブル・ソード『ウルミの剣』だった。
「それを使って取り押さえろ! できないとは言わせない」
「ナム・ジャラ・ラタック!」
返り討ちにするよりも遥かに難しい命令に、打てば響く忠義を見せるフォーグナー。
彼は息子の斬撃をウルミの剣で弾き、その腹に容赦なく蹴りを叩き込んだ。
しかしそれは完全には決まらず、シェスタールは剣を持っていない左手でその蹴りを間一髪防ぐ。
それは長年組手をしてきた親子ならではの一瞬の攻防だった。
だからこそフォーグナーが次の一手を抜かる事はなかった。
蹴りを放つと同時にフォーグナーはウルミの剣を振るっていた。
当然体勢は乱れているためまともな威力すら有しておらず、身体に当たったとしても痛いで済む程度の微力な一撃だった。
しかしフォーグナーが狙っていたのはただ一点。シェスタールが剣を持つその右手だった。
蹴りを入れられているところに神業ともいえる精度で放たれたウルミの剣を右手に食らったシェスタールは、唯一の武器を取りこぼす。
「くっ……!」
蹴りの勢いで下がってしまっているため、床に転がった武器を取る余裕はシェスタールにはない。
息つく暇もなく距離を詰めてくるフォーグナーに徒手空拳での迎撃を試みるが、肉弾戦で父親に勝てる実力をまだシェスタールは身につけていなかった。
繰り出す拳は軽くいなされ、あっという間に地面に叩きつけられる。
それでもなんとか抵抗しようと、腕を極められながらもがこうとしたところで、シェスタールはようやく誰に組み伏せられているのかを理解したようだった。
「ち、父上? 一体、私は何を……」
信じられないと目を見開くシェスタールを無視して、場違いな拍手が響き渡った。
「へぇ。さすがは褐色の城壁と言われるだけあるね」
闘技場の試合でも見物していたかのような暢気な感想に、これまで口を開かずに成り行きを見守っていたシャリオがとうとう我慢の限界を超えた。
「貴様、これだけの事をしておいて無事に帰れると思うな!」
「やめなさい! シャリオ!」
姉の制止を聞かず懐の拳銃を取り出したシャリオは、迷う事なくV.V.と名乗った子供に照準を定め引き金を引く。
しかし銃声が鳴る事はなかった。驚愕してシャリオが自分の手元を見ると、握っていたはずの拳銃がそこにはない。
「えっ、なんで……」
「君が探してるのはこれかい?」
V.Vの言葉にそちらを向くと、いままで一言も発さずにV.V.に付き従っていた少年がシャリオの拳銃を持っていた。
「なっ……一体何をした!」
「戦士の国って言っても大した事ないんだね。期待外れもいいところだよ」
「侮辱は許さない! 僕らは誇り高きジルクスタンの戦士だ!」
「ふぅん。でもさ、そもそもこんな
そう言うと、V.V.はシャリオから奪った拳銃を受け取り、そのまま自分のこめかみに当てて躊躇う事なく引き金を絞った。
「!」
銃声と共に倒れるV.V.の身体。誰もがその光景に目を疑った。
しかし従者であるはずの少年や拘束されてきた男は、驚くどころか駆け寄りもせずその様子をただ眺めている。
数秒後、こめかみを打ち抜いたはずのV.V.が血を流しながら何事もないかのように立ち上がる。
「不老不死……」
「なんだ。やっぱり知ってたんじゃないか」
側頭部を流れる血を袖で拭きながらV.V.が笑う。
その光景にシャムナは息を呑んだ。
ギアスと共に伝承に残っている超常の力、コード。
コードを持つ者は不老不死となり、他者へギアスを与えられるという。
あまりに非現実的なその伝承に、話が大袈裟に語り継がれただけだろうと考えていたシャムナだが、目の前の事実に認識を改めざるを得なかった。
コードユーザー。不老不死の人間。いや、それはもう人間と呼ぶのも烏滸がましい存在かもしれない。
「嚮主様。まだこちらへいらした要件を伺っておりません。アラムの門に関する事でないのなら、一体ジルクスタンには何用で?」
シャムナは先程まで起きた事態を全て呑み込んで話を戻した。
国民であれば即刻打ち首の暴挙を看過してでも、この得体のしれない相手に諍いを起こすのは得策ではないと、シャムナの理性が警告していた。
「君は話が早いね、シャムナ。実は君らの戦力が欲しくて、僕はこんなところまでやってきたんだよ」
いきなり告げられた端的な要求に、シャムナは内心訝る。
不意打ちのように警備を潜り抜け、身内で争わせるという暴挙まで冒しておいて、あまりに普通過ぎる要求だったからだ。
それが額面通りの要求なら、外交ルートから打診してくればいいだけの話なのだから。
「それは我らジルクスタンの戦士達を雇いたいという事でしょうか?」
「ちょっと違うかな。君らにはギアス嚮団の駒として働いてほしいんだ。主にしてもらいたいのは暗殺かな。あとは人探しとか。もちろん、お金は払うよ」
軍事力ではなく暗部として働けという図々しい要求に、一瞬シャムナは言葉を失う。
それは国に対し、跪いて自分達の属国になれと言っているのに等しい。もしこれが正式な会談であれば、宣戦布告と取られるほどの暴言だ。
シャムナが呆然とした一瞬の空白に、大将軍であるフォーグナーが割って入った。
「いきなり来て何をふざけた事を……!」
「ふざけた事? 何を言ってるんだい。分派が本家に従うのは当然の事でしょ?」
「そのような大昔の事など知らぬ! いまこの国は……」
「おやめなさいフォーグナー」
「しかし姫様……」
「この場においてあなたに発言権はありません」
「……ナム・ジャラ・ラタック」
片目を隠し臣下の礼を取るフォーグナー。
部下の無礼をシャムナが詫びる前に、V.Vが意外そうに呟いた。
「それ、まだ残ってたんだ」
「なんの事でしょうか?」
シャムナが問うとV.V.は嘲るように笑う。
「だって君ら、もうギアスは持ってないんだろ。なのに目を隠すのが臣下の礼なんて、全くの無意味じゃないか」
昔ながらのしきたりを笑われてフォーグナー親子と弟のシャリオが気色ばむ中、シャムナは疑問にすら思った事のなかった動作の意味を知り、納得する。
V.V.の口ぶりや、先程のギアスが使われたと思われる場面を考えるに、どうやらギアスというのは相手の目を見て発動するものらしい。そしてこの国がまだギアス嚮団の分派であるファルラフとして活動していた頃には、ギアスユーザーが多くいたと考えられる。ならば主君にギアスを掛ける意思がないとして目を隠す動作は、忠誠を示すための必然と言えるだろう。
それはギアス嚮団の分派としてジルクスタンが活動してきた証左であり、そんな風習を一目見ただけで看破したV.V.がギアス嚮団の嚮主というのは、なるほど、説得力のある話だった。
「嚮主様。あなたは先程我が国の戦力が欲しいと仰られましたね」
「うん。僕の駒になってくれるよね?」
「しかしギアス嚮団はコードとギアスを研究する機関のはずです。そもそも戦力など必要ないのでは?」
質問には答えず話を逸らすシャムナに、V.V.は困ったように肩を竦めた。
「それがそうでもないんだよ。僕らの計画を実行するには野蛮な力がどうしても必要だし、僕の弟もそのために頑張ってくれてるからね。兄である僕が何もしないんじゃ面目が立たないじゃないか?」
「計画? いえ、その前にお話しぶりからするに、我がジルクスタン以外にも協力を仰いでいるという事でしょうか?」
ギアス嚮団がどれほどの規模の組織なのか、シャムナはまだはっきりと把握できていなかった。
その特性上、巨大な組織にはなりえないとは思うが、ジルクスタンのように古くから分派として活動してきた国がないとも言えない。
しかしV.V.の返答はシャムナが想像していた規模を遥かに超えるものだった。
「違うよ。僕の弟は神聖ブリタニア帝国第98代皇帝だからね。計画を進めるために、シャルルはああやって不毛な戦争をしてくれているのさ」
「ブリタニア皇帝が、弟……」
それを聞いたシャムナの動揺は筆舌尽くしがたいものだった。
いまの一言でシャムナにはこの外交において打てる手が一気に限定されたのだ。
いかに彼らがコードやギアスという強力な力を有しているとはいえ、ここはジルクスタン、戦士の国だ。最終的には破談になったとしても、人を呼ぶまで耐える事ができれば取り押さえる事は可能背だろう。たとえ一度帰って報復に来られたとしても、ギアスユーザーの事さえ兵に周知し、その上で最大限の警戒と対策を講じれば退ける自信もあった。しかしギアス嚮団のバックにブリタニアいるとなれば、話はまるで変わってくる。
ジルクスタンがブリタニア帝国に土をつけたと言っても、それは局地戦であり援軍を派遣した先での事だ。もし万が一、ブリタニア帝国が宣戦布告し攻めてきたなら、国力で圧倒的に劣るジルクスタンになす術はない。
これまでは資源の乏しいジルクスタンをブリタニアが攻めてくる理由などなかった。たとえ援軍によってブリタニアが敗北しようと、それが大きな痛手にはならないようシャムナが調整していたためだ。しかし今回、ブリタニアの名前をチラつかせてギアス嚮団は交渉に来た。それはすなわち、断れば宣戦布告も辞さないという脅しだろう。
V.V.が本当にブリタニア皇帝の兄かどうかは分からないが、その真偽をこちらに確かめる術はない。それでなくともギアス嚮団の戦力は未知数だ。
楽観的で安易な拒絶は国を亡ぼす。大国の刃がシャムナの喉元には突き付けられていた。
「そこまでして行う計画とは、一体……」
「それはまだ秘密だよ。でも、そうだね。新たな世界の構築、とだけ言っておこうかな」
不穏な答えに薄ら寒いものを覚えながら、シャムナはその感情を無理やり抑えつけた。
いま重要なのはブリタニアの侵略目的ではなく、この場における交渉である。
「それで、返事は決まったかな? ファルラフとして、誰につくべきか」
挑発するように笑みを深めるV.V.に、シャムナも笑みを返して頭を下げる。
「ええ。嚮主様のご要望ですもの。全面的に協力させていただきたいと思います」
「姉さん!」
「姫様!」
悲鳴のような声が弟と部下から上がるのを聞きながら、決して視線は逸らさずにシャムナは続ける。
「しかし嚮主様、私も政治を司る身。国を預かる者として、目に見える利益のない話をお受けするのは難しくあります。ですので、こちらの願いもいくらか聞き入れてはくださらないでしょうか?」
先ほどよりも下手に出て譲歩を引き出そうとするシャムナに、提案が受け入れられた事で上機嫌なV.V.は鷹揚に頷いた。
「何かな。ちなみにこのクジャパットは君らに貸してあげるよ」
ぞんざいに示されたのは、シェスタールにギアスを掛けたであろう侵入者だった。
先程の仲間割れを誘発した一幕は、あの男の有用性を示すデモンストレーションでもあったのだろう。
「ありがとうございます。では計画の詳細と、私にもギアスをお与えください」
「姉さん!」
再度抗議の声が弟から上がる。
その声は先程よりもよほど切羽詰まったものだったが、シャムナは今度も答えなかった。
「……君にギアスを、ね。――いいよ。素養もありそうだし。分派なのにギアスユーザーがいないっていうのもおかしな話だからね」
「それなら僕が! 僕がギアスユーザーになる! 最強になるためにも、僕には力が必要なんだ!」
「シャリオ! いまは私と嚮主様が……」
「君が?」
シャムナが叱責しようと声を荒らげたところで、その提案を嘲るようなV.V.の声が割って入る。
「君がギアスを持つのは無理だよ。素養が全然ないもの。マリアンヌと同じでね」
知らない名前を出され否定されたシャリオは、唇を噛んでなおも言い募ろうとする。
しかしV.V.の嘲りはそれで終わりではなかった。
「僕はC.C.と違って素養のない奴にギアスを与えるなんて無駄な事はしないんだ。それにギアスは殆どが目を合わせて使うんだよ。そんなくすんだ目で使えるとでも思ってるの?」
「貴様あぁ!」
主君であるシャリオの身体的欠点をバカにされ、シェスタールを拘束していたフォーグナーが止める間もなくV.V.に襲い掛かろうとする。
しかしその突撃は彼が一歩目を踏み出す前に終わりを告げた。
V.V.の横に突っ立っていただけの少年が、一瞬の間に手に持ったナイフをフォーグナーの首元に突きつけていたからだ。
「君は黙っててよ。僕はこの二人と話してるんだからさ」
ナイフを持つ少年は言葉を発さなかったが、動いたり口を挟めば即座に喉元を掻っ切られるのは明白だった。
静かになったフォーグナーを見て、満足そうに頷くV.V.が再び視線を姉弟に戻す。
「シャリオ。お願い。ここは堪えて」
「でも姉さん! ギアスなんて得体のしれないもの、何があるか……」
「大丈夫よ。ギアスの事は伝承や古文書で理解しているわ。何も心配いらない」
これはシャムナの嘘であった。
三百年以上も前に関わりが途絶えたギアス嚮団の資料では、ギアスについては超常の力である事以外に詳しい事は分かっていない。
しかしシャムナほど神事に精通していないシャリオに、それが嘘だと見抜く事は不可能だった。
「話は済んだかな?」
「ええ、嚮主様。私にギアスをお与えください」
「うん。いいよ」
あまりにも軽い態度で首を縦に振り、静かにV.V.が歩いてくる。シャムナはそれを膝をついて待った。
「これは契約だよ。君に王の力を与える代わりに、僕らの計画に協力してもらう」
ギアス。その力を与えられる事に、恐怖がないと言えば嘘になる。
なぜならシャムナが古文書などで知るギアスユーザーは、およそ破滅の道を進む者が殆どだったからだ。大いなる力は大いなる不幸を呼び寄せる。ギアスの力に呑まれ正気を失った者、ギアスの力に振り回され全てを失った者、ギアスという力を持つが故に迫害された者、理由は様々なれど、いずれも破滅の運命を辿っている。
「ギアスを得れば、君は人とは違う理で生きる事になる。異なる摂理、異なる時間、異なる命、でも恐れる事はないよ。僕らの計画が成れば、そんなものの垣根はなくなる。君は僕で、僕は君だ」
しかしその一方で、強大な力でジルクスタンという国を作ったのもギアスという力なのだ。
ならばその力を利用しない手はない。
力に呑まれず、力を制御し、使いこなす。
そしてジルクスタンに繁栄を。
身体が弱いのに、強くなるために無茶をする最愛の弟を守るだけの力。
シャリオが幸せに暮らす未来をこの目で見るためなら、私は悪魔とでも契約しよう。
「さぁ、受け取るんだ。王の力を。僕らの計画を、君の願いを叶える力を」
「ええ。結びましょう。その契約」
額に手が触れる。
その瞬間、シャムナの脳裏に理解できない光景が流れ込む。
青の奔流。光の筋。これがギアスという力の正体? 宇宙の起源、民族的な文様を肌に刻んだ人間達の姿。V.V.が幾人にもなってこちらに笑い掛けてきた直後、黄金色の神殿にどす黒い竜巻が唸りを上げる。これは、これこそが――!
「姉さん! 姉さん! どうしたの姉さん!」
弟の叫び声が聞こえて、ようやくシャムナはここがどこだかを思い出す。
そんなシャムナに楽しげな声が降ってくる。
「どうだい? 王の力は?」
「これが、ギアス……ふふっ」
不敵に笑うシャムナ。
その表情は彼女がいままで浮かべてきた笑みとは別物にしか見えない、凄惨なものだった。
「感謝しますわ、嚮主様。これほどの力を、私に与えてくれた事に」
「構わないよ。僕にとってもギアスユーザーが増えるのは望ましい事だからね。で、どんなギアスが発現したんだい?」
「あら? 嚮主様にも分からないのですか?」
「まぁね。ギアスって言うのは個人の願望で能力が変わるからさ」
肩を竦めるV.V.に、なるほどとシャムナは頷く。
「そうなのですね。しかし嚮主様、私はまだもう一つの対価をいただいてはおりません。先にそちらを頂戴したく存じます」
「ああ。計画の事? 簡単な事だよ。神を殺すんだ」
明日の天気でも告げるようなV.V.の返事に、シャムナは眉を寄せた。
「神を……? それはどういう事でしょう」
「シャムナ。君は思った事はないかい? この世界は争いや嘘で溢れてる、酷く醜いものだって」
困惑するシャムナを置いて、V.V.はいままでで一番邪悪な笑みを浮かべて言った。
「だからね、僕らは誓ったんだ。人々を争わせるような神なら、殺してしまおうって」
V.V.の容姿も相まって子供の絵空事にも聞こえるその言葉を、おふざけだと一蹴する事はできなかった。
それをした瞬間、V.V.の隣にいる少年が自分の首を切る事をシャムナは既に知っていた。
「ラグナレクの接続。それが僕らの目的だ。詳しい事はまた今度教えてあげるよ。そろそろ君を大好きな人達がうるさそうだしね」
横目で見たシャリオとフォーグナーが憎々しげにV.V.を睨みつける様子を確認し、シャムナはそれに同意する。
「かしこまりました。では話し合いはまた次回と致しましょう」
ギアスを受け取る時のV.V.の発言から、彼らの企む計画が壮大すぎるほどのスケールである事を感じていたシャムナは、一旦情報を整理するためにもここでの追及は止めた方が無難だと考えを改める。
「それじゃあさっき話した通り、クジャパットは置いていくから自由に使ってよ。連絡係も兼ねてるから、殺しちゃわないようにね」
「V.V.様、その言い方はあんまりじゃないですかい?」
「君も仲良くするんだよ。気に入らないからって、殺しちゃダメだよ」
「人を獰猛犬みたいに言わないでくださいよ。ロロとは違うんだ。必要以上に殺したりはしませんって」
「僕は必要だから殺しているだけです」
フォーグナーにナイフを突きつけていたロロが戻りながら反論する。
まともな会話は無駄だと知っているクジャパットは「はいはい」と適当に頷いた。
「じゃあまたねシャムナ。細かい取り決めとかはそのうち別の奴を連れてくるから、そいつとやってよ。その時に君のギアスの事も教えてもらうね」
ギアスユーザーはどんな力を有していようと自分の脅威には成り得ない。その自信からV.V.は無理にギアスの能力を聞き出そうとはしなかった。
「かしこまりました、嚮主様。また会える日を心よりお待ちしております」
シャムナが頭を下げるのを一瞥する事もなく、V.V.はロロという少年と共に去って行く。
それに手を振って、一人残されたクジャパットはシェスタールに笑い掛ける。
「そんなわけで、仲良くしようや色男」
「ふざけるな! 誰が貴様のような得体のしれない男と……!」
「おいおい落ち着けよ。これからは仲間さ。な?」
剣すら抜きそうなシェスタールの様子に、シャムナは静かに制止の声を掛ける。
「シェスタール。仲良くしろとは言わぬが、争う事は許さぬ。そしてクジャパットと言ったか。お前はもはやこちらの所属。シェスタールはお前の上官になるのだ、礼儀を弁えよ」
V.V.と対峙していた慇懃な口調を捨て去り、本来の上位者としての口調で告げるシャムナ。
それに何かを感じたのか、クジャパットはいままでのふざけた態度が嘘のように畏まり、臣下の礼を取った。
「ナム・ジャラ・ラタック。肝に銘じます。いままでのご無礼、お許しください」
臣下として申し分ないその態度に、シャムナは鷹揚に頷く。
だが内心で、クジャパットへの警戒を一段階引き上げた。
「シェスタール。一度交流も兼ねて、その男にこの国を案内してきなさい」
「しかし姫様……!」
「息子よ。命は下った。それに逆らうのか?」
「それは……」
口ごもり、忌々し気にクジャパットを睨みつけ、それでも最後にシェスタールは臣下の礼を取った。
「……ナム・ジャラ・ラタック」
不承不承、シェスタールがクジャパットと共に退室する。
残ったのはシャムナにシャリオ、そして大将軍たるフォーグナーだけだった。
「大丈夫、姉さん? 身体におかしなところはない?」
部外者がいなくなった事で、取り繕う必要のなくなったシャリオはすぐに姉の元に近付いて声を掛けた。
「ええ。ありがとうシャリオ。何も心配はいらないわ」
「良かった。でも何をされたかも分からないんだ。すぐに医者に診てもらおう」
「私も賛成です。ギアスがどういったものかは存じませんが、お身体にどんな影響があるか分かりません。ご自愛ください」
ギアスの能力ではなく真っ先に身体の事を心配してくれる二人にお礼を言ってシャムナが笑う。
それは先程までの冷徹なものと違って、いつもの安心を与えてくれる微笑みだった。
「分かったわ。じゃあ少し休ませてもらうわね。戻ってきたら忙しくなるでしょうから、覚悟していてね。二人とも」
「うん。分かったよ」
「ナム・ジャラ・ラタック」
そう言って退室するシャムナの顔には、さっきまでの笑顔はもうなかった。
二人は気付かない。いつもなら何より国の事を心配し、このような緊急時には絶対に自分の事を後回しに奔走するシャムナがあっさりと引き下がったわけに。
シャムナは笑む。悪魔のような微笑みで。
宿った力がどのようなものであるか、既に理解しているからこそ。
これはまだ見えぬ先を見通す力。無数にある選択肢の中から手繰り寄せるべき結末を掴み取るためのギアス。
――この地位についてから、私はずっと諦めていた。
こんな資源の乏しい小国では、いずれは破滅の道しか待っていない。
弟は救えない。
どれだけ足搔いても運命は変えられない。
それでも破滅への結末を先延ばしにするために、投げ捨てる事だけはできなくて。
でも変えられないはずの未来が見えるだけで、こんなにも世界は違って見える。
「ふふっ、運命って面白い」
文献によると、嚮主であるV.V.にギアスは効かない。しかしこれはどうなのだろう。
「嚮主様。あなたの未来、このシャムナが見てあげる」
廊下を歩きながら笑い声をあげ、シャムナは赤い瞳でここではないどこかを見ていた。