コードギアス~あの夏の日の絆~   作:真黒 空

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11:埼玉救出作戦

 

 扇要は自らの不運を呪った。

 まさかグループに入れてくれと頼みに来たその日その時間に、ブリタニアの軍に包囲される事になろうとは。

 

「扇さん、どうしますか?」

「どうするって、そんなのどうしようもないだろ」

 

 埼玉のレジスタンスである『大和同盟』。そのリーダーである泉という眼鏡の男に仲間にしてほしいと頼み込んでいる最中、突然軍に囲まれているという情報が入り、いま大和同盟のメンバー達は慌ただしく走り回っている。

 手伝いたくとも交渉に来た部外者である扇達は武器もなければ要領も分からない。ただ見ていることしかできず、しかし包囲されているので逃げる事もできない。新宿の時以上の大ピンチだった。

 

「泉さん、俺達に何かできる事は……」

 

 扇が大和同盟のリーダーである泉に訊ねるも、地図を見ていた泉は乱暴に振り返って扇を怒鳴りつけた。

 

「さっき言っただろ! いまあんた達にしてもらう事なんか一つもない! ブリタニアが攻めてきたら手伝ってもらうからジッとしててくれ!」

「あ、あぁ。すまない……」

 

 泉の剣幕にあっけなく引き下がる扇。

 直後に慌ただしく土を蹴る音と共に大和同盟のメンバーが駆けてくる。

 

「泉さん! 軍が攻めてきた! 代表達もみんな殺されたって……!」

「なんだと! くそっ! 包囲網の抜け道はないのか? あと他のグループからの応援はどうだ?」

「抜け道は発見できません。援軍もまだ連絡がつかなくて……」

「まずいぞ。早くどうにかしないと……」

 

 動揺を隠せない大和同盟を見て、井上が顔を曇らせる。

 

「始まったみたい。それに状況、凄く悪そうね」

「ああ。新宿の時と同じだな」

「だが俺達じゃどうする事もできない」

 

 井上、杉山、扇の三人は何もできずただ事態を見守るしかなかった。

 しばらくして、またも地上から男がやってくる。

 

「泉さん!」

「今度はどうした。戸田や河口方面と連絡がついたか?」

「そんな場合じゃありません! あいつが、枢木スザクが来ました!」

「枢木スザクっていうと……あの脱走兵枢木スザクか!」

「そうです! しかもナイトメアに乗って、俺達がやられそうなったところを、あっという間に軍のサザーランドを2機もやっつけて!」

 

 報告に来た男は興奮した様子で捲し立てる。

 その報告は扇達を含め全員を驚かせた。

 枢木スザク。名誉ブリタニア人であり、軍人になりながら皇族の親衛隊を殺害し脱走した日本最後の首相、最後の侍、枢木玄武の息子。レジスタンスの中では彼を英雄視する人間も少なくない。

 

「それで俺達の力になりたいから、みんなを集めてくれって枢木スザクが上に……」

「なにぃ! おいお前ら、すぐ行くぞ。扇さん、あんたらも来てくれ!」

「あ、あぁ。もちろんだ……」

 

 突然の事態に驚きながらも大和同盟と扇グループのメンバーは地上へと上がる。

 そこには4メートルを超える白銀のナイトメアが雄々しく立っていた。

 無骨なサザーランドと違い、スタイリッシュなフォルムに騎士という形容がピッタリくるいでたち。

 その姿に泉達が呆然とする中、コックピットからテレビで見慣れた少年が降りてくる。

 

「初めましてみなさん。枢木スザクです」

「ああ、良く来てくれた。俺がリーダーの泉だ。よろしく枢木さん」

 

 年下相手に敬称をつける泉。元日本国首相の息子である事はニュースで公表されており、そんな相手を呼び捨てにはできなかったのだろう。

 

「早速ですが、僕らはあなた達を助けに来ました。でも僕らだけじゃこの包囲を破って皆さんを連れ出す事は難しい。協力していただけませんか?」

「あ、ああ! もちろんだ! こっちこそお願いしたい。枢木スザクさん、どうか俺達に力を貸してくれ!」

「ありがとうございます。では、僕は軍を止めてくるので、後は彼の指示に従うようにお願いします!」

「えっ? いや、指示ってどういう……」

 

 泉の疑問に答える事なく、枢木スザクは再びコックピットへと乗り込み走り去ってしまう。

 置いてけぼりになった泉達だったが、不意に通信機が反応をキャッチする。

 

『それでは枢木スザクに代わり、以降の指示は私が出させてもらおう』

 

 尊大な口調が通信機から聞こえてくる。

 次々と変化する事態に頭が追いつかず、置いてけぼりにされた苛立ちもあって思わず泉は声を荒らげた。

 

「なっ、誰だお前は!」

『私は枢木スザクの同志。君らを助けるために彼と共にこの戦場へと駆け付けた者だ。死にたくなければ、私に従ってもらおう』

 

 枢木スザクと違って一方的な言い方をしてくる男に、テロリストだけあって血気盛んな泉は反感を覚える。

 

「いきなり来て従えって、しかも顔も見せずに一方的に……!」

『ならば君達にこの状況から脱する起死回生の策はあるのか? 無論私や枢木スザクの手助けなしでだが』

「それは……」

『迷っている時間などない。いまこの場で決めろ。私につくか。自分達だけで戦うか』

 

 突然迫られる2択。だがそれに実質選択権などなかった。コーネリア軍に包囲されているこの現状で大和同盟に起死回生の策などありはしない。ナイトメアを持っている枢木スザクの助けがなければ逃げる事もできず殲滅されて終わりだ。

 

「…………分かった。あんたに従う」

『よろしい。ではまず戦力、武器弾薬、地形データと環境データ――なければ地図を、それから一般市民の避難分布を分かっている限り用意し、このアドレスに送ってくれ』

「おい、まさかゲットーの住民全員を助けるつもりか」

『全員は難しい。既に犠牲になった者も多いだろう。しかし無事である者はできる限り助け出す』

「そんな事してたら俺達の逃げる時間がなくなるぞ!」

『では見捨てると? お前らを匿っていたために巻き添えになっている無辜の市民を見殺しにして自分達だけのうのうと逃げる、それがお前らの結論か?』

「そんなつもりじゃないが……だがどうしようもないだろうが!」

 

 第三者から見た大和同盟の行動指針を悪意たっぷりに突きつけられ逆切れのように叫ぶ泉だったが、声の主は冷静に返す。

 

『それをなんとかするために私達は来た。住民を助けたいという気持ちが少しでもあるのなら、私の指示に従え』

 

 泉からすれば飲みがたい要求だった。

 ブリタニア軍に囲まれている現状で、このゲットーの住民まで助けていてはどうしたって助からない。だがそれと同じくらい、あの枢木スザクの助けがないというのは絶望的だった。

 結局、何を要求されようが泉に選択肢などないのだ。

 

「……分かったよ。おいお前ら、言われたものを準備しろ」

「いいのかよ泉さん。あんな得体のしれない奴の言いなりになって」

「従うしかない。どの道状況は絶望的なんだ。枢木スザクを味方にするために必要なら、あの声の主に賭けるしかないだろう」

「だけどよ……」

「怪しいのは分かるが、あいつらは俺達のためにこんな危険なところまで来てくれた。あいつらだって死にたくはないはずなんだから、協力して逃げるのが最善だ」

「……」

 

 仲間にどうにか不満を飲み込ませ、泉も言われたものを準備するために走る。

 一方する事もなく取り残された扇達は、三人で協力すべきか話し合う。

 

「扇、どうするよ。あんな顔も見せない怪しい奴に従うのか」

「それしかないだろう。俺達がここから出るためにも、大和同盟の力は必要だし、大和同盟があの声の主に従うなら、俺達だけそれを拒んだところでどうしようもないじゃないか」

「そうかもしれないけどよ……」

「それに一方的な言い方だったけど、埼玉の住民を救おうとしてくれてるんだ。悪い奴じゃないと俺は思う」

「でも、本当にできるんですか? 住民もみんな助けるなんて……」

「それは……信じるしかない」

 

 結局、武器も力もない扇達は状況に流される事しかできない。

 無力を噛み締めながら、大和同盟が戻ってくるまでの間、三人は謎の声の主についてひたすら話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実のところコーネリアは、この作戦で枢木スザクやクロヴィスを襲った襲撃者が来るとは考えていなかった。

 もちろん来るのなら容赦はしないし、それに対する備えもしている。

 だが実際問題として新宿と同じ状況を作ったところで、相手はブリタニアの魔女とまで呼ばれた自分だ。

 少しでもその武名に理解がある者なら、こんなあからさまに劣勢な状況で戦いを挑んでくるとは考えづらい。

 それに片や名誉ブリタニア人、片や正体不明の謎の襲撃者である事から、まともなプロファイリングもできていない。一方的な仮説と予想しか立てられない中での、状況を餌にした挑発。正直やらないよりはマシといったレベルだ。部下の手前堂々と話したものの、ギルフォードもダールトンもその程度の事は分かっているだろう。

 そんな心境であったため、その報が届いた時、コーネリアは思わず口元が緩むのを止められなかった。

 

「南西から南東にかけて包囲を固めていた部隊が全滅、か」

「ハッ。脱出に成功した者から、外見は特派のランスロットである可能性が高いと報告が上がっております」

「ネズミが罠にかかったようだな」

 

 子供騙しの餌に獲物が掛かった事に気を良くしながら、コーネリアは部下の報告に耳を傾ける。

 

「実際に相対した者からは、凄まじい速度と身のこなしだったとの事です。しかもどうやら、特派からの報告にあったMVSやヴァリスは使用していないようですね」

「雑魚には武器など必要ないという事か。イレブン風情が」

「どういたしましょうか?」

 

 ダールトンに問われ、コーネリアは少しだけ考える。

 しかしまだ明らかになっている事は少ない。そのため結局は当初の予定の通りの指示を出す事にした。

 

「ひとまず様子見だな。獲物の詳細な位置を特定し、物量で押せ。どれほど機体性能が高くとも所詮は1機。枢木スザクが並のパイロットならそれで片がつく」

「並のパイロットでない場合はどうされるおつもりで?」

「ふっ、それを聞くか? 我が騎士ギルフォードよ」

「失礼致しました。愚問でございますね」

 

 戦場の中でありながら余裕を含んだ会話を交わし、改めて盤面を見るコーネリア。

 枢木スザクが現れた。それはいい。だがその際明らかに突破するだけなら必要ない、過剰な戦力を潰している事をブリタニアの魔女は見逃さなかった。

 

「突破された南側には東と西から部隊を派遣せよ。おそらくテロリスト共は枢木スザクの突破した南側から脱出を図るはずだ。包囲に穴を開けてはならん」

「イエス・ユアハイネス」

 

 部下から部隊に指示が行くのを見ながら、コーネリアは楽し気に笑む。

 

「さて、1つは網に掛かったようだが、もう1つはどうかな?」

 

 誰にとっても、戦場が望む形に整い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたきたきたきた~! おーめーでーとー! 敵の援軍だよ~」

 

 特別派遣嚮導技術部のトレーラーの中で、主任のハイテンションな叫びが久しぶりに響き渡った。

 リアルタイムで情報を確認しているセシルは、深刻な顔で自軍の現況を報告する。

 

「一瞬にしてこちらの軍のナイトメアを複数機撃破。脱出したパイロットの報告からも、援軍はランスロットである可能性が高いようです」

「さすがは僕のランスロット! スザク君も張り切ってるみたいだねぇ!」

「ロイドさん! はしゃいでる場合じゃありませんよ!」

「えっ、どうして? やっとランスロットの活躍が見れるんだよ?」

「よりにもよって敵としてランスロットが現れたんですよ! どれだけ被害が出るか……」

「うんうん。僕のランスロットならきっと大活躍してくれるよねぇ」

「そういう事を言ってるんじゃありません!」

 

 話は通じてるはずなのに噛み合わない上司との会話にセシルは頭を押さえる。

 しかしそんなセシルの様子にも気付かずロイドは好き勝手騒いでいた。

 

「軍のパイロット相手に武器も使ってないみたいだね。やっぱりデバイサーとして申し分ないよねぇ彼」

「適合率94%ですからね。機体性能も圧倒的ですし、並のパイロットじゃ相手になりませんよ」

「だよね~。総督の親衛隊とかと戦ってくれないかなぁ。そしたら面白い事になりそうなんだけど」

「ロイドさん不謹慎ですよ!」

 

 総督の親衛隊が戦場に出るという事は、それだけ軍が追いつめられるという事だ。味方の劣勢を望むように聞こえるロイドの発言をさすがに聞き逃す事はできず注意する。

 だがそんなセシルの苦情はもはやロイドには聞こえていなかった。

 

「でもどれだけ戦ってくれたとしてもデータ取れないんだよねぇ。折角のチャンスなのに……せめて映像データだけでも回してもらえないかなぁ」

「はぁ……それは難しいかもしれませんね。ただでさえ敬遠されていますし」

「でももし総督がランスロットを捕まえてくれたら、ランスロットは返ってくるわけだし戦闘データはたっぷり取れるよねぇ。いまから楽しみだなぁ」

「けどそうなるとランスロットが負けるって事ですよね?」

「ああ~そっか。そうだよねぇ。それは嫌だなぁ」

「さすがにスザク君でもコーネリア総督の軍相手に単機で殲滅なんて不可能です。稼働時間ぎりぎりまで戦って逃げるんじゃないですか?」

「その線が一番ありそうかな? でもそれだと、どうしてわざわざ来たのかって話じゃない? どうせ逃げるのに乗り込んでくる意味はないよね?」

「……テロリストを助けて仲間にする、とかでしょうか?」

「そんなところかなぁ。でも彼、仲間を作って日本を取り返すぞ、みたいなタイプには見えなかったんだけど」

「確かにスザク君には似合いませんね。それだと……単にこの状況を見過ごせなかったから、とか」

「全然筋が通ってないんだけど、彼ならあり得るかもね。ま、僕としては理由なんてどうでもいいよ。ランスロットのデータが取れればそれだけで大満足♪」

「はぁ……」

 

 珍しくランスロット絡みとはいえ他人の事を考えたと思ったらこれだ。

 セシルは上司の予想に違わぬ反応にため息をつく。

 画面上ではランスロットに向かった味方機が次々とLOSTしていく。

 それを見るたび、ロイドは歓喜の声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイトメアのコックピット内で、ルルーシュは持ち込んだルークの駒を盤に打ちつける。

 

『R1、R2はその場で待機。40秒後に現れる敵の側面を叩け。P2、gの6地点のトラップの設置はまだか。B1は市民捜索の進捗状況を報告しろ』

 

 矢継ぎ早に指示を出し、埼玉という盤面を動かしていく。敵味方識別信号を頼りに、スザクの出現で動く敵兵を罠に嵌め狡猾に戦力を奪う。同時に埼玉の市民を脱出させるための人員も動かし、初陣でありながらマルチタスクで多くの部隊に別々の作戦を指示していた。

 

『良し。では救出した住民の意見も聞きながらeの3からfの4の地点を重点的に捜せ。地形的におそらくその中の建物に隠れている可能性が高い。時間との勝負だ。急げ』

 

 ルルーシュはテロリストの部隊を三つに分けた。一つはスザクを囮にして誘い出された敵兵を叩く援護部隊。一つは軍の攪乱と罠を仕掛ける工作部隊。最後に軍に襲われ逃げる埼玉の住民を探し出し脱出させるための救出部隊だ。当然埼玉の住民を救うのが目的であるため、救出部隊の活躍が作戦の成否を左右する。ルルーシュは助けに来る前にスザクと共に5機のナイトメアをブリタニア軍から奪い、自分が使う以外の4機をテロリストに貸し与えていたが、内3機はこの救出部隊に当てている。その成果もあり救助は順調で、もうすぐ大半の住民の誘導は完了する見通しだった。

 ちなみにこのナイトメアの強奪は、前回の新宿事変で持ち帰った軍の服を着てルルーシュが埼玉を徘徊する事で所属を問うサザーランドを誘い出し、テロリストから押収した物があると報告してコックピットからパイロットが姿を現したところをスザクが強襲するというかなりアクロバティックなものだった。無力化したパイロットから起動ナンバーを確認するためルルーシュが脅迫する姿を見て、スザクが後に「ルルーシュ、君悪魔みたいな事考えるね」などと言っていたが、4メートル程もあるコックピットの高さに強襲を掛けたスザクに対し「お前こそ化け物みたいなジャンプ力だったな」とルルーシュが反論するという、どっちもどっちな不毛な掛け合いがあった。

 

『スザク、問題はないか?』

 

 部隊の状況を確認しながら、スザクにも通信を入れる。

 損傷したという報告はないが、スザクにしてもナイトメアに騎乗した実戦はこれが初めてだ。どんなトラブルがあるか分からない。

 

『大丈夫。行けるよ、このランスロットなら』

『それは何よりだ。だがあまり広範囲を移動する必要はない。あくまで指示した範囲で戦うようにしろ』

『分かってる。じゃあまた何かあったら連絡して』

 

 まるで世間話の電話を切るように通信を終えるスザク。

 そのあまりに普段と変わらない調子に、ルルーシュは思わず苦笑いを浮かべた。

 

「能天気な奴だ。だが、予想以上に凄まじいな」

 

 スザクと接敵したナイトメアが次の瞬間にはLOSTするのを眺め、改めて幼馴染の規格外な戦闘能力を実感する。こんなのとまともに戦わなければならないコーネリアはさぞ頭を抱えている事だろう。同情など一片もないが。

 

『R3、右上方の哨戒機を落とせ。P1はdの6地点に移動。R2、4時の方角だ。良し、撃て。P3、橋を落としてルートを絶て』

 

 初めての実戦。反逆のための第一歩。

 そう思って気負っていた心境とは真逆に、盤面は予想外の動きもなくルルーシュの思い通りに進む。

 多少のずれは当然あるものの、テロリスト共の動き、コーネリアの対応、ブリタニア軍の練度、どれも予想の範囲内で収まっている。

 正直これほど上手くいくとは想像していなかった。

 まるで戦場を支配しているような感覚に、気持ちが昂るルルーシュは思わずコックピットの中で笑い声をあげる。

 

「クククッ、フハハハハハハ! やれる! やれるぞ! ブリタニアと充分以上に戦えている!」

『ルルーシュ、それ完全に悪役の笑いだよ』

 

 気分良く笑っているところに冷静な突っ込みが入る。

 水を差された事に特に不満を抱く事なく、すぐにいつもの態度に戻ったルルーシュは通信機を手に取った。

 

『ふん、知った事か。それよりどうした? 何か問題か?』

『うん。敵が全然襲ってこなくなったんだ。これって……』

『さすがはコーネリア。意地になって攻めずに戦線を下げたか。ここからが正念場だな』

 

 ここで戦力の逐次投入でもしてくれればかなり楽になったのだが、やはりそう簡単にはいかないらしい。

 コックピット内の画面には、ゲットー外縁部へ去って行く敵機の反応が映し出されている。

 その中の1点を見て、ルルーシュは大きく口元を歪ませ笑った。

 

「だがこれで、条件は全てクリアだ」

 

 

 

 

 

 

 

「よろしいのですか総督。後退など……」

「当然だ。これ以上の被害は意味がない」

「恐れながら、まだ戦えます!」

「戦えんよ、これでは」

 

 クロヴィスについていた参謀が直訴するのを流し、コーネリアは述懐する。

 

「枢木スザク、予想以上の腕のようだな。数では押し切れんか」

「そのようですね。しかもこの動きは……」

「ああ。枢木スザクなのか、それともその仲間か、どうやら戦略に秀でた者がいるようだ」

 

 鷹揚に頷き、コーネリアは目立つ枢木スザクの動き以外に大小様々な被害が出ているのを確認する。それらの被害は枢木スザクの動きに合わせ見事にこちらの戦力を削っており、策もなしに物量で押せば、ただいたずらに被害を増やすだけになる事は簡単に予想できた。つまりはそれだけの戦略家があちらについているのだ。枢木スザクよりもむしろこちらの方が厄介かもしれないと、コーネリアはわずかに目を細める。

 テロリストではないだろう。これだけの頭脳を持つ者がいるなら、枢木スザクが出てくる前にいくつか有効な手を打てていたはずだ。となれば枢木スザク本人が頭脳に秀でているか、もしくは――

 

「これは……釣れたかもしれんな」

 

 獰猛な笑みを浮かべコーネリアが呟く。

 枢木スザクが頭脳に秀でていようと、戦いながらこれだけの指示をできるとは考えづらい。となれば優秀な参謀がついている可能性が高い。そしてその参謀は、クロヴィスを襲った襲撃者かもしれない。警戒の厳しいブリタニアの旗艦に潜入した襲撃者が最新型のナイトメアを手にしている枢木スザクと組んでいるのであれば、この被害にも納得がいく。もちろんただの推測でしかないが、このタイミングでブリタニアに弓を引く事を考えればあながち的外れとも思えない。

 

「さて、こうなれば是非もないな。準備はできているか?」

「御下命いただけるのであれば、すぐにでも」

「良し。ギルフォードよ。あのランスロットとかいう玩具に、本当の騎士の力というものを教えてやれ」

「イエス・ユアハイネス」

 

 打てば響く返答に、大きく頷く。

 早速作戦室を出ようとしたギルフォードが動く前に、部下がコーネリアの名を呼ぶ。

 

「どうした?」

「純血派のジェレミア・ゴットバルト辺境伯から通信が入っております。つなぎますか?」

「あの部隊か。何かあったのか? まあいい。つなげ」

 

 そう答えて数秒後、前面の画面に凛々しい顔つきをした青髪の将校が映し出される。

 

『通信にて御前を失礼致します、コーネリア総督。ジェレミア・ゴットバルトと申します』

『挨拶はよい。何用だ』

『ハッ。戦場に脱走兵である枢木スザクが現れたと聞きました。であれば、捜索の指揮を執りながら今日まで捕らえる事の叶わなかったわたくしめに汚名返上のチャンスをいただきたく存じます』

 

 慇懃な口調で頭を下げながらも、その瞳からは隠せないほどの戦意が見て取れた。

 武人としてその空気を心地良く感じながら、コーネリアは問う。

 

『つまり、出撃の許可がほしいと?』

『仰る通りにございます』

 

 頭を上げずに答えたジェレミアに、コーネリアは傍に控える騎士を見る。

 

「ふむ。どうだギルフォードよ」

「姫様の御心のままに」

 

 予想通り即答され、少しだけ考えてコーネリアは許可を出した。

 

『よかろう。ジェレミア・ゴットバルトよ。我が騎士ギルフォードと共に枢木スザクを打ち倒して参れ』

『イエス・ユアハイネス』

 

 喜びを隠しきれない返事を聞き、通信を切る。

 予想外の提案ではあったが、する事に変わりはない。

 あの様子であれば足手纏いにはならないだろうとコーネリアは判断する。

 

「と、いうわけだ。ついでにこの男の実力も見ておいてくれ」

「ジェレミア卿は武名高い騎士。これは気が抜けませんね」

「後れを取るなよ」

「姫様のお顔に泥を塗るような真似は、騎士の誇りにかけて致しません」

 

 一切の迷いなく言い切り、ギルフォードは作戦室を出て行く。

 その答えに満足しながら、コーネリアも念のため部下に指示を出す。

 

「枢木スザクがいるのは中心部よりやや西側だな。おそらくこの隙にテロリスト共は南側から脱出を図るはずだ。警戒を呼び掛けておけ」

 

 おそらくこの状況は相手側としても望むものだろう。だがコーネリアにはそれを跳ねのける強者故の絶対の自信があった。

 

「さて、これで決戦の準備は整った。ブリタニアに反旗を翻した愚かさ、その身に刻みつけてやろう」

 

 先程までとは打って変わって静かに盤面が動く。

 それを全く同じ気持ちで、違う場所から姉弟は眺めていた。

 互いに絶対の信頼を置いた主力に勝負手を預け。

 目には見えない相手に不敵に笑む。

 

 

『勝つのは私だ』

 





折角埼玉まで来たのに何もできない扇グループ。
そしてようやくジェレミア初登場。

前哨戦を終え、いよいよ本格的な姉弟喧嘩が始まります。果たして姉の横暴に癇癪を起こした弟は勝てるのか。

場面転換が多いと思われるかもしれませんが、埼玉戦は基本こんな形で進みます。

次回:イレギュラーな男

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