「どういうつもりだい、シャムナ?」
「どうとは、一体なんの事でしょうか、嚮主様」
前回同様アポイントメントもなしに、ロロという少年を伴っていきなりやって来たV.V.は挨拶もせず苛立ち混じりに問うた。
「白々しいね。君がブリタニア軍を退けた件だよ。ギアスをあげたのに、まさかこんな形で恩を仇で返されるなんてね」
「とは言いましても、嚮主様。我らは協力を約束はしましたが、服従を呑んだわけでありません。頭を抑えつけようというなら、抗戦せざるを得ませんよ」
極めて冷静に答えたシャムナに、V.V.は納得せず嘲るように口元を歪めた。
「ふぅん。つまり自分は降りかかる火の粉を払っただけとでも言いたいわけ?」
「むしろ嚮主様こそどのようなおつもりで? このたびの宣戦布告。私としましては、我らの力を試しているのかと思っておりましたが」
自分はあくまでそちら側の意図を汲んだだけと示し、シャムナは問い返す。
それに対しV.V.はあくまでも横柄な態度を崩さない。
「僕だって君達に何かをするつもりなんてなかったけどね。僕が君達の事を話す前に、シャルルが侵略を決めちゃったんだよ。ここにはアラムの門があるからさ」
「なるほど。今回の件は不幸な行き違いであった、という事ですね」
自分の意図ではないと言うV.V.の物言いに、シャムナは納得を示す。
しかし内心では、V.V.の言が信用に値しないものである事を正確に見抜いていた。
もし本当に誤解であるなら、宣戦布告が為された時点で弟である皇帝に話をつけ、戦争を回避していただろう。しかしV.V.は戦争が始まってから二か月も経ち、ブリタニア軍が撤退したタイミングでこの地に現れた。つまりそれは、手駒となるなら協力でも服従でも変わらないと、侵略を容認したという事だ。とても協力関係を結んだ者に対する行いとは言えない。
V.V.にとってファルラフはただの駒。それがただ露見しただけの事。
「へぇ。そんな言葉で済ませるつもり? 分派の癖に僕に逆らっておいてさ」
「それに関しては大変申し訳なく思っております。しかしながら我らとしましても、矛を向けられれば剣を構えずにはいられません。我が国は戦士の国。剣を地に投げ捨てるくらいなら、先に命を放り投げるのが我らの矜持です」
敵意を見せるV.V.に対しまるで臆さず答えるシャムナ。それは自ら口にした誇りを体現しているかのような姿だった。
しかし戦士でないV.V.は、そんな誇りにはまるで頓着せずシャムナを睨みつける。
「ふぅん、ご立派な誇りだね。でもさシャムナ。僕はお兄さんだから、弟の面子を潰されたまま黙っているわけにはいかないんだよ。君らはブリタニアの顔に泥を塗ったんだ」
理不尽な物言いだった。
勝手に侵略してきたのはブリタニアであり、ジルクスタンではない。売った喧嘩を買ったのが悪いという、まるでどこぞのチンピラのような言い分。
しかしこれを鼻で笑う事などできようはずもない。
ブリタニアが撤退したのは一時的なものであり、今後さらなる戦力が投入されるだろう。そしてその時は、圧倒的な戦力に加え、ナイトオブラウンズまでも投入されるのは予想に容易い。いくらジルクスタンが戦士の国であり、シャムナのギアスの力によって遥かに有利な状況で防衛戦が可能とはいえ、それでもブリタニアの本気の侵略に対抗するのは難しいだろう。数で劣るこの国が物量で押されれば兵は疲弊し、継戦は難しくなる。ブリタニアには多大な被害を与えられるだろうが、言ってしまえばそれだけだ。
「ではブリタニアと我が国で停戦条約を結ぶのはいかがでしょう? もちろん、停戦の申し出はこちらからさせていただきます」
戦争中の停戦の申し出は、戦争をやめてくださいと頼み込む行為であるため、下手に出ているも同義である。
それをこちらから行うと提案する事で、シャムナは誠意を示した。
しかしそれで納得するほどV.V.は寛容な人外ではない。
「その程度で僕が許すと思ってるの?」
「しかし嚮主様、これ以上の争いはお互いにとって不利益しかありません」
もし戦争を再開すればジルクスタンは総力を決して本土防衛を行い、降伏など決してしないのは先のシャムナの言からも分かりきった事実である。軍事力の差からジルクスタンは敗れるだろうが、当然ブリタニア側も無傷では済まない。そんな不毛な戦いの結末は、ジルクスタンがエリアを冠した植民地に成り下がり、その代価としてブリタニアは大きな被害と実入りが殆どない植民地を一つ得る。どちらの国にも益のない結果しか、この戦争の果てには用意されていない。
そんな未来がギアスを使わずとも見えているからこそ、シャムナは互いに矛を収めようと提案する。
「どんな力かは知らないけどさ、この戦争で君らが勝てたのは君のギアスのおかげだろ? なら君を殺しちゃえば、こんな国簡単に侵略できるよね」
いまここでの暗殺を匂わせるV.V.に、シャムナの視線が一瞬、V.V.の隣にいる子供に移る。
ロロと呼ばれたその少年のギアスがどんなものなのか、シャムナは知らない。能力の予想はしているが、その予想が当たっているにしろ外れているにしろ、弟であるシャリオと大将軍であるフォーグナーを封殺して見せた相手に、シャムナ一人が抵抗できるはずもなかい。
「それは我が国を侮り過ぎかと存じます。我が国は戦士の国。局地戦ではありましたが、幾度となくブリタニアと戦い、勝利してきた事は嚮主様もご存じではありませんか?」
だからこそシャムナは内心の焦りを押し隠し、あくまで冷静に、客観的な視点からの見地を述べる。
「私のギアスなどちょっとした後押しでしかありません。そんな私を殺してこの国の戦士を死兵に変えれば、泥沼にしかなりませんよ」
聖神官であり姉であるシャムナを殺せば、王であるシャリオは必ず復讐を試みるだろう。
そうなればもうジルクスタンは止まらない。滅びる最後の時までブリタニアへ牙を剥く狂戦士と成り果てる。
「それは僕を脅してるのかい?」
「いいえ。嚮主様、我が国は見ての通り物資に乏しく、お金になるようなものはありません。だからこそこれからはお互いにとって益のない戦争ではなく、益のある外交をしましょう」
「外交だって?」
その提案が意外だったのか、V.V.はこれまでの余裕の態度とは違い、キョトンと首をかしげる。
話の流れを変える事に成功したと見て取ったシャムナは、ここで一気に持っているカードを切る。
「我が国は今回の戦で使用したナイトメア・フレームの技術提供を行います。ですのでそちらからは、サクラダイトを含めた資源を代わりにいただきたく存じます」
「随分と勝手な物言いだね。僕はまだ、君らの行いを許したわけじゃないんだよ」
「だからこその外交なのです。どんな国だろうと自国の兵器の情報は機密情報。それを提供する事がどれほどの事か、お分かりになられないわけではないでしょう?」
相手を挑発するかのような物言いで誠意を見せるシャムナ。
自身の経験から培った交渉テクニックを余す事なく全力で使い、V.V.を籠絡に掛かる。
「嚮主様。我らは契約によって結ばれております」
笑みを浮かべ、シャムナは続ける。
「ナイトメア・フレームの技術提供はブリタニア帝国の軍事力を増大させる事にもつながり、ひいては嚮主様とシャルル皇帝が推し進めている計画の後押しになるはずです。しかしここで我らを滅ぼすために争い続ければ、国力は低下し、計画の成就は遠のくのではありませんか?」
これまでの話から、V.V.が計画とやらを最優先している事は明白だ。ならばそれを利用しない手はない。
外交とはつまるところ、相手の弱みをいかにつくか、という一点が重要なのだ。
「ねぇシャムナ。君のギアスって結局どんな能力なのかな?」
唐突なV.V.の問い掛け。しかしシャムナは動揺する事なく即答した。
「私のギアスは予言。私が取るべき最善の行動を予言するギアスです」
「ふぅん。つまりこの外交は君のギアスが最善を示した結果って事だね」
「その通りでございます」
「ロロ」
「はい」
その直後、シャムナの首筋にはピッタリとナイフの刃が当てられていた。
冷たい感触は刃がいくぶんか肌に押し込まれている事を視認せずとも教えてくれる。
「ねぇシャムナ、この状況も君のギアスは教えてくれた?」
「いいえ。嚮主様」
「じゃあ対処できないよね。つまりここで殺されるのが、君の最善って事なのかな? それとも君のギアス、欠陥品だった?」
ナイフを押しつけられた首元から流れた血が、肌を伝う。
嘲りを含んだ問いに、それでもシャムナは努めて冷静に返す。
「前者でしょう。私のギアスがこの状況を教えなかったのは、対処する必要がないからです」
「ふぅん。じゃあ君にとっての最善ってなんなのかな?」
「弟シャリオとこの国が、幸福である事」
迷わず答える。計画の成就なんて空々しいおべっかは言わない。そんな事をしても嘘だとすぐにばれる事など分かりきっている。
その答えに、V.V.は口元をニィと歪めて笑った。
「弟想いなんだね。分かるよ。僕も弟は可愛いからさ」
とても共感してるようには思えない邪悪な笑顔を浮かべ、V.V.は機嫌良く続ける。
「君は正直者だね、シャムナ。嘘は醜いから、君のそういうところ、僕は好きだよ」
「ありがとうございます。嚮主様」
ナイフを突きつけられているせいで頭を下げる事もできないシャムナが口だけの感謝を述べる。
V.V.はそれで満足したのか、鷹揚に頷いた。
「ロロ。もういいよ」
「はい」
次の瞬間には首元の圧迫感は消え、またV.V.の隣に栗色の髪の少年が戻っていた。
「さっきの提案だけどね、戻ってシャルルに聞いといてあげるよ。君達の美しい姉弟愛に免じてさ」
「感謝致します。嚮主様」
再度礼を告げるシャムナに、しかしV.V.は目を細め警告する。
「でも忘れないでね。君がもし反抗的な態度を取ったり、僕らの計画の妨げになるようなら、その時がこの国の最期だ」
「心配はご無用です。私には嚮主様から授かったギアスがありますから」
「それもそうか。じゃあまたね。シャムナ」
剣呑な雰囲気を一瞬で霧散させ、V.V.が来た時と同様消えるように去る。
おそらくは隣にいたロロという少年のギアスの力だろう。
瞬間移動、もしくは時間の停止というところか。
どちらでも構わないし、この際どうでもいい。
重要なのは、この外交を乗り切ったという事実のみ。
「これが、ギアスの力……」
シャムナのギアスは確かに予言ではあるが、それは先程述べたように最善行動を予言するものではない。未来予知による先読みのギアスだ。
違いが分かりづらいが、前者はシャムナにとって最善の行動を提示するだけなのに対し、後者のシャムナ本来のギアスは、未来を見通す事でシャムナ自身が選ぶ未来を決定できる。
シャムナがこんな嘘をついたのには、当然ながら理由がある。
彼女には見えていたのだ。正直に自身の能力を口にした場合、ロロという少年が自分を殺す未来が。
おそらくV.V.は、計画の成就がシャリオやこの国を幸福にすると確信しているのだろう。だからこそ、未来を見通すというギアスでは殺人を選び、最善の行動を予言するというギアスでは協力関係を選んだ。
つまりV.V.はシャムナの自由意志による不確定要素を排除したかったのだ。それは今回の件で敵対する可能性が浮き彫りになり、制御できないギアスユーザーの存在を危惧しての事だろう。
その他にも、様々な問答で一つでも答えを誤れば自分が殺される未来がシャムナには見えていた。
この外交の成功は、無数の選択肢の中から唯一存在した細い糸を手繰り寄せたが故のもの。
そしてそれを成したのは、シャムナのギアス。それは大きな意味を持つ。
「つまり私のギアスは、嚮主様にも通用する」
考えてみれば当たり前だ。シャムナの未来予知は誰かにギアスを掛けるものではない。あえて言うなら、自分自身にギアスを掛け、未来を見ているのだ。
その未来にV.V.が関わっていようと、それは起こり得るはずの未来であって、現在のV.V.にはなんら影響を及ぼしていない。だからこそ、たとえコードユーザーであろうとシャムナのギアスを防ぐ術はない。
「姉さん。入るよ」
愉悦混じりの笑みを浮かべていたシャムナは、聞こえてきた声に慌てて表情を戻す。
弟であるシャリオに、こんな薄暗い笑顔で接したくはなかった。
「どうしたの姉さん! 首から血が?」
入ってきたシャリオがこちらを見て悲鳴をのような声を上げる。
そういえば首の傷を手当てするのを忘れていた。
「大丈夫よ、シャリオ。かすり傷だから」
「でも……! くそっ、あのV.V.とかいう奴の仕業だな。姉さんに怪我をさせるなんて……!」
忌々し気にシャリオが吐き捨てるのを見て、シャムナは優しく微笑んだ。
「ありがとう。でも何も心配いらないわ。皮一枚切れた程度、あなたたちが戦場で負う傷に比べたら、安いものよ」
「そんな事ない! 姉さんは姉さんの戦いをしてくれているんだ。それに報いるためにも、僕達戦士が身体を張るのは当たり前の事だよ」
胸に手を当てて叫ぶシャリオ。その姿がシャムナには誇らしく、悲しくもあった。
そんなシャムナの内心に気付く事なく、シャリオは女官を呼んで首の手当てを済ませるとすぐに下がらせた。
「嚮主は帰ったんだね」
「ええ。面白いように踊ってくれたわ」
表情を繕いはしたものの、答えるシャムナの声には邪悪な愉悦が顔を覗かせていた。
それにシャリオも気付くが、そういった感情が出るのは政治で矢面に立つからこそだと理解しているため気にする事はなかった。
「やっぱり姉さんは凄いね。姉さんに掛かれば、嚮主なんてただの子供だ」
「ギアス嚮団なんて裏組織にいるからでしょうね。嚮主様は外交において、あなたの言う通りただの子供だったわ。許すか許さないか、そんな二択しか選択肢を持っていないなんて、外交官としては下の下よ」
本来外交とは相手の妥協をどれだけ引き出せるか、という事に終始する。ところがV.V.は今回、シャムナを殺すか殺さないか、それだけを判断するためにやってきていた。V.V.からすれば今回の接触に外交などという意識はなかったのだろうが、シャムナからすればブリタニア皇帝に影響を及ぼせる存在が対話しに来ている事実に、外交以外のどんな言葉を使えばいいのか分からない。
「嚮主様が私を許す判断さえすれば、こちらからの要求は自動的に全て受け入れられる。これほど簡単な外交はないわ」
口ではそう言いながら、シャムナはこの外交が綱渡りであった事を自覚していた。
何せ賭けていたのはこちらの命だったのだ。失敗すれば即座に殺される。しかも相手は得体のしれない存在。ギアスがなければなす術もなく殺されていた事だろう。
しかし自身の生死以外の部分では、驚くほど容易い交渉だったのも事実だ。V.V.はそもそもブリタニアの利益にそれほど頓着していなかったし、目に見える損得以外が見えていなかった。あれならまだエリアの地方長官の方が理解が深いだろう。
そもそもジルクスタンにおいて最も避けたかったのは、このまま戦局が膠着状態に陥る事だ。
ジルクスタンは戦士の国であり、資源に乏しく輸出品は軍事力くらいのもの。しかし国が開戦状態では他国に傭兵チームを送れるような真似はできず、物資を得る手段がなくなってしまう。時間の経過はそれだけでジルクスタンを追い詰め、いずれはじり貧になる事は火を見るより明らかだった。おそらくブリタニア側もそうした思惑があり、正面切っての戦いを避け一時撤退したのだろう。
しかしV.V.はそれらの事情をまるで理解していなかった。おそらくは弟の顔に泥を塗られた腹いせ、それだけのために来たから。
力ある者の傲慢といえばそれまでだが、シャムナからすればこれほど扱いやすい相手もいない。結果としてわずかな支払いで停戦に加えて物資まで得られたのだから、成果としては文句のつけようがない。
唯一の懸念は、この外交は非公式なものであり、文書による証拠もないため強制力はない事だ。しかしブリタニア皇帝が本当にV.V.の身内であるのなら、その全てを反故にしようとはしないだろう。
何よりシャムナのギアスが、今回の交渉での取引が全て実行される未来を既に予知している。
「だけどいいの? ジルクスタンのナイトメア情報を渡すなんて。ゲド・バッカは特殊な分、対策もされやすい機体だよ」
通信機から今回の交渉を聞いていたシャリオが心配そうに訊ねる。
外からはどうしているかなど分かるわけもないが、ARで状況を把握しているというのはゲド・バッカの強みであり弱みだ。対策されてしまえば優位性は損なわれるどころか弱点にしかならない。
だがシャムナもそんな事は承知の上だった。
「心配いらないわ。だってゲド・バッカの情報は渡さないもの」
「えっ? でもさっき……」
驚くシャリオが約束を反故にするのかと目で問うてくるが、シャムナはゆっくりと左右に首を振る。
「よく思い出して、シャリオ。私は今回の戦で使用したナイトメアフレームの技術提供と言ったけど、最新型のナイトメアやゲド・バッカの技術提供とは一言も言ってないわ」
「あっ……」
そう言われシャリオもようやく、シャムナがV.V.に仕掛けた言葉の穴に気付いた。
ゲド・バッカはまだシャリオやフォーグナーなど、一部の人間しか慣熟テストを行っていない機体であり、その特殊性から一朝一夕には乗りこなせない。だからこそ今回の戦争では、戦士の殆どは従来のナイトメアフレームに搭乗している。
「今回の戦いで使ったナイトメアの大半は旧型モデル。ゲド・バッカも確かにあなたが使ったけれど、それを見た相手は殲滅したわ。だからブリタニアはゲド・バッカという機体の事なんてまるで知らない」
つまりシャムナが約束したのは従来のナイトメアフレームの技術提供だけで、最新型のゲド・バッカの情報を渡す必要はない。ブリタニアがなんらかの方法でゲド・バッカの情報を得て技術提供を求めたとしても、戦で使用されたナイトメアフレームの情報は渡したと跳ねのけられる。
これもまた、V.V.が外交に不慣れだからこそ成功した交渉術だった。
「そうか。だから僕に敵は絶対に逃がさないよう指示したんだね」
「そういう事よ。あなたならやってくれると信じていたわ」
そう言ってシャリオの髪を優しく撫でるシャムナ。
くすぐったそうに目を細めるシャリオは、声を弾ませて答える。
「あんなのなんて事ないよ。ナイトオブラウンズすらいないブリタニア軍なんて、僕らの敵じゃない。しかもこっちには、姉さんの予言があるんだからね」
「ええ。信じているわ。正々堂々同じ条件で戦えば、あなたやフォーグナー、この国の戦士達は絶対に負けないと」
格別の信頼を込めてシャムナは頷く。
けれどそれは同時に、正々堂々と戦えなければ負ける可能性もあると分かっての言葉だった。
その証明として、今回の戦争でジルクスタンが負ける未来を、シャムナは幾度となく予知していた。
本来ジルクスタンとブリタニアでは最初の戦力差からして段違いだ。
ブリタニアがただ力押しで攻めてきただけで敗北は濃厚だっただろう。
それを覆せたのはシャムナがギアスによってブリタニアの戦略を全て予知し、罠を張ったからに他ならない。
もしシャムナのギアスがなければ、今頃ジルクスタンはエリアの名を冠し、戦士達は番号で呼ばれていたはずだ。
そして聖神官である自分はまだしも、王であるシャリオが生かされる未来はない。
弱肉強食を国是とする国で、身体的弱者であるシャリオの居場所などあるわけがないのだから。
無惨に殺され、首を晒されるのが関の山。
実際シャムナは、そんな未来をギアスによって見ていた。
その未来を回避するために、シャムナは最愛の弟の死に様を何度も何度も、繰り返し見続けたのだ。
「嚮主様には感謝ね。このギアスの力と、我が国の戦士がいれば、ジルクスタンはどんな敵にも負けない」
「感謝する必要なんてないよ。確かにきっかけはあいつかもしれないけど、対価は渡すんだし、それにその力は姉さんだからこそのものなんだから」
ギアスは個々人で能力が違うとV.V.が言っていたのをシャリオは聞いている。ならば、シャムナに宿ったギアスの力はシャムナ自身の力と同義だ。
「姉さん。僕は必ず、誰よりも強くなる。そしてこの国と姉さんを守る。そんな未来を、見せてあげるからね」
「シャリオ……」
くすんだ瞳に宿る決意の色に、シャムナは弟を抱きしめた。
そしてシャリオとは違う決意を新たにする。
絶対にこの子の未来だけは閉ざさせはしない。
身体が弱く、目も不自由で、立つ事すら儘ならない。生まれた時からそんな理不尽を授けられたこの子が、もうこれ以上不幸な目に遭わないように。
そのためなら、如何なる事も厭わないと誓おう。
破滅を約束された力に頼り、権謀術数を巡らせ全てを欺き、神を殺すと宣った嚮主さえも出し抜く。
その最中に幾千幾万の絶望的な未来を見る事になろうが構わない。
最後にこの子が幸せに笑う未来を見られるのなら、そんな苦痛は物の数にも入らない。
「シャリオ。愛しているわ」
「僕も愛してるよ。姉さん」
抱き合いながら愛を囁き、二人は互いの温もりを交換する。
それに幸せを感じながら、シャムナは瞳を赤く染めた。