ギアス新生   作:真黒 空

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容認

 

「だからさシャルル。ジルクスタンともう争う必要はないんだ」

 

 黄昏の間と呼ばれるその場所で、V.V.は弟であるブリタニア皇帝に告げた。

 事情を全て聞いた皇帝は、瞑目した後ゆっくりと口を開く。

 

「つまりジルクスタンは既に兄さんの手駒だと?」

「うん。ファルラフは分派だからね。本来の形に戻してあげたんだよ」

「そのためにギアスまで与えたのですか?」

「シャムナの事かい? 心配はいらないよ。僕にギアスは効かないし、あんな小国の人間がギアスを手に入れたところで、僕らには何もできないさ」

 

 その小国に撤退を余儀なくされた事実を忘れ、V.V.は得意げに語る。

 指摘するのは時間の無駄であり、わざわざ溝を作る必要もないと考えているシャルルは否定せずに頷く。

 

「分かりました。折角兄さんが取り付けてくれた契約です。その方向性で進めておきましょう」

「ありがとう。お願いするね、シャルル」

 

 上辺だけの会話を終え、シャルルは黄昏の間からブリタニア宮殿へと戻る。

 そこで待っていたのは、ナイトオブシックスであるアーニャ・アールストレイムの身体を借りたマリアンヌだ。

 

「どうだった? V.V.は」

 

 興味深そうに訊いてくるが、その目には野生の猛禽が獲物を前にしたかのような色が宿っている。

 返答次第では何をするか分からない気配は、シャルルが望ましいと感じる強者そのものである。

 

「嘘はついておらん」

 

 端的に最重要な部分だけ抽出した答えに、マリアンヌから獰猛な気配が立ち消える。

 

「そ。ならいいわ」

 

 若干つまらなそうに言って、マリアンヌが詳しい説明を求めるので、シャルルはV.V.から聞いた報告をありのままに伝える。

 全てを聞いたマリアンヌは、おかしくてたまらないとばかりに吹き出した。

 

「何それ。V.V.ったらそんな不平等な取引を結んで、しかもその事に気付いてないの? あの子、そんなに頭悪かった?」

 

 兄を小ばかにした問いにシャルルは同意する事ができず、かといって否定できる材料もないので、結果取り繕うような弁護が口をついて出た。

 

「兄さんは外交などした事がないのだ。相手に乗せられてしまうのも仕方なかろう」

「だからって百害あって一利くらいしかないじゃない。もういっそ、そんな条約破っちゃえば? どうせ非公式な、表に出る事なんてない取引なんだから」

 

 少々強引ではあったが、マリアンヌの言は尤もなものだった。

 あくまで今回のV.V.とシャムナの会談は非公式。これからジルクスタン側が停戦申し入れを行い、それをブリタニアが受けてようやく停戦交渉が始まる。その時に白を切ればジルクスタンにそれを証明する術はない。たとえV.V.との会談を記録していたとしても、V.V.自体が公式にはブリタニアに存在しない者なのだ。そのような者はブリタニアにはいないと突っぱねる事など容易い。

 しかしそれはV.V.が結んできた取引を無駄だったと言い切る事と同義でもあった。

 

「条約を破ればファルラフを取り込んだ兄さんは気付く。そして自分の結んだ条約をワシが蹴ったと知れば、兄さんはワシを信用しなくなり暴走するかもしれん。そうなっては折角落ち着いた状況がさらに悪化するのは目に見えておる」

 

 マリアンヌ暗殺の件や今回の事からも分かる通り、V.V.は弟であるシャルルにも秘密で暗躍する事がままある。

 だがそれは本人からすれば弟の事を思っての行動であり、滅多にない事なので今回のように嚮団員のスパイから情報が渡ってくれば対処も可能だ。

 しかし今回の条約を蹴る事でシャルルからの信頼が揺らいでいるとV.V.が気付けば、今回のように対処する事は困難になるだろう。

 まずシャルルが送り込んだスパイは排除され、情報を得る術は消える。

 そしてファルラフという戦力を手にし、ギアスという一点特化の武器を持つ駒を多く手元に置いているV.V.が自身の与り知らぬところで暗躍すれば、それはもう制御の利かない兵器と同じ。獅子身中の虫だ。

 最悪、同じ計画を進めながらもお互い牽制し、邪魔し合う関係になる事もあり得なくはない。

 

「じゃあ受けるの? こんな条約を?」

 

 マリアンヌが眉根を寄せて問う。

 内容を鑑みれば、容易に結べるような条約ではないのだから当たり前だ。

 

「確かに失策ではあるが、特段被害が大きいわけでもない。これでもしジルクスタンが調子に乗って悉く我らの邪魔をするようなら、その時改めて潰せばいいだけの事よ」

 

 物資の支援や局地戦における相手側の援軍など、ブリタニアという大国からすれば大した被害ではない。

 シャルルがそう告げると、マリアンヌはあっさりと納得した。

 

「ま、それもそうね。別にもう侵略戦争なんて大した価値もないんだから、放っておけばいいわ」

「うむ。俗事などシュナイゼルとビスマルクに任せておけばよい」

 

 ラグナレクの接続が成れば戦争も外交も全てが無意味なものに成り果てる。

 それを知っているからこそ、二人は計画に支障がない限りブリタニアが不利益を被ろうとどうでもよかった。

 

「今回はジルクスタンの事をV.V.が報告してきたってだけで良しとしましょうか。こっちが戦力を把握してるって知れば、いくらV.V.でも無茶はしないでしょうし」

「うむ。嚮団の戦力が増えたのなら、こちらが戦力を借り受ける事もできるようになる。使い勝手の良いギアスユーザーを機密情報局に入れて動かせば、むしろ計画は円滑に進むであろう」

 

 そう考えれば、多少の外交の失敗など安いものと言えた。

 V.V.の暴走の防止と暗躍部隊の確保は、シャルルとしても非常に都合がいい。

 

「でもV.V.ったら、ジルクスタンの連中を何に使うつもりかしら? まさか必要になるまで遊ばせておくわけないわよね?」

「おそらくはC.C.の捜索であろう。ラグナレクの接続を完璧に行うには、C.C.の存在が不可欠なのだからな」

 

 軍事力を輸出品としているジルクスタンは、傭兵チームを世界中に派遣する。そのついでにC.C.の捜索も行わせるつもりなのだろう。

 

「ふぅん。無駄な事ばっかりしてるわね、V.V.も」

 

 C.C.を探す必要性をマリアンヌは感じていない。

 計画の準備さえ整えば十中八九C.C.は戻ってくると確信しているからだ。

 なぜなら彼女の望みは死ぬ事であり、計画さえ上手くいけばそれは叶うのだから。

 

「でもそうね。一応C.C.が計画に協力にしてくれなかった時の事も考えておいた方がいいかしら?」

 

 V.V.に不信感を持っているC.C.に、土壇場で拒絶される可能性もないとは言えない。

 これまで懸命に命を捨てようとする彼女を見てきたマリアンヌだからこそ、それは万が一にしかあり得ないと分かっていたが、それでも用心を重ねるに越した事はないだろう。

 

「何か案があるのか? マリアンヌよ」

「案ってほどじゃないわ。前から考えてた事だもの」

 

 そう言って、マリアンヌは楽しそうに自身の考えを語る。

 

「C.C.にルルーシュと契約してもらうの。ルルーシュはあなたの子ですもの、間違いなく素養があるし、もしC.C.が計画を拒絶しても、その時はいままでの事を全部説明してルルーシュにC.C.のコードを奪ってもらえば、どちらに転んでも問題はなくなるわ。C.C.もああ見えて優しいから、契約している間はあの子の傍にいるだろうし、居所も把握できて良い事尽くめよ」

 

 息子を利用する企みを、嬉々として語る母親の愛情の歪さに、同じく歪な愛情で他国に息子達を送って戦争を仕掛けた父親は気付かない。

 そして自分達の真意を知れば、息子が味方になってくれると彼らは疑っていなかった。

 守るためにそうしたのだから恨まれているのは筋違いであり勘違いであると、知ってもらえれば誤解も解けると、自分達の善意が良い方向へ進むと彼らは信じきっていた。

 

「ラグナレクの接続さえ成れば、私達の愛も全部理解してもらえるわ。ルルーシュとも、ナナリーとも一緒になれる。待ち遠しいわね。あなた」

「そうだな。マリアンヌよ」

 

 計画の成就を夢見て二人は笑い合う。

 それは遠く離れた子供を想う親の顔にしては、あまりに楽しげだった。

 

 

 

 この数年後、マリアンヌに唆されたC.C.は思惑通りエリア11へと赴き、そこで予想外にもクロヴィスに拘束される事となる。

 そして高圧力ケースに封印されたC.C.は、当初の予定とは大きく違う形で、しかし目的通り、ルルーシュと運命の契約を結んだ。

 

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