「人間とは、進化する生き物である。
古来より生物は争う事で成長し、進化してきた。だが人間だけが小賢しい知恵をつけ、争いを野蛮なものとして、長らく進化する事をやめておった。
だが我がブリタニアだけは再び進化の道を進んでおる。今回の戦争も淘汰されるべき弱国をいたずらに延命させ、争うだけ無駄な存在を助けるジルクスタンを我らの進化に取り込むためのものであった。
しかぁし! ジルクスタンは一時とはいえ強者たる我が国を凌駕した。それによってジルクスタンは、我が国と同じ強者の国であると証明したのだ。
見事である。
なればこそ、彼の国と競い争い奪い合う事で、ブリタニアはさらなる進化を遂げる事ができるであろう。
戦うのだ! 戦う事で我らは一歩、また一歩と進化する。ジルクスタンは、我らがさらなる強者となるための良き競争相手となるであろう。
そして我が国はどこよりも先へ、前へと進む。
競い合い高め合い進化した先にこそ未来がある!
故に、オール・ハイル・ブリタァァァァァァァァァァァァァァァァァニア!」
今回の戦争。本来ならばジルクスタンは仕掛けられた時点で負けていた。
それは何も戦力だけの事ではない。たとえブリタニアの侵攻を防ぎ切り停戦に漕ぎつけたとしても、ジルクスタンには未来などなかったのだ。
なぜならジルクスタンにはブリタニアの侵攻を跳ねのける事ができたとしても、ブリタニア領土に侵攻できるほどの戦力はなく、そうなれば停戦条約を結ぶしかない。しかし停戦条約を結んでしまえば、ブリタニアに対し戦争している国に援軍を送るような事もできなくなる。そうすると軍事力ばかりが輸出品であるジルクスタンは、それを売りつける相手が激減してしまうのだ。国交を結んだブリタニアに軍事力を提供しようにも、必要ないと拒絶される事は目に見えており、そうなればジルクスタンはブリタニアから提供される物資を当てにするしかなく、近年破滅するかブリタニアの属国になるしか選択肢はない。
しかし今回、ブリタニアは対立を容認する声明を発表した。
これは侵略に当たってブリタニアが述べた大義名分である『ジルクスタンは他国に援軍を送る事で無駄な争いを助長する国家』という理屈と矛盾する行動である。
停戦の末にジルクスタン側から物資を乞うならまだしも、ジルクスタン側は技術提供を、ブリタニア側は物資の提供を行うこの状況は、明らかに対等な外交関係だ。そのため侵略の際の声明はなんだったのかという非難は免れず、ブリタニアは国家としての信用を失う危険にあった。他国においては元々あってないような信用だが、自国民にまで理屈の通っていない侵略をしていると思われれば、ブリタニアは国家としての体裁を保てなくなってしまう。
そこでブリタニアは、今回のような声明を出す事で辻褄を合わせた。前回の発言を取り消すのではなく、発展させる事でこじつけのように二つの声明を結びつけるという強引なものではあったが、元々『弱肉強食』という国是を掲げるブリタニアにおいては理に適っていないとは言えない理屈であったため、それは容易く受け入れられた。
しかしだからこそ、ブリタニア側はジルクスタンが他国に援軍を出すという、ブリタニアにとっては不利益でしかない行いを容認せざる得なくなった。本来ならば再侵略を受けてもおかしくない不義理に対し、ブリタニア側こそがそれを推奨するという歪な構造が出来上がり、ブリタニアにとって甚だ不平等な条約が締結されたのだ。
通常の国家であれば、そんな条約を結んだ時点で責任者は責を問われるだろう。ましてそれを皇帝が容認したとなれば、皇帝も臣下の不信を買うのは避けられない。しかし国家としては異端である『弱肉強食』という国是が、それらの全てを肯定してしまうのがブリタニアという国だ。しかも声明を出したのは、ブリタニアを一代で大国にのし上げた第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア。いままで皇帝と国是に従って甘い蜜を吸ってきた者達が、それを否定できるわけもなかった。
これによりジルクスタンは必要のなくなった技術を対価に、物資とブリタニアを退けるほどの軍事力という名声を得た。停戦交渉を持ちかけたという些事は、その宣伝効果の前に吹き消され、これからは各国がこぞって援軍を求めてくるようになる。そしてブリタニアには、それを止める大義名分はない。
「嚮主様。あなたには本当に感謝していますよ」
ジルクスタン王国の神殿の最奥、そこでシャムナはブリタニアの発表を耳にしながら微笑んだ。
皇帝の演説はブリタニア国内にしか流れていないが、映像を持ってくる事くらいは容易い。
この演説を限りなくマイルドにしたのがブリタニアの公式発表であり、それはジルクスタンがブリタニアを退けた証でもあった。
既にジルクスタンには軍事力を輸出してほしいとの打診が数多く届いている。
その数は戦争前とは比較にならないほどだ。
「我が国はこれからもっと繁栄する。このシャムナの予言によって」
唇を歪に開いて、邪悪な笑みを浮かべるシャムナ。
そしてその目が赤く輝く。
「聖神官シャムナが授かる」
紅蓮の鳥が羽ばたく。
そしてシャムナの脳裏に遠い先の未来が一瞬で刻み込まれた。
「これは……ブリタニアも大変ね」
先読みした未来にクスクスと笑い、シャムナはいまはまだ存在しない、だがいずれ現れる仮面の男に問い掛けた。
「さぁ、あなたはどんな未来を見せてくれるのかしら。ねぇ、ゼロ」